出発
大きな赤い翼竜が広場に風を巻き起こしながら、ゆっくり降りてきた。
「大きい、とっても大きいです!」
「でかいな!これは私も倒せるかわからんな…!」
ビナやガルナがその大きさにはしゃいでいたが、エウスやライキルなどその場にいた全員がその赤い翼竜の大きさに圧倒されていた。
その大きな翼竜は鮮やかな赤い鱗におおわれており、大きな体には竜専用の鎧のようなものが着せられていた。
そしてその翼竜の背中から誰かが一人降りてきた。
「どうも、皆さんおはようございます、いい風が吹いてますな!」
そこには一人の竜人族の大柄でガタイのいい中年前のおじさんが降りてきた。
その男は黒い髪に茶色の瞳で、竜人族特有の鱗を持っており、その鱗の色は夜のように黒く艶があり綺麗だった。その男が歩いてハルたちの方に歩いてくる間に、空を飛んでいた茶色い翼竜たちも広場に次々と降りてきた。どの竜にも人が乗っており、その翼竜たちも鎧が着せられていた。
「お待ちしておりました」
デイラスが言った。
「あなたがエリザ騎士団のデイラス団長ですかな?」
「はい、エリザ騎士団団長デイラス・オリアです」
「そうか、私がシフィアム王国バハム竜騎士団団長のヨルム・ゼファーだよろしく頼む!」
あいさつしたヨルムはデイラスと握手を交わした。
そのあとデイラスはヨルムにハルのことを紹介した。
「彼がこの作戦の中心人物の元剣聖のハル・シアード・レイです」
「初めましてハルです」
「ああ、これは、これは、お会いできて光栄だ!ヨルム・ゼファーだ、これからよろしく!」
ハルもヨルムと握手した。
「はい、今日はよろしくお願いします」
「任せてくれ、今日はいい風が吹いてる。目的地にはすぐに着きそうだ!」
彼からは快活な雰囲気が出ており、人柄の良さを感じた。そんな彼はハルと後ろにいたエウスたちとも挨拶をした後、帝国のルルクやフォルテたちとも挨拶をかわしに行っていた。
ヨルムが再び戻ってくるとみんなに告げた。
「さあ、これから皆さんが乗る竜に、私の部下が連れて行くから彼らの指示に従ってくれ!」
ヨルムはそう言うと再びデイラスと話し合い、これからの予定のようなものを話していた。
ハルたちの元にも一人の竜人の騎士が来てみんなが乗る翼竜に案内してくれた。
「あの、お荷物の方は皆さまよろしいのですか?」
その竜人族の竜騎士が翼竜のところまで案内しているときに尋ねた。ハルたちはほとんど手ぶらのようなもので、自分たちの武器以外はライキルとルルクがバックを背負っているぐらいだった。
そして、ハルだけは自分の武器も何も持たず完全に手ぶらの状態だった。
「自分たちの荷物は先に全部砦に送ってるんで大事です」
エウスが代表して答えた。
「そうでしたか、それなら安心しました、こちらです」
ハル達は一番大きな赤い翼竜に案内された。
その翼竜には鎧が着せてあり、その鎧の脇には足場と手すりのようなものが取り付けてあり、そこからハルたちは翼竜の背中に上った。
背中の上はとても広く背中の鎧には数十人分のとってのようなものがついており、この翼竜には多くの人が乗れることがわかった。
「いらっしゃい、お客さんたち」
赤い翼竜の背中には一人の竜人の女性が手綱のような太い紐を持って竜の首元あたりの場所に座っていた。
「適当に座っててくれて構わないよ」
「分かりました」
ハルが返事をするとみんながとっての前にそれぞれ座った。
この赤い翼竜にはハル、エウス、ライキル、ビナ、ガルナ、ルルク、フォルテ、ベルドナと数人のアスラの精鋭騎士が乗り込んだ。
デイラスと話し終わったヨルムと数人のバハム竜騎士団の竜騎士もハルたちと同じこの赤い翼竜乗り込んできた。
ヨルムが赤い翼竜の上から辺りを見渡して他の翼竜の準備が完了したことをしっかり確認した。
翼竜に乗ったハルたちは見送りに来てくれた人たちに手を振ると、下にいたみんなも手を振り返してくれた。
「皆さん今から飛び立つので城の方まで下がってください!この広場から離れてください!」
ヨルムが下にいた人々に大声で呼びかけると、みんなが翼竜たちから離れ城の方に駆けていった。
「それじゃあ、みんな、これから飛ぶから竜の姿勢が安定するまで近くのとってにつかまっていてくれ!」
ヨルムがご機嫌にハルたちにいいながら、彼は手綱を持っていた女性に目で合図を送った。
彼女は手綱を振るうと同時に口にくわえた笛を吹いた。
ピー――!
すると大きな赤い翼竜の翼が大きく上下に羽ばたいて身体が浮き始めた。
赤い翼竜の体が少しだけ地面から離れると、その翼竜の身体の下に大きな光の輪っかのようなものが現れた。
その光の輪の大きさはその大きな翼竜の胴体がすっぽりと入ってしまうほど大きかった。
「飛行魔法…大きい…」
強風に吹かれながらフルミーナが呟いた。
城のほうまで下がっていても赤い翼竜から飛んでくる風が見送りに来てくれた人たちのところまで届いていた。
赤い翼竜の身体の下に現れた、大きな光の輪っかの真ん中から勢いよく赤い光のようなものが発射された。
ゴオオオオオオオオオオオ!
その発射された赤い光が地面に勢いよく吹きつけた。
しばらくするとその赤い光が徐々に青い光に切り替わり、赤い翼竜の大きな身体を垂直に上に運んでいく。
その間その翼竜は一切羽ばたかず姿勢を平行に保っていた。
そして、ある程度の高さまで行くと、赤い翼竜は口を開けてそこから、見えない何かを、茶色い翼竜たちのいる広場に放った。
その見えない何かが広場の地面に着弾すると、広場の地面から上昇気流が発生した。
他の人たちを乗せた茶色い翼竜たちが、次々とその上昇気流に乗って大きな赤い翼竜のもとまで軽やかに飛び上がった。
「すごい風魔法だ!」
見送りに来ていた人たちの中の誰かが興奮気味に叫んでいた。
赤い翼竜の体の下あたりにあった光の輪とそこから発射された光が消えると、赤い翼竜が自らの大きな翼で羽ばたきはじめた。
その頃には、すべての茶色い翼竜たちが空に飛びあがり、赤い翼竜の周りを一定の方向に旋回して飛んでいた。
そして、その翼竜の群れは赤い翼竜を先頭にハルたちを乗せて、南にある霧の森のオウド砦を目指して飛んでいった。
フルミーナ、アストル、ウィリアム、フィル、ヒルデ、マリーなど見送りに来てくれた人たちは、その翼竜の群れが見えなくなるまでずっとその後ろ姿を見守っていた。




