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彼がいないときはいつだって

 約束の日まで期限が迫っていたことを焦ることはなかった。こうしてみるとよくやったほうだと思う。それを探すのに手間がかかったし、労力だって相当なものだった。ただ、済ませてしまおうと思えばそれは一日あればできることでもあった。しかし、欲しかったのは目で見れる実体であり、恐れを呼ぶ真実であり、理解できる死あった。仮に気づきもしない内に奪ってしまえば、人々は何も知らないままこの地に再びやって来ては、我がもの顔で居住地を構え悪事に精を出すのだろう。


 これは警告であり、裏で糸を引いている者たちへの脅迫でもあった。


 ただ、もしかするとそれは自分自身の存在証明だったのかもしれないと、足裏にこびりついた罪の感触から実感してしまうと、日に日に自分を自分ではないものに変えられているような気がして怖かった。


 それでも毎朝おはようと屈託のない笑顔を浮かべてくれる彼女のことを見ていると、自分はまだ大丈夫なんだと心を落ち着かせることができていた。きっと、そのような存在は今後待たせている彼女たちのことも考えると必要不可欠なものだった。

 フレイからは贅沢だと言われてしまうかもしれないが、自分にとって今のルナには自分が自分で居られるための基準として傍にいてくれていた。

 ただでさえ、自制しないと愛を失った獣のようなささくれた心が自分を人間離れさせようと暗闇へ誘うのに、もしも彼女のような自分が元に戻る基準が無くなってしまえば、夜空を喰らうあの忌々しい首なしの化け物の姿から戻ってこなくなるかもしれなかった。

 そうはなりたくないと思う反面、心のどこかでその化け物の姿で暴れまわっている時の自分がどこか爽快に感じ始めていることには危機感を持った方が良かったのかもしれない。

 ただ、それも自分の根源的な欲求の内に人間を嫌うことがほのめかされている以上、どうしようもないことだった。


 この魂にこびりついた人間嫌いはいったいどこから生まれたのだろうか?

 なぜここまで人を嫌い憎むような感覚が心情の前提に押し出されているのか?

 きっかけはどこにあったのか?


 それはもしかするとまだ自分の知らない真実に身を潜めているのかもしれないと思うと、どうにも釈然としない気分であった。


 自分で自分の記憶を失った間に何があったのか?以前の自分ならこの感情を理解できたのか?

 何となく、その答えは、自分の知らない記憶の裏側に隠れているような気がしたが、そんなことをいくら考えようと答えが出ないことは明白だった。


 だから、こそ、ハルは前を向いた。

 それは無理やりだったのかもしれない。

 自分勝手な理想を掲げては、それが実現できるように行動した。


 愛する人たちのため何て言うと、きっと、怒られてしまうのかもしれないが、これだけは覚えていて欲しかった。


 ハルという人間ほど愛に溺れているものはいないということを。


 彼は愛する者たちの為なら何だってするのだ。


「待ってて…」


 ***


 さて、ザイード卿との約束の日が近づいていたため、急遽、残っていたスターダスト山脈の残党を残らず殲滅することにしたハルは今日も、首なしの化け物の姿で、夜の雪山の中を駆けまわっていた。


 お供にはフレイがいた。


 彼女を連れ出した日以来、夜抜け出して悪党狩りをする際には彼女も同行していた。

 移動中は化け物状態のハルの肩に乗って、落ちないようにハルが彼女を触手で固定していた。


 二人が目的地に着くと早速ハルが砦へと単騎で飛び込んでいった。


 彼女も優秀な兵士ではあったが手出しは一切させなかった。なんせやることは難攻不落な砦に首なしという名の化け物であるハルを一体投入すれば、ことは済むのだから、彼女の出番が来るはずもなかった。


