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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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下見

 オウド砦は巨大な敷地に大きな建物がありそれが三つの館分かれていた。それが東館、本館、西館でありその建物の中に入る扉は中央にある本館にしかなかった。そして左右にある東館と西館から伸びた壁が四角形にぐるりとつながり、その四つ角にはやぐらのような縦長の建物が建てられていた。そのためこの要塞にはとても広い中庭があり、その中に倉庫や寮、厩舎などの必要な施設が整っていた。

 東館と西館の近くの壁にはそれぞれ大きな門がついておりそこから馬車など大きなものの出入りが可能な場所があった。


 オウド砦の本館の大きな扉が開いて中から一人の男性が出てきた。


「皆さまお待ちしておりました」


 礼儀正しそうな男性が後ろに騎士を連れてやってきた。


「どうも、ロジェさん」


 ルルクが一歩前に出て挨拶をした。


 そこには黒髪に整えられた口ひげを生やした中年ぐらいの紳士のような男性が立っていた。


「どうも、ルルクさん二週間ぶりですね。先に来ているエルガー騎士団の皆様もお変わりありませんよ」


「それはよかった」


 ルルクとロジェと呼ばれる男性が軽い挨拶を交わした後、ルルクが彼をハルたちに紹介してくれた。


「みなさん始めまして私はロジェ・サリフと申します。このオウド砦の主人です。どうぞよろしくお願いいたします」


 ハルたちも挨拶を返した。


「早速、砦の中を案内しますので、彼らについて行ってください」


 オウド砦の騎士にハルたちや白魔導士、冒険者たちが着いて行くことになった。

 砦に入るとき、後ろではロジェがシフィアム王国のバハム竜騎士団のヨルムたちとも挨拶をかわしていた。




 ハルたちが本館のエントランスの部分に入ると奥に大きな窓ガラスがあり巨大な中庭が一望できた。さすがに利便性が重視された施設だったので景色はそれほど良くなかった。


「皆様の荷物はあちらの中央広場の倉庫にありますので案内します」


 そう言ってオウド砦の騎士が中庭の中にある建物を指さしたあと再び歩き始めみんなが彼について行った。

 エントランスから中庭にでると四方は壁で囲まれており、その壁の上には騎士たちが見張りをしているのが見えた。そして本館から中庭をまっすぐ通った場所には霧の森に出る大きな門があった。


「着きました、皆さんの荷物はこの第三倉庫にあります」


 西館のそばにある倉庫の中に入ると多くの物資と思われる木箱や袋が置いてあった。しっかり物資ごとに区画が設けられており、ハルたちの荷物も簡単に見つかった。


「ハルの刀ありましたよ」


「あ、本当?」


 ライキルが【弐枚刃】と呼ばれる大きな二つの刀を抱えて持ってきた。両方の刀にはそれぞれ名前がついており、【首落とし】と【皮剥ぎ】と物騒な名前が付けられていた。その大きさと重さから、どちらも普通の人間が片手で扱う代物ではなかったが、ハルはその二つの刀をそれぞれ両手に持って戦うのが彼の戦闘スタイルだった。


「重いでしょ、俺が持っていくよ」


「いえ、私が持っていきます」


 ライキルは二つの刀を大事そうに抱きかかえて離さなかった。


「じゃあ、俺がライキルの分の荷物を持つから」


「あ…」


「そうなるでしょ?」


「お願いします…」


 ライキルが少し恥ずかしそうに言った。


「刀は任せたよ」


「はい」


 みんなが自分の部屋に生活用品や預けておいた荷物を移動した。

 オウド砦では西館が大きな居住スペースになっており、そこの二階にハルたちの部屋が割り振られていた。


「ありがとう、ライキル」


「はい、あ、ここに置いていいですか?」


「うん、そのタンスの上でいいよ」


 ライキルが二つの刀を大きなタンスの上に置いた。


「意外に広いし、いい雰囲気のお部屋ですね」


「そうだね、でも明日には監視塔に出発だからゆっくりはできないね」


「残念です、せっかく緑に囲まれたいい土地なのに、ここがホテルだったらきっといい観光地になりましたよ」


 ライキルがハルの部屋の窓から見える森を眺めていた。


「うん…」


「おーい、ハル!…とライキルもいたか、本館の二階の会議室に集合だってよ」


 エウスがハルの部屋の開いていたドアの隙間から顔を覗かせて言った。


「分かったすぐ行くよ、ライキル行こう」


「はい!」


 ハルとライキルが少し迷って会議室に着くとそこにはルルク、エウス、ヨルム、ロジェ、クロルと数人の冒険者だけがいた。


「あれ人が少ないですね」


 ハルが会議室に入ってきて言った。


「ああ、大丈夫です。後でここにいる皆さんに伝えてもらうので」


「そうでしたか」


 会議室のテーブルの上には地図が敷かれており、その地図は霧の森の詳細な地図だった。


「簡潔に言いますとこれから下見に行きます。ここから監視塔までの道を」


 ルルクが地図のオウド砦と監視塔を指で一直線になぞりながら言った。


「もう行くんですか?」


 ハルが言った。


「はい、この会議が終わったらすぐ出るつもりです。一応整備された直線の道で、みんな地図を頭の中に叩きこんでると思うんですが、実際の道を見ておいた方がいいと思いまして、距離感とかは大事ですからね」


