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家族団欒

 ハルが緑死の湖から護衛の任務を終えて、イゼキアの王都シーウェーブにあるドミナスの地下施設ザ・ワンに帰宅した。施設のロビーにたどり着いたところで、妻たちの出迎えがあった。ライキル、ビナ、ガルナ、ルナ、エレメイ、アシュカと、全員が揃っていた。ハルの帰りを待っているうちにいつの間にか全員勢揃いしていたようで、ハルが到着後、全員にもみくちゃにされながら、ハルは帰宅した。


「あれ、そう言えばエウスはどうした?」


 いつもならこういう時、彼もいるはずなのだがエウスの姿はなかった。


「エウスは、この施設内の人たちのところに顔を出してるみたいで、この機会にいろいろな人と人脈を広げておくとか言ってましたね」


「そっか…」


 エウスが誰と話しているのか気になった。この施設にはイゼキアのそれなりに重要なポジションにいた貴族たちも何人か保護していると聞いた。今後エウスがレイドで王になった際にその交流が生きる機会はあるのかもしれない。

 そうなると彼はドミナスの連中ともかかわっているのだろうか?そこが見えない組織であるため、彼等がバックに着けば敵無しなのはそうなのだが、その分彼らが何を企んでいるかは分からないという、諸刃の剣という点も否めない。

 ハルはエウスのことも気になったが、その日は緑死の湖での出来事を土産話に部屋へと戻った。

 リビングにハルを中心に集まり、湖の中を探索して来たことを語った。滅多にない体験に、ビナとガルナが食いつき一緒に行きたかったと騒いでいた。ハルはそれでも神獣討伐が絡んでいるから遊びに行ったんじゃないと言ったが、二人はそれでも水の中を進む潜水施設が気になって仕方がない様子だった。

 そこでハルがアシュカにドミナスからそういうものを借りてこれないのかと冗談交じりに言ってみると、彼女は得意げに潜水艇ぐらいいくらでも借りてこられると言った。ビナとガルナはアシュカのことを凄いと褒め称えていた。


 アシュカはエルフであるため長寿であり、ドミナスという最先端の技術を有したドミナスという組織にいたことからも、とにかく何でも知っており、二人の興味が持ちそうな話題を振ってはガルナとビナは目を輝かせていた。


 ライキルはというと、まるで聖母のようにエレメイを膝に侍らせてハルの話しを聞いていた。少しだけエレメイのことが羨ましいと思ったが、そこではあくまでハルは今宵の語り手として、みんなを楽しませていた。


 家族団欒という意味では、はじめてその言葉通りの空間がそこにはあった。


 ただ、ルナだけがその場の空気に馴染めず、少し離れたところでハルの話しを聞いていた。

 だが、ハルはそんな彼女を強引に連れて来ると自分の膝の上に乗せた。


「ハル、ちょっと、どういうつもり?」


「嫌だった?」


「嫌じゃないけど…その、ちょっと、みんなの前だと恥ずかしいっていうか…」


「今さら?」


「だって、別に今はそういう時じゃないし…」


 ハルの膝の上で、ルナが恥ずかしそうにもじもじと身体をくねらせていると、みんなの羨望の視線がチクチクと集まって来ていた。


「ほら、みんな視線が集まって来てるって…」


 それでも、ルナのことを解放してあげないでいると、ビナがハルの隣に来た。


「次、私もいいですよね?」


 ビナに関してはすっかりハルに甘え上手になり、出会った時の恥ずかし気な彼女はどこにもいなかった。


「ずるい、次は私がいい!!」


 そして、それはガルナもまた同じだった。前から甘えん坊なところはあったが、今ではそれが露骨に頻度もより多くなっていた。


 ハルの両脇がビナとガルナに固められると、今度はソファーの後ろに立っていたアシュカがハルを後ろから抱きしめ、彼女が後ろから囁く。


「ハル、私のことも忘れないでくれよ?」


 全方位を固められ身動きが取れなくなったハルは、エレメイを撫でていたライキルに助けを求める目をしたが、彼女はにっこりと微笑むだけで助けてはくれなかった。


 結局、ハルは、ルナ、ビナ、ガルナ、アシュカをひとりずつ膝の上に乗せて、彼女たちの欲を満たしてやった。


 そうこうしている内に、施設内から夜を知らせる音が鳴ると、みんなで夕食を取ることにした。


 キッチンに立ったのは、ライキル、ルナ、ビナ、アシュカの四人で、その間、ハルはリビングで、ガルナとエレメイの二人の相手をしていた。


「ハル、今度、また一緒に戦ってくれ、久々にいいだろ?」


「いいよ、しばらくは、世界亀の居場所が分かるまで時間がありそうだし、ガルナがどれだけ強くなったかも見てあげるよ」


「やったー、約束だぞ!」


 ハルにべったりなガルナが喜びながら、その嬉しさをキッチンにいた、ライキルに報告するために彼女は子供の様に走っていった。


 ソファーに座るハルは、しばらく、膝の上に寝転んでいたすっかり猫のようになったエレメイの頭を撫でていた。


「ハル」


「なに?」


「ここは天国なのかもしれない…」


「そうかもね」


 ハルは、猫のように縋る彼女に小さく微笑みかけた。エレメイは、少し顔を赤らめるがすぐに自分の腕で顔を伏せた。


「憎くてたまらない相手が近くにいても、私はこうして、ハルやライキルに撫でられているだけで幸せを感じている。人間ってなんて単純で、愚かなんだろう…」


「エレメイは愚かじゃないよ?」


「愚かだよ、敵討ちの相手がいるのに、今ではひとつ屋根のした同じ部屋で同じ男を愛してる。こんな愚かなことはないよ…」


「ごめん、エレメイ、辛い想いさせて」


「いや、ハルは何も悪くないむしろ私を拾ってくれたことがなんていうかありえないっていうか、本来なら私もハルたちに恨まれるべき存在だってことは理解してる。それでも、ハルが、ライキルが、私を離さないっていうから…その……」


 エレメイはそこで恥ずかし気に塞いでいた腕を避けて深い緑色の目でハルを見た。


「私はきっとここに居るんだと思う」


 ハルはエレメイには重い罪があると思っている。レイドを三度にわたって襲撃したこと、キャミルの母親を間接的ではあれ、殺害に関与していたこと、どれも本来ならば許さないことだ。

 しかし、その原因の根元を探っていくとやはり、ドミナスのアシュカという女性にたどり着いてしまうことになる。

 ハルはそんな因縁を抱えている二人を迎え入れるというある意味暴挙に出ていた。当然、どちらも理由があって身内に引き込んだ。それでも、身内に引き込んだからにはもう、ハルは二人のことを愛して守ると決めていた。


「それでいいんだよね…ハル……」


「エレメイ」


 ハルがそこで彼女のおでこに自分のおでこをくっつけると静かに目を閉じた。


「いなくならないでよ、絶対に…」


 言い聞かせるように、ハルはエレメイに言った。それはまるで呪いだった。


「ちょっと、そこ、なにイチャイチャしてるんですか!?抜け駆けは許しませんよ!!」


 奥のキッチンからビナが料理で使うお玉杓子を振り回していた。


「エレメイ、手伝いに行こう」


 そうすると、みんなで狭いキッチンに集まって夕食を作って、完成するとリビングのテーブルに並べていた。

 そして、ハルは皆に「エウスも呼んで来る」とだけ言って部屋を出て行った。

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