 ハルのする砦の攻略は簡単だった。

 ジャンプして砦の中央に降り立つ。

 右手であたりの建物を粉砕し人間たちを一掃する。

 後は逃げまどう残党を無数の触手たちで確実に仕留める。

 以上。


 実際はハルが拳ひとつ本気で振るえば、人や建物が建っていた形跡を残さないほどの更地を一瞬で生み出すことができたが、あくまで見せしめの意味合いも兼ねていた。ただ、それでもその場にいた人間を必ず全滅させていた理由は、逃げ延びた彼らが他の村や町を襲わせないための配慮でもあった。


 それでもハルが殺せなかった者も中にはいた。それは無知で無害な者で、仕方がないといえた。むしろあの状況で生かしてしまった方が残酷だったのかもしれないと、あの少女のことを思うと、やはり、一人残らず殺すことは必要なことだった。


 真っ暗闇だった空に、星々の光が姿を現し始め、冷たい風が首なしの触手たちを揺らした。


 そして、その首なし化け物が血肉と瓦礫の山となった砦を見回しあたりの静寂を確認すると、遠く離れた見晴らしのいい山頂にいた、フレイの元に戻った。


「お疲れ様です」


 フレイの前に化け物が着地すると、彼女が警戒することもなく駆け寄って来る。

 首なしの化け物のはらわたを切り裂いて、ハルがどろりとフレイの前に姿を晒す。

 フレイが背負っていたバックの中からタオルを取り出して、ハルのどろどろの黒い体液だらけの身体を拭きにかかる。


「ありがとう、自分でやるよ」


「少しは手伝わせてください、何かお役に立ちたいんです」


 このことを打ち明けてから彼女からの敵意のようなものはすっかりなくなっていた。それどころか、恐い位までに従順になってしまい、ハルは少しだけ申し訳なく思っていた。


 それもこれもきっと彼女に見せたこの化け物の姿はショックが大きかったのだと思った。


「それなら、地図を見せてくれないかな?」


「はい、すぐに」


 ハルは全身をタオルで拭きながら、彼女が地図を取り出すのを待った。


 フレイがハルの目の前で地図を広げて見せた。


 そこにはいくつものバツの印がついた砦が書き記されており、バツが付いていないのは残り二つだけだった。

 それはザイード卿から情報提供された【スモーク砦】の位置であった。最初は、十か所程度しかなかったが、ワイトにも相談して、事の経緯を説明してからは、彼と共に砦ありそうな場所を推測しては、実際にハルが調査に行き、さらに多くのスモーク砦を発見するに至っていた。

 そんな努力と労力の結晶であったこのスモーク砦の地図もあと二箇所バツを付ければ用済みということだった。


「残り二か所か、それにひとつはあの教団か…」


 ザイード卿からこの砦の数を減らす依頼を受けたのは、ハルが、自分の目的を遂行する為でもあった。


 楽園創造計画。


 これを成し遂げるためには彼の協力が必要だった。ハルが外界との関りを絶ち切るという理由のためだけに特別危険区域をその楽園に指定するというのが狙いであった。その楽園はレイド国内で厳密に保護し誰も他の人間が入って来られないように管理するところまで、ハルは要求を求めていた。


 しかし、その要求を呑むまでに、ハルは三つの問題を解決しなければならなかった。


 そのひとつがスモーク砦ということだったのだが、これはすでにもう、終わっているようなもので、残りの教団も明日片付けるつもりでいた。

 黒騎士に関しては神出鬼没なため、手こずることが予想できたが、少なくともレイドでの目撃情報があるため僅かながらも希望はあった。


 そして、片付けなければならないことは、残りの日数が迫っていた王族殺しに関する襲撃の件に関してもそうだった。この件はハルも見過ごすことができず、何よりも、ハドー家の現レイドの国王であるダリアスと、王女であるキャミルのことを考えれば当然のことだった。

