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雑多な日々 前編

 惚れ薬を一気飲みして倒れて、暗月の【月光館】という魔導院のベットで目覚めた。

 最初に出迎えてくれたのは思った通りルナだった。何度も彼女には謝られたが、完全に自分のせいだとハルも頭を下げた。

 すると部屋に、暗月の隊長のミリアム・ボーンズと、マヌバ・ロッド、つまりは惚れ薬を調合した薬師が入って来ると、ミリアム・ボーンズがマヌバに謝罪させた。なんでも惚れ薬などと呼ばれているものはこの世に存在しないとのことだった。

 惚れ薬などと呼ばれているものは、一種の睡眠薬や精力剤のことで、意中の相手を眠気に誘い判断を鈍らせたり、肉体を強制的に活性化させることで欲情状態にまで持って行き相手を誘いやすくするなど、本来の意味での相手を自分に惚れさせるという効果に絞った薬は無いとのことで、ルナに手渡した薬もマヌバ特性の睡眠薬とのことだった。

 そのため、ハルは昨夜普通に熟睡しただけとのことで、薬の効果でルナに惚れたかと言われれば、改めてそんなことはなかった。といよりかは、もともと彼女には惹かれていたのでたとえ本物の惚れ薬を飲んだとしても効果が無いのではないかと思った。


 結局のところルナはすべては自分が悪かったですと、ハルにも暗月に迷惑をかけたミリアム・ボーンズにも、無理やり薬を創らせたマヌバにも頭を下げていた。


 しかし、ミリアム・ボーンズとマヌバは逆に彼女を励ますようにフォローを入れていた。

 惚れ薬は研究する価値のある分野ですとか、ルナ様の革新的な考え方にはいつも驚かされますなど、とにかく、謝るルナよりも二人は懸命に腰を低くしていた。


 ハルはそんな彼女たちのやり取りをベットの上で眺めていた。


 程なくして、ハルはルナと一緒に月光館を出た。


 館を出る際に、ミリアム・ボーンズから念のため医療館によって体の様子を診てもらった方がいいと提案されて、帰る途中、その医療館によることにした。


 敷地内を歩いている途中、ルナが惚れ薬の効果残ってない?と聞いて来たが、そこでハルは少し嘘をついてちょっと残ってると言うと、彼女の手を繋いだ。

 だが、騙されたルナが本当?本当に惚れ薬が効いたの?としつこく聞いて来たので、これはまた何か別の薬を盛られるかもしれないなぁと思ったハルは、嘘だよと、真実を伝え手を離したら、嫌だ嫌だと駄々をこねるように手を再び繋いで来たので、ハルはそのまま医療館まで足を進めた。


 医療館に到着すると、館内はルナが来たことで慌てふためきながら、何があったのか尋ねて来た。ルナは面倒くさそうに集まって来た白衣の者たちに白魔導士を呼ぶように告げると、もっとも治癒力の強いアリスが連れてこられ、ハルを見てくれることになった。


 診療室に連れて行かれると、ハルとルナは用意された椅子に座り白衣を来たアリスと向かい合わせに座った。

 診療が始まり、彼女が何があったのかハルに尋ねると、惚れ薬なる睡眠薬のようなものを呑んだことを説明した。


「え、惚れ薬って実在するんですか?」


「薬師が言うには無いって、俺が吞んだのも惚れ薬という名の睡眠薬と精力剤の半々の効果の薬だったみたい。ただ、ちょっと飲みすぎたみたいで、身体に異常がないか一度白魔法を掛けておいた方がいいって助言を受けたんだ」


