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皿洗い

 蛇口をひねり建物に設置されている貯水タンクから流れてくる上水で皿を洗う。魔法が使えれば蛇口の水を捻る必要もないのだが、ハルはそうもいかなかった。


「ルナはゆっくりしてていいよ」


 洗い終えた皿を隣にいたルナが清潔な布巾で拭いていた。


「なんでハルに皿を洗わせなきゃいけないの?そんなこと神が許しても私が許さないわ」


「食事を作ってもらったんだから、皿洗いくらい俺がするよ」


「ハルは休んでいて、私があなたの身の回りのお世話をするから」


「それくらい自分でできるよ、王都にいる前は全部自分でやってたんだ。剣聖である前に俺は道場で厳しく育てられたんだから、家事は分担できるよ」


「それだとますます私の存在意義がなくなるんだけど…」


「存在意義なんて、ルナは俺の傍にいてくれるだけでいいよ」


 ルナの皿を拭く手が止まった。


「ハルって本当に私のこと好きになってくれたの?」


「そうだよ、ルナのことは好きだよ」


 向けられた疑う余地のないハルの笑顔にルナは安心したかったが、それでもまだ不安は彼女の心から消え去ってはくれなかった。


「信じてもいい?」


「ルナが信じてくれなくてももう手遅れかな、俺は君のことを嫌いになんかなれないさ」


「それはどういう意味で嫌いになれないの?私がホーテン家をやめても嫌いにならないとか?」


 ルナの度重なる疑いを終わらせるためにハルは皿洗いを止めて、ルナの赤い瞳を見ながら言った。


「ルナはもう俺の妻だから、夫婦として君のことが好きだ。たとえ君がホーテン家の人間じゃなくなったとしても、俺の気持ちは変わらない。ルナはもう俺の傍にいてくれるだけでいい、俺の傍で笑って幸せに過ごしてくれるだけでそれでいい」


 ハルがルナを利用していることは傍から見ればその通りだった。裏社会にハルが介入するのには彼女の立場はあまりにも便利すぎた。しかし、それが彼女の心に猜疑心を芽生えさせたのだろう。

 利用された後は捨てられると、きっと、そう思っているのかもしれない。

 だからこそハルは本心を告げた。偽りのない言葉で、ルナにも傍にいて欲しいと、本当のことを言った。それはちゃんと彼女のことを愛してるからこそ出てくる言葉だった。


「不安にさせていたのなら謝る、ごめんなさい。だから、どうか俺のことを嫌いにならないで欲しい…だめかな?」


 ルナに無言で抱き着かれる。ハルもすぐに彼女のことを抱きしめ返す。


「ハルにそんなこと言われるなんて思ってもいなかった。こうして一緒にいること自体が奇跡なのに」


「奇跡じゃないよ、この結果はルナが自分で手にしたもの、そうでしょ?」


「ううん、ハル、私はこうしてあなたのような人と結ばれるべきじゃなかったから、やっぱり、奇跡なんだよ、私とあなたは…」


「ならこの奇跡を当たり前にできるように今日も一緒に頑張ろう」


 ハルの胸の中で彼女は何度も首肯していた。


 皿洗いが終わるとルナの調子はいつも通りの元気な姿に戻っていた。なんとなくだけれどここらへんはギゼラの影響が強いようにも思えた。


「ハル、今日はどうするの?」


「今日も資料館に行こうと思うんだけど、それより少し教えてもらいたいことがあって」


「なにかしら?」


 ハルは今なによりも情報が欲しかった。資料館でも情報は得られるが、そこで得られる情報は過去の記録でありほとんどがすでに終わっているものばかりでいわゆる死んだ情報だった。しかし、ハルはこのホーテン家を動かしている生きた情報を欲していた。

 情報は組織を動かすための血液ともいえるほど大事なもので、ハルもこの組織の一員としての手足になるためには、血液つまりその生きた情報をこちらにも流してもらわなければ話にならなかった。

 レイドの平穏を守ろうにも、どこから手を付ければいいのかさっぱりだった。


「ホーテン家で現状の任務とかの情報を取り扱っている人に話を聞きたいんだ。それでルナに頼みがあるんだけど、その人たちを俺に紹介してくれないかな?」


 手を合わせてお願いすると、ルナが意地悪そうににやりと笑った。


「ハルは私の権力目当てで結婚したんだもんね?」


「それも少しはあるけど」


「え、酷い…」


「冗談だよ、権力目当てだったのは半分くらいだよ」


「いやいや、多い、多い!!」


 取り乱すルナをよそにハルは笑っていた。



 ***

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