「それは俺も賛成ですがルルクさん馬で行くんですか?監視塔までは少し距離があって、みんな行って戻ってきたらいろいろ時間とか大丈夫ですか?」


 エウスが不安要素を一つ上げた。


「いえ、馬ではなく使役魔獣を使います」


「え!?使役魔獣ですか、でも、そんな数いるんですか?」


 エウスが驚いているとロジェがその疑問に答えた。


「実はこの砦に多くの馬型の使役魔獣を送ってくれたレイドの貴族がいらっしゃったんです」


「誰なんですか?」


 ハルも気になって質問した。


「アルストロメリア家のレイゼン卿です」


「レイゼン卿!」


 三人が同時に叫んだ。

 ハルとエウスとライキルの三人の頭の中にビスラ砦で出会った温かい家族たちの顔が浮かんだ。


「ええ、アルストロメリア家からは今回多くの物資や金銭を援助してもらってこちらも助かっております」


「ハル、レイゼン卿だってよ」


 エウスが嬉しそうにハルの肩を叩いていた。


「また、あの家族に会いたいですね!」


 ライキルも嬉しそうにハルの隣で微笑んでいた。


「ああ…本当に頼りになる方だ…」





 それからすぐに監視塔までの道を下見するための準備が行われた。会議室に集められた人たちはそれぞれ手分けしてみんなに連絡を伝えた。

 ロジェやオウド砦に元からいる騎士団は下見の準備を手伝ったが、彼らはこの森をよく知っているので一緒に出発するのは、数人のオウド砦の騎士だけだった。


 中庭の西側にある倉庫の近くには大きな厩舎があり、そこに馬や使役魔獣などが飼育されていた。

 そこから、通常の馬よりもはるかに大きい馬型の使役魔獣を連れて、中庭の裏門にみんな集合した。


 オウド砦の上空ではバハム竜騎士団の茶色い翼竜たちが旋回していた。


 そして使役魔獣を扱えない白魔導士や一部の冒険者は、扱える者たちの後ろに乗せてもらった。

 その使役魔獣たちには、馬型の使役魔獣専用の(くら)が取り付けられており、後ろで乗る人のための取り外し可能な(あぶみ)のような足を固定できるものが複数特殊な鞍に付いていた。

 それは速く激しく動く使役魔獣の上で後ろの人がバランスを崩さないための工夫だった。


 騎士たちは全員使役魔獣を扱えるため、それぞれが一人ずつ自分の使役魔獣に乗っていた。

 全員が使役魔獣に乗ると裏門の扉が開いた。

 そして先頭から順にみんなを乗せた使役魔獣が走り始めた。


 ハルとエウスの前にはルルクがいて彼がこの部隊の先頭を務めていた。


「相変わらずこいつらのスピードは格が違うな」


 エウスがハルの使役魔獣と並走させながら言った。道はかなり整備されていて、その上を使役魔獣たちが風の様に駆け抜けていく。後ろにはライキル、ビナ、ガルナ、ベルドナが後をついて来ており、この部隊の後方の護衛にフォルテがついていた。


「ルルクさん今日は監視塔までですか?その先にはいかないんですか?」


 ハルがルルクに質問した。


「はい、さすがに危険区域では不測の事態が起こる可能性が高いので監視塔までです。それに監視塔から先は道の整備がされていませんので」


「あ、そういえばそうでしたね」


「それに今、危険区域にいる魔獣たちをあまり刺激したくありませんしね、集団で襲ってきたらこちらがただ消耗させられるだけですから」


 ルルクはある程度いろいろな状況を考えながら言っていた。


「そうかもしれないですね、魔獣たちはよく集団で襲ってきますからね…」


「そうです、監視塔の体力は当日までに取っておきたいですからね」


 使役魔獣はそのまま、まっすぐな整備された道を駆け抜けて行った。

 注意区域は魔獣に遭遇してしまう確率は王道などが通る安全区域よりは高いがそれでもハルたちは魔獣の姿を一切見かけることもなく静かな森の中を進み無事に監視塔に着くことができた。


