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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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開門

 晴天の青空に光が差しこみ、外はほんのりと明るかった。そんな星がまだうっすらと見える明け方にオウド砦の中庭に多くの人がいた。


 アスラ帝国のエルガー騎士団にシフィアム王国のバハム竜騎士団、白魔導協会の白魔導士たち、優秀な冒険者たち、準備を手伝ってくれるオウド砦の騎士や使用人が裏門に集まっていた。


 その中にハル、エウス、ライキル、ビナ、ガルナの五人もいた。


 エウスが厩舎から馬型の使役魔獣を連れてくると、ハルが一人で使役魔獣を撫でていた。そんな彼の表情は少し曇っている様に見えた。


「ここにいてくれ、親友を見てくるよ…」


 エウスが使役魔獣に言うと使役魔獣もその場でぴたりと止まった。


「いい子だ」


 エウスが使役魔獣の首を一回なでるとハルのもとに駆け寄った。


「ハル、調子はどうだ?」


 ハルが馬型の使役魔獣の頭を撫でているときにエウスが話しかけてきた。


「いい感じだよ!そっちはどうなんだ?」


「悪くないぜ…」


 エウスがハルの隣に来た。離れた場所ではライキル、ビナ、ガルナが使役魔獣に鞍を乗せていた。


 ハルが撫でる隣で、エウスも使役魔獣の首を撫でてあげた。


 使役魔獣は二人に撫でられて気持ちよさそうにしていた。


「なあ、ハル、一つ聞いていいか?」


「どうした?」


「不安はないか?」


 エウスが使役魔獣を見て撫でながら言った。


「………」


 ハルは使役魔獣を撫でるのをやめた。


「………」


 返事が来ないのを不思議に思いエウスがハルの方を向くと。


「なんだエウス心配してくれてるのか?嬉しいな!!」


 ハルが笑顔でエウスに抱きついてきた。


「ええ!?のああああ!おい、ハルこら、離れろ!」


「エウス!ありがとな!心配してくれて!」


「分かったから、離れろやああああ!!」


 エウスがハルを引きはがそうとするが信じられないほどびくともしない。


「こいつめ!!」


「二人とも何やってるんですか?」


 そこに騒いでる二人のもとにライキルが来た。


「おお、ライキルいいところに来たな、こいつを離すのを手伝ってくれ!」


 エウスがハルを振りほどこうと必死にもがいていた。


「エウス、ずるいですよ一人だけ…」


「ライキル、お前な、って、いででででででででで」


 ハルの抱きしめる力が強くなったあとエウスは解放されて、しなびながら地面に倒れて無様な格好をしていた。


「エウス、本当にありがとう!」


 ハルが無邪気な笑顔で言った。


「そ、そうですか…」


 エウスはボロボロになりながら、しばらく地面に倒れていた。


「ハル、さあ、私にもいいですよ!この前みたいに…」


「え!ああ、うん、その…」


 ライキルがハルに迫っていた。そんな二人のやり取りをエウスは倒れながら見上げていた。


『俺の勘違いだったか…いつも通りのハルだな、でも、そうだな、少しはハルにも不安はあるよな…』


 エウスが立ち上がって二人のもとに戻って行った。




 それから、監視塔に出発する全員が使役魔獣に乗り、出発の準備が完了した。


「魔獣はいない開門しろ!」


 壁の上にいた騎士が叫んだ。


「裏門開門します!」


 門番たちがぶ厚く重たい裏門を開けるとルルクを先頭に使役魔獣たちが勢いよく飛び出して行った。


 ルルクの後ろにはハルの使役魔獣が走っており、その後ろにはハルの弐枚刃と呼ばれる二つの巨大な刀をそれぞれ装備した馬を走らせる、エウスとライキルがいた。

 緊急時にはハルがその二人から刀を抜き取り対応することになっているため、二人はハルのすぐ後ろを走っていた。

 ビナとガルナとは列の中央に配置され、フォルテが最後尾を走ってこの部隊全体を守っていた。

 空にはバハム竜騎士団が乗った翼竜が飛んでおり、先に異変が無いか注意深く観察しながら飛んでいた。

 注意区域では魔獣に遭遇する確率があるとはいえ、その確率は低いためやはり二回走った程度では魔獣の鳴き声すら聞こえなかった。

 そのため、全員が無事に再び監視塔にたどり着くことができた。

 そこから、ルルクとその監視塔の騎士たちと連携して全員が迎撃態勢の準備に入った。




 作戦開始の時間までは刻一刻と迫ってきて、次第にみんなの緊張も高まってきていた。

 ハルは使役魔獣が座って休んでるそばで自分も地面に座って、特別危険区域の濃霧に持って行く荷物の確認していた。


