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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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最終確認 霧の森

 昼食が終わり、城にある大きな鐘が一回鳴った。それを合図に中庭や広場にいた騎士や冒険者が一斉にホールのある方に移動し始めた。


「なんの鐘だ?」


 ガルナが、がに股で椅子に座りながら耳を澄ませていた。


「集会の合図だよ、今回の関係者に第一ホールで最終説明会が開かれるんだ、ちなみにそれは普通の騎士や冒険者たちの会場で俺たちはそのホールの近くにある作戦本部に集合なんだ」


 エウスが立ち上がってテーブルにいたみんなに語り掛けた。


「さあ、そういうわけで移動しよう」


 みんなが席を立って作戦本部の会議室に足を運んだ。



 作戦本部の前に着き、建物の中に入ってエウスが先頭を切って会議室の扉を開けた。

 会議室の中には各組織の偉い人達や関係者がいた。冒険者ギルドの支部長や白魔導協会の方たちなど、基本的に今回の作戦の実行部隊や後方支援の人々がここには集められていた。そして、そこには先ほどみんなと一緒にいたフルミーナの姿もあった。


「おお、エウス君にみんな、それにアスラ帝国の方々も、さあ座ってくれ、椅子が足りなければ持ってこさせよう、しかし、立っていた方が地図は見やすいと思うが」


 デイラスがみんなを迎える。

 会議室の真ん中には大きな四角いテーブルが置いてあり、その上には大きな地図がおいてあった。それをみんなで囲むように座ったリ、立ったりして眺めていた。

 全員が空いてるところに座ったり、立って聞く態勢になるとデイラスが話を始めた。


「早速、本題に入れせてもらいます。今回の作戦の目的は神獣白虎の巣の完全な破壊になります。理由はみなさんお分かりだと思いますが、魔獣の活動がここ数年で活発化し、各国の魔獣の被害が頻発して起きているのは、みなさんご存じだと思います」


 そのことにはみんな頭を立てに振って頷いていた。


「さらには、近年、神獣による各地での襲撃が多数報告されているのを我々は確認しています。ここから北にある六大国の一つ【イゼキア】王国、西のアスラ帝国、我がレイド王国も。そして、他の大国以外の国を合わせれば、神獣による被害は各地で後をたちません」


 デイラスは地図を指しながらみんなに説明を続ける。


「しかし、この神獣の脅威を取り払ってくれるため立ち上がってくれたのが、まさにみなさんも知る、レイド王国の英雄ハル元剣聖になります」


 デイラスがハルを紹介するように手をハルの方に向けた。

 そこで会議室にいた全員が彼に拍手をした。


「………」


 ハルは手だけ挙げてその拍手に答えた。

 エウスがその時のハルの顔を見たが全く笑ってなかった。それも怖いほど真剣なまなざしでテーブルの上の地図を見つめていた。確かに今回は重要な会議で緩い雰囲気は似合わないが、それでもハルはこういう場面でも優しい笑顔を見せてきたのをエウスは知っていた。


「ハル大丈夫か?」


 エウスが小声でハルに確認した。


「………!、ああ、大丈夫だよ…」


 ハルは少しびっくりした様子でエウスを見たあと、いつもの穏やかな笑顔で言った。


「具合悪かったら抜けてもいいぞ、俺が後で伝えるから」


「いや、大丈夫だ、ありがとう、エウス」


「そうか…」


 ハルはエウスに笑顔で言ったが、彼が前に向き直った次の瞬間にはその笑顔は消えていた。


「………」


 エウスもそんなハルのことが気になったが会議中だったので集中して作戦を聞いた。


「えー、ここで当日の作戦内容を再確認しますが、その前に、まず、霧の森について、この街の図書館『トロン』の館長フルミーナ・タンザナ―トさんから説明をしてもらいたいと思います。フルミーナさんお願いします」


