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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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雨の日 服の森 服の海

 ハルとガルナが遅れて店の前に来きた。

 この店の前には屋根がついており、その下にはちょっとした休憩できるスペースがあった。

 ハルがお店の扉を開けると、店のカウンターの近くにみんな集まっていた。


「広いな…あ、みんないるよ、行こうガルナ」


 お店の中はとても広く豪華で、内装のイメージは青で統一されていた。青いカーペットに青いカーテン、しかし、どれも商品のイメージの邪魔をしないように深く暗い青を採用していた。

 建物の中は、一階にメインの服がたくさん置かれていた。二階には、ドレスコーナーがあったり、一階を見渡せるような場所もあった。

 ハルとガルナがみんなに合流すると、ちょうどこの店の主人と思われる人が挨拶をしていた。


「皆さま、今日は起こし頂きありがとうございます、私はこのお店の主人の【ルフシロン・アイオラート】と申します。気軽にシロンとお呼びください」


 そこにいたのは白髪のエルフの男性が立っていた。とても丁寧な口調に、落ち着きのある彼は、若く見えたが、エルフの見た目と年齢はあまり一緒にして考えない方がいいことは他の種族は知っていた。

 エルフは他の種族より寿命が長いため、見た目だけでは、だいたい彼らがどれくらい歳を重ねたか分からなかった。

 それは同族のエルフでさえ大きく間違えることがあるため、他の種族の人々たちからしたら見分けがつかなくても当然だった。


「シロンさんは、今日、俺たちのためにこの店を貸し切りにしてくれたんだ、ちゃんと礼を言うように」


 エウスがみんなに説明すると、みんなはシロンに挨拶をしていた。

 その後、みんなはそれぞれ自分の好きな服を探しまわった。


「ハル、来てください、一緒に見て回りましょう!」


 ライキルはハルを捕まえて店の奥に引っ張って行った。


「ライキルそんなに焦らなくても大丈夫だよ」


「いえいえ、時間は有限です、たくさん見て回りましょう!」


 ハルも楽しそうにはしゃぐライキルを見て嬉しそうに彼女の後ろ姿を見つめたが、ふと思うことがあり、後ろを向いた。

 みんなそれぞれ服を選びに行ったのか、先ほどの場所に残っているのはエウス、リーナ、ルフシロンだけだった。

 その三人は楽しそうに雑談をしているようだった。


「………」


 ハルとライキルは、周囲に飾られた、たくさんの色とりどりの服の中を抜けていく、その服たちは、木でできた人の形をした人形に着せられていた。木でできた人形たちは、大小さまざまな大きさがあり、人族だけではなく、亜人種を形づくった人形まであった。そこはまるで服の森のようだった。

 二人はその森から相手に似合いそうな服を持ってくることにした。


「それじゃあ、ハル、決まったらあの試着室の前で」


「分かった」


 二人はそこから服の森の中で、相手に似合う服を選び始めた。


『相手の服を選ぶって難しいな』


 人に何かを贈るということになれていなかったハルはかなり苦戦した。

 ハルがそのように一人で悩んで行動していると、ベルドナとビナが服を選んでいるところを見つけた。


「やあ、お二人さん」


「あ、ハル団長!」


「ハルさん!」


「ちょっといいかい?」


 ハルは二人にライキルの服を探していることを伝えて、女性の二人に何かいい服がないか聞いた。

 そしたらビナとベルドナは急にハルの近くに迫った。


「ハル団長!!!」


「ハルさん!!!」


「な、なんでしょう…?」


 急に二人が自分に迫ってきたため、ハルは少し気圧されてしまった。


「私、ハル団長が選んでくれたものなら何でも嬉しいと思いますよ!」


「そうです!ハルさんが一生懸命考えて選んだものなら、ライキルさんは絶対喜んでくれますよ、だからセンスなんてどうでもいいんです、ハルさんがライキルさんに似合うと思ったものを自分で選んであげてください!」


