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神獣討伐 世界を巡って1

 大陸全域で、巨大な水球たちが集まっていた場所は全部で十五か所、そのすべてをハルはひとりで回らなければならなかった。水球の破壊が急がれていた。大陸中を駆け回ることになったハルは、移動する際、まさに移動手段としてはありえない脚力による跳躍であったが、それはハルの異次元の脚力とともに、止まった時間の中を移動することで、大陸各地をありえない時間での移動を可能にしていた。

 そのおかげで、ハルの快進撃はまさに神々ですら目で追えないものだっただろう。まさにハル・シアード・レイの本気がそこにはあった。


 ルートを作った。それは回る順番だ。できるだけ効率的に十四か所をカバーし続けるルートをこのフェーズ魔法の第一フェーズが終わるまで回り続けることにした。

 順番はこうだった。

 西部から順に、イゼキア王国、ニア王国、エルフの森、スフィア王国、シフィアム王国、センターロイド平原、ストレリチア跡地、龍の山脈跡地、アスラ帝国、パースの街、レイド王国、中央部のガーデラの街、東部のラタの森、南部オーア王国。

 十四か所以外にも、マナが存在する場所はあるが、この大陸でマナが豊富な場所がその十四か所だった。


 ハルは、周りの状況も視野に入れつつ、十四か所のルートを中心に水球の破壊を始めた。


 イゼキア上空。ハルが到着したのは王都シーウェーブからそう遠く離れていない、イゼキアの第二都市ミツハイだった。空からの眺め、街の中央に大きく育った水球を発見した。衛兵たちが何も知らずにその水球を破壊しようと魔法を集中砲火していた。それでは逆効果であるが、誰も止めるものがいなかった。そんな中、ハルは即座に、その水球を両断する。王都シーウェーブの地下にいるライキルたちのことを想ったが、私情は一度忘れ、次の目的地へと向かった。


 ニア王国王都チールス。山岳地帯に囲まれた都市には、ドワーフたちが暮らしており、山から大量に取れる鉱石で生計を立てていた。しかし、国民性からなのかはたまた歴史的観点からなのか、とにかくニア王国はとても閉鎖的な国であり、国外との交流も入国自体厳しい国だった。このような国になったのも、ドワーフの種族的特徴が関係していたのかもしれない。ドワーフの見た目の成長が止まるのは、どの種族よりも遥かに早かった。それゆえ国民誰もが童顔であり、子供のような小さな背丈の者たちしかいないため、他の種族たちからも対等に扱ってもらえなかったという歴史的見解はあった。だからこそ、自分たちだけしかいない根強い社会を形成することで、彼等は自分たちの居場所を守って来たともいえた。

 とこんな具合に、ドワーフという種族は昔から気難しい種族であったが、それは周りの種族の者たちの差別によるものというものが生み出したものだったのかもしれない。


 そんな閉鎖された山の中の街の上空にハルが訪れる。

 王都チールスの街の近くには大陸を縦断していた水の壁があった。いくつもの山々がその水の壁に軽々と呑まれては、情報が乏しいそのニア王国ではすでに国民たちが大パニックになり収集が付かなくなっていた。ハルはそんな混乱している街の中に水球を見つける。そして、その水球のほかに目を引かれる者がひとりいた。このような事態の中でも、冷静に水球の前に立ち尽くしていたそのものは、ニア王国剣聖シャノンオーズ・エストレア・アダマンだった。

 非常の厳しい顔に似つかない童顔に、暗い茶髪、鋼のような銀の瞳で、その水球を見つめていた。


「シャノンオーズ剣聖」


「なんだ、誰だ!?お前は!?」


 ハルは彼のその反応を不思議に思ったが、自分が世間から存在が抹消したことを忘れていた。そして、シャノンオーズという人間にはおそらく、そのハルという存在を記憶しておくための防衛手段であった神威を習得していないのだろう。彼は完全にハルという存在を忘れ去っていた。


 シャノンオーズが手に持っていた双剣を構える。


「侵入者か…どうやってこの街に……」


 ハルは少し困った表情をしたが、すぐに冷静に今は自分たちが争っている場合ではないことを彼に伝えた。


「あの水球は、魔法を吸収します」


「なに?」


「現在この大陸にはフェーズ魔法というものが掛けられていて、今はその第一フェーズにあたります」


 ハルは現状を淡々と説明していくと、シャノンオーズも耳を貸し始めた。


「あの水球への有効な手段としては天性魔法だけです。マナを使う魔法はダメです。全部吸収されてしまいます」


「やはりな、どおりで、魔法で攻撃すると奴のマナの総量が増えるわけだ。貴殿名を何という?」


 シャノンオーズの問いにハルは自分の名を告げた。


「ハルです。ハル・シアード・レイ」


「ハル………」


 シャノンオーズが頭の片隅にあった記憶を思い出そうとするようにぼそりと呟く。


「すみません、それじゃあ、俺は次のところに行かなくちゃいけないので」


 ハルがシャノンオーズの前から消える。それは決して油断していなかった剣聖シャノンオーズの目でも追えない一瞬の出来事だった。そして、手も足も出なかったとてつもなく大きく成長していた水球が、一瞬ではじけ飛び、街へは雨となって降り注いでいた。


「ハル……どこかで………」


 その時、シャノンオーズの記憶を激しく揺さぶる衝撃が脳内を駆け巡っていた。


 そこには自分が経験したこともない景色があった。


 どこかの闘技場で、自分が手も足も出ずに、あるひとりの男に打ちのめされている光景だった。そして、その男というのが今いたハルという男だった。


「なんだ…今のは………」


 見たこともない記憶にシャノンオーズはずっと混乱するのだった。それは街の人たちの混乱とは全く別のものだった。

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