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神獣討伐 塔の謎と青き星

 センターロイド平原に聳え立つ塔を小さな丘から眺めていたエルノクスの元に飛び込んで来た情報は多々あった。塔は依然としてマナ場で出現しており、水球の出現は止み、第二フェーズに入ったことは確実ということ、出現した塔の調査が調査班によって各地で始まったこと、ドロシーがエルフの森へ到着し、アシュカが大陸全土を隔てている水壁の処理を始めたこと、すべてエルノクスの元に情報が集中していた。


 しかし、それらの情報の中で一番重要なことといえば、塔に関するものだった。現在、エルノクスの見下ろす先にある塔の麓でも魔法解読の調査班が塔の周りで調査を続けていた。報告はいまだにない、かれこれ第一フェーズが終わってから数時間が経つ。次のフェーズの本格稼働までいったいどれくらいの時間が残されているのかも分からなかった。


 エルノクスも塔のふもとに移動し、塔の表面に刻まれていた刻印に目をやった。規則正しくまるで文章のように並ぶ見たこともない記号の数々に、エルノクスは頭を悩ませる。


『これはおそらく文章だな…塔そのものに何かしらの意味があって、塔の表面の刻印は、すべてそれを説明しているが、まったく未知の文字で綴られている、暗号化か…』


 魔法陣など、外部的魔法には、魔術のひとつである魔法記号で記すことはよくあった。自分とは離れた場所で魔法を行使する、外部での魔法発動に必要となる要素として、魔法文字、あるいは魔法記号など、命令が必要になってくる。塔にもその魔法に関する命令文が記号で書き連ねられていた。そして、その記号は、大陸中でおおよそ原型のようなものが決まっており、それをわざわざ書き換えるということは、相手に情報を悟られないためによくやることでもあった。


 塔に刻まれた刻印に触れてみる。特に何かあるわけでもなかった。ただ、そこには塔の壁にびっしりと彫られた記号の溝の感触があるだけだった。


 エルノクスは、調査班たちとともに塔の溝の解読に取り掛かった。未知の暗号の解読には、まず文を構成する記号の種類と数、それから規則性を探し出し、どこかで文章が繰り返されていないか塔全体を調べる必要があった。巨大な塔の側面に張り巡らされた暗号にすべて意味があるというよりかは、命令文が重複して刻まれているということはこの手のことではよくあった。魔法陣なども空白を埋めるため構成する文章を重複させることなどはよくあった。だからこそ、エルノクスはまず塔の一部分の文章をある程度まで覚えて、他の場所と照らし合わせてみた。


「やはり、重複文だな」


 エルノクスがそれを知ると、すぐに調査班のもとに訪れた。彼等もすでにその重複文には気づいており、記号の意味の解読に取り掛かっている最中だった。


「他の地域でも同じ重複文だったそうです」


 エルノクスが聞きたかったことを、調査班の研究者はすぐに答えてくれた。その調査班は専門家ということもあって彼等は、エルノクスよりも魔法解読については優秀なのは明らかだった。


「そうですか、それで、何かわかりましたか?」


「ええ、極めて単純な暗号文でしたのですぐに塔に掛れていることはわかりました。ですが…」


「どうかしましたか?」


「………」


 調査班の研究者は酷く苦い顔をしていた。


「いえ、エルノクス様が判断してください、今から塔に刻まれていた刻印の意味を訳して読み上げます」


 そう言うと研究者は、解読のために使っていたのであろうメモだらけの紙を読み上げた。


「天夜に輝きしすべての星よ。悲しみに暮れ嘆くのならばその落涙をわが身で拭おう。もうこれ以上その悲しみで苦しまないように、安らぎを与えよう。あなたに捧げる我が生命たちが、すべてあなたを受け入れる」


 その文章を聞いた後のエルノクスの顔がゾッとしていた。


「星の落涙ですか……」


「ええ、おそらくは………」


「今すぐ、今すぐに、ハルさんをここに…」


 エルノクスが震えた声で、そう言った時だった。


「エルノクス様!!!」


 慌てて走って来たドミナスの兵士が、息を切らしていた。その兵士は酷く傷を負っていた。エルノクスは彼にすぐに白魔法を掛けてあげた。すると、その兵士がその場に倒れ込もうとしたので、エルノクスがすぐに手を出して抱きかかえた。