「ハル団長何か手伝いましょうか?」


 そこにビナが来た。


「ん?ああ、大丈夫だよ、ありがとね」


 ビナはハルの隣に来てしゃがんだ。


「どうしたの?」


「いえ、ハル団長はもう行ってしまうんですよね…?」


「そうだね、あともう少しで俺は出発だね」


「私、ハル団長のこと信じて待ってますから!」


 ビナの綺麗な赤い瞳がハルを見つめた。


「………」


 ハルはビナの顔を見つめ返す。そこには愛らしい顔があった。だが、ハルはそこでビナの顔をどこか別の場所で見たようなそんな気がした。それがどこだったかは全く思い出せなかったが、今はそんなことを考える必要はなかった。


「うん…」


 ハルはわずかに頷きながら短い返事をした。


「えへへ、あ、まだやらなきゃいけないことあったの忘れてました!ごめんなさいハル団長戻りますね!」


 ビナはそう言うと立ち上がって走って行ってしまった。

 ハルはしばらく彼女の後ろ姿を見つめていた。





 ハルがバックの中身を確認したあと、危険区域に一緒に入る少数精鋭の部隊に合流した。

 そこにはフォルテ、エルガー騎士団の精鋭騎士、ヨルム、そして、その近くにエウスとライキルが二人で話していた。

 ルルクは危険区域にはいかないが、指揮官としてその場でフォルテやヨルムたちと打ち合わせをしていた。


「ルルクさん」


「はい、どうしました?」


「ちょっと時間もらっていいですか?」


「ええ、いいですよ、出発まで少し時間がありますから」


「ありがとうございます」





 ハルは敷地内を歩きまわったが、パッと見てどこにも彼女の姿は見当たらなかった。


「ガルナは目立つんだけどな…」


 そこでハルがふと立ち止まって監視塔の上を見上げた。


「いや、まさかな…」


 ハルは自分の勘を疑ったが、それでもハルは急いで塔の階段を駆けのぼた。

 塔の頂上のドアを開けた。


「…ガルナ」


 頂上にはガルナだけがいて他には誰もいなかった。そして彼女は遠くの巨大な白い霧を見ていた。相変わらず白い霧は不気味に流動していた。


「どうしたの?ガルナ?」


 ハルがガルナの隣に来て彼女の横顔を見た。


「あそこからは嫌な感じがするんだ…」


 ガルナからいつもの元気は感じられなかった。


「ハル、あそこに行かないで欲しい…」


 ガルナがそう言いながらハルの方を向いた。ハルは彼女と目が合った。


「…ッ………」


 その言葉で、ハルの心臓が強く鼓動した。


「…………」


『…最低だな、俺は』


 ハルが、ガルナの手に自分の手をそっと重ねた。


「ごめん、ガルナ、それでも俺はあそこに行くよ、終わらせなきゃいけないんだ…」


「…………」


 ガルナはハルのことを強く抱き寄せてひとこと言った。


「待ってるから…」


「…………」


 ハルはそのとき何も言えなかった。




 監視塔の危険区域に出る裏門が今開こうとしていた。

 ハルを先頭にした精鋭部隊が使役魔獣に乗って裏門の前に集まった。

 ハルの後ろにはライキル、エウス、フォルテ、エルガー騎士団の精鋭騎士が続いて、空にはヨルム率いる翼竜部隊がハルたちの上を飛んでいた。

 精鋭部隊の周りには多くの人が集まっていた。


「ハルさん!みんなを頼みます」


「はい!」


 ハルは深く頷いた。


「フォルテさんどうか気をつけてください!」


 ベルドナがフォルテに駆け寄って自分の頭の鎧を取って言った。


「ああ、ありがとう、ベルドナ、さあ危ないから下がってな」


 フォルテが彼女を安心させるため優しい口調で言った。


「皆さん彼らが出発します、下がってください!」


 ルルクがみんなに叫んだ!


「行ってくるよ、みんな」


 ハルが近くにいたガルナ、ビナ、クロル、たちに別れを告げた。


「ハル、待ってるからな…」


「ハル団長信じてます!」


「ハルさん無理せず戻ってきてください!」


 みんなの声援の中、監視塔の裏門がきしんだ音をたてた。


「裏門開門します!」


 門番が叫ぶと、ゆっくり監視塔の裏門が開いた。

 目の前には深い森が広がっており、薄い霧が立ち込めていた。


「行くぞ!」


 ハルが使役魔獣に足で合図を送ると使役魔獣は駆け出した。そのうしろに精鋭部隊が続いた。

 彼らの姿はあっという間に森の中に消えて行った。


 監視塔のみんなは裏門が閉まるまでずっとその森を見守っていた。




 




























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