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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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図書館長 フルミーナ

「こんにちはビナちゃん」


「フルミーナさんどうしてここへ?」


 ビナはフルミーナに駆け寄るがそのたびに彼女の見上げる角度がどんどん上がっていった。


「フフ、私も会議に呼び出されたの一つの本としてね」


 フルミーナが自慢げに言うがその言い回しやしぐさから、そこには上品さしかなくむしろ彼女の清廉さが際立っていた。

 そんな彼女はエルフ特有の超高身長の背や金色に少し灰色が混ざった美しい長い髪に美人ときて、中庭にいた多くの者の目を引いていた。


「それより、ビナちゃん」


 注目を浴びていた彼女が一気にしゃがみ、みんなの視線から外れて、小さな少女の目線に合わせられる。

 フルミーナの曇りの無い綺麗な緑の瞳に、ビナの燃えがるような赤い瞳が映り込む。


「あなたも明日霧の森に行ってしまうのね…」


 フルミーナの声は時折、彼女が見せた寂しそうな声色になっていた。その声を出すときの彼女はいつも悲しそうな顔をしていた。

 そんな不安そうなフルミーナの手をビナが握った。


「フルミーナさん、心配しないで私強いから安心して!」


 ビナが笑顔を作る。

 その笑顔は紛れもなく誰かを安心させる表情だった。言葉が嘘か真実かなどはビナにはどうでも良かった。ただ目の前に不安な人がいたらそれは騎士として安心させるそういった心意気をビナは決して忘れない。

 それはハルという憧れの人が示してくれたことだったから彼女も実行する。そして自分がそのような心配をされないようにもっと強くなろうともビナは思うのだった。


「そうね…でも…」


「フルミーナさん、ビナやみんなは俺が必ず守ります」


 しゃがんでいたフルミーナがハルの方を見上げた。そこには図書館で熱心に本を読みあさる青年の姿はなく、人々の希望である剣聖姿の彼がいた。正確にはもう彼が剣聖ではないことを彼女も知っていたが、そう声を掛けられただけでフルミーナの不安だった心は落ち着いた。


