エウスと使用人
「朝か…」
窓からの日の光で目が覚めたエウスは、ぽつりとつぶやいて上体を起こした。ベットの上から見える窓の外の景色は晴れていて、ときおり、雲が太陽の光を遮って、地面に影を落としていた。
エウスは窓を開けて部屋の空気の入れ替えをする、すると涼しい風がエウスの部屋に入って来た。
それからエウスは寝巻から動きやすい格好の服に着替えて、身支度を整えたあと、ハルの部屋のドアの前に向かった。
トントン!
エウスがハルの部屋のドアをノックした。
「まだ寝てるのか…?」
ハルの部屋のドアだけは、壊れてるので開けようと思えば簡単に開き、部屋の中を確認できるが、特に緊急の用事があるわけでもないエウスは、ハルに会うのをあきらめてエントランスに向かった。
エウスが歩きながら、エントランスに向かうまでの通路の窓を眺めると、外ではなんとも心地のいい朝の光がさしていた。
『腹減ったな…』
エウスがエントランスに着くと早速、西館で朝飯を食べようと考えて、エントランスを横切ろうとした。するとエントランスから西館につながる通路から一人の女性の使用人さんが歩いてきた。
「おはようございます」
彼女がエウスに挨拶してくれた。
「おはようございます」
エウスも気持ちよく挨拶を返した。
しかし、彼女はしばらくエウスの顔をジッと見つめてきた。
エウスは、その彼女の薄い青の瞳に少しドキッとしたが、なぜ自分がそこまで見られるのか分からなかった。
『なんかついてたかな…』
エウスは自分の髪や顔を触って確認したがいつもと何も変わらなかった。
「どうかしました?」
エウスが彼女に尋ねた。
すると彼女は自分が見つめてしまっていたことに気づいたのか慌てて謝った。
「すみません、エウス様」
長い黒髪を後ろでまとめた白い肌の彼女はそのようにエウスの名前を言った。
「あれ、俺の名前知ってるんだ」
エウスが驚いた様子で言った。
「あ、その、はい、ハルさんから聞きました…」
彼女は白状するように言った。
「えっ、アハハハハ!そっか、え!?でも、どうやって知り合ったんだ?」
エウスは以外すぎる人物の名前が出てきて笑った。
「簡潔に言いますと、ハルさんにお茶に誘われました」
「え!?アハハハハハハハハハハハ!まじか、珍しいなあいつがお茶に誘うなんて、よっぽど君は気にいられたみたいだな」
エウスは先ほどよりも笑っていた。
「いえ、そうではありません、ハルさんはそのとき都合のいい話し相手が欲しかったそうで、そこに私がいただけです」
ヒルデは懸命にエウスに説明していた。
「なるほど、面白い、朝から笑わせてもらったよ、そうだ君の名前を聞いてもいいかな?知ってると思うけど俺はエウス・ルオだ」
「私は、ヒルデ・ユライユと申します」
「ヒルデかいい名前だこれからよろしくな、ヒルデさん」
「はい、エウス様」
「あ、俺もハルみたいにさんで呼んで欲しいな」
「はい、わかりましたエウスさん」
「ありがと、これからよろしくな!」
「はい、よろしくお願いします……」
そこで彼女の声の調子がガクッと下がった。
エウスがそんな彼女の感情の変化を見逃さなかった。
「どうかしたか?」
「その、エウスさんも明日には霧の森に行ってしまうのですか?」
ヒルデは下を向いたまま言った。
『そうか、そりゃそうだ、もうみんな知ってるんだった…』
「そうだな、俺も明日この城を出て霧の森に向かうよ」
「そうですか…」
その言葉を聞いて彼女は落ち込んでしまった。
『まったく、この子はいい子だな、ハルの周りには純粋な奴しか集まらないのか?まったく』
「ヒルデさん心配してくれてありがとう、でもな俺たちは騎士だ、みんなを守るのが仕事だ」
エウスは彼女を不安にさせないように完璧な笑顔で言った。
「それにヒルデさんも知ってるだろハルがすごいってこと」
彼女が頷く。
「彼を信じて待っててくれ」
「はい」
彼女が強く頷いた。
それから二人は別れて、その際エウスはヒルデからハルの居場所を教えてもらった。
『ハルさんなら屋上に行くと言ってました』
ヒルデの言葉を思い出しながらエウスは城の階段を上っていく。
エウスが屋上のドアを開けると、そこには街の景色を眺めるハルの姿があった。