雨の日 連勝
九試合目、ビナの対戦相手は帝国の中堅になる。
ここまで来ると相手も精鋭騎士の中でもトップクラスの実力者となって来る。
しかし、それでも、ビナは、圧倒的な実力差で軽々勝利を手にしていた。
「そこまで、ビナ選手の勝ち」
審判が言い、九試合目が終わった。
「ビナ、いいぞ!」
「ビナちゃん、カッコイイ!!」
二階からエウスやガルナの大きな声援が聞こえてきて、ビナはそっちを向き手を振った。
ビナは二階のみんなを見渡すが、それでもハルのことが一番目に留まった。
彼もビナに向けて、陽だまりのような温かい笑顔で手を振っていた。
ビナはその笑顔に少し顔が赤くなって、気が緩んでしまったが、それでもすぐに切り替えて集中した。
『よ、よし、次も頑張れる』
気合を入れるために、ビナは自分のほっぺたを叩いて気合を入れた。
十試合目、ビナの対戦相手は、帝国の三将だった。
周りの観客の騎士たちも、この試合が見ごたえのあるものになると思っていたが…。
「それでは、始め!」
十試合目の試合が始まった。
帝国の三将は試合が始まるとビナとの距離を一気に詰めた。
そして彼は本気で拳を握りそれを容赦なくビナに打ち込んでいった。
しかし、彼女はそれを身を固めた防御ではなく、利き手ではない左手と、半身の構えからの身体の軸移動だけで鮮やかに攻撃をいなし、かわしていった。
帝国の三将はビナのその体術のすばらしさに感心してしまった。
彼は、試合前に自分が繰り出す鋭い拳を彼女がどれだけ受けきれるか考えていたが、圧倒的に相手の方が体術では格上だった。
『彼女……外から見ていたが、この強さ…』
帝国の三将が拳をビナに打ち込みながらそのように思考した瞬間、彼の腹に衝撃が走り身体が地面から浮いていた。
一瞬で、ビナの右の拳がカウンターで入り、そのまま宙に打ち上げられていたのだった。
「がはぁ!!」
帝国の三将は、あまりにも異常な力で打ち込まれたため、呼吸も受け身も取れずに床に落ちるしかなかった。
『み、みごと……』
そして、帝国の三将の男が試合の最後に見たのは、小さな女の子からあふれ出た鬼気迫る表情だった。
彼の意識は、床に身体が落ちる前に、ビナの追撃の後ろ回し蹴りをくらって、途切れた。
こうして、十試合目もビナの圧勝に終わった。
周りの観戦していた騎士たちの熱気もどんどん上がって行く。
ビナが勝ったあと、彼女の無邪気に喜ぶ姿もあって、近くにいた帝国の騎士たちからも彼女を応援する騎士たちも出てきた。
そのなか、ビナは二階にいるハルを見た。
さっきと変わらない優しい笑顔はビナの癒しとなった。
「おいおい、すごいな、相手は帝国最強の騎士団のエリートたちだぞ、ライラにいたやつはやっぱ違うな」
エウスがビナのあまりのすごさに半分呆れた状態になっていた。
「ビナは、体術が得意と言っていたのですが、ここまでなんですね」
ライキルもあっさり試合が終わってしまったことに驚いていた。
「やっぱり、ビナは、純粋な肉体だけの殴り合いならかなり強いね」
ハルはビナを見守りながら言った。
十試合目の試合を見ていたフォルテとベルドナもビナの強さに感心していた。
「やはり、あの小娘やるな、我らの精鋭が手も足も出ないなんてな」
足を組んで試合の様子を見ていたフォルテが言った。
「すごいですよね、バルクさんに、ダレンさん、ジェフさんがボコボコでしたからね」
全身鎧の中からベルドナも声を出した。
「彼らも並の騎士ではない、ただ、今回、彼女が強すぎただけだ、剣や魔法がありだったらまだわからなかったかもな」
フォルテはビナを賞賛しつつもやられた仲間のことを思った。
「バルクさんとか魔法と盾が専門ですからね」
「そうだ、ダレンとジェフさんも武器が専門だ」
「あ、でも次は私たちの副将が出ますよ」
ベルドナはワクワクした様子だった。
「フフ、そうだったな、彼女も次は苦戦を強いられるだろうな」
フォルテは小さく笑い、次の試合が始まるまで目を閉じ、どのような試合になるか想像を巡らせた。
デイラスとルルクもビナの鮮やかな活躍に目を見張った。
「さすがですね、彼女、私たちの精鋭騎士を、ああも簡単に倒してしまうとは」
ルルクはとても興味深くビナを見ていた。
「そうですな、私もびっくりしましたよ、さすがハル剣聖の騎士なだけはありますな」
そしてデイラスがルルクに質問した。
「ところで帝国の副将は誰が出るのですかな?」
ルルクは立ち上がり小さく笑った。
「私ですよ」
ルルクはそう言うと、二階から飛び降りて、会場の真ん中に降り立った。
「うおおおお、来た!」
「ルルクさんやっちゃってください!」
「エルガーの力見せつけてやってください!」
ルルクが来ると、帝国の騎士たちは大歓声を上げていた。
「ありがとう、がんばりますよ」
そう帝国の騎士たちに笑って応えていたルルクに、ビナはさっきまで戦っていた人たちとは異なった雰囲気を感じ取った。
『この人、手強そう、ライラにいた人たちと同じ感じがする』
ビナが防具をつけている、ルルクを見ていると、彼が挨拶をしてきた。
「こんにちは、何回か会ったことはありましたね、ルルク・アクシムです」
「ひぇ、あ、はふぅ、ビ、ビナ・アルファです!」
「よろしくお願いしますね」
「あ、は、はひぃ!」
ビナはルルクの高貴な感じに圧倒されて緊張してしまった。
『だ、大丈夫、そ、そうだ、ハル団長を見よう』
ビナは自分の精神安定となっていたハルの方を向いた。
上を見ると、そこにはみんないて、ビナに声援を送っていた。
ビナは手をみんなに振りながらハルに注目する。
目があったハルも手を振って応援してくれた。
「ビナ、無理するなよ!」
その温かい言葉に、ビナの緊張していた心が、落ち着きを取り戻していった。
『大丈夫、必ず勝つ』
ハルの姿を真っ赤な目に焼き付けたビナは覚悟を決めた。




