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集まった知らせ

 窓から朝の光が差し込む。

 安物のソファーの上に寝転がるハルが、新しい資料に目を通していた。



 昨夜のことだった。

 屋敷にワイトが尋ねて来て、約束通り暗号解読済みの資料を届けてくれていた。


『はい、これが頼まれていた資料です』


『ありがとう、助かるよ』


 ハルがさっそく紙袋の中身を空けて中の資料を確認する。


『あと玄関の前にこんなもの落ちてたんですけど』


 ワイトから手渡された手紙にはフレイの名前があった。手紙の内容は体調を崩したので二、三日休みをもらうという内容だった。

 病み上がりに連れまわしすぎたかなと思ったハルは後でお見舞いにでも行こうと思っていた。


『それじゃあ、私はこれで、良い夜を』


『ワイトさん、少し話していきませんか?お酒くらい出しますよ』


『いえ、その、今日はやめておきます…』


 ワイトの顔がこわばっている。そしてハルの後ろをみながら少しずつ後ずさりしていく。振り向くとそこにはルナが歓迎しないぞといった顔で、ワイトのことを睨んでいた。


『ごめんなさい、じゃあ、また明日』


 逃げるように去っていったワイトを可哀想に思いながらも屋敷の扉を閉めると、すぐに彼女に手を取られて寝室まで連れていかれ、その日はそれで終わってしまった。


 そのため、朝一でハルは資料を見る羽目になっていた。


 ソファーに寝転がりながら資料に目を通していく。

 そこには昨日ワイトと一緒に確認した表題の内容が詳細に書かれていた。


「山蛇討伐再開か、そういえば俺の討伐作戦のためにあっちは中断させたんだっけ」


 イゼキア王国で数年前から行われていた山蛇退治。それは剣聖の序列でも一位を有する【ゼリセ・ガウール・ファースト】によって始まり、イゼキア王国の国事にもなったその山蛇の殲滅作戦は、この資料の内容が本当なら、もうあと少しでその偉業が達成されようとしていた。

 山蛇の巣があるとされていた【緑死(りょくし)の湖】の手前までイゼキアの王国軍は歩を進めており、最後の殲滅作戦が始まるのは秒読みとのことだった。


 ハルは友人の成功を祈り、次の資料に目を向けた。


「両国、復興は順調」


 シフィアム王国とスフィア王国どちらも王都で悲惨な大事件があった国で、ハルもそこに居合わせていた。


「シフィアム王国の新女王キラメア・ナーガード・シフィアム…」


 その名前を口に出すと、ふとした瞬間に彼女の傍にいた姉のことを思い出してしまった。ハルは目を閉じて深く深呼吸すると、ソファーから体を起こし、シフィアム王国の復興に関しての資料には真剣に目を通し始めた。

 そこには新女王キラメアの積極的な活躍により、国民たちの復興にも力が入り、目覚ましい勢いで王都エンド・ドラーナは回復に向かっているとのことだった。しかし、失われた翼竜たちを戻すにはあと何十年もの歳月が必要とのことで、シフィアムが失ったものは大きいものだった。


「スフィアはさすがではあるけど、まだ問題を抱えているって感じかな…」


 スフィア王国に関しては、レイド王国とアスラ帝国からの助成金と現地にいるエルフたちによって、戦火の傷跡はもうほぼなくなり、復興しているとのことだった。さすがは街の住民が皆、長寿の熟練の魔導士と呼ばれるだけはあるエルフの国。他の国とは復興のスピードが段違いだった。

 ただし、今回のこのスフィア王国の件に関していえば、ルナが上手く立ち回ったおかげで、スフィア王国の中枢の実権をホーテン家が裏で握ることになったことはもちろん公になっていない。

 ハルがワイトから聞いている限りだと、ひとまずスフィア王国を、エルフの故郷である『エルド』から完全に繋がりを断ち切らせ、本当の意味でスフィア王国を独立させることが目標として掲げられた。


 スフィア王国は、エルフの故郷エルドという大きな国からの干渉があり、自由ではなかった。ホーテン家は支配よりもまず手っ取り早く、スフィア周りの問題解決に動くことを決定していた。


「さて、次は、龍の山脈と霧の森の領土権か、これもまた複雑そうな問題だな……」


 霧の森については、レイド王国とアスラ帝国の六対四で領地を分け合うことがすでに決定していた。


 問題は龍の山脈についてだった。

 ここには六大国すべての国が領土権の主張をしていた。実際に領土が離れているニア王国も、かつて存在した都市国家が隣接しているという理由で無理やり喰い込んで来る始末だった。どうやら旧龍の山脈跡地には大量の資源が詰まっていることが調査の末発覚し、それがまだ軽い調査の段階とのこともあり、旧龍の山脈は宝の山になっていた。


「戦争にでもならないといいんだけど…」


 人々を守るために黒龍を討伐したが、その現れた財宝で人々同士で争い始めるならば、ハルはいよいよ、人に対しての執着を捨てる勢いだったが、そんなこと言っても仕方がないので次のページをめくる。


