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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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手紙

「よっ、ハル」


 ハルがその声を聞き後ろに振り返るとそこにはエウスがいた。


「おはよう、エウス」


「おはようさん」


 エウスがハルの隣に来て、ハルの見ていた街の景色を眺めた。


「何してたんだ、あ、もしかして瞑想してたか?」


「いや、ただ街の景色を見てただけだよ」


 城壁内の街の朝はいつも外からやって来る商人やこの城から出る見回りの兵士などで街の中央にある道は人や馬、荷馬車などでいつも賑わっているが今日は人通りも少なく閑散としていた。


「やっぱり人が少ないな」


「みんな避難させたりしたし、店は閉めさせてるからね」


「早く普通の日常に戻って欲しいな」


「そうだね」


 ハルも街を見下ろす。

 屋上の上に風が吹き抜けて、ハルとエウスの間を通り過ぎていく。


「あ、そうだハル、これ」


 エウスが髪をかき上げ、思い出したかのようにベルトのポーチから一通の手紙をハルに差し出した。


「誰から?」


「キャミルからだ」


「本当に!?」


「開けてみな」


 ハルは手紙の中身を確認した。




『 親愛なる友 ハル・シアード・レイ様

 雨が降りしきる季節に入ろうとしているなか、いかがお過ごしでしょうか。

 わたくしは変わらず健康に過ごしております。


 さて、私が堅苦しい挨拶が嫌いなのはハルも知っていますね。

 ここからは王女のキャミルからではなく、一人の友人のキャミルからの手紙だと思って読んでもらえるとありがたいです。


 まず、ハルに言いたいのは最初に出会ったときのことです。私がエウスと一緒に冒険者ギルドの酒場でハルたちに会ったあの時から全てが始まりましたね。

 あの頃は、私も常識知らずの小娘で多くの人に迷惑をかけました。それはあなた達にもです。

 それでも、私はあの時ほど外に飛び出して良かったと思ったことはありません。それはハル、エウス、ライキル、あなた達三人に最高の形で出会えたのですから。

 それから、私の退屈だった人生はあなた達三人に出会ってから幸せで楽しい日々に変わりました。そのことは感謝してもしきれません。ですが、あえて言わせてもらいます。私を普通の友人として見てくれてありがとう、楽しい日々を本当にありがとう。


 そして、これは私からのわがまますぎるお願いなのですが、私はまたみんなが笑って過ごせる日々を送りたいのです。

 だから、ハル、どうか、みんなを守ってください。そして、必ずみんなで帰ってきてください。

 いつもあなただけにこんな重荷を背負わせてしまってごめんなさい。

 それでも私はあなたの力をこの目で見てみんなを守れると心の底から信じています。


 短い文ですがどうか許してください。

 手紙を書くのは私の性格からして苦手です。

 私は会って人と話した方が落ち着きます。

 だから、返事もいらないです、それより必ずまた生きて会いましょう。

 そして、またみんなで同じ食卓を囲める日を待ち望みにしています。


 キャミル・ハド―・レイド より』




 ハルが手紙を裏返すと短い文が書いてあった。


『どこにいてもあなたは一人じゃない』


「ごめん…」


 ハルは下を俯いて一言呟いた。


 エウスはそんなハルを横目で見つめていた。しかしエウスはハルが何と呟いたかは聞こえなかった。


「なんて書いてあった?」


「友人のように接してくれてありがとうって」


「そうか、俺の手紙にもそんなこと書いてあったな」


「それとみんなを守って欲しいって」


「そうか、あ、ハル手紙の後ろに…」


 エウスが何か言おうとしたとき屋上のドアの方から声がした。


「やっぱりここにいたんですね」


 二人が後ろを振り向くとそこにはライキルの姿があった。彼女の姿は女性用の騎士が着る服を着ており、いつでも緊急事態に対応できる状態の服装だった。


「ライキル、おはよう」


「よう、ライキルいいところに来たな」


「おはようございます」


 ライキルが二人に言った。


「はいこれ」


 エウスはライキルにも手紙を渡した。


「誰からですか?」


「キャミルからだ」


「本当ですか!?」


 ライキルはハルと同じ反応をしていた。

 ライキルがエウスからもらった手紙をさっそく開けて読み始めた。ライキルが黙々と手紙を読んでいく。

 ハルとエウスも黙って彼女が読み終わるまで待った。

 ライキルが手紙を読み終わると彼女は嬉しそうに笑った。


「なんて書いてあった?」


 ハルがライキルに尋ねた。


「友達でいてくれてありがとうって」


「他には何か書いてたか?」


 エウスも尋ねた。


「生きてまた会いたいって」


「ほとんど一緒か、でもそうだろうな、あいつだけ王都に置いてきちまったからな…」


 エウスが少し寂しそうに目線を下にした。


「ええ、だから次会うときにはみんなを紹介したいですね」


「そうだな」


 三人はしばらく、もし、ここにキャミルがいたらどんな場所に行くか話し合ったりした。

 エウスがレストラン『ブロード・ビア』に連れて行きたいと言い、ライキルは服屋『シリウス』で服を見に行きたいと言い、ハルはこの城の花園に行ってみんなでお茶がしたいと言った。

