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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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二人っきりの屋上

「ハル…」


 ライキルが名前を呼ぶとハルが後ろを向いた。


「ああ、ライキル、どうしたの?」


 月明かりが二人のいる屋上を明るく照らす。下の中庭や裏の広場ではまだパーティーが続いており、小さな明かりがいくつも広がっていた。


「あ、その別にようとかは特にないんです…ただ、ハルが階段上っていくのが見えたから屋上かなと思って…」


「そっか俺よくここにいるからね……ねえ、ちょっと話していかない?」


「は、はい」


 ライキルがハルの隣に来た。彼の背は相変わらず大きく、くすんだ青い髪が夜風でなびいていた。

 そして、そんな彼の近くにいるとライキルは自然と安心した。それは彼の性格や行動、一緒にいた日々が作り上げたものだとライキルは思った。

 エウスといる時もライキルは安心できるが、それはハルとはまた違ったもので、ハルの隣だけは他の人たちとは全く違うものを感じていた。

 そして、ライキルはそれが何なのかもちゃんと知っていた。


「明日、ついに出発だね…」


「はい…」


 ライキルがハルの横顔見ると彼はいつも通りの優しそうな表情だった。どこか悲しい雰囲気も漂っていた。


「ハルは怖くはありませんか…」


 ライキルがハルに質問した。


「怖くないよ…」


 彼の表情は余裕のある顔ではなくどこか寂しそうな顔つきをしていた。


「ライキルは大丈夫?」


「私はみんながいるからきっと平気です。でもハルは一人です…」


「そうだね…でも、ライキルも知ってるでしょ俺は一人の方が強いって」


 ライキルは笑顔のハルを見た。彼のその笑顔はいつもみんなを安心させてくれる魔法のような優しい笑顔だった。


「ええ、もちろん知ってますが…それでもやっぱり…」


 ライキルが心配そうな顔でハルを見た。

 ハルも横目で彼女を一瞥した。


「心配しないでライキル」


 ハルが遠くを見ながら言った。


「俺が必ず悪いやつを全部殺すから」


 その時のハルの横顔は全く笑っておらず、ライキルは一瞬恐怖を感じて身体が小さく震えた。


「安心して…」


「はい…」


 次の瞬間にはハルは普通の優しい顔に戻っており、綺麗な月を見上げていた。

 ライキルは自分の心臓が大きくドクドクなっているのが分かった。


『ハルどうしたんだろう?大丈夫かな…?私に何かできないかな…』


 そんなことをライキルが考えているとハルが話しかけてきた。


「ねえ、ライキル…」


「はい!」


「抱きしめてもいいかな?」


「え!?」


 それはハルからの意外過ぎる提案だった。普段そんなことハルの方から絶対に言ってこないからだ。

 だからライキルは一瞬彼が何を言っているのかわからなかったし、聞き間違えかと思った。

 しかし、ハルはニッコリ笑って腕を広げて待っていた。


「だめかな?」


「だめじゃありません!」


 ライキルは食い気味に言った。

 ライキルが恐る恐るハルに近づいて彼の胸の中に飛び込むと彼をそっと抱きしめた。

 すると彼も優しく抱きしめ返してくれた。


『あ…』


 ライキルは幸せの中にいた。

 ずっとこうしていたいと思った。

 離れたくなかった。


「ライキルいつもありがとう」


 抱きしめてくれるハルからそんな言葉が飛んできた。

 それはこっちのセリフだとライキルは思った。


「こちらこそです。私、今、とっても幸せです」


「そっか、よかった…」


 ライキルは幸せだったが、どうして急にハルが、こんなことをしてくれるのか考えようとしたが、ライキルは彼の体温を身体で感じるたびに何も考えられなくなった。


「ライキル…」


「はい!なんですか?」


「………」


「どうかしましたか?」


「うんん、ごめん、なんでもない」


「変なハルです、今日のハルはなんか変です!」


 ライキルが嬉しそうに言った。


「そうかな…?」


「はい、いつも変ですけど、今日はより変です!」


「なにー!」


 ハルはライキルを軽々抱きかかえるとその場でぐるぐる回り始めた。


「きゃあああああああ、あ、アハハハハハ!」


 ライキルは振り回されながら、楽しそうに笑っていた。

 その時のハルも一緒に楽しそうに笑っていた。


 星々の光と月明かりだけに照らされた屋上で二人はぐるぐる回る。

 そこにはただ無邪気にはしゃぐ青年と少女がいるだけだった。


 ハルがライキルを優しく地面に下ろしてあげると彼女はちょっと寂しそうな顔をした。


「ハル、また今度抱きしめてもらってもいいですか…」


 ライキルがそう言ってハルの顔を見ると彼は小さく微笑んだ。


 そして彼はライキルの頭に手をポンっと置いて言った。


「いつかね…」














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