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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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辺境伯

 月明かりが照らすラーンムの町に、ぞろぞろと騎士たちが道の真ん中を通り抜けていく。その先頭にハルとダナフィルク辺境伯であるレイゼン・アルストロメリアがいた。


「驚きました、まさかレイゼン卿が、直々にお出迎えに来てくださるなんて」


「それは当たり前だ、最強の剣聖様が町に来てくれるなんてめったにないからな」


「ありがとうございます、そして、突然の訪問をお詫びします」


「いやいや、こちらこそ、すまないな待たせてしまって、そのかわり宴と寝床の用意はできているぞ」


 大柄な体格は、ペンより剣を振るった方が多そうなたくましい二の腕に、馬から下がる太ももは、馬脚にも引けをとらなほど健脚そうな筋肉で構成されていた。

 位をもらってるには若い顔立ちはつやのある黒い長髪を後ろで簡単にまとめていた。

 いかつい顔つきだがそこに威圧感は感じない、常に笑顔で接する彼にはむしろ安心感を与えてくれる。

 それでも、体中から溢れ出る、大物のオーラは並走させてる馬からも伝わってくる。


 乗っている馬は真っ黒な毛並みで一回り大きく、筋肉の引き締まりや量が通常の馬と段違いで、魔獣の血が流れてるハイブリットな種類の馬であることがわかる。


 魔獣の血が混ざる動物は、気性が荒い個体が多いが、彼はその馬の手綱をしっかりと握っていた。

 その姿はまさに物語に出てきそうな大英雄の騎士という印象を与えてくる。


 馬でレイゼン卿の砦まで向かう最中に至極当たり前の質問をしてきた。


「それで、ハル剣聖はどうしてこちらへ、剣聖の退役凱旋とかですかな」


 彼の冗談交じりだが、どこか本気でそう思ってそうな声色からハルは少し笑ってしまう。


「私はそこまで、この王国民に対して思い上がったりできませんよ、剣聖になれましたが、王国に横から乱入したようなものですから」


「ガァハハハハ!それでも、王都での神獣討伐はまさに鬼神のごとき活躍ぶりで、あなたを認めない者はいなかったでしょう、まさにあなたは、国を救った英雄だったよ」


「ありがとうございます、騎士団でも有名な、レイゼン卿に行ってもらえると剣聖であってよかったと思います」


「そうか、それはよかった、しかし話は戻るが、こんなに若い騎士や素人のような新人を連れて一体どこへ行こうとしているのですかな」


 その質問に答えるのに少しハルは悩んだ。


 この神獣討伐は言ってしまえば、内密な任務という扱いになっているからだった。


 その理由は単に混乱と批判を避けるためである。


 神獣を神の試練ではなく、聖なるものと崇めるもの者もいたし、誰も試みのない挑戦だったので何が起きるかわからないためであった。


 しかしハルは、レイゼン卿には打ち明けることにした。国内の信頼できるものであるため、嘘をつく必要もないと判断したからだ。


「神獣討伐です」


「神獣討伐!?」


 レイゼン卿の顔に当然のように驚きの顔があらわになる。


「しかし神獣を狩るにしては、人も物資も少ない、これでは、いや」


「王都での最初の乱入騒ぎでは、みんなの力を借りましたでも今回は」


 ハルが話すのさえぎるような形で、レイゼン卿がわりこんで結果をいった。


「ハル殿は、一人で神獣を討伐するおつもりですか!!」


 自分の放った言葉に唖然とするレイゼン卿であったが、この若い騎士が多く少ない部隊で、神獣討伐など言われたらそれしか頭に浮かんでこなかった。


「ええ、神獣は基本、私一人で相手することになると思います。なんせ相手は四大神獣ですから」


 その四大神獣という言葉にレイゼン卿は空いた口が塞がらなかった。


「このことは一応、内密という形でお願いします。各国の王からも、言われているので」


 ハルの言葉に、呆然としていた顔を引き締めるレイゼン卿の姿があった。


「ああ、それはもちろん約束しよう、しかし単騎の神獣討伐とは……」


 この時代は本来、神獣を城や要塞で迎え撃つのが基本である。

 魔法がどこでも自由に使える時代は違った。

 マナと言われる、魔法を使うための元のようなものが、無いところでも、魔法が使えた時代、つまりエーテルがまだ世界を満たしていた時代では、城や要塞がなくても、たちうちできた。

