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救済と罰

 目を覚ました時、最初に感じ取ったのは眩しさだった。青空が眼前に広がっていた。


『俺は死んだのか…?』


 深い青空に吸い込まれてしまいそうで、遥か遠くにぼんやりとした月が朝の空に浮かんでいた。


 しかし、そこで通りかかった兵士を見てそれがブレイドの隊員であることを知ると、ここが死者の国なんかじゃないことを知る。


「おい、ジュニアスか…?」


「うわ、びっくりした!!!」


 黒髪に金色の瞳の爽やかな青年がびっくりしてその場にしりもちをついては、ぶつけた箇所を痛そうにさすっていた。


『こいつがいるってことは俺は助かったのか…』


 キングスはここが現実だと改めて実感していくと体を動かそうとした。


「グっ、………だめか…」


 キングスが自身の体を自力で起こそうとしたが、全身が麻痺したように動こうとする意志が削がれたかのように、指先ひとつ動かすことができなかった。

 これはキングスも自身が覇人化をした後遺症だということを自覚はしていた。


「無理ですよ、隊長。いまのあなたじゃ絶対にどこも動かせませんよ」


「そうか…」


 キングスも諦めて黙って青空を見上げる。そこには上から覗き込むジュニアスがおり、彼がしゃがんでキングスの身体に手を翳した。


「念のため、もう一度白魔法を掛けておきます」


 そうするとジュニアスの手から柔らかい光がキングスの身体を優しく包み込んだ。


 治療を受けている間キングスが彼に質問した。


「そういえば、ここはどこだ?砦はどうなった?」


「砦は地の底に落ちました。ここはその砦があった場所の門前にあった一本道です。ここまでは崩落は広がりませんでした」


 ジュニアスとキングスのすぐ目の前には、崩落して欠け落ちた地盤の跡があり、綺麗にぽっかりとそこから先が無く、覗き込むと断崖絶壁が広がっていた。

 どうやらキングスは、いまだに山頂付近におり、化け物と対峙したこの砦へと続いていた一本道の途中で寝かされているようだった。どおりで陽の光はやけに眩しく、どこまでも澄んだ爽やかな空気が肺に入って来るのを感じていた。


「………」


 ただ、そこでキングスはおかしなことに気付く。


「砦が崩れた時、俺は落ちたと思ったんだが?」


 その疑問にジュニアスも頷く。


「ええ、私も皆さんが崖下に落ちていったと思いました。正直、砦ごと地滑りした時は何も考えられなくなりましたよ…」


「じゃあ、なんで俺は今、ここにいる?」


 キングスが眠っていた場所は紛れもなく地の底からは程遠い山頂付近の景色だった。


「実はそれがよく私たちにも分からなくて」


「なんだと?」


「嘘じゃないんですけど聞いてください。私は砦が崩れる前もこの一本道に連れてこられた人たちの傷を癒してたんですけど、砦が崩れてから数分後に急に目の前が真っ暗になって…」


「真っ暗ってどういう意味だ?」


「言葉の通りです。患者たちを治療してたら急に意識を失ってしまって、それで…」


 そこで彼が言いよどむのをキングスが不思議に思うと、彼を急かし続きを話させた。


「それでなんだ?」


 ジュニアスは言いずらそうに口を開いた。


「それが治療していた患者たちが皆殺しにされてて…」


「………」


 重たい沈黙が流れた。しかし、それでもキングスには周りではとても騒がしく人々の声が聞こえて来ることを知ると彼の言っていることがおかしいとすら思った。


「待て、今回どれくらい死者が出た?」


「大勢死にました、救えた人はひとりもいませんでした…」


 悔しそうにジュニアスが奥歯を噛みしめるが、キングスが聞きたいのはもっと仲間のことだった。


「俺たちの被害はどれくらいだ?ブレイドの兵士は誰が死んだ?」


「え、ああ、ブレイドの被害はゼロです」


「なに!?」


 驚きのあまりキングスは少しの間言葉を失い。これが夢だとすら思い始めていた。


「………」


「隊長、私がさっき意識を失ったといいましたよね?」


「ああ…」


「私の救助班が目を覚ました時に、救助されて来た砦の人たちは皆殺しにされていたんですが、かわりに、大量の気絶したブレイド部隊の仲間たちが私たちの目の前に山積みにされていたんです。その中には隊長、あなたもいたんです…」


 キングスは言葉の意味を理解しようとするが、覇人化した後の疲労たっぷりの頭では、上手く彼が言った複雑な事象を処理するのに時間が掛っていた。いや、たとえ正常でも今彼がいったことの意味が分からないものであることは、次第に理解が進むと分かってきた。


 彼も言葉を補足するように話をまとめた。


「信じてもらえないかもしれませんが、砦の人間は全滅で、ブレイド部隊は死者ゼロ。今回の任務はこれで終了です」


 対峙した化け物の中から聞いた声、部隊内の死者ゼロで、砦に元からいた者たちは全滅。落ちた砦にいたはずの自分がこうして山頂付近の道で治療を受けている事実。


 何もかもがキングスに混乱を与えていた。


「俺は最低でも確実にひとり死んだところを見た……化け物の口の中に飲み込まれるのを見たんだ…」


 そう呟いた時だった。

 タイミングよくキングスが求めていた人物が現れる。


「ジュニアス、こっちも見て欲しいんだけど……って、隊長!?起きていらっしゃったんですか!?」


 目を疑った。

 そこには喰われたはずのアストル・クレイジャーが五体満足の姿で立っていた。


「なぜ、お前が生きてる?」


「隊長、良かったです。もう、目覚めないかと思いましたよ…」


 アストルが隊長のもとに来ると正座をして座る。そして、彼の声で後ろにいた隊員たちがドッと押し寄せて来た。


「おい、みんな隊長が目を覚ましたぜ!」

「心配しましたよ!」

「あんたどんな生命力してんだ!」

「やっぱ、俺たちの隊長が一番なんだよなぁ」

「よく、あんな化け物の倒しましたね」

「ていうか、どうやって俺たち助かったの?」

「最後、見ましたけどあれ、下手すれば隊長死んでましたよね?」

「ねえ、ちょっと私にも隊長の顔みせてよ」

「隊長、マジであんた漢だよ」

「キングス!キングス!キングス!」


 彼の名前を叫び続ける愉快に喜びを分かち合う仲間たちの姿があった。


 そんな彼らのことを見ていると、こうして生きていることに対する不思議も忘れて、今はこの喜びをみんなで分かち合うに限るしかなかった。


「お前ら、わかったから、撤収だ、家に帰るぞ」


「おう!!!」と全員の揃った声が山頂にこだました。


 空はどこまでも澄み渡り、輝きに満ちていた。


 そんな騒いでいるブレイド部隊たちの道の先には、ひとりの女性と思われる死体があった。


 誰にも気づかれないその死体には、胴体を一突き心臓を貫かれ、ぽっかっりと穴が開き、さらには頭が踏みつぶされては粉々に砕け散っていた。


 生きていることを喜び合う光の中にいた生者たち、その影には無残な死体が転がっていた。


 最後の砦を支配していた盗賊団はその日をもって全員の死をもって終わりを告げた。


 スターダストに現れた怪物によって…。

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