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神獣討伐 湖に咲く花

 アシュカとエンキウの二人が、イゼキア王国西部にある『緑死の湖』付近の上空に現れる。


「お待ちしておりました。エンキウ様、アシュカ様」


 ドミナスの兵士が五つの光の輪を展開し、飛びながら礼をして出迎えた。


「それで敵はどこなのかしら?」


 エンキウが辺りを見渡しながら景色を楽しんでいるようだった。あたりは美しい森や平原にが広がっており、遠くに湖があった。


「目標まではまだ先でございます。この先に調査隊の者がいるのでその者の説明をお聞きいただきたく、ご足労をかけますが少し進みますがよろしいでしょうか?」


「いいけど、飛ばないの?」


 ここで言う飛ぶとは瞬間移動のことだった。


「飛んだ先が危険ということもあります。ので、お二人の安全を第一に考えてここからは飛行で移動してもらいたいのですがよろしいでしょうか?」


「まあ、そういうことなら」


 ゆっくりと兵士が飛行しながら、二人を先導した。


 瞬間移動にも欠点はある。それは飛んだ先の状況が不透明なことだ。万が一飛んだ先に危険があれば即死するかもしれない。確実性を選ぶなら目的地までは一気に飛ばずに安全な場所から移動する方が確実だった。面倒ではあるが、彼等はそのような手段をとって、アシュカとエンキウの身の安全を最優先に考え行動していた。


 ただ、二人からしたら、それは面倒でしかなかったが、彼等の配慮を無下にするわけにもいかなかったので素直について行くことにした。


 アシュカとエンキウの二人は空を歩きながらその兵士について行く。

 高度な空間魔法の技術に『〈空歩〉』と呼ばれる空間を踏む魔法があった。

 二人はそれを使って空を歩いていた。

 空を歩くことは神にだけ許された特権ではない。人ですら魔法という手段を用いれば空を歩くことも可能にした。魔法とはまさに人が神をまねる手段でもあった。

 しかし、この〈空歩〉とても複雑な魔術構造をしておりとんでもなく魔力を喰らう為、空に浮かぶという手段としてはかなり非効率であった。

 ただ、それを気にしないほど、アシュカとエンキウは魔法の達人でもあった。身体に施されたいくつもの補助魔法により、最適化された高密度で高速の魔力循環は、二人が魔法を扱う上で欠かせないものだった。

 素晴らしい魔法使いとはまさに、自身の体内にいくつもの魔法を宿す工場のようなものという考え方があった。魔術という部品でできた魔法という装置をいくつも自身の身体に上手く繋げて掛け合わせることで、どんな高度な魔法でも、負荷無しに扱えるようになることは、魔法使いの間では常識でもあった。

 しかし、ここ最近の魔導士と呼ばれる者たちの実力はその考え方が上手く浸透しておらず、技術の衰退が顕著に表れていると感じていた。魔法使いと魔導士は完全に同じ意味で、時代によって呼ばれ方が変っただけだが、魔導士と呼ばれる者たちの方が遥かに魔法への理解度や技術水準が低いのは確かだった。

 そのため、時代が進むたびに技術と知識を大事に継承しているドミナスの一強に傾くことは当然のことでもあった。


 アシュカとエンキウが兵士について行くと、湖の端にたどり着いた。


 そこにはすでに先遣隊の兵士たちが同じく飛行魔法で待機していた。


「状況は?」


 アシュカが尋ねると、ひとりの魔法使いが前に出て来た。彼女が調査員なのだろう。それでもリングの数は五つだった。


「ここから五十キロ地点の湖の中央。その地下に巨大な生命体の反応があります」


 それは事前の報告通りで変わりはないようだった。

 緑死の湖はこの大陸で一番広い湖だった。直径がおよそ百キロ近くあるところもあった。


「湖にもうその中央にいる生命体以外に神獣はいないんだっけ?山蛇とか?」


「はい、山蛇はすでにゼリセ剣聖が四大神獣討伐作戦の際に全滅させています。我々調査隊の調査の結果、神獣らしき生物は一体もいません。それどころか魔獣に値する生き物もです」