「…ええ、そうね」


 雲っていたフルミーナの表情に光が戻る。

 それを見ていたビナは自分はまだまだ、だと感じたが、それでもフルミーナのいつもの表情が戻ってきて安心した。


「フルミーナさんここにいるのがいつも私が話してた人たちだよ」


 ビナがみんなの方に腕を広げながら言った。


「初めまして、私の名前はフルミーナ・タンザナ―トと申します。この街の図書館『トロン』の館長を務めております」


 フルミーナが立ち上がって丁寧にあいさつした。


「みなさんの名前を聞いてもいいかしら、あ、でも、もちろんライキルさんは知ってるわ、たまにビナちゃんと来てくれてたからね」


「名前覚えてくださってありがとうございます」


「フフ、当然よ」


 その言葉でライキルも嬉しそうに笑った。


「はい!はい!私はガルナって言うぞ、よろしくなフルミーナ!」


「あなたがガルナさんね!会いたかったわ、ビナちゃんからあなたのことはよく聞くわ、とても強いんですってね」


「ああ、とてもつよいぞ、だからビナちゃんのこと、私は守れるからな!」


「素敵です、ガルナさん」


 フルミーナがニコッと笑った。

 ガルナの力強い言葉に彼女の心は勇気づけられた。


「それから」


 フルミーナがまだ名前を知らない三人の方を見た。そして最初にベルドナに声をかけた。


「あなたハーフエルフね、紫の瞳がとっても素敵だわ!」


「ありがとうございます、ベルドナ・スイープと言います!」


 ベルドナはそのとき昼食を食べていたので頭の鎧は脱いで足元に置いていた。


「ベルドナちゃんって呼んでいいかしら?」


「もちろんです!」


「フフ、よろしくねベルドナちゃん」


「よろしくです!」


 二人はどこか雰囲気が似てるため、お互いすぐに仲良くなれそうだと感じた。


 フルミーナが残りの二人を見た。


「初めましてルルク・アクシムと申します」


「フォルテ・クレール・ナキアだ」


 二人が続けて言った。


「お二人ともよろしくね」


 フルミーナは軽く挨拶をしたが前にもあったような変な違和感を感じた。


「あら…ナキアって…」


 フルミーナがその名前に引っかかるとフォルテが口を開いた。


「アスラの初代剣聖の名だ」


「もしかしてあなたアスラ帝国の剣聖ですか!?」


「そうだ」


「そうでしたか、これは無礼な振る舞いをしてしまいました」


 申し訳なさそうにフルミーナは言った。


「あなたが俺に礼儀など必要ない」


 フルミーナが困っているとルルクが横から口を挟んだ。


「フルミーナさん、大丈夫です。こいつは戦闘しか頭にないので遠慮はいりません」


「おい、ルルクお前がそれを堂々と言える人間じゃないだろ」


 ルルクとフォルテが睨み合っているとみんなが周りで笑っていた。


「仲がよろしいんですねお二人は」


 フルミーナがニコニコしながら言った。


「それは、違います」


「それは、違う」


 息ぴったりで返した二人にまたみんなが笑っていた。


 それからみんなで少し世間話をした後、フルミーナとは別れることになった。


「ごめんなさいね、もう少し皆さんとお話ししたかったけど行かなきゃいけないの」


「何か予定があるんですか?」


 ビナが尋ねるとエウスが答えた。


「フルミーナさんはデイラス団長たちがいる西館に行かなきゃならないんだ」


「そっか…」


 ビナが、がっかりしながら呟いた。


「大丈夫よ、ビナちゃんまたすぐに会えるわ」


 そしてフルミーナがみんなにも挨拶するとエウスとエントランスの方に歩いて行った。

 みんながフルミーナを見送るとまた食事に戻った。ただ一人だけ二人の後を追う人がいた。


「すみませんちょっと席を外します」


 ルルクがそう言うと彼はエントランスの方に駆けて行った。


「ルルクさんどうしたんでしょう?」


 ベルドナが言った。


「さあな…」


 フォルテが食べる手を一瞬止めて言った。




 フルミーナとエウスが西館に向かって歩いていると後ろから声を掛けられた。


「すみません」


 そこにいたのはルルクだった。


「どうしたんですか、ルルクさん」


 エウスが尋ねた。


「実は、フルミーナさんと二人だけで話したいことがあって、少しだけお時間いただけないでしょうか?」


 フルミーナとエウスが顔を合わせたあと、エウスがどうぞと手のひらを上に向けた。



 ルルクとフルミーナはそれからエントランスの隅で話し始めた。エウスは全くその声が聞こえない遠くから見守っていたが、二人の会話の途中でルルクは何度も頭を下げていた。それをフルミーナが必死に止める姿が何度も見られた。そのあと二人は笑顔で話し合って握手をするとフルミーナだけがエウスのもとに戻って来た。



「エウスさんお待たせしました」


「もういいんですか?」


「はい、大丈夫です」


 二人がエントランスと西館を繋ぐ通路を歩いて、エウスは無事にフルミーナを食事会場に送り届けた。その会場にはいかにも偉いという人達が集まっていた。


「エウスさん、ありがとうございました」


「いえ、フルミーナさんも楽しんで」


 そこにデイラス団長が会場の奥からやってきた。


「フルミーナさんですね、お待ちしておりました、さあ、あちらへ」


 フルミーナはエウスに軽く手を振ると会場の中に入っていった。


「エウス君、本当は君もこちらに招待されてるのだが、やはりいいのかね?」


「はい、今は少しでもハル達と一緒にいたいので」


「うむ、そうだな、それが一番だな、私からみんなにしっかり伝えておくから安心して戻るといい、また会議で会おう」


「はい、ありがとうございます」


 エウスはデイラスに深々と一つ礼をしてみんなのところに戻った。



 エウスが西館からエントランスに着くとそこにはまだルルクの姿があった。彼は窓から景色を眺めていた。


「ルルクさん」


「エウスさん、先ほどはすみませんね」


「いえ、俺は全然、それより…」


 エウスは聞きたかったがルルクの少し悲しそうな表情から直接は尋ねずらかった。


「ああ、ちょっと昔の話しをしただけなんです、あの図書館は古くからありますからね…」


「そうですか…」


 エウスはこれ以上は聞かない方がいいような気がした。そこには何か複雑な事情があったような気がしたからだった。


「ルルクさんみんなのもとに戻りませんか?」


「ああ、そうでしたね、戻りましょう」


 ルルクとエウスはみんなのいる中庭に戻って行った。












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