「どうしました!?」


「襲撃です」


「襲撃?それはいったい誰ですか?」


 兵士が力なく答える。


「リベルスです…各地で塔にいたドミナスの兵士が奇襲に合っています……」


「リベルス…こんなときに限って……」


 エルノクスが傍にいた調査班たちにすぐに撤退を指示した。優秀な研究者はドミナスにとっても生命線だった。特に非戦闘員の研究者は特に貴重でこの塔の調査に大勢駆り出していた。

 近くにいたドミナスの兵士たちにリベルスの殲滅と研究者たちの保護をすぐに命令した。


「リベルスの撃退は、フェーズ魔法よりも最優先です。エンキウとドロシーを至急彼らの撃退に当ててください、それとハルさんを今すぐここへ!!!」


 エルノクスが塔のふもとで、部下たちに指示を出していると、至る所で悲鳴が上がった。エルノクスの元にドミナスの兵士の死体が転がって来た。


 気が付けばエルノクスたちは、複数人の部隊に囲まれていた。


「あなたたちは?」


「よく、知っているはずだ…」


 そこで部隊の中から、ひとりのエルフが姿を現した。


「お久しぶりです。兄上」


「エルカード!?」


 エルノクスの前にはリベルスの総大将であるエルカードが立っていた。


「なぜ、このタイミングでの襲撃なんだ!分からないか、今、この大陸は私たちで小競り合いをしている場合などではないんだぞ!!」


「皆さん、それでは手はず通りに、よろしくお願いします。突撃」


 エルカードは、エルノクスの言葉に耳を貸さず、突撃の号令を出した。


 エルノクスは、実の弟であるエルカードの態度に実に腹を立てた。


「エルカード、俺はこの大陸を救いに来ているだけだぞ!!!」


 エルノクスは叫んだが、百名ほどいた大部隊の奥にいたエルカードは、一切こちらを見向きもせずに、リベルスの兵士たちのさらに奥へと消えていった。


「エルカード!!!」


 エルノクスの叫びは迫りくるリベルスの部隊の雄叫びにかき消され届かず、百名の部隊がエルノクスに迫っていた。

 ドミナスの兵士たちが間に割って入って来た。


「エルノクス様!!!転移を!!!今すぐに!!!」


 そこでミカヅチたちの和国の部隊がエルノクスを守るため走って来ていた。瞬間移動でエルノクスだけでも逃げるように伝えるが、それが無意味ということをエルノクスも知っていた。


「無駄だ、すでに転移妨害の結界が張られている。リベルスは私たちの瞬間移動を封じる手段を心得てる。彼等は対ドミナスといってもいい精鋭だ、戦って切り抜けるしかない」


 エルノクスも思考を切り替え戦闘態勢に入った。


「夜よ…」


 エルノクスは特殊な天性魔法を使うために、詠唱を始めたが、そこで思いとどまった。塔の解読された暗号文が頭の中に過っていた。エルノクスが西の空を見た。太陽はまだぎりぎり沈まないところで耐えていた。


『万が一私の天性魔法で条件を満たし発動してしまったら…』


 エルノクスはそこですぐに戦い方を変えた。


『私の天性魔法自体も使うことは避けた方がいいかもしれない…』


 しかし、エルノクスはそこで思い知ってしまう。それは思いもよらないリベルスの兵士たちの魔法を、その青き輝きを。


 リベルスの兵士たちが叫ぶ。


「〈青炎(せいえん)の加護〉!!!」


 リベルスの兵士たちの身が青い炎に包まれる。しかし、彼等はちっとも熱くないようだった。

 エルノクスの前に、過去の忌々しい青い炎が一斉に灯った。


「これは…」


 目の前の状況に言葉が出ないでいると、迫りくる部隊から飛び立ったひとりのエルフが、その手に青き星の輝きを宿していた。その光はかつて見た輝きと全く衰えなく同じだった。それはエルノクスにとって恐怖の光だった。


