昼食と訪問者
ビナが目を覚ますと、日はすでに高く昇っており、窓からは暖かい日差しが差し込んでいた。
眠たそうにベットの上でビナはボーっとしてた。すべてのやる気が二度寝という甘い誘惑に傾きかけたとき。
トントン!
ビナの部屋にノックの音が響いた。
「ふええ!?」
「ビナ?起きてますか?ライキルです」
ドアの外からライキルの声が聞こえてきた。
「あ、えっと、ど、どうぞ入っていいよ」
ビナが慌ててベットから飛びだした。
それと同時に部屋のドアが開いてライキルが入って来た。
「おはようございます、ビナ」
「おはよう、ライキル」
ビナの姿はまだ寝巻の状態で、髪も寝癖で跳ねあがっていた。眠そうにあくびをする彼女の姿はどこにでもいる小さな女の子に見えた。
「ビナもうすぐお昼になりますよ」
「あれ?私そんなに寝てたんだ…」
ビナはあくびを一つした。
「午後には最後の会議があるのでビナも支度しましょう」
「はーい」
ライキルがクローゼットを開けてビナに何を着るか聞くと彼女は何でもいいと返事をして、ライキルがクローゼットから適当な動きやすい戦闘服である騎士服を取り出した。
ビナはまだ半分寝ている状態なので、窓のそばに立って日差しを浴びていた。そしてその温かさにビナは、再び深い眠りに入ろうとしてた。
「ビナ起きてください、昼食が中庭で待ってますよ」
「あ、食べる、食べる」
「でも、その恰好じゃだめです。今この城にたくさんの人が集まってきてるんですから」
「昼食たべる…」
ライキルがビナの服を取っ払って騎士服を着させていく、その間ビナはライキルのなすがままに身体を指示通り動かしていたら、いつの間にかビナはいつもの戦闘用の騎士服を着ていた。
そのまま、ライキルはテーブルにあった空のコップに水魔法で水を入れてビナに飲ませた。ビナはそれをおいしそうに飲み干した。
それからビナはライキルに連れられ洗面所で顔を洗い、寝癖を直して、歯を磨いてやっとビナは目が覚めた。
二人は身支度を終わらせるとエントランスに向かった。
エントランスに着くとたくさんの使用人が出入りしていた。食事を運んだり、椅子やテーブルを運んでいたリ、忙しなく働いていた。
そんなエントランスにはエウスの姿もあった。
「おはよう、エウス」
ビナが声をかけると、エウスが二人に気づいて振り向いた。
「おお、おはよう、ビナ、やっと起きてきたようだな」
「うん、たくさん寝てしまった」
「腹減っただろ、みんな中庭にいるから行ってやりな」
「うん、エウスは?」
「俺はちょっといろんな人を案内してから行くから、ライキル頼んだぞ」
「はい、さあ、ビナ行きましょう」
二人はエウスと別れて、城の中庭に向かうと、そこには多くの丸いテーブルや椅子が並べられていた。その丸いテーブルではレイド王国やアスラ帝国の精鋭騎士や有名な冒険者など多くの人が食事をしていた。
その中の一つにビナのよく知るいつもの人たちがいるテーブルがあった。
そこにいたのはハル、ガルナ、フォルテ、ルルク、ベルドナ、といつものメンバーが楽しそうに食事をしていた。
「あ、ビナ姉さま、待ってましたよ」
ベルドナが嬉しそうに手を振ってビナに挨拶をした。
「おはよう、ビナ」
「おはよう、ビナちゃん!」
ハルとガルナもビナに挨拶をした。
「みんな、おはよう」
ビナがみんなに言うとルルクとフォルテも挨拶を返した。
それからビナもライキルも席について食事をした。次から次へと食事が運び込まれてきた。人数が多いためどれも大きなさらに大量に盛られた料理が出てきてみんなでそれを分けて食べた。
「それにしてもたくさん人が来てますね」
ビナが言うとベルドナが答えた。
「そうですね、夜にはもっと人が来るそうですよ、あっちの裏の広場やホールを使って最後のパーティーが行われるんだとか、お酒はさすがに出ないそうですが」
「ほうなんだ」
ビナが肉にかぶりつきながら答えた。
「はい、作戦決行日は明後日ですからね」
「………」
ビナはその言葉を聞いてハルを見た。
ハルはライキルと楽しそうに話していて、いつもと変わらない様子の彼にビナは少しホッとした。
しかし、ビナの頭の中にもしっかり覚悟している部分もあった。騎士であれば誰もが当たり前に持っていなければならない心構え、それは、死は誰にでも訪れるということ。
そんなこと考えたくはないが、考えなければ騎士にはなれない。
騎士のそばには常に死があった。自分の国や人を守るために真っ先に死に立ち向かわなければならないからである。
だから騎士は人々から尊敬され憧れにもなった。
そんな騎士は外から見れば華やかに見えるかもしれないが、その裏では苦しい選択の連続だということは実際に騎士にならないとわからなかった。
ビナもそれは軍に入ってから十分すぎるほどわからされた。
だからビナはハルのことを思ってしまう。
今回のこの作戦で彼がどんな苦しい選択をしたのか。どれほど苦しんだのか。
想像はつかないが、それでもそのことは頭の中に入れておかなければならなかった。
ビナが肉を盛った皿を持ってハルのところに歩いて行った。
「ハル団長」
「どうした?ビナ」
「この肉あげます、おいしいですよ」
「本当、ありがとう!」
ハルが嬉しそうにビナの皿から自分の皿に肉を移していった。
ビナはその様子を静かに見守っていた。
「はい、ありがとう」
ハルは皿をビナに返した。
ビナが皿を受け取ると、彼女は少しハルの顔を見つめたあと、ニッコリ笑って自分の席に戻って行った。
「………?」
ハルは今のビナの行動が少し不思議だったと思った。肉はそもそもハルの前にも彼女と同じものが盛られていたからだった。
『もしかして、ビナなりに俺のこと気遣ってくれたのかな?』
ハルはそんな気がしてちょっと嬉しくなって微笑んだ。
それから中庭にも次々と人が入ってきてどんどん賑やかになってきた。
そんな中、エウスが中庭に入って来たのをルルクが見つけると、みんながエウスのいる方を見た。
「おーい、エウス!」
ハルが呼ぶとエウスは手を挙げて返事をした。エウスの後ろに誰かが立っていて、エウスがその後ろの人に声をかけると、その人もエントランスから中庭に入って来た。
「あ!?」
ビナが大きな声を上げて、そのあとすぐに名前を呼んだ。
「フルミーナさん!」
そのビナの声にフルミーナは嬉しそうに手を振っていた。




