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神獣討伐 神獣考察

 岩を砕いていると自然と心が落ち着いた。頭の中で鳴りやまない声がいくぶんかマシになるからだろうか?とにかく岩を砕くことはハルにとってある種の小さな救いとなっていた。贖罪とは程遠いが、それでも、こうして、誰かの為になっていることをしていると、前を向くことができた。


 傍にはドミナスの兵士がハルの二枚刃を持って待機してくれている。それでも、その兵士のハルを見る目は、冷静そのもので、感情というものが乏しかった。だから話し相手にもならなかった。


 ハルは辺りを見渡す。だいぶ、効率的に街に降る巨岩を砕くことができるようになっていた。巨岩は数は多いがゆっくりと落ちてきているため、さほど苦労はしない。なぜ落ちて来ているのかを除けば、特に脅威ではなくなっていた。


『あっちは大丈夫かな…』


 ハルが巨大な岩の上で、遥か西にある緑死の湖がある方角を見た。アシュカたちが湖にいるとされている世界亀を地上に引きずり出してくれるのをハルは待っていた。


「やっぱり、俺がひとりで行けば良かったかな………」


 そうすれば、今頃、地形ごと破壊して終わっていた。他の四大神獣たちも地形ごと破壊する一撃で消し飛ばして置けば良かったと今となってはそう思う。そのために、人払いをして、そして、自分ひとりにすべてを任せてくれれば、それで良かった。


「シアード様」


「え?あぁ、なにかな?」


 急に感情を出してきたその兵士にハルは少し驚いていた。


「少し、この岩を調べさせてもらってもよいでしょうか?」


「いいよ、好きに調べて、そっちの刀は俺が持っておくから」


「申し訳ございません」


 結界が何重にも張られた岩にその兵士は非常に興味を持っているようだった。数キロにも及ぶもはや浮遊した島のような巨岩の上で兵士がその地面に手を触れていた。


 ハルは作戦のこともあり事前に先行して岩を砕いていたため、時間には余裕があった。その兵士の下で彼が何をしているのか見守っていた。

 その兵士は巨岩に手を当てて真剣に、その岩から何かを感じ取ろうとしていた。


「それは何してるの?結界の解析とか?」


「はい、結界の解析です。この巨岩に張られた結界が、どんな魔術で構成されているのか、探っているのですが…どうにも魔術防壁が張られているようで…」


 魔法の専門的なことにハルは疎く魔術のところまでいくと、急激に知識が乏しくなりついていけなかった。


「とても複雑で強固な魔術防壁です…これは……」


 そこで兵士が立ち上がった。


「何かわかった?」


「いえ、何も分かりませんでした。ただ、時間があれば分かると思うのですが、そうもいっていられません」


 巨岩は常に街に落下している。その間に巨岩に張られている結界の魔法を解析するのは無理ということなのだろう。


「それなら、これならどうかな?」


 ハルがその巨岩の表面に手を突っ込む。まるで水面に手を入れるように滑らかに結界などもろともせず、その中から岩を取り出した。


「これくらいの大きさなら解析できないかな?」


「おそらくですが、この巨岩を覆う形で結界が張られているようで、岩そのものには…ん!?」


 そこでハルが抜き取った岩に兵士が飛びついた。


「結界が形成されてる。破片にも!?ということは、この巨岩自体が一つの魔法…いや、ありえない、そうだとしたら、どこかで必ずマナ場が大きく乱れているはず…こんな強大な魔法を大気中のマナの力無しで発動し続けられるわけがない…」


「何か、わかったの?」


 そこで兵士が岩から視線をハルの方に上げると早口で説明をし始めた。


「私たちの仮説では、地下にいる巨大亀が、地下の岩盤を削り取って、その巨岩に魔法を掛けた後、転移魔法かなにかで、空から降らせているものだと思っていました。それなら、こうした異常な数の巨大な巨岩を空に降らせることも理論上は可能だと我々の方で結論が出ていました。ですが、今、こうして結界の外に切り離された巨岩にも結界の効果が付与されているということは、この巨岩すべて一から土魔法で創り出されたものという可能性があるということになります…」


「我々の仮説では、地下の岩盤から転移魔法の副次的効果である切断機能を使って実際の巨岩を切り出して、王都シーウェーブの空に魔法を付与した状態で落としているのだとばかり思っていました。それなら理論上マナのコストを抑えて連発して打ち続けることができます。ですが、一から山のような巨岩を生成するのには莫大なマナコストが掛かります。これほどまでのマナを消費する魔法となると、まず間違いなく大気中のマナに頼ることになります、エーテルが消滅した現在、魔法を放つために必要な要素はマナだけ、そうなると、ここら一帯のどこかで非常に激しいマナ場の乱れが生じるはずなんです。それにここまで大規模魔法となると、おそらく周辺地域では一切魔法が使えなくなる…そうなると………」