「あっという間だったな」


 エウスが使役魔獣をなでながら言った。


 監視塔はオウド砦よりは小規模だったが、塔とそれを囲う壁だけは、立派なぶ厚い石造りで仕上がっていたいて、ところどころ修復の後が何か所もあり、過去に激闘があったことがよく分かった。

 神獣など巨大な魔獣をすぐに発見するために塔の高さはかなり高く設計されていた。


 ハルたちが監視塔を囲う壁にある丈夫な門の前まで来ると、上にいた門番たちがその門をゆっくり開けてくれた。

 中にはいくつもの施設があったがやはりオウド砦のものと比べたら規模が小さかった。




 使役魔獣を監視塔の厩舎などで休ませて、みんなは外で適当な場所に座って簡単な携帯食料を取って休憩することにした。


「この先に魔獣たちや神獣がたくさんいるんですよね…」


 ビナが干し肉をむしゃむしゃ食べながら言った。


「ああ、こっから先の森は危険区域だからな…」


 エウスは腰のベルトに取り付けていた水の入った皮袋を取り出して喉を潤した。


「魔法が使えたら少しは変わったのですが…」


 ライキルも皮袋を取り出してそれを片手で飲み喉を潤した。


「そうだな、俺たちも守りや攻撃に役立つ天性魔法とかが使えればな…」


 エウスが無い物ねだりをしていた。


「天性魔法はマナが無くても使えますからね」


 ビナが干し肉を噛み千切っていた。



「ハル、喉乾いた…」


 ガルナが干し肉を噛みながらハルの背中にのしかかってきた。


「皮袋は?」


「忘れた、魔法が使えると思ったから…」


「そっか…じゃあ俺のやるよ」


「本当!ありがとう、ハルは優しいな!」


「はいはい」


 ハルが腰のベルトから水の入った皮袋を取り出して背中にのしかかっているガルナに渡した。


「わーい!」


 ガルナがハルの隣に座ってそれを豪快においしそうに飲み始めた。ガルナは乾いた喉に水を通すたびに幸せそうに目を細めていた。

 そんな幸せそうなガルナをハルは隣で見ていて幸せな気持ちになって干し肉を食べる手が止まっていた。


「どうした、ハル?」


 ハルの視線に気づいたガルナが彼の方を見た。


「あ、いや、幸せそうだなと思ってね…」


「ああ、幸せだ、今が一番幸せだ、水が飲めて私は幸せだ!」


 ガルナがそう言うと、水が残った皮袋をハルに返そうとした。


「全部飲んでいいよ、俺、喉乾いてないから」


「本当か!ありがとう!」


 ガルナが皮袋の水を再びおいしそうに飲み始め、そんな彼女をハルは嬉しそうにしばらく眺めていた。


 そこにルルク、フォルテ、ベルドナの三人が来て食事中のハルたちの元に来た。


「皆さん監視塔の上に登ってみませんか?霧が見えるらしいですよ。明日魔獣たちがどこから来るのかだいたいの距離が予想できると思います」


 ルルクがみんなに語りかけた。


「特別危険区域にある濃霧ってやつだな、ハルどうする?見ておくか?」


 エウスがハルに言った。


「もちろん、見れるなら、見ておくよ」


 ハルが干し肉をおいしそうにかじりながら立ち上がった。




 ハルたちが監視塔の中に入って、階段を上っていった。塔の頂上に近づくたびにみんなの中で少しだけ緊張が走った。

 四大神獣白虎の巣があると言われている霧の森の中心、今まさにその一端を覗こうとしていたのだ。


 階段を上りきり、ハルが先頭で監視塔の頂上に繋がるドアを開けると風が吹き込んできた。


「うわ、結構風が強いな…」


 ハルたちが塔の頂上に出て、森の中心部に目を向けた。

 そして霧の森のそのゆえんとなった霧を目撃する。


「なにあれ…」


 ビナが霧を見た瞬間、自然と口からこぼれた言葉だった。

 塔から少し離れた森に、巨大な白い霧の塊があり、それが不気味にそして不自然に流動していた。その霧の動きは人に恐怖を与えるほど不自然にうごめいていた。そしてその白い霧の塊がまるで一匹の生命体の様にも見えた。


「これは、予想以上だな…」


 少し恐怖を感じて、そう呟いたエウスが、ふとハルの横顔見ると。

 彼はただジッとその霧を悲しそうに見つめていた。


 エウスはハルに声を掛けようとしたが、次の瞬間には、彼の表情は通常に戻っており、ライキルやビナと霧について何か話し合っていた。


『ハル…?』
























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