「そうか…」


 これだけ広大でマナも濃い場所に魔獣に値する生き物が一匹もいないのはどこか不気味なところがあった。


「エンキウはどう思う?」


「特段、他の脅威がないならもう始めちゃっていいんじゃないかしら?中央を一気に叩けば地下からその生き物も顔を出すでしょうし、パパっと片付けて早く、ハルさんにバトンタッチしましょう!」


「それもそうだね、それじゃあ、行ってくるからみんなには湖から離れるように言っておいて」


 アシュカがそう言うとその場の兵士たち全員が頭を下げていた。


「お気遣い感謝いたします。何かあればすぐに我々にご命令ください!」


 代表の者がそう言うと、その場から全員消えていた。


「それじゃあ、いこうか」


 ここは特別危険区域に指定されているため、近くにも人はいないため、被害がでるとしたら、ドミナスの者たちだけだった。まあ、誰が犠牲になろうが、アシュカもエンキウも気にするような人種ではなかったが、それでも組織の人間をむやみに殺すほど野蛮でもなかった。


 アシュカとエンキウは、安全を考えて五十キロの道のりを飛行魔法で飛んだ。二人とも八速で移動したため、あっという間に湖の中央にたどり着くことができた。

 途中、何体もの巨大な肉のつまった管を見た。山蛇の死体だった。


「気持ちいところね」


 エンキウは呑気に辺り一面綺麗な澄んだ湖を見渡していた。それでもよく下を見ると、湖のそこには山蛇と思われる死体が沈んでいた。山のように大きな蛇を両断したゼリセという剣聖の評価を改めてしまうほど、その底に沈んでいた蛇の死体は本当に大きかった。


「景色を楽しんでいるところ悪いけど、始めるからね?」


「ごめんなさい、つい、ここでピクニックをしたら最高だろうなって思って、あ、でもアシュカは来てくれないのかしら?ハルさんのこともあるし…」


「え、あぁ、うん、そうだね…」


「あなた変わってしまったわね。とっても良い方に、顔が生き生きとしているわ」


「そうかな…」


「ええ、自分の生きる道をようやく見つけたって感じね」


 エンキウのいいところはあまり誰のことも傷つけず前向きにとらえてくれるところだった。そんなエンキウのことをアシュカも友として好きだった。


「でも、ハルを連れて顔を出すかも…来てくれるかな……」


「それもいいわね、ハルさんのこと、私ももっと知ってみたいわ」


「ダメだ、エンキウにはノクスがいるだろ?」


「あら、もう、恋人って感じね」


「恋人じゃない、もう、妻になるんだ、私はハルのことをこれから生涯をかけて……ってもうお喋りはいい始めるから、エンキウも準備をしてくれ」


 アシュカが身体から大量の紅い球状の液体を生み出す。


「分かったわ」


 その隣でエンキウが大量の宝石を手から生み出す。そして、その宝石をアシュカが生み出した紅い球状の液体の中に埋め込んでいく。


 そして、大量にその紅い液体に入った宝石の球体を生み出すと、アシュカが唱えた。


「形状は針」


 アシュカのその一言で、宝石を含んだ紅い液状は一気に鋭い針となり、液体から鋼のような強固な個体に変わった。


 アシュカが手を振り下ろすと、一斉に辺りに漂っていた無数の針が凄まじい速度で湖へと突っ込んでいった。


「合図をするからそこで頼む」


「わかったわ」


 アシュカが目を閉じて集中する。


 しばらくしてから、アシュカが目を開いて、言った。


「エンキウ、いまだ」


「はーい。〈宝石の超爆発(ゲムマボンバー)〉」


 直後、緑死の湖の中央には信じられないほどの高威力の爆発がすべてを包み込んでいた。数十キロはくだらない爆炎の柱が上る。辺りの空気は一瞬にして灼熱に変わり、湖の中央の水が一気に蒸発する。もはやそれはひとりの人間が放っていい類の爆発ではなかった。


 街一つ消し炭にする威力のたった一回の爆発が、緑死の湖の上で花咲いていた。

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