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神獣討伐 闇人

 瞬間移動をした形跡もなく、ただ、レキはその場所に存在していた。


 レキは海水が抜かれた海床の地面を歩いて、世界亀の前に立った。


「………」


 突然現れた正体不明の獲物に世界亀(ワールドタートル)も困惑する。周りに漂っていた巨大な水球から、無数の水状の一線を乱暴に放ちその異物を排除しようと試みた。だが、しかし、その水の一線はひとつとしてレキを貫くどころか、半透明の彼の身体を通り抜けていき、一線も当たることはなかった。


「そこに、いるんだろ?」


 レキが世界亀に呼び掛ける。だが、それは正確には世界亀にではなかった。その世界亀に宿っていた怨念に対して呼び掛けていた。


「キミがこの怪物を目覚めさせた。そうなんだろ?」


 世界亀は、依然としてレキに集中砲火を繰り出すが、突然、その魔法の暴力がピタリとやんだ。


 というよりかは、世界の時間が止まっていた。


 そして、そんな止まった世界で、世界亀の身体が透き通るように、真っ黒な人型の何かが現れていた。文字通り全身真っ黒で、目だけが怪しく紫色に輝いていた。人の形をしていながら、それが人ではないことがすぐに分かるほど、禍々しい邪気を放っていた。


「レキか、久しいな」


 闇がおぞましい声で語り掛けて来る。


「そういう君は、どうしてここに…冥界にいるはずでは?」


 レキがそういうと闇は告げた。


「肉体はな、だが、俺の魂は依然として自由に世界を駆けまわっている。誰にも束縛することはできない。それはお前も分かっていたことだろ?」


 レキが何の反応も示さずにただ、現れた闇を見ていた。


「分かっていたさ。君が裏で暗躍していたことも、だけど…」


「一度も止めることはできなかった。そうだろ?」


「ああ、そうだね…」


 レキがここに至るまでのことを振り返ればすべて何もかも自分ではどうにもならないことばかりだった。


「今の今までこの世界ですべて君が絡んでいたことに関しては、全部、君の勝ちだった」


 止めることはできなかった。そのせいで散っていた仲間たちは数知れない。けれども、レキはそれらすべてが決して無駄だったとは少しも思っていない。それが彼等の人生であったことに変わりはないし、そんな彼らとわずかな時間共にいられたことを誇りにすら思っていた。


「だけどね…」


 誰しもが生まれたその瞬間から何かの大きな流れの中にいる。けれど、その流れの中にある小さな流れにも必ず意味や価値があると知っている。そして、それらの力は、大きな流れに影響を与えては、運命を変えていた。決まりきった運命があるとするなら、確実に彼らの行いは、それらに背く行為だった。けれど、その決まりきった運命が正しいなどと誰が決めたのか?レキは当たり前にあった自分の中の考えや認識を彼らを通して少しずつ変えて、今ここに立っていた。


「今日は、僕が勝たせてもらう」


 レキが短い杖と軍刀を召喚し、それぞれ手に持って、立ち尽くす。


「ほ、ほう。今まで流れの中を彷徨っていただけのお前が、いまさら、この俺に抗うか、ハハッ、面白い、やってみろ。相手ぐらいしてやる」


 闇は不気味な声でレキを嘲笑する。


「相手をするだと?勘違いしないで欲しい、確かにこれは君との勝負だが、実態もない君と戦うことはできない。そうだろ?」


 レキがそういうと、目の前にいた闇人(やみびと)の目じりが細くなり卑しく笑った。


「あぁ、なるほど、なるほど…いや、そうだな、俺には実態がない。肉体の無いお前とは違い、この世に存在していることにはなっていないなぁ?」


「君はその状態で僕のことを傷つけることはおろか、触れることすらできない。マナで模っただけの存在の君の今の姿に実態は無い。そんな君が僕とどうやって戦う気だい?悪いけど、僕は、君を相手するためにここに来たが、君と戦いに来たわけではない」


