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神獣探索 水中研究所

 瞬間移動という転移魔法があることにより、道中の危険を一切考えず目的地にたどり着けるというのはなんとも便利なものだった。ハルは、エルノクスたちの護衛として、緑死の湖に連れてこられていた。


 王都シーウェーブから緑死の湖に転移すると、そこはちょっとした林の中で、開けた空間だった。


「お待ちしておりました。陛下、拠点にご案内いたします」


 転移先にはドミナスの兵士が待機しており、エルノクスたちは神獣の調査拠点なる場所へと案内された。


 少しばかり歩く際、ハルは、エルノクスを挟んで反対側にいた全身を真っ黒なローブで身を隠した女の子を横目に見た。彼女はエルノクスの手をぎゅっと握っており、常にどこかおどおどとしていた。ただ、エルノクスと親しいということはそれだけドミナスの中では屈指の実力者だということを考えると、ハルは少しだけ彼女のことを警戒したが、特に詮索はしなかった。ドミナスに関して言えば知らないことの方が幸せな事の方が多い。余計なことはしないし、聞かないが正解だった。


「あそこが我々の調査拠点の入り口です」


 緑死の湖のほとりにはテントがいくつか張ってあった。調査拠点というよりかは、ただ、テントを張ったキャンプ場だった。


「調査拠点というより、キャンプ場に見るのですが…」


「あのテントは警備の者の寝床です。調査拠点は湖の中にあります」


「え!?湖の中ですか?」


 ハルの耳を疑うような言葉が飛び込んで来た。


「はい、我々の所持している施設の中には、研究のフィールドワークの効率を上げる為、可動式の研究施設などがありまして、それを転移させ現地で研究というのはよくあることなんです」


「す、すごいですね…」


 施設ごと転移させる、それに動く施設とはいったい何なのか?ともはやドミナスという組織はハルの想像の範疇を軽く越えていた。


 そこで驚いているハルにエルノクスが言った。


「私はね、ハルさん。実際にこの世界で生きている以上、自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、知るということを大切にしているんです。特にこの世を解き明かすような真理について探求する研究者たちなんかは特にです。目の前のものを知らずに真理には到達できない、そう思いませんか?」


「そうかもしれないですね…」


 ハルはエルノクスの言葉に少しだけ思い当たるところがあった。自分の出生を知らないという点だ。この世に産まれてから十歳以降の記憶がない、ましてやその十歳というのも最初にエウスに会って彼と同じ歳にしたということが始まりで、自分の本来の年齢も実のところ知らなかった。

 だから、すでに二十三歳になっていたが、実際の年齢はもっと下か上か、悩ましいところだった。


『俺は、自分を知らなすぎるのかもしれない…』


 ハルはそういったモヤモヤを抱えながら、エルノクスたちについて行っていると、湖に浮かぶ小さな鉄の小屋のようなものがあった。


「あの小屋の中から転移して湖の中の研究所に移動します」


「直接、瞬間移動で移動は出来ないんですか?」


「湖の中の研究所には結界が張ってありまして、あの小屋からじゃないと飛べないよう魔術が組み込まれているんです。まあ、防犯対策といったところです」


「な、なるほど…」


 湖の中という極めて異例な立地というだけで、防犯上はばっちりだと思ったが、もしかしたら上には上の盗賊がいるのかもしれないと、ドミナスの技術を超える盗賊団のことを想像しようとしたが、無理だった。


 ハルたちが小屋に入る。中は当たり前のように鉄に囲まれた何もない薄暗い部屋だったが、案内人が転移の魔法を使うと、あっという間に、今回の緑死の湖の調査拠点に飛んでいた。


「おぉ…すごい………」


 そこは辺り一面ガラス張りの壁と天井で、ハルたちは湖の中にいた。見上げた天井には太陽の光が水に阻まれ水面で歪み揺れていた。


「ここは湖のどこ辺りなんですか?」


「ここは現在、緑死の湖の中央から十キロほど離れた場所です」


 緑死の湖は直径百キロメートルはある巨大な湖であり、一週間ほど前ハルが巨大な山蛇を狩ったのが、湖の中央らへんだった。


 ハルたちは瞬間移動で移動した調査拠点の転移室から、下に降りて、研究室であるメインルームへと下った。そこには、大きく複雑で大量の計測器がついた機械から、特殊な器具が並んだ実験机、整然と並べられた薬品棚まで、ありとあらゆる研究者たちの手助けをするものが揃っていた。

 そして、何人かそこには研究者がおり、白い衣を着た者たちが忙しなく、手を動かして実験をしていた。


「ハルさんには休憩室を用意いたしましたので、そちらをご利用ください」


 案内人が言うと、ハルはすぐにメインルームから別室へと移動することになった。それもそのはず、ハルは護衛に来ただけでドミナスの調査グループに加わるわけではないのだ。この研究室に踏み入っただけで、ハルには何がなんだか分からないのだから、議論に入り込む余地はなかった。

 それにハルは、エルノクスから依頼を受けてここに来ていたため、彼の指示に素直に従うことにした。


 ハルが部屋に移動する際、エルノクスの部下もついて来ることになった。ミカヅチという青年で名前も顔つきもこの大陸出身ではなく、西の国の者のようだった。彼はハルの愛刀である弐枚刃を運ぶ荷物係だった。しかし、荷物係りに任命されているにしては、とんでもない実力を持っているとは立ち振る舞いを見ていればそれがビシバシとハルに伝わって来ていた。間違いなく、剣聖に匹敵するほどの実力者だと、ハルはあっさりと見抜いてしまう。それほど、その青年には力強い存在感があった。


「ハルさん」


 メインルームを出る際に、エルノクスが声を掛けた。


「何ですか?」


「何かわかったら、すぐにご報告しますから、ハルさんは身体を休めていてください」


「そうさせてもらいます」


 調査の方は彼等に任せハルは、案内役の兵士とミカヅチという青年と共にメインルームから出ていった。

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