 三人はしばらくその話題で盛り上がった。さらに久しぶりの三人だけの会話で懐かしい気持ちにもなっていた。


「行けるといいなみんなで」


 エウスが遠い目で再び街を見ながら言った。


「そうですね」


 ライキルもエウスと同じ様に街の方を見渡していた。


「…………」


 ハルは一人だけ空を見上げていた。


 どこまでも続く空は、ただ、ただ青かった





 *** *** ***





 同時刻、レイド王国の王城の屋上にて、ハルが見上げた空と同じ空を見上げる一人の少女がいた。


 彼女の長く美しい金色の髪は編み込まれてまとめられていた。頭の上にはティアラが乗っており、そのティアラには、いくつもの宝石がちりばめられていた。

 彼女の瞳の色は虹色であった。複雑に絡まった鮮やかな色が、見る角度や場所によって彼女の瞳の色を様々な色に変えた。

 そして彼女は美しい豪奢な白いドレスにその身を包んでおり、ピアスに指輪、ネックレスに、身に着けていたがどれも一級品の品であった。


 そんな少女は青い空を見上げ続けていた。

「私の手紙は届いたかな、読んでいて欲しいな…」

 その少女の口調はどこにでもいる女の子と変わらなかった。

 少女が寂しそうな顔でそれでも深い深い綺麗な青空を見上げていると、一人のメイドさんが屋上に入って来た。


「キャミル様、時間になりました謁見の間に移動をお願いします」


「ええ、そうするわ」


 そのキャミルと言われた少女の口調は上品で丁寧な言葉遣いに変わっていた。

 謁見の間に移動する際にキャミルはメイドに聞いた。


「みんなそろっているのかしら」


「はい、謁見の間にはダリアス王、三大貴族の皆様、カイ剣聖、ライラ騎士団やアリア騎士団などの精鋭騎士の皆様がすでにいらっしゃっています」


「ルドルフはいないのかしら?」


「ルドルフ大団長はすでに砦で指揮を執っておられます」


「そうだった、そういえば報告書に書いてあったわね…」


 キャミルがメイドと話していると謁見の間の王族専用の入り口に着いた。


「ここまでありがとう、下がっていいわ」


「はい、かしこまりました」


 メイドは深い礼を一つするとその場から立ち去った。

 扉の前にいた別のメイドが扉を開いた。

 謁見の間には大勢の騎士や貴族が綺麗に整列していた。

 騎士たちの先頭には、剣聖カイ・オルフェリア・レイの姿があった。

 キャミルが謁見の間に入って来るとダリアス王以外の全員が頭を下げた。椅子に座っていたものは椅子から立ち上がり頭を下げていた。

 王族専用の入り口の扉から入るとすぐに玉座の近くに出る。キャミルは王座から一段下がった場所にある王女専用の椅子に腰を下ろした。


「頭を上げて、楽にしてください」


 そのキャミルの声で全員が頭を上げ、椅子がある者は席に着いた。


「キャミル来てもらってすまないね」


 ダリアスが声を小さくしてキャミルに声をかけた。


「私も来たくて来たからいいのよ」


「そうか、ありがとう」


 ダリアスはそれだけ言うと立ち上がり騎士たちに語りかけた。


「みんなよく集まった、これから始まるのは歴史上初めての試み四大神獣の…」


 ダリアスが話している隣でキャミルは心の中で祈った。


『どうかみんなが無事に帰ってきますように…』


 キャミルは祈ることしかできない自分が嫌になった。それでも彼女は必死に祈った。みんなが無事に帰ってくるようにと。

 式が終わり、謁見の間にいた騎士たちは全員霧の森にある砦に出発した。

 謁見の間ではしばらく貴族同士の挨拶があったがそれも終わると謁見の間にはダリアスとキャミルだけになった。


「キャミル、本当に今日は出てきてくれてありがとう」


「うん」


「少しは元気になったか?」


 ダリアスが心配そうに言った。


「ええ」


 そう言うとキャミルは立ち上がった。


「お父さん、ハル達は生きて帰ってくると思う?」


 ダリアスはその答えに即答した。


「もちろんだ、ハルは私に死なないと言った。それは必ず神獣を殺してくれるということだ。それにハルは歴代最強の剣聖で…」


「お父さんはハルのことわかってないんだ…」


 ダリアスの言葉をキャミルは遮るように言った。


「ど、どういう意味だ?」


 ダリアスはその言葉に動揺した。


「いや誰にも分からないか…ハル以外にハルの考えてることなんて…」


「キャミル何か知ってるのか?」


「なにも知らないよ、でも一つわかるのはハルも人間だってことただそれだけ…」


 キャミルはそれだけ言うと謁見の間から出て行った。


「そうだ…いくら強くてもハルは人じゃないか……」


 ダリアスはキャミルの言葉を玉座に座ってぶつぶつ呟きながら考え続けた。



 キャミルはそのまま屋上に戻って空を眺めた。

 遠くにハルやエウス、ライキルがいることを思うと寂しくなったが空を見たら少しだけその気持ちが和らいだ。


『人は強い生き物じゃないから…誰かが支えてあげないと…』


「ハル、大丈夫よ!あなたは決して一人じゃないわ!ライキルとエウスがあなたにはついてるわー!」


 キャミルは遠くにいるハルたちに向かって叫んだ、その声はもちろん届くことは無かったが彼女の中で何かがすっきりした。


『エウス、あなたが本当のハルを見つけてあげて私を見つけたときみたいに…』


 キャミルは心の中でそう思い城の中に戻って行った。




*** *** ***























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