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語り継がれる伝説 後編

 ハルが開いたページにはレイド王国建国時のことが書かれていた。


「レイド王国の建国者は、【初代剣聖レイ・ホーテン】、【初代国王ミドル・ハドー・レイド】の二人、そこからずっと彼らの子孫たちがこのレイド王国を治めて来た…すごいよね、どちらも今日まで血が途絶えることが無かったんだから」


 受け継がれてきた重みに子孫たちが押しつぶされることはなかったのか?何代も受け継いで来たら、キャミルのような王族を嫌う者も出てくるのではないか?ここまで続いて来たホーテン家とハドー家の繁栄の極みを改めて実感しようとした時だった。


「シアード様、両家はこの事実をあまり明るみにしていないのだけれど、実は彼らの血筋がずっと続いてきたわけじゃないんです」


 ハルはルナのその言葉に耳を疑ったが、冷静に考えて答えた。


「…それは分家って解釈でいいのかな?血が薄まっているみたいな」


「ホーテン家はその感覚で合っていますが、ハドー家は何度も血筋が途絶えています」


「……え、それはどういうこと?」


 ハルはルナが何を言っているのか分からなかった。血筋が途絶えたということは今のハドー家は全く別の人間ということであり、そうするとキャミルやダリアスは王族の血筋ではないことになる。


「シアード様は五百年戦争という戦争をご存知でしょうか?」


「うん、少しは中身はあんまり詳しくないけど、昔にあった七つの大国同士の長い戦争のことだよね」


 その名の通り五百年もこの大陸で戦争が絶えなかった時代のことを総じてそう呼ばれていた。


「はい、そこでレイド王国の王族であるハドー家は暗殺や戦死、内紛などで命を落としています」


「じゃあ、今のハドー家の人間は、ミドル・ハドー・レイドの血を受け継いでいないってこと?」


「はっきり申し上げるとそうなります」


 王族は血筋がなにより重要であるのにも関わらず、そういった事態に陥ってしまっていることにハルは疑問を抱えずにはいられなかった。


「ありえない、だったら、これからもハドー家の血はどこかで途絶えたりしたら、別の家がレイドの王族になるってこと?」


「ええ、もしも今の王族たちの血がすべて途絶えるようなことがあれば、別の家がそのままハドー家の名を次いで次期王になるという襲名のルールがあります」


 ハルは一瞬言葉を失ってしまった。当たり前だと思っていた事実が捻じ曲がるそんな感覚に襲われていた。


「待って、だったら、キャミル・ハドー・レイドは、ミドル・ハドー・レイドの直接的な子孫ではないってこと?」


「はい、血筋で言えばそうです。純粋なハドー家の血筋はもうとっくの昔に途絶えています」


「………うそだ……」


 ハルからしたらそれは衝撃的な回答だった。驚いて言葉も出ないハルにルナは続けた。


「驚いていらっしゃいますが、これは戦乱の時代を生き抜くために無理やりひねり出した知恵でもありました。長い争いが続く中、国をまとめる王が途絶えることだけは決してあってはならなかった。レイドは何よりもその点を重視していた。だからレイドが真っ先に三大貴族を生み出したんです。王族に一番近しい国をまとめられるほど優秀な家の者を傍に置いたんです」


 ハルはそこから彼女が何を言いたいか理解すると言った。


「ってことはもしかして…」


「そうです。たぶん、もうシアード様も分かったと思いますが、三大貴族は王族が全滅した時の代わりとしての役割があります。つまり王族が途絶えれば代わりに三大貴族の中の誰かが王家になるのです。それがレイド王国が戦乱の時代を生き残るために企てた生存戦略だったみたいですよ」


「…………」


 言葉も出なかった。そんな衝撃的な事実をすんなりと受け入れられるはずがなかった。表社会では決して教えてはくれない。それは、レイド王国の裏ルールのようなものだった。


「ですが、今のハドー家はもうずっと長いこと続いています。国民たちの中にそんな襲名のようなルールがあったことも忘れるほどに長く、それは素晴らしいことです。王位が安定しているということはそれほどレイド王国が安定しているという証拠です」


 不安を取り除くような彼女の言葉だったが、逆にハルは不安になってしまった。それはまるで嵐の前の静けさのような、戦争と戦争の合間の平和のような、良くないことの入り口に立っているような気がしてならなかった。


「待って、だって、今はキャミルしか跡継ぎがいないだろ…」


「まあ、そうですね、【ジュリカ王妃】はずっと前に亡くなってますからね。現国王ダリアスは、彼女以外に新たに妻を迎え入れようとしていないですから、もしも、二人に何かあったら、レイドは新たな王を三大貴族の中から迎え入れることになるでしょうね」


 ルナがハルが読んでいた資料の本に視線を落として、勝手に次のページをめくり始める。

 ハルは驚きのあまりしばらくぽかんと口を開けて固まっていた。


 それから程なくして、意外な事実を知った衝撃も和らぐとハルは再び情報収集に戻った。剣聖の時には知れなかった裏社会のルールがまだまだたくさんあり、ルナはそのたびに丁寧に説明してくれた。

 そうしたルールの裏には歴史的な出来事が深く結びついており、ハルはレイドの歴史書に目を通していった。


「ルナ、この【魔壺の儀】って何か分かる?」


 ハルがとある資料に目を通しているとふとそのような言葉を見つけた。


「それは、たしか儀式魔法だったはずですね」


「どんな魔法なの?」


 ハルは次々と知識を探求する好奇心旺盛な少年のようになっていた。


「あんまり私も詳しくはないんですけど、同じ場所に何人かの魔法使いを集めて殺し合いをさせて生き残った最後のひとりが、強力な力を得るとかだった気がします」


「禁忌の魔法ってことか…」


 参考文献として用意した魔法学の本に手を伸ばし、〈魔壺の儀〉について、儀式魔法が載っていた箇所を重点的に調べ始めた。

 だが、どこにもそのような儀式魔法があるとは載っていなかった。〈魔壺の儀〉という言葉が出て来たのは、ハルが最初に見つけたその報告書のようなものにしか載っていなかった。


「魔壺の儀について何も載っていないな…」


「多分、禁忌の魔法の類なので魔壺の儀の魔導書はどこかの禁書庫に保管されていると思います。ちょっと場所は分からないんですが、そこら辺の魔法のことは暗月のミリアム・ボーンズが詳しいと思います」


「そうか、ならば今度話を聞きに行ってみようかな」


「え…あぁ………」


 ハルが再び視線を本に落とす。そこには魔壺の儀で生き残った人物たちの名前が連なっていた。


「〈魔壺の儀〉攻略者は、えっとス……レッ…」


 ハルがぶつぶつと呟くように連なっている名前を読み上げていく。


 だが、その時。


 ハルは刺すような視線に気づくと、すぐ隣にいたルナに顔を向けた。彼女はジッとハルの顔を辛抱たまらないといった様子で凝視していた。


「どうしたの?」


 もじもじしているルナがそこにはいた。何か言いたいようだったが、言い出せずにいるそんな感じだった。


「何かあった?」


「えっと、その…」


「いいよ、言いたいことがあったらなんでも言って」


 ルナがそこで意を決した様子で言った。


「シアード様がここにいる他の女と話すのが嫌だなって思って!!」


「……あぁ………ね……」


 なんだそんなことかと思ったハルはすぐさま本に向き直って、続きを黙読する。


「あ、あれ?どうして、無視するんですか!?ねえ、シアード様?ねえ、ってばハル!!無視しないでくださいよぉ!!」


 ハルはルナに肩ゆすられながらその本を閉じて次の資料に手を伸ばしていた。

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