「ハッ!!!?」


「特殊魔法〈闇照らす青き星芒(ブルースター)〉」


 聞きたくもなかった詠唱をエルノクスは確かに聞いた。


 青い光が放たれた。


『なぜ、ここでそれが…それは潰えたはずだろ、彼の死によって……』


 しかし、エルノクスは迫りくる青き光に対して、すぐにミカヅチたちが前に出ていたことを認めると、覚悟を決めるしかなかった。


『やるしかない…』


 周囲五十メートル以内の時間を五秒ほど一度止めた。エルノクスが時間を止められる範囲と時はそれが今は限界だった。


『夜よ、時も場所も関係なく、我が天上に集え』


 心の中で詠唱が終わると、天性魔法を唱えた。


『天性魔法【天界夜(エルナイト)】』


 五秒ほどが経つと、夕暮れ時だったレゾフロン大陸の空が突如として夜に変わった。そして、次の瞬間、天から夜の闇がエルノクスたちを守るように降って来ると、迫っていた青い光がその夜の一部となって青い星になった。だが、次の瞬間、その闇を払うかのように大爆爆発を起こし、エルノクスとミカヅチたちは、全員、後方に飛ばされ、塔の壁に打ち付けられた。


「エルノクス様!!!ご無事ですか?」


 ミカヅチが慌てて死体となった同胞たちをかき分けて、エルノクスを抱きかかえた。しかし、そこにいたミカヅチもすでにとんでもない重症で身体中火傷だらけだった。一方エルノクスも、青い火傷があったが、それはなぜか古傷のようで、今負った傷ではなかった。


「すまない、ミカヅチ、同胞たちが…」


 直接的な爆発はミカヅチたちが盾になってくれたことで、防いだが、反対に塔への直撃はエルノクスがクッションになったことで、彼は頭を打ち付け、意識がもうろうとしていた。


「エルノクス様、ここは私が殿を務めさせていただきますので、あなた様はお逃げください、ドミナスの者たちもあなたの元に駆け付けているはずですから、すぐ近くまで来ているはずです」


「ああ、すまない、ここは任せる…私はすぐに、ハルさんに伝えなきゃいけないことがある……そうじゃなきゃ、みんな死ぬ」


 エルノクスが脚を引きずって塔を壁伝いに立ち上がると、すぐに飛行魔法を展開し、飛び立った。


 するとエルノクスを追おうとした、リベルスの兵士たちも何人か、飛行魔法を使って逃げる彼の後を追おうとしていた。


「〈雷雷轟轟(らいらいごうごう)〉」


 鼓膜が一瞬で吹き飛ぶ轟音と共に、雷がミカヅチの周りで暴れ回った。それは龍のごとく彼の周りを回り、バチバチと常に大気を痺れさせては、思わず身を引かせるほどの雷鳴を鳴らし続けていた。


 ミカヅチは腰の刀を抜き取ると、リベルスの部隊に突き出した。


「我が、名はミカヅチ、ここを通りたければ私を殺してからゆけ、だがひとつ言っておく、易々と我が首を取れると思うな、我が雷は、死してもなおお前たちの喉元に噛みつく、あきらめの悪い雷ゆえ、忘れるでないぞ!」


 ミカヅチの名乗りと雷鳴で、青い炎を纏ったリベルスの兵士たちは、怯まされていた。


 だが、そこで、部隊を振る絶たせるように、ひとりのエルフが叫んだ。


「君たちの青い炎は、魔を打ち消す。恐れず進め!!!」


 そして、そう言ったエルフ自身が先陣を切って、ミカヅチに向かって飛び出していった。


「ここで、終わらせるんだ!!!全軍突撃!!!」


 司令官の突撃で指揮が戻ったリベルスの兵士たちがそのエルフに続く。


 ミカヅチも覚悟を決めて、刀を振るって叫んだ。


「〈雷放(らいほう)〉!!!」


 青い炎の軍勢に、ミカヅチの雷が襲い掛かる。その雷は先頭を切って走っていたエルフが宿した青い炎に一瞬でかき消されてしまう。


「うらあああああああああああああああああああああああ!!!」


 そして、ミカヅチはすでに瀕死の身体で、片手しか力が入らない力で、そのエルフに向かって刀を振るった。


「〈青炎の槍〉」


 エルフが召喚した青白く燃える炎の槍は、刀の間合いの外から射出され、ミカヅチの心臓を貫いた。


「みごと…」


「悪いね…」


 一瞬の決着。ミカヅチの横をエルフが駆けて行く。


 ミカヅチは地に倒れ、エルフは先へと足を進めた。


『無念だな…』


 ミカヅチの死体は後に続くリベルスの兵士たちに足蹴にされていく、戦場の敗者の末路としては相応しい姿だった。


『だが、言ったはずだぞ…』


 ミカヅチはすでに死を覚悟した前提で動いていた。だからこそ、リベルスたちは気づかなかった。ミカヅチの魔法が死によって完成することを。


『これもすべて我が主であり、盟友でもある、エルノクスの為…』


 死に際、ミカヅチはひとつの魔法名を心の中で唱えていた。


死雷(しらい)