 中央部の大雪については、結局西部と中央部を隔てるスターダスト山脈、エルフの森、それとニア王国にある【グレート山脈】を超えてくることなく、雪雲は中央部に留まり続けているとのことだった。


 定期連絡には、レイド国内のことについて書かれていたが特に目立った事件は無く、異常なしとの連絡だけだった。


『国内で増加傾向にある犯罪について』は、関心を寄せるものがあった。レイド王国内で犯罪が広がっているとのことで、治安の悪化が各地で見られるとのことだった。

 特に窃盗などがここ最近急増しているとのことで、レイド王国ではないが、近隣の小国群の一部の国で大規模な銀行襲撃があり、大きな被害が出ているとのことだった。

 内容には窃盗団のような組織的犯行の可能性ありと書かれ、レイド王国周辺にそのような組織が複数潜伏している可能性もあると示唆された内容が記されていた。そしてその資料の最後にはこちらでその犯罪組織の調査を進めると書かれていた。


『窃盗団って、やっぱり、スモークが関係しているのか…』


 窃盗と聞くと物を盗むだけのように聞こえるが、窃盗団のような組織的な犯罪になって来ると狙う場所も場所で、当然、人を殺して奪うということが当たり前になって来るのが犯罪組織のやり方のようだった。

 ハイリスクではあるが、ハイリターンでもあるため、大きな組織になればなるほどそのような大きな犯罪に手を染めやすくなることは、大きく成長した犯罪組織には多々あるとのことだった。


「皆殺しか…」


 そして、資料にもあった襲われた小国の銀行の職員たちは、皆殺しという内容が当然のように記されていた。


 ハルがその内容を最後にテーブルの上にその資料を投げ捨てた。


「だいぶ欲しい情報も集まって来たよな…」


 ソファーに寝ころび直すと天井を見上げた。

 これからのことを考える。

 集まった情報を元にワイトと相談し、ハルはやらなければならないことを始めなければならなかった。


『なんだか、君から遠ざかっているのは気のせいかな……』


 雲の合間から漏れた光が、部屋の窓からハルの顔へと差し込み明るく照らし出した。手で遮り影をつくり、太陽の光を拒む。


「はあ………うぐッ!!?」


 そのまま大きなため息をついていると、突然ハルの身体に衝撃が走った。


「おはよう、ハル!!!」


 寝っ転がっていたハルに覆い被さるようにルナが胸の中にダイブしてきた。


「ルナか……んッ!!」


 飛び込んで来た勢いそのままルナは唇をハルの唇に重ねていた。


「………」


 ハルはあまりの突然のことに驚いたが拒絶はせずに、ゆっくり目を閉じると彼女の好きなようにさせてあげた。朝なのにも関わらず濃厚なキスを披露する彼女が、解放してくれたのはそれから三分ほど経ってからだった。


「ぷはッ!ふう、ハルとの朝のキスはマジで最高ね、生き返る。そうだ、ハル、このまま昨日の続きでもしない?」


 ハルの上に乗ったままのルナが、ツヤツヤした笑顔で言う。


「悪いけど、これからワイトに会いに行かなくちゃいけないんだ」


 上体を起こし、彼女を膝の上に乗せる。


「ええ、それなら私と遊んで行ってからでもいいんじゃないかな…」


「彼に聞きたいことが山ほどあるんだ。今日はちょっと帰りも遅くなるかも」


「それだったら、私もついて行きたい…」


 その申し出を受け入れてあげたかったが、彼女がいるとワイトが上手く喋れないことに問題があった。それではハルとワイトの情報交換にも支障が出てしまうので彼女を彼の資料部屋に連れて行くことはできなかった。


「ごめん、それはできないんだ」


「ねえ、彼と私どっちが大事なの?」


 ルナが口をとがらせる。


「もちろん、ルナだよ、だけど悪いけど…」


「そう、ならいいわ」


 ルナがハルの膝の上から降りる。


「え、あぁ、うん…」


 普段はもっとごねるのだが、今日の彼女はとても素直だった。


「その変わり、今日は夕食の時間には帰ってきてちょうだい、私、今日豪華なディナー作って待ってるから、ハルと二人だけで今夜も過ごしたいの、いいでしょ?」


「本当に?」


「うん、だから今日は誰も連れてこないで、フレイ、ギゼラも、他の人も絶対にね」


「わかった、約束する。それと楽しみにしてるよ、ありがとう」


 ハルはそう言うと自ら彼女の唇に軽いキスをした。

 すると彼女は顔を真っ赤にして言った。


「あのやっぱり、いまから…」


「それじゃあ、行ってくるね!」


 多分お決まりの朝のパターンが展開される予感がしたため、ハルは逃げ出すように部屋の扉へと駆けていった。


 部屋にはひとり不気味に笑うルナだけが取り残されていた。


「フフッ、決行は今日ね…フフフッ!」


 その時のルナは相当悪い顔で笑っていた。

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