 その時だった。闇人は楽しそうにそしてレキを嘲笑するように笑いあげた。


「アハハハ、そうだな、お前さんの言う通りだ。だがな、よく見て見ろ、俺には今、ここに、この莫大な魔力出力をもつ化け物がいてだなぁ、この程度ならできるんだぁがぁ?」


 闇が世界亀の身体の中に、すっと入っていった。


 すると、世界亀が苦しそうに吠えると、レキの前に六つの魔法陣が展開された。

 その魔法陣の上に六つの黒い球体が召喚される。その球体はやがてその場で溶け始めると人の形となって、レキの前に六人の姿かたちの違う闇人たちが現れた。


「【化身】…」


「さあ、お前たち、この静止した世界でそいつの相手をしていろ。俺は、元の世界に戻らせてもらう、フフッ…」


 勝ち誇ったような目じりをしている彼に向かってレキが叫んだ。


「逃がすと思うか!!」


 レキがこの静止した時間軸から抜け出そうと、周りの世界に干渉しようとしたが、なぜか時が前に進まなかった。


「なぜだ……」


 時が進まないことに明らかな焦りがレキにはあった。

 そこで闇人が優しく告げた。


「あぁ、悪いな、今回は絶対に誰にも邪魔はされないように、あらかじめ、ここら一帯に【神域】の時間を流しておいたんだ。肉体を持つお前はこの絶対時間領域に捕らえられるが、霊魂の俺には関係ない。残念だが、お前はここで時間までいてもらう」


 そういうと、おぞましい声の闇の気配が、静止した世界から消え始めた。


「せいぜい、そいつらと遊んでおけ、その間、俺は彼が来るのを待たせてもらう。とっておきを用意してな、フハハハハハハハハハハハハハ………」


 そして、何もかもが止まった世界で、レキと六人の闇の化身との戦いが始まった。


「これは、まずいことになったな………」


 レキはさっそく予期せぬ事態におかれ焦っていた。


『まだ、世界亀に張ってある結界も剥がしてない…これではハルくんの力があったとしても、大陸が滅ぶのが先になってしまう……あの結界はおそらく、彼が用意したもので、この世のものじゃない……』


 レキは世界亀に張ってあった結界を見た時、すぐにその違和感に気付いていた。世界亀は特殊な結界に何重にも守られていた。それも、その張ってあった結界のどれもが概念魔法という魔法界でも最高ランクの魔法で構成された、世界の法則すら捻じ曲げる傑作だった。そんな魔法がたかがこの世界にいる亀を守られるために使われているのだ。それはまずありえないことだった。

 この世の理ですら捻じ曲げてしまう概念魔法がそうやすやすと何枚も結界に使われていいはずがなかった。


『クソ、もっと彼がこの世に干渉できないことを念頭に入れておけばよかった……』


 レキは現実世界で闇が操る世界亀との戦いを想定していた。だが、しかし、実際はこうした異空間に放り込まれ、彼の化身との戦いを余儀なくされていた。


『まさか神域の時間を利用して来るとは……』


 現実世界に干渉できないなら、自身が干渉できる異界へと相手を引きずり込む。制限の多い彼は、そうやってどうにかこの世界に干渉する方法を、この長い間ずっと考えていたのであろう。だが、今回の策はレキも予想できない奇策であり、案の定、レキは彼のその策にまんまと嵌ってしまった。


『くそ、未来が見えない相手だとこれか…こんなことなら、こちらももっと対策を練っていれば……』


 レキが現状を打破しようと思案しているところに、容赦のない闇の波動が飛んで来て、レキはとっさにそれを魔力の壁で遮断した。


 闇の波動が止むと、レキはすぐに杖と軍刀を構え、戦闘態勢に入った。


「考える時間が欲しいから邪魔しないで欲しんだけど?」


「生憎、我々は創造主である主の命令を聞くだけですので、あなたのご要望にはお答えできません」


 闇人の化身である六人組のリーダーのような長髪の男が静かに言った。


「丁寧にどうも、じゃあ、戦いながら考えることとするよ」


 時が止まった世界で、レキの孤独な戦いが始まった。

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