 ミカヅチの命が尽きる。それと同時に、その死体から真っ黒な閃光が放たれた。


 一瞬の出来事だった。


 それは音すら許さない死の雷撃だった。


 あまりの静寂に先頭を走っていたエルフが、後ろを振り向いた。だが、すでにその時には、後ろをついて来ていたはずの総勢百名ほどの精鋭部隊が一瞬にして、黒焦げの死体となって地面に横たわっていた。


「な、なんですか……!?」


 生き残ったのはそのエルフと五名ほどのリベルスの兵士たちだった。


「うあああああああああああああああああああああぁぁぁ……」


 その五名の兵士も一瞬で変わり果ててしまった仲間たちの無残な姿に、その場に崩れ落ち嘆き悲しんでいた。一瞬で黒く焼かれた者たちは、もう誰が誰だか分からないほど見分けがつかないほど真っ黒な炭になっていた。


「やられた…」


 これではもはやエルノクスという強敵を追える状況でもなくなっていた。


 そこに黒焦げになった大地に、エルカードとその護衛も慌てた様子で駆け寄って来て、エルフの前に来た。


「ルフシロン君、これはいったいどういう…」


「死の魔法です。彼の命と引き換え発動したのでしょう…」


「死の魔法…、あ、いや、待て、それで、エルノクスは…」


「もう、すでに結界外でしょうね…」


「そうか…」


 エルカードは悔しさを噛み殺していた。


「私たちもすぐにここから離れましょう、ドミナスの化け物共が彼を助けにここに集うでしょう、兵を失ったのでは追撃は不可能です」


「ああ、悔しいが、撤退だ、全軍を引かせろ、後方に控えている予備隊もだ、急がせろ、ドミナスの兵士たちが集まって来るぞ」


 ルフシロンとエルカードたちは、あと一歩のところで逃したエルノクスを諦め、死んだ仲間たちを残して、センターロイド平原を後にしようとした。


「エルカード様!!!あれを!!!」


 そこでひとりのリベルスの兵士が空を見上げながら声を上げていた。


「なんだ?空に何が……………あ…………」


 世界の終焉は、夜天から零れ落ちた星の嘆き、その落涙によって、終わりを告げる。


「これは………」


 ルフシロンもその光景を言い表す言葉もでなかった。


 夜天を照らすは流星。夜空に留まっていたはずの星々が、星屑となって夜を駆け、このレゾフロンの地に向かって落ちて来る。

 その数、まさに無限。

 天は無限の流星の輝きによって昼となった。


 空を見上げればそこには大陸中を埋め尽くす星の輝きが、満天の星空が落ちて来る。


「エルカードさん…」


「ルフシロン君、これはもはや、我々ではどうすることもできないよ」


「これはエルノクスの仕業なんですか?」


「いや、これは、彼でも無理だ。そもそも、この塔はなんだ……?」


 そこでエルカードが近くにあった塔の壁に目をやった。そこには刻印が記されていた。エルカードはその刻印を即座に解読すると、ゾッとした表情をしていた。


「この塔…なんでこんな、嘘だ…」


「どうしました?」


 エルカードが手あたり次第、塔に何らかの魔法を掛け続けていた。


「この塔に【神の意思】が宿っているんだが!!!?」


 エルカードが異常なほど興奮気味に、塔のことを調べ始めていた。


「それはどういうことなんですか?」


「神だよ、神が近くにいる。ドミナスがつくった神書に出て来る欺瞞に満ちた神なんかでもなければ、人が至ることのできる人神でもない、本当の神と呼ばれるものが、この世に降臨なさっておる…」