 彼等はハルのことを一切覚えていないが、それでも受けた恩や友人としてハルは何が何でも彼らを守りたかった。

 それにいつかキャミルの隣に立つべき彼のことも考えると、なおさら、ハルは全力を出す気だった。


 それはハルの希望でもあり、彼との約束でもあった。


「フレイ、今日はもう帰ろう、決着は明日つけよう」


「はい、わかりました。なら明日は私もお供させてください、命を懸けてでも貴方のお役に立ちます」


「そんな、大げさなことじゃないよ、むしろ今日より早く帰れると思うよ」


 真っすぐな彼女の瞳に、ハルは困ったように笑い言った。


 それからハルは身体のドロドロを落としきって、フレイの傍に近寄った。移動するために彼女のことを抱きかかえなければならなかった。


「準備はいいかな?」


「はい、お願いします」


 ハルの後ろでは、抜け殻となった無数の触手を生やした首なしの化け物がドロドロと溶けて形を崩れ始めていた。


 フレイのことを軽々と抱きかかえると、歩き始めた。

 しかし、フレイはハルが歩き始めたことを認識することはできなかった。


 なぜならハルの歩く世界の時間は止まってしまっていた。


 もはや見慣れた光景だった。

 意識を自分の内側に向け加速させると周りの時がゆっくりになり、やがて世界の時がハルだけを除いて止まってしまった。

 それも自分が加速しているのではなく、世界の方が止まるという形で発現するこの現象にはハルでも説明をすることができなかった。

 しかし、結局のところハルはこの能力が時間軸へ干渉する際に発動する副次的な効果であることが分かると、便利なので移動や戦闘などの時に多用していた。ただ、その時間を止める行為は、意識の加速をすることによって始まり、それを止めなければ、そのまま、未来の時間軸へ自分だけ飛んでしまうため、ずっと止めてはいられなかった。


 それでも便利なことに変わりはなかった。

 その停止した時間の中ではどれだけ加速した状態で移動しても、移動したという結果だけが残るだけで、周りに影響を及ぼすこともなかった。

 止まった時間の中ではまるで別の世界の法則が適用されているような感覚があり、ハルもこの副産物のような能力を上手に使っていた。


 そして忘れてはいけないことが、この能力の本来の使い方だった。この意識の加速させた先にある結末が、別の時間軸への移動であったことをハルは、つい最近あったスフィア王国の戦闘で知った。


 時間軸の移動を体感で表すと、今いる世界を基準に少し先の未確定であるが限りなく基準の元の世界が続く確率の高い未来に自分の意識を飛ばすというものだった。何もかもが推測でしかないのはそもそも、その意識を加速させた先にある景色が未来と言い切るにはあまりにも不確かなことばかりで、何も証明のしようがなかったからであった。それでも、確かに基準とした世界にその未来で起こした影響が干渉できることは、実践済みだった。