 ビナとベルドナの目はハルに強く訴えかけていた。


「………!」


 ハルはそれを聞いて何か大切なことを気づかされた気がした。


「そっか、二人ともありがとう!俺、ちょっと服探してくる!」


「はい!がんばってください!」


 ハルが服の森の中に消えると、二人は嬉しい気持ちになって、お互い笑ってしまった。自分たちの熱い気持ちが彼にちゃんと伝わったような気がしたからだった。


 ハルはそのあと自分で、悩み考えながらもライキルのために服を選び取った。

 それからしばらく時間が経ち、ハルが服を抱えて試着室に向かうと、すでにライキルが試着室の前で待っていた。


「ごめん、遅くなって」


「いえ、大丈夫ですよ、私も時間かかっちゃいましたから」


「それじゃあ、これ、ライキルの」


 ハルが恐る恐る彼女に手渡すが。


「わあ、ありがとうございます!」


 ライキルは嬉しそうにハルの服を受け取った。

 二人はそれぞれ服を交換して試着室に入った。

 ハルが服を着ると、それはとても落ち着いた色の服で構成されていた。ハルも着てみて、いつも自分が選んできているどの服よりも自分に合うと思った。


「やっぱり、ライキルはセンスがいいな…俺の選んだ服は大丈夫だろうか…」


 不安を抱えてハルが試着室を出ると、ライキルも着替え終わって試着室の外に出てきた。


「ハル!この服とってもカワイイです!私、気に入りました!」


 嬉しそうにハルの前でとびきりの笑顔で笑った。

 ハルが選んだのは比較的シンプルな、白色のワンピースだった。上下がつながった服であるワンピースは、上は袖がなくライキルの肩が見えた、下はスカートになっていて、彼女の鍛えられた健康な足の膝上あたりでゆらゆらと揺らめいていた。


「喜んでもらえて良かったよ、それにライキルの選んでくれたこの服、俺も気に入ったよありがとう!」


「はい!」


 ライキルの笑うその表情から、彼女が幸せの中にいることが伝わってきた。そんな彼女を見たハルも幸せな気持ちになった。



 そのあと、二人は元の服に着替えて、二階のドレスコーナーを見て回った。そこにはパーティーや結婚式で使うドレスがたくさん並んでいた。

 ライキルはその綺麗なドレスたちをうっとりした表情で眺めていた。


「綺麗…」


 ライキルがつぶやいた。

 彼女の立つ場所を取り囲むように並べられたドレスは、エルフやドワーフ、のために大小さまざまな大きさがあり、獣人族や竜人族のために作られた特殊なドレスも置かれていた。

 どのドレスも一つ一つ丁寧に作られており、同じものは一つとしてなかった。

 ハルもたくさんの綺麗なドレスの迫力に圧倒されていた。


「すごいな…」


 そんな隣にいるハルに気づかれないようにライキルは彼の顔を見つめた。


「………」


 その視線にはハルが気づきライキルを見返した。


「綺麗だね」


 その言葉を聞いたライキルの顔がものすごい勢いで赤くなった。


「え、あ…」


「この、ドレスたち!」


 ライキルは即座に理解して、勘違いして聞き取った自分が恥ずかしくなった。


「ああ!そうですね!!とても綺麗です、綺麗すぎます!!」


「大丈夫?顔赤いけど…?」


「だ、大丈夫です!な、なんでもありませんよ!次、行きましょう」


 ハルとライキルは、二階のドレスコーナーを見終わると、一階全体を見渡せる場所に来た。

 二人はそこから一階を見下ろした。

 青いカーペットが広がるそこは服の海の様に見えた。そのなかでは、みんなが楽しそうに自分たちの気に入った服を探していた。

 それをハルとライキルは静かに見守っていた。


「…私、今日ここに来れて良かったです」


「俺もだよ…」


 ライキルがハルの横顔を見る。

 彼は目の前に広がる服の海を見回していた。


『ちゃんと言いたいけど…ダメだ…でも…』


「あの…わたし……」


 ライキルがそう何か言おうとして、恥ずかしそうに下を向いてしまったとき。


「ごめん、ライキル」


 ハルが言った。


 その突然のハルの言葉に、ライキルは少し驚いて彼の方を向いた。


「………あ…」


 そこには、とても真剣な顔つきをした、ハルの姿があった。

 ライキルは、ハルがその表情をするとき、どんなことをするか知っていた。

 それはハルが、人を助けるときや誰かのために行動するときの顔で、何回もライキルは、彼のその顔を見てきた。


「少し外すよ」


「はい…」


 そう言うとハルは、一階に降りて、どこかに行ってしまった。


 ライキルもハルの姿が見えなくなると、一階に降りて、みんなが最初にいた広間の方に向かった。

 そこには、ライキルしかいなかった、店のカウンターに、さっき二人が選び合った服を置いた。


「………」


 ライキルは、遠くから聞こえてくるみんなの笑い声を一人で寂しく聞きながら、ふと、出口の方を見た。


「………………あ…」


 そして、ライキルはそこで見たものと、今日の自分の行動を振り返った。

 そうすると、彼女の頭の中に様々な感情が入り乱れた。


『私は……最低な女だ…』


 ライキルは、その場に立ち尽くしてしまった。





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