神獣討伐 ファーストステップ
少し昔話をしよう。
始まりはなんだったのか、今でもはっきりと覚えている。みすぼらしいエルフに出会ったのが最初だった。髪の毛はぼうぼう、無精ひげもたっぷりと、彼は物乞いのようだった。
荒れ果てた荒野に木の棒で魔法陣を描いていた。
荒野に描くには、勿体ないほど美しい構成で表されたその魔力のこもってない魔法陣が、こんな小汚い男から生み出されていいはずが無いと思った。
気が付けば、その男の前で、私は思いっきり、男が書いた魔法陣を蹴り荒らしていた。
「こんな魔法陣を描いて何になる?」
「魔法陣?これが?この落書きがあなたには魔法陣に見えるのですか?」
小汚いエルフが、ぼそぼそとした声で言った。
「当たり前だろ」
「おお…」
男は少しばかり驚いているようだった。だが、それも無理はない。男が描いていたのはタダの子供の落書きにしか見えない、丸の中にいくつも線が重ならないように描かれた模様だった。
「だがな、今のお前が描いた魔法陣は、エーテル経路の入り口をすべて塞いで描いていたから魔法的効果はない、閉じた魔法陣、つまりただの落書きだ」
そう言いながらその美しい構成の魔法陣をすべて足で消した。
「あなたとはぜひ友になりたいものだ」
「お前、魔法がどれほど世の中から迫害されているのか知らないのか?」
「ああ、知っているさ、だから、数少ない友を探していた。君は魔法が好きかい?」
「なんだと?」
そこで見た男の目の色が明らかに変わっていた。覇気のない老いぼれた目ではなく、野心に満ちた者の目をしていた。
「……ッ……………」
その彼の目の力に気圧されてしまう。
「僕はね、魔法が人々を救うものになると信じているんだ」
男のその言葉に思わず激昂してしまった。
「馬鹿な!魔法は争いしか生まない!!お前もエルフなら、この世界を、人間を、よく見て来たならわかるだろ!魔法を使えば殺される。その存在を知ることさえも一部の上の人間たちは禁忌とした!!魔法はこの世に唯一存在する平等な奇跡であるはずなのに!!!」
息を切らしたあと、恨みがましく続けた。
「人間は愚かだ。皆が幸せに生きれる道があるというのに、一部の者たちだけが魔法の恩恵を受けている。知っているか?異端審問官は魔法で肉体を強化しているんだぞ?魔法を扱う者たちを罰する為にだぞ?こんな不公平があってたまるか!!!」
激怒する私に彼は言った。
「なら、自分で変えたらどうだ?」
「変えようとしたさ、だがな、たかがひとりのエルフにできることなど何一つない、だから私は、何度も殺された」
「何度も殺された?でも、君は生きているぞ」
その時の愚かな私は彼にこういった。
「当たり前だ、私は元神なんだから、死んでもまた蘇る。君たちのような下等な人間とは格が違うんだよ」
「面白い、なら、元神を名乗るあなたの名前を聞いてもいいかな?」
「ああ、その名をしかと覚えておけ、私の名は【レキ】だ。いいか、レキだ」
「そうか、レキか…」
神の名を聞いて身に染みたようにその男は頷いていた。
「おい、貴様の名前はなんだ?こっちが名乗ったのだからお前も名乗れ」
「僕かい?僕の名は、【ファースト】だ。これからよろしく、レキ」
手を差し出された。だが、その手を早く握らなかったことを、今でも愚かだったと思っている。
「誰がお前のような男などとよろしくするか!!!」
「とりあえず、僕の家まで来てくれ、同じ志を持つ友人たちを紹介するよ」
「おい、なんでそうなる!!」
「レキはこれから僕と世界を変えるんだ。さあ、行こう!!」
ファーストが勝手に先頭を歩き出す。
「おい、誰がお前について行くといった!!」
「いいから、来な、君みたいな素晴らしい友がたくさんいる場所があるんだ、きっと、楽しいよ」
ファーストの自由気ままな性格も今となっては懐かしい。そして、その彼の言葉を待ち望んでいたのは紛れもなく私自身だった。
「おいてくよ?」
「おい、待て、誰もついて行かないとも言って無いぞ!!」
彼の後をついていった。彼と共に歩き出したファーストステップ。彼が示した道は、彼と共に歩んだ道の先は、確かに世界を変える場所まで続いていた。
それがレキとファーストの最初に出会いだった。
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