神獣探索 名刀と妖刀
個室に案内された。そこはあまり生活感がなく、必要最低限のものが必要な分だけ揃えられた部屋だった。広さもあまりなく、大きなベットが部屋の半分ほどを占領していた。タンスやクローゼットなどの収納スペースはなく、完全に寝泊りするだけの部屋だった。
「どこに置けばいいですか?」
ハルの後に部屋に入って来たミカヅチというドミナスの兵士が、二振りの刀の置き場所を求めていた。
二メートルほどあるハルの愛刀は『弐枚刃』と呼ばれ、それぞれには『皮剥ぎ』『首落とし』と名前がついていた。
「そこのベットの上にお願いします」
ミカヅチがベットに刀を置いた。そのベットは超高身長のエルフも寝れるようにとても長い造りをしており、二つの刀がベットからはみ出すことはない。
「それではこれで失礼いたします。何か用がありましたら、お部屋の前で待機していますので声をおかけください」
「ちょっと待って」
ハルは立ち去ろうとする、ミカヅチのことを呼び止めた。
「何でしょう?」
「少しだけお話することってできませんか?」
ミカヅチの冷たい無表情の顔にどこか温かみのようなものが広がる。彼はどこかドミナスの兵士たちとは違うようなそんな感じがした。役割として兵士に徹しているといった具合で、人間味があった。
「私とですか?」
「はい、ミカヅチさんにお尋ねしたいことがあって…」
彼の人間味のある部分に掛けてハルがお願いする。
「構いませんが、私にも与えられた任務があるので手短になら」
「よっしゃ!ありがとうございます!海の向こうの人と話してみたかったんです!」
ハルはミカヅチという海を越えた先にある【和】という国についての話しを聞いた。
「和国は小さな島国です。山が多く平地が少ないのも特徴です。島国であるがゆえ、他国からの侵略も少なく、独自の歴史と文化が栄えて来ました。そのひとつとして、この大陸にはいない【武士】という者たちが有名ですかね?」
「ブシ、ああ、聞いたことあります。たしか、こちらでいう騎士と呼ばれる者たちのことですよね?」
「そうです、ハルさんのベットの上にある、その二振りの刀も武士と呼ばれる者たちの武器として和国では使われています。ただ、ハルさんのその刀はどちらも大太刀と呼ばれるもので、通常ならば馬上で、それも一振りで扱われるものなのですが…、ハルさんはその大太刀を両手持ちで扱うとお聞きしましたが本当なのですか?」
ミカヅチが興味津々に尋ねる。
「ええ、あの二つは特別頑丈なので愛用しています。他の武器だと振っただけで砕けてしまうのですが、あの二つだけはどれだけ強く振っても力を流しているというか、同化しているというか、とにかく、壊れないんですよ、凄いですよね。アハハハ」
「壊れない刀…」
ミカヅチがそっと視線を外してベットの上の二振りの刀に目をやっていた。
「ハルさん、この二つの刀どこで手に入れたのですか?」
「これは俺がいた道場にずっと飾ってあった奴で、道場を出て行くとき、記念に貰ったんです」
「そうでしたか…」
「どうかしました?」
「いえ、ただ、和国には邪龍を斬った刀が存在するという伝説があったので、まさかと思ったのですが」
「うーん、多分、違うと思いますよ。俺のじいちゃんがこの刀は旅行中道場のお土産に買って来たものだって言ってましたから…」
道場に大事に飾ってあったのも、見栄えがいいからとのことだった。前にギンゼスはこう言っていた。
『なんか、でかい刀があるとそれっぽいじゃろ?』
まさにギンゼスらしい適当さであった。
それに、ハルはそんなくだらない理由で置いてあった刀に伝説があるわけがないと思っていた。そういった伝説の剣のようなものは国が大切に保管しているはずで、決して旅行中のお土産で買ってこれるようなものでもない。
それにシルバ道場には基本的にそんな余裕のある金はないと記憶していた。ギンゼスもフーリおばあちゃんに買って来た時は怒られたと言っていた。だから、間違いなく、その『弐枚刃』はどこにでもあるもので…。
『あれ、でも、この刀本当になんで俺の力に耐えられるんだろうか……』
ハルもベットにある二振りの刀に目をやった。今まで当たり前のようにその二振りの刀を振り回してきたが、出どころもまるで分からないただ頑丈だけが取り柄の刀に、今になって疑問が湧いていた。
「まあ、でも、もしこれがその刀だとしたら、面白いですよね」
その時だった。室内が大きく揺れ動いたのは。
「なんだろう?」
「様子を見て来ます。ハルさんはここで待機していてください」
そういうとミカヅチは部屋から出て行った。