「そうですか…」


 ちょっと残念そうにアリスはハルに白魔法を掛けると、治療はあっという間に終わった。

 ケガも異常もなかったので白魔法の副作用も何もなかった。


「失礼…」


 治療が終わるとアリスは両手で包み込むようにハルの左手を掴んだ。


「ちょっと、何勝手に…」とルナが身を乗り出してアリスの手をどけようとしたが、ハルがそれを止めた。


「どうかしましたか?」


「無事に治っていて良かったと思って」


「手、治してくれたのあなただったんですね」


「はい、あの黒い花事件の時、治療担当したのは私でした」


「そういえばそうだったわね」


 彼女の手を握る行為が診療の延長のものだと分かると、ルナは自分の椅子に戻った。


「最初、貴方を治療してた時びっくりしました。だって突然左手が溶けるようになくなって大量出血しはじめたんですから」


「ハハッ、それはすみません、少しばかり前にちょっと左手を失ってしまって、代わりに自分の天性魔法で補っていたんです」


「そうだったの!?だったらすぐに言ってくれればすぐにアリスを紹介したのに…」


「不便は無かったから、もう、このままでもいいかなと思ったけど、そっか気を失ったら、消えちゃったか…」


「ちなみに、どんな天性魔法なんですか?」


 きっと医療に関する分野の天性魔法なのだと思ったのだろう。しかし、ハルの天性魔法は医療とは無縁のものだった。


「見せるほどのものでもないんですが…みたいですか?」


「ぜひ、どのようにして失った部分を補ったのか知りたいです」


「いいですけど、あまり言いふらさないと約束してくれますか?ちょっと恥ずかしいので」


「もちろんです。このアリス・パルフェ命に掛けても誰に言わないと誓います」


「ちなみに言いふらしてるところ私が見ても容赦しないから」


 釘をさすようにルナが言うと、任せてくださいとアリスが天使のような笑顔で答えた。


「じゃあ、いきます」


 そこでハルが自分の生身の左腕から湯水のごとく真っ黒い泥のようなものを生成すると、その泥は形を変えて青黒いぬらぬらとした触手となってハルの左腕に絡まった。そして、その触手はハルの左腕に染みこむように落ちていくとそのままハルの腕を真っ黒に染め上げた。そしてその表面の形を今度は龍のような無数の鱗に変えた。


 変幻自在の闇を見たアリスが興味津々にそのハルの天性魔法を見ていた。


「少し触ってもいいですか?」


「いいよ」


 アリスがハルの鱗を纏った左腕に指先で触れた。


「すごい、本当に龍の鱗みたいにカチカチです。もっと触ってもいいですか?」


「どうぞ」


 アリスがハルの左腕を注意深く触っていく、指の腹で圧迫したり、軽くノックしてみたり、真っ黒い鱗の特徴を調べ上げる。


「左手だけですか?他の部位とかにはこの黒い皮膜のようなものは這わせることはできないんですか?」


「いや、できるよ、この黒いやつは俺の身体の一部みたいなものだから…」


「はい、そこまでえええ!!」


 荒々しい息を吐きながらルナは二人の会話を遮った。


「アリス、もう、私たち行かなくちゃいけないから、ありがとう、お給料増やしておくように館長には言っておくわ、それじゃあ」


 ルナがハルの手を取って診療室を慌てて出て行く。

 その去り際にハルは彼女に言った。


「アストルによろしく、あとジュニアス……」


 ハルがそう言いかけると扉の奥に引っ張られていった。


 診療室に取り残されたアリスがぽかんとした表情で取り残されていた。


 ***


 医療館を出ると、ルナにエッチと怒られた。男としてエッチなのは認めるものの、なぜこのタイミングで言われたのか、ハルには分からなかったが、とにかく顔を真っ赤にしている彼女に、帰る前にフレイのお見舞いにいこうと提案した。


 彼女はあんまりいい顔をしなかったがしぶしぶ了承してくれた。


 フレイが元いた場所は、ロイヤルガードの女子寮で、どうやらハルは入れないと分かると、ルナに彼女の様子がどうか見て来て欲しいと頼んだ。ルナはとても嫌な顔をしたが、そこはハルがどうしてもと頼むと、彼女は肩を落としたがフレイのお見舞いに行ってくれた。


 ロイヤルガード女子寮の前で、ハルがルナの帰りを待っている間、寮から出て来た女性たちに、険悪な目を向けられたり、ひそひそ噂話をされるなどとてもじゃないが歓迎されていない態度を取られるが、その時のハルは彼女たちが一切自分の視界に入らないくらい、一人になったことを言いことに考え事に集中していた。


 するとそこにある一人の男がハルの前に立ち止まった。


「失礼、ハルさんですよね?」


 顔を上げるとそこには、深い紫色の髪のしっかりと身なりを整えた制服姿の大人びた男性が背筋を伸ばして少し顔を傾けてハルの顔色を窺っていた。


「あ、スイゼンさん、どうも…」


 そこにはロイヤルガードの隊長のスイゼン・キルハイドが立っていた。


 ***


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