 しかし、そんな自分でも完全に理解してない扱いずらい力よりも、自身の天性魔法の闇で生み出した化け物で暴れるほうが使い勝手は良かったと言えた。


 とそんな何もかもが止まった世界でハルは、フレイを抱きかかえたまま、スターダスト山脈の山頂から一瞬でホーテン家の屋敷の前まで移動した。


 時間が加速し元の時間の流れが帰って来ると、相変わらず、フレイがどうやって一瞬で移動したのか、真剣に考えている様子だった。


「もう朝になっちゃうね…」


 夜明けまで残りわずかだった。


「私は薬を打てば一週間は眠らずに活動できますので何も問題はありません」


「そんな無理しなくていいよ、今日はボディーガードはおやすみにするからゆっくりしてて」


「ダメです、私はお二人の役に」


「じゃあこれは命令、フレイ、今日はもうゆっくり眠って、良い夢を見なさい」


「それでしたら、私はお二人の夢を見ます」


 彼女の発言にハルは困ったように眉をひそめたが、彼女がそれでいいというのならそれでよかった。


「う、うん、よし、じゃあ、今日はもうおやすみ」


「おやすみなさい、ハルさん」


 ハルとフレイは屋敷の中に戻った。

 静まり返ったロビーでフレイと別れたハルは寝室に向かう前に、シャワーを浴びて身体を洗った後、服を着替えてルナが眠る寝室へと向かった。


 扉を開けると、そこにはベットの上で体を起こし、待っているルナの姿があった。


「起きてたんだね」


「起きたらハルがいなくて、その焦りました…」


 彼女の表情からも詰め寄りたい気持ちがあるのが見て取れた。


「どこに行ってたんですか?」


 ハルはルナがいるベットの傍の椅子に座った。


「トイレに行ってたって言ったらルナは納得してくれる?」


 ルナはそれでも納得したがっていたが、どうしてもそれでは嫌だと顔に現れていた。


「…実はそのハルが、何度かいなくなっていることは、知っていました……」


「そっか…」


 重たい沈黙が流れた。


 彼女にハルが夜な夜な何をしているのかすべて話しても良かったが、それでは彼女の平凡さが壊れてしまうような気がして、それだけは避けたかった。ハルはいまそんな平凡さを手にしかけているルナという女の子をよりどころとしていた。だから、彼女が再び血を見ることをハルは何としても防ぎたかった。


 だから、嘘をつくことにした。


「浮気してたんだ」


「浮気ですか…」


 ルナが困ったようにしどろもどろになった。


「そう、他の女に会いに行ってた」


 この答えがまるで真実のように見せるには一番効果的で、けれど最低で最悪だということも分かっていた。けれどこれ以上どう言い訳していいのかもハルには正しい答えを出せなかった。

 何と言ってもハルは今、ルナという女性だけが頼りで救われていたのだ。もしも彼女という指標を今ここで失えばきっと、それはもう取り返しのつかないことになり、それは待ってくれている他の愛する人たちにまで影響することは確かだった。

 ハルはある程度、この裏社会で体裁を保ってはいたが、内面がとても複雑に入り組んでとても不安定であることは当の本人にしか分からない問題だった。ハルは変った。理性を保つためならこの先どんな嘘もついて、どんなことにも手を染めるのだろうと思うと、やはり自分は化け物で、自分が自分であることを見失わないような基準となる支えてくれる人は必要不可欠だった。

 だけど、今のハルは彼女たちには、会えないから、会っちゃいけないから、それこそ本当にこんな汚れきってしまった手で触れたら壊れてしまうから、今、何よりもルナという存在は必要不可欠で、自分勝手ではあるが彼女に縋るしかなかった。


 それなのについた嘘はルナの信用を失う発言で、彼女を侮辱するもので、関係を破壊するものだった。


「それは、えっと、ライキルとかそういう方たちですか?」


 その名前を聞いた時、思わず真っ黒に染まった瞳から涙が出そうになった。


「違う…」


 ハルはとっさにうつむいて、何も考えないようにした。今、彼女のことを思い出してしまえば、もう、涙を止められないことは必至だった。


『思い出すな、思い出すな、思い出すな、どう頑張っても今は会えないんだから、会う資格なんてないんだから……』


 自分の手が一瞬血に染まって見えた。ハルは凍り付いた。この手にはもう拭えない罪の血潮に染まっていた。


『なんだよ、これ、こんなんじゃいくら、居場所を作っても無駄だじゃないか…』


 もう想像ができなかった。あの愛する人たちと、食事をしたり、稽古したり、一緒に眠ったり、愛について語ったり、未来を思い描くことも、この血に染まった穢れた手では、どれも成立しない幸せに見えてしまった。


 人を殺したという罪がどこまでもハルを縛り付けていた。


「それじゃあ、そのハルが夜な夜な会っていた人も、えっと…なんていえばいいんですか…その、私たちと同じように妻にするんですか?」


 もはやルナが何を言っているのか分からなかった。


 頭の中が真っ白になった。


「………………………………」


「ハル、だ、大丈夫ですか?」


 心配そうにルナがこちらの様子をうかがっていた。


 そんな彼女にハルは突然、感情的に叫んでしまった。


「浮気相手を妻にするわけないだろ!!!」


 自分の中の何かが吹っ切れたかのような叫びに、ぐちゃぐちゃだった感情が爆発してしまった。もしかしたら、もう二度と会えなくなるかもしれない不安がハルを追い詰めていた。