 兵士が語り尽くすと、ハルは少し戸惑いながら尋ねた。


「えっと、そうすると、何が分かったのかな?」


 兵士は考えを纏めてから少し遅れて答えた。


「緑死の湖にいる巨大生物は、この巨岩とは無関係かもしれません。あそこにはマナが溢れていたので…」


「え、じゃあ、この巨岩は誰が降らせているの?」


「わかりません、ただ、この巨岩と緑死の湖の巨大生物とは無関係だということは確かです。本体はおそらく別のところで、莫大なマナを消費して、この魔法を放っています」


「何のため…」


「それも分かりません。ただ、ひとつ考えられる仮説があります」


 兵士がどこか興奮気味に言った。


「聞かせてくれないかな?」


「まず、これほどの規模の魔法は、間違いなく人間では無理です。ただ、半神のような神性を得た人間の可能性も十分考慮する余地はありますが、神性を得そうな、いわゆる【神化】するような人間は我々がリスト化し管理しています。なので、その可能性もないと考えるとやはり、神獣でしょう。彼等には特殊な臓器がありますし、このような大規模魔法を単体でも放つことは可能でしょう」


「ならどうしてここに、巨岩を落とす必要があるんですか?他の場所にも落とした方が効率的に被害が拡大すると思います」


「神獣は被害が拡大することは考えていないと思います。人間に害をなすというよりかは、生物としての本能に従って行動を決定している。それは人間よりもより忠実にです。肉食獣がお腹が空いたら狩りをするように、もしも、この巨岩を降らせるという行為にも、神獣の動物としての行動価値があったとしたら?」


 ハルはそこで一度考えてみた。巨岩を降らせる理由とはなにか?


『なんだろう、巨岩を降らせて、その動物の得になることって…』


 考えてみたが特にこれといった考えはハルの頭には浮かんでこなかった。


「俺にはさっぱりです」


 頭上に広がる無数の巨岩がある空を見上げても何も思いつかなかった。


「神獣はマナを吸収して成長しているということは知っていますか?」


「ええ、まあ、それくらいなら、どこかで聞いたことがありましたね」


 騎士とは魔獣を殺すために、彼等が魔法を使えることは知っていた。しかし、マナで栄養補給していたことまではだいぶ怪しかった。きっとそういうことも剣聖時代に学んだとおもうのだが、すっかり、魔獣は魔法を使えるという知識に引っ張られて忘れていた。なにせ、ハルたち騎士は魔獣を殺しはするが生かしはしないため、単純に記憶から抜け落ちていた。


「七大国の各王都には膨大なマナが溢れる地脈があります。人々は古来からそのマナの地脈がある場所に国を建国してきました。それはマナによって土地が肥沃だったからです。ですが、それは魔獣たちにも当てはまります。四大神獣たちもまた生命維持のためにマナを欲しています。神獣となると相当な量のマナが確保できる場所でなければ餓死ししてしまうはずです」


「ということは、この巨岩は?」


「おそらくですが、場所取りの為だと考えられます。自分の住処に適しているか?安全地帯の確保という意味合いもあるのかもしれません。七大国の王都はいずれにしても神獣たちからしたら、マナが豊富にあるとても理想的な土地になります。ハルさんのご出身のレイド王国の王都スタルシアもかつては、神獣レイドの住処だったのですから、そう考えると、今回この巨岩を降らせている神獣がここを住処にするために攻撃を仕掛けて来ているという考えも、その、あくまで私が今この場で立てた根拠の乏しい仮説ですが、悪くない線ではあると思います」


 その兵士は兵士というよりかは学者に近い者だった。それでも、醸し出す強者の雰囲気は圧倒的で、大国の精鋭騎士クラスには匹敵するほど、実力はあると思われた。


『ドミナスの人間って、みんな、こう、文武に優れているのかな…』


 改めてドミナスのという組織の奥深さにハルが心底驚かされている時だった。


 割れた。


 ハルが血相を変えて、西の方角を見た。


 そのハルが人の変わったような気配を兵士が即座に察知したのか、岩から顔を上げた時にはハルの姿はどこにもなかった。


「シアード様?」


 その兵士だけがひとり空に浮かぶ、巨岩の上に取り残されていた。

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