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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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別れ

 城壁の城門に、神獣討伐に志願した兵士たちを待機させていた。


 ハルもそこに急ぎ駆けつけるはずが、王城の庭園にカイがいるのが目に入った。


 吸い寄せられるように、庭園の花のアーチをくぐった。


 カイがハルに気がつくが、すぐに花壇に向き直り、花を愛でに戻る。


「カイ、祝いの言葉を、言い忘れていたよ」


 庭園には、重苦しい空気が漂っている。


 ハル自身もカイに嫌われていることは十分自覚していた。


 ただこの時、カイと会話せずには、いられなくなり、気づいたら声をかけていた。


「お前からの祝いの言葉などいらん」


 不快そうな表情から、気に食わない奴に話しかけられて、苛立った様子だった。


「分かっている、お前が嫌っているのは」


「ならさっさと行ってくれ、お前は今日から特別任務だろ、急げよ」


 突き放す言葉だったが、ハルはそれでもカイに感謝を告げたくなっていた。


 数年と短い時間だったが、魔獣退治や任務を、共にこなしてきた騎士団の仲でもあるからだ。


「カイ、ありがとう」


「分かったから早くいけ、部下を待たせているんだろ」


「ああ、邪魔をした」


 ハルは城壁の門まで歩き出す。


 その姿が完全に見えなくなる。


 青い花が咲き乱れる庭園の中で、カイは一人呟く。


「王国のために無駄死には許さないからな…」




 *** *** ***




 城壁の門をくぐると、兵士達は物資の積み込みの最終チェックをしていた。


 そこには先に謁見の間を出て行った、ビナも兵士達と打ち合わせをしていた。


 全体で百人ほどの規模で、荷馬車と兵を乗せる馬車がそれぞれ五台づつあり、他のものは軍馬に乗って移動する手はずだ。


「遅いですよ、ビナ隊長と一緒ではなかったのですか」


 そこにはライキルとエウスそしてキャミル王女も護衛を連れていた。


「すまない、少し用事を済ませていた」


 そこに先ほど、兵士たちと話していたビナがハルに出発の準備ができたことを伝えた。

「ハル団長、荷馬車の準備できました」


「ありがとう、みんなに出発の用意をさせてくれ、すぐ出る」


「はい」


 ビナの小さい体が、左右に揺れて、走っていく。


「もう、行くのね」


 キャミルの珍しく、弱々しい声が、ハル、エウス、ライキルに聞こえた。


 彼女自身、今回の任務の重さを理解していた。

 そこからくる、親しき友たちとこれで最後かもしれない、不安はひどくその声色を暗くさせた。


 そこに、エウスが彼女の手を取っていう。


「ほら、ちょっとこっち来てくれ」


 そういうと、エウスは、ハルとライキルの手も引っ張って、四人の手を重ね合わせた。


「キャミルさん、大丈夫だ」


 その真面目さを含んだエウスの声に、俯いていたキャミルの瞳がエウスを捉える。


「俺たちは、どんなに離れていても、いつも一緒だ。決して今回が今生の別れじゃない、大丈夫だ」


「そうだよ、キャミル、俺がエウスもライキルも王国の騎士たちも守るよ、だから安心してくれ、俺は元剣聖だよ」


 ハルもエウスに続いて言った。


「私たちは必ず帰ってきます、だからキャミルは、私たちの無事をどうか祈っていてください」


ライキルが優しい目でキャミルを見ながら言った。


 この温かさを忘れないように、キャミルの手に力が入る。

 三人が来てから、彼女の人生がずっと楽しく温かい方向へ向かっていた。

 退屈が吹き飛ぶイベントの連続だった。

 それも今日で一時の終わりを迎え、さらにそれが永遠になるかもしれない。

 彼女はいっしょに過ごした時間、一回も後悔したことなどなかった。


 覚悟は自然と決まる。


 その瞳は未来をしっかりと見据え始める。


「ありがとう、もう大丈夫、エウス、ハル、ライキル、みんなを信じて私もずっと待ってますわ……平気ですわ」


 三人がキャミルの言葉に小さく頷く。


 握られていた手が、解け、キャミルが三人の間を通り抜け、騎士たちの前に出る。


 そして彼らに叫ぶ。


「我が勇敢な王国の騎士たちよ!」


 王女の突然の大声に皆、彼女に注目する。


「どうか無事に帰ってきて欲しい。私はあなた達の旅の無事を祈っているぞ!!!」


 その王女の声援に兵士たちも拳を掲げ、声を上げて応えた。


 そしてハル率いる、部隊は拠点となる古城『アイビー』に向けて、王都を後にした。










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