 そして、追い詰められたハルがそう叫んで顔を上げてしまった時、自分の瞳からは大量の涙が溢れていることに気付いた。


 限界だったのかもしれない。


 会いたくて仕方がなかったから。


 でも、会えなかったから。


 会ってはいけなかったから。


「俺のやったことを許すなよ!!俺を否定してくれよ…なんで、そんなに優しくするんだ、俺はお前を裏切ったんだぞ……」


「………」


 びっくりした様子で目を見開いて固まっていたルナだったが、しかし。


「ハル!!」


 すぐにベットから飛び降りたルナが、ハルの頭を胸に押し当てるように抱きしめると、彼女は優しい口調で、ハルの理不尽な怒りを包み込むように言った。


「何があったの?ねえ、私に話せないかな?」


「話す…」


「そう、ハルの背負っているもの私にも話して欲しいの」


「背負っているもの…」


 ハルはそこで大きく後悔した。


「ハル、辛いんだよね、だから、私もその辛さを少しでも…うわッ!?」


 彼女をとっさに抱きしめ返した。彼女の身体はとても温かかった。その温かさはハルのすさんだ心を柔らかく溶かした。


『何してるんだ、俺は…』


 ハルは今の自分がどれだけ愚か者で、身勝手なのかも彼女に触れてようやくわかった。


『ああ、そう、このぬくもりを守るためなら、俺は人だって獣だってなんだって殺すんだ、何百、何千、何万と、愛する人の為なら俺は、もう、この手を罪に染めてしまうことを躊躇しないんだ……』


 自分が報われることばかりしか考えていなかった。だが、それではルナ、彼女はどうなる?彼女が殺した人の数は、きっとハルが生涯殺した来た人の数など比べ物にならないほど殺している。それがハルの考える罪じゃないとはとてもじゃないが言い切れない。だからこそ、そんな彼女の代わりになれるのが自分じゃないのか?そんな当たり前のことも考えられなくなっていたハルは、今、この瞬間、自分のことを酷く恥じ軽蔑した。


 彼女も愛すると決めたなら、彼女も幸せにすることは当たり前だった。


 ならば、彼女の代わりにもう彼女に刃を振るわせないことができれば、ハルが罪を背負うことににも意味はちゃんとあった。


 光の中で生きる者たちのことだけを考えて、闇の中で生きて来た者たちのことをハルは無視していた。


 それでは、きっと、ルナを愛しているハルが愛を語る資格などなかった。


 どちらの世界に属していたとしてもハルは自分が愛した人たちのために生きるただそれだけで良かった。


「ごめん」


「いいよ、許すよ」


 ルナがハルの頭を優しく撫でる。いつもと立場が逆だった。


「ごめんなさい…」


 ハルがルナにできることはただひたすら自分が間違っていたことを彼女に謝ることだけだった。


「何か辛いことがあったら言って、私にできることは少ないけれど、貴方の力にはいつだってなってあげるから」


 ハルはこの時初めて自分が彼女の傍にいる理由が理解できた。


 それはきっと間違いだったのかもしれない。


 それでもそれは今目の前で慰めてくれるルナを救うものに違いなかった。


「愛してる、ルナ……」


「ありがとう、私もよ、ハル、愛してる」


 ルナは初めから少しも疑っていないかのように愛を返してくれた。


 どうして信じてくれたのか?

 きっと、それはハルの日ごろの行いにあったのかもしれない。

 だが、そのことについてハルが自覚することはなかった。


 ハル・シアード・レイがあなたの前から姿を消すときはいつだって。


 誰かのために戦っている。

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