「神って…」


「この塔はこの世のものではない、いや、この世のもので構成されているだけで、その名地たちは天界の魔法によるものだ。つまり、この世のルールを書き換えてしまう概念魔法なんかよりも、もっと、もっと、この世の真理の外にある魔法ということだ。言ってしまえば、神々の魔法だよ、これは…」


 エルカードは続ける。


「いや、そもそも、この大陸を覆っているフェーズ魔法という時点で、そのことを頭に入れておくべきだった。こんな芸当まず、たかが一匹の亀ごときが行使できるはずがない、裏に何かいる…まさに、それが、神ということか……」


「あの、興奮しているところ悪いのですが、エルカードさん」


「なにかね、ルフシロン君」


「この塔のせいで、隕石が降って来ているということでいいんですか?」


「ああ、そうだ、壁にはこう書かれていた。

 天夜に輝きしすべての星たちよ。悲しみに暮れたそなたたちの嘆く顔が私には耐えがたい、ならば、その落涙わが身で拭おう。もうこれ以上、その悲しみがあなたを蝕むことが無いよう永遠の安らぎを与えよう。我が星の民も、あなた達の悲しみすべてを受け入れる。この塔はそのしるしである」


「あまり、詩に造詣が深くないのですが」


「詩などではない、これは詠唱だよ、三段階に分かれている。対象は星、目標はこの塔があるこの大陸、そして、効果は衝突。つまりはここに隕石を落とすことを意味している。そして、この塔は星を呼び寄せる目印ということだ」


「それなら破壊すればいいということですか?この塔を」


「破壊してどうなると?空を見て見給え、終焉だ」


 エルカードに言われたルフシロンが空を見上げると、実際にすでにもう世界の終わりがすぐそこまで迫っていた。


「それなら、その神というのは我々の敵だったということですね」


「………まあな、だが、最後にこの世に実際に神がいたということが分かっただけでも、我々は人類としては大きな成果だったかもしれないぞ?」


「こんな終わり方、最悪ですよ」


「仕方ない、これが神の意思だ、我々はここで滅びる運命だったのだ、受け入れ給え…ルフシロン君」


 ルフシロンは、エルカードの言葉を受け入れたくなかったが、確かに彼の言っていることは正しかった。このどうしようもない状況で、何かしようと思う気にもなれなかった。そして、途端に今まで争っていたことが馬鹿みたいに思えた。


『こんなことなら、お店を再開しておくんだった…』


 ドミナスに復讐を誓うよりも、自分が持っていた店であの人の意思を受け継ぎ、新しい服を売って、お客さんたちの笑顔になるその瞬間に立ち会っておけばと後悔していた。


「馬鹿らしいな…」


 ルフシロンは、その場に座り込んだ。


 逃げることすらどうでもよくなっていた。そして、どこに逃げても死ぬことはルフシロンに関係なく、この星にいる限り決定したようなもので、もはや、おそらく誰もがこの時、この瞬間自分たちの死の要因となる流星を眺めていたことだろう。降り注ぐ星がとても現実で起こっているようには見えず、ルフシロンの目にはその光景が美しいものとして映っていた。


「最後がこんな美しいなんて、思わなかったですよ…そうですよね………」


 ルフシロンが地面に寝転ぶと、そこには満天の星模様の絶望と美しさが入り混じった幻想的な世界が広がっていた。


 ふと、その時、声が聞こえたような気がした。


『まだだ、ルフシロン、君は生きるんだ…』


 ルフシロンがその声を聞いたかと思うと、身体を勢いよく起こした。そして、辺りを見渡しが、空を見上げる者たちばかりで、誰もその声には気づいていない様子だった。


「…今の声……」


 そして、ルフシロンが辺りを見渡していると、流星群に紛れて一つだけ、大陸を西の方へと駆けて行く青い光があった。


「エルカードさん、ぼうっとしている暇は無いようですよ」


「ハハッ、これから何を急ぐというのかね?」


「追うんです。あの青い星を、さあ、急いでください」


 ルフシロンがそう言うと、エルカードたちも彼に引っ張られるように、彼の後を追った。


 星を追う者は、青い星に導かれた。


 幸運なことに、ルフシロンたちはその青い流れ星を追ったことで、すでに近くまで迫っていたドミナスの傭兵たちとの遭遇を回避することができた。


 レゾフロンの大陸中に、星が降り注ぐ。

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