神獣討伐 大地の塔
オーア王国に到着して最初にハルがやったことは当然水球と水蛇の一掃だった。順番的に最後になってしまったこともあり、被害は他の街よりも出ていたが、ハルが到着すると者の一秒も掛からず、街から水害は取り除かれてしまった。そして、ハルは、続けて街中を見て回ると、街から逃げ出した人々が砂漠で見たこともない巨大な蟲に襲われているところを見て、すぐに助けに入り、手数を増やすためにクビナシをオーア王国の王都の周辺に放っていた。街中を駆け回り、さらに接近してくる水球を破壊しながら、一通り見て回り終えると、ハルはすぐにオーア王国の王都にあった王城に着地していた。
城の中庭に飛び降りると、多くのオーアの騎士たちがハルに向けて剣と弓を構えていた。
「話があります」
「何者だ?」
そこにいた城の護衛隊長らしき恰幅の良い人物が、騎士の軍団の前に出て尋ねて来た。
「ハル・シアード・レイという者です」
「レイの名…レイド王国の者か?」
ハルはその方が話しが早くまとまると思い「そうです」と答えた。実際にそうだが、おそらく、現在のレイド王国の記録にハルのことは載っていない。
「ここで街の防衛の指揮を執っている人と早急に話がしたいのですが」
「ブエルゼル将軍は、現在市街地に出て指揮を執っていらっしゃる」
「では、あなたに現在起きている災害について説明させ、順次その方にお伝えしてもらいたいのですが?」
「ああ、わかった、話しを聞こう。我々も何が起きているのかさっぱりなのだ」
ハルはすぐに事の経緯を事実だけを述べて簡単に説明した。オーアの騎士たちも集まって来て、ハルの話しを黙って聞いたが、半分近くの者たちが信じられないという顔をしていた。
「その、巨大な水壁なるものが、大陸を区切っているというのは本当ですか?」
「ええ、実際に水球よりもそっちの水壁での被害の方が大きいかと思います。水球もそこから送られてきています」
大陸を横断する水壁から、無尽蔵に水球が出現し続けていることはハルも飛び回っている間に確認していた。元凶となる水壁を破壊しようとしたが、万が一でも一斉に水壁が決壊してしまったら、大量の水が、この大陸中に溢れ、その被害は計り知れないものとなることは目に見えていた。ハルも今回の件では迂闊に手出しができない状況に追い込まれていた。レゾフロン大陸の全人口が人質に取られているようなものだった。
「そうか、我々は水球が現れた時、神からの恵みだとも思ったが、そうではなかった。だが、その山をも越える水壁、一度見てみたいものだな…」
守護隊長がどこか水壁に憧れのような感情を抱いていた。砂の国ならではの、海への憧れのようなものなのか分からなかったが、とにかく、ハルは彼にすぐに水球を魔法以外の手段で破壊することを彼等に約束させた。
「天性魔法の使い手なら我が王国にとびっきりの者がいます。狩人の【カジャー】が」
「ならば、その彼を中心に水球をお願いします。私もまた別の場所の巡回が終わったらここに戻り加勢します」
ハルは、手短に連絡を済ませると、すぐに見回りの最初の順番であるイゼキアに戻るため、この街を出ようと空へと飛び立った。
地鳴り。巨大な地震が大陸中を揺らした。多くの建物がこの揺れに耐えきれず町全体に崩壊が広がる。オーア王国の王都も例外ではなかった。
「地震…」
大陸の鳴動はハルがどうこうできるものではない。だが、オーアの王都の中央の地面からせり上がった天高くそびえたった塔を見て、ハルは闇を足場に空中に留まった。
「なんだ、あれは…」
地面の奥底からせり上がって来たその土色の塔はまるで天を支える柱のように巨大で、先端は針のように鋭く尖っていた。塔の柱には何やら複雑な模様が刻み込まれており、ハルにはその塔が何を意味するのか、まったく理解できなかった。
ハルは大陸に掛っているフェーズ魔法が、第二段階へと移行したと予想したが、あくまでも、その程度しか頭に浮かばなかった。この突如地面からせり上がった巨大なオブジェクトを破壊していいものなのかすらも、フェーズ魔法について疎いハルには対処の仕様がなかった。
「とにかく、一度、エルノクスと合流するしかない…」
ハルは目的地を変えて、イゼキアから、エルノクスがいるセンターロイド平原へと向かった。