婚儀乱戦 白光
外界との関係を遮断すれば、それで誰にも邪魔されない、楽園ができると思っていた。愛する人とその枠の中で互いの死が訪れるまで、暮らしていければなって、そう思った。外の世界はあまりにも不特定多数の危険に溢れているから、数奇な運命が、いつ愛する人たちを不幸にする。そう考えれば考えるほど、内に閉じこもり誰もどこにも行けないようにして、自分の目の届く範囲で、誰の目にも触れないところで、余生を過ごせたら、幸せになれるんじゃないかって、だけど、みんながみんな自分の傍にいてくれるわけじゃない。キャミルやエウスはこれからレイドの表舞台に立って、国の舵を取って行かなきゃならない。みんながみんな、楽園に閉じ込めるわけにはいかない。それに、自分を愛してくれる人たちが楽園でずっと自分のことを愛してくれるとも思っていない。ビナには家族がいるし、ガルナにだってずっと支えて来てくれたオリア家がある。ライキルだって、そうだ道場にもどっておじいちゃんや、おばあちゃん、道場のみんなと顔を合わせたいというだろう。そうやって、外の世界と少なからず関りを持ちたいはずだ。それを一切断ち切って彼女たちを縛り付けるなんてことは、本当は力づくだってやっちゃいけないってことは分かっていた。そんな窮屈な生き方きっとみんなは望んでいないことを知っていた。
本当は皆でいつまでもレイド王国で幸せに暮らせたらってそう思っていた。エウスが王でキャミルが女王で、その下でまた剣の指南役でもやって、みんなが自分のことを守れる剣を覚えて、そうやって、一人一人が理不尽に立ち向かえるほどの力を持って、毎日、幸せに暮らせれば、それは何よりも幸せなことだったのかもしれない。
だけど、そんなことが無理なことは、ここまで来てよく知っている。
皆がどれだけ研鑽を積んでも、白虎には灰も残さず消される。黒龍には斬り刻まれる。火鳥には焼き尽くされる。純粋な悪意の下敷きになり、神の意思の前では犠牲になる。愛する人達はそれほど脆い存在なのだ。
だから、ハルは、逆をすることにした。
愛する人達を囲い、自分の世界を築くのではなく、世界に蔓延る敵を殲滅し、愛する人達を解放する。それが、ハルが白き者としてこの世に顕現して、最初にすることだった。愛する者たち以外の全てをこの空に輝き始めた【白光】で、この世の全ての敵を焼き殺すことにした。人も神も獣も化け物も関係ない。ハルが展開した白い光の前ではすべてが無に帰す、裁きの光だった。
白い光を完全に放つにはまだ時間があった。しかし、誰もこの現象について理解しているものはいなかった。
世界滅亡までのカウントダウンは、もう、すぐそこまで近づいていた。
それでも、すべてが手遅れになる前に、振るわれた黒剣だけが、終末に抗う最後の剣だった。
それは、紛れもなく支配の剣だった。
剣がハルを覆う見えない壁に衝突する。
ローブが衝撃で飛ばされた。
黒き剣の主が姿が露わになる。
そこにいたのは、ドミナスの王にして、夜を統べる者。
四肢を失い横たわるエンキウの霞む視界に、その彼の後姿を見ると、彼女は彼の名前を呟いていた。
「エルノクス」
エンキウにとっての最愛の人が、ひとり孤独に、絶対者に抵抗していた。
夜の終わり。
白い光が地上を満たすまであとわずか。