 

 しかしエーテルが世界から消失してから、世界は神獣の力が増す一方だった。


 いくら歴代最強の剣聖と言われるハルでも、厳しいとレイゼンは考えざる負えなかった。


「無謀な挑戦ということは存じております。しかし誰かがやらなければいけません」


「これは、王から勅令なのか」


「いえ、私自らの提案です」


 その答えにもレイゼン卿は困惑の意を示す。


「なぜか、自殺に行くようなものですぞ」


「戦いのときは、部隊は遠くに待機させるつもりです」


「そうじゃない、私はあなたの心配をしているのですぞ」


 レイゼン卿のなんとも言えない表情からは心配のまなざしが受け取れた。


「剣聖などは、やめたらゆっくり余生を過ごせばいいのだ、その称号を受け取ってからは、一生食っていける金と地位はもらえるのだから」


 レイゼン卿からわずかに感じられる怒りの声は、剣聖の家系だからこその価値観が混ざっていた。


「剣聖はいつだって真っ先に絶望に立たされる。剣聖もそれに応える、我々の先祖もそうだった、それは名誉なことなんだろう、だがな、私は若い命が人柱にされるのが許せないのだ」


 彼の手綱を握る強さで、全身に力が入っていることがわかる。自然に馬の扱いも雑になってしまう。

 それを鎮めるようにハルは冷静に割り込む。


「それが剣聖である者の務めです。農民が田を耕してくれるように、私にも元剣聖としての役割があります。たとえそれが生贄でも人柱でも、私にとって、神獣を狩ることが自らの使命なのです。それは他の誰とも変わらないことです」


 ハルの剣聖としての心持の良さに、感化されそうになるレイゼン卿だったが、どうも、どんな意見を言ってもハルの決意が固まっている瞳に気づいたら、力んでいた体の力が抜け、少し肩を落とした。


「……うむ、立派な思想だ、まさに自らの使命を負う者の心構えだ」


「剣聖として困難に身をささげるのは当然です」


「だが、相手は四大神獣、王都での神獣レイドの比ではないぞ」


「承知しています」


 四大神獣は各国でも手に余る状況が何百年もつ続いており、放置するしか対処手段がなかった。


 しかしそれで起こるのは、魔獣たちの穏やかな繁栄だった。


 神獣がいるせいで国益が損なわれている場所もあり、各国はどうしても排除したかったが、何度も返りうちにあっていた。


 そこでハルの討伐の提案により、各国がその提案の許可を出した。


 元剣聖ハルの力は国の軍事力を簡単に崩してしまうほどだった。

 これは、巨大な国力をもっている、レイド王国を含めた六つの国の条約によって、ハルの移動を制限する形で均衡を保っていた。

 しかし、討伐する神獣は、大陸の四大神獣と言われる、白虎、黒龍、朱鳥、山蛇であり、どれも別々の地域の自然の中にいて、多くの国境をまたがなければいけなかった。


 その手続きを多くの領地にとっていたら、すべての神獣にたどりつくために、何年もかかってしまう。

 そのため五つの大国に、協力を要請して許可をもらうことで、面倒な領地の移動が可能になった。


 そもそも、このような個人の移動を制限するのは異例中の異例で、各国の剣聖はここまでの強い縛りはなかった。


 そんなハルを神獣討伐と共に消し去ってくれれば、良いと考える国や本当に神獣に困っている国があるため、今回の四大神獣の討伐に許可がでたといえる。


 通常は小隊や中隊クラスの部隊に、神獣への関与は絶対に許されない。


 しかしそれを自国を除いた五つの大国、全てから許可を得るという事実は、それほど剣聖ハルの力が異常だということを物語るものでもあった。


 ハルとレイゼン卿の話も弾む間に、部隊は町を進んでいき、レイゼン卿のビスラ要塞に到着した。


「見えたぞ、わが砦、ビスラだ」


 ハルたちの目前に大きな要塞がそびえたっていた。













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