「はい、デイラス団長」


 フルミーナがデイラスと場所を入れ替わると彼女が話し始めた。


「霧の森は古くから立ち入りが制限されてきました。皆さんにはまず、立ち入り禁止区域について簡単に説明します。立ち入りの制限は全部で三つの段階に分かれます。一つ目は注意区域です、ここは一般の方など誰でも入れる区域ですが安全ではないので護衛をつけることを推奨している区域です。主に山道や森などに設けられる区域です。二つ目は危険区域です。これは一般の人は国から許可を得なければ立ち入ることができない区域です。最後の三つめは特別危険区域です。この区域は原則として誰も立ち入ることは許されません。その理由は単純で、その区域に入ると複数の国に被害が及ぶ可能性があるからです」


 フルミーナはそこまで説明しきると一呼吸おいて話を続けた。


「霧の森はこの街パースから南にある広大な森のこと全体を言います。この森はレイドとアスラの国境に面するほど広大な森です。この森は全体に区域が指定されています。それもさっき言った三つの区域が全部あります。真ん中に行くごとに区域の危険度が上がっていきます。」


 ビナは地図を指指しながら説明を続ける。


「それぞれの特徴を説明しておきますね。注意区域の場所は、薄い霧が漂っていて、たまに魔獣が数匹で行動してるような場所になります。

 危険区域になると霧が少し濃くなります。それでも馬や使役魔獣を入れることは容易です。ただこの区域には、凶暴な魔獣がよく出没するので、危険区域に指定されています…」


 そこで一旦、フルミーナは深呼吸して自分を落ち着かせた。


「そして最後の中央部分で渦巻く巨大な濃霧の場所が特別危険区域に指定されている場所です。はっきり言いますと、この特別危険区域だけは情報がほとんどありませんが、簡潔にまとめると濃霧の中には大量の神獣が生息している可能性があるということです」


 そのフルミーナの言葉に会議室は少しだけざわついた。


「濃霧の中にいる神獣の姿は霧の森に数多くいる魔獣白虎だと言われています。さらにその神獣は雷の魔法を使ってくる可能性が高いです。むしろそれを主体に使ってくると考えた方がいいでしょう」


 その雷魔法について話すと会議室は先ほどよりもざわつき、不安な表情を浮かべる者がたくさんいた。



 人間で雷魔法を使える者はほとんどいなかった。それは単純に人間に雷の魔法適性がほとんどないからであった。どんなに優秀な魔法使いが修行しても静電気程度のバチッとするだけの力しか出力できなかった。雷魔法で魔獣を殺せるほど魔法を出力できる者は本当にまれだった。

 そんな雷魔法がなぜ不安の要素になるかというと、それは単純に回避が困難な魔法の一つだったからだ。

 しかし、そんな雷魔法にも弱点がある、それは、魔法は使うマナの量に応じて破壊力や速度が変わる点があるということだ。さらに雷魔法はかなりのマナが必要なので体への負担が大きいこともあった。

 いくら雷魔法と名付けられているからといって、それは魔法で作り出した現象でしかない。自然界の本物の雷とは仕組みが違った。

 そのため、優秀な精鋭騎士ならその雷の魔法をかわしたり、防ぐことができる可能性があった。

 だが、しかし、そんなものは神獣の前では全く意味をなさない。人間を遥かに超える魔力出力ができる彼らの魔法をかわせるものなど剣聖ぐらいしかいなかった。それも剣聖の中でも六大国の剣聖のようなトップクラスの剣聖にしかできなことだった。



「そして霧の森の中央の濃霧は視界が悪いのではなく見えないと言われています。そのため目を開けていても閉じていても変わらないでしょう。そして、その濃霧は晴れない霧とも言われています」


 フルミーナがそこまで説明するとその場から一歩下がった。


「私からは話せる情報は以上です」


「ありがとう、フルミーナさん」


 デイラス団長がフルミーナと場所を交代した。


「次は当日の作戦内容を再確認します」










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