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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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雨の日 親善試合

 古城アイビーの敷地内の奥にある倉庫と厩舎の近くには、室内で体を動かしたり、剣の修行ができる大きな道場があった。

 アストル、ウィリアム、フィルが雨の中、走ってその建物に向かっていた。

 三人は、それぞれ、水魔法で体全身を覆う水の膜を作り、雨に濡れずに駆けていた。

 その建物の玄関に入ると、土足厳禁と書かれており、三人は靴を持ってきた袋に入れて、中に入っていく。

 扉を開くとそこには、広い空間と高い天井が広がっており、多くの歓声が飛び交っていた。

 室内の真ん中では、騎士と思われる二人が生身一つで組手をしていた。

 どちらもかなり鍛えられた肉体に切れのある技を繰り出し、一歩も引かない状況だった。

 エウスに呼ばれていた新兵の三人は状況が飲み込めなかった。


「エウス隊長、すみません遅れました」


 三人がエウスのもとに駆け寄る。

 エウスが三人に気づくと軽く手を挙げた。


「お、来たか、すまないな、今日は休みにしたのに」


 申し訳なさそうにエウスは三人に言った。


「いえ、それよりこれは何をやってるんですか?」


「これはな、アスラ帝国とレイド王国の組手の親善試合だな」


 三人が試合を横目に見ると、選手が互いに全力でぶつかり合っていた。


 アストルは、その選手たちの繰り出す洗練された技に一瞬目を奪われた。


「三人には、この試合を見ておいて欲しくてな、精鋭の騎士たちの本気の殴り合いだから、学ぶところがあると思うんだ」


「ありがとうございます、勉強させてもらいます」


 アストルがエウスに言って、後ろの二人を見ると、すでに試合を食い入るように見ていた。

 二人もハッと我に返り、エウスに招待してもらった感謝を述べた。


「良かったよ、それに、三人には特別な席を用意してるんだ」


 エウスはこの建物の二階を指さした。

 そうすると、大きな歓声が上がり、勝負がついたようだった。


「おっと、決着がついたみたいだな、まあ、まだ、どちらも先鋒だから大丈夫だ、行こうか」


 エウスに連れられ、アストル、ウィリアム、フィルは、二階に続く階段を上った。


 二階の中央には少しスペースがあり、そこに椅子やテーブルがいくつか並べられ、くつろぐことができた。

 その左右には、段々に並べられた長椅子があった。

 二階からは、一階を見渡すことができ、試合の様子がよく見えた。


 中央には、エリザ騎士団の団長デイラス・オリアと、帝国のエルガー騎士団の副団長ルルク・アクシムが二人で楽しく会話していた。


 右の長椅子の席には、帝国のエルガー騎士団の騎士やベルドナと帝国の剣聖フォルテが座っていた。


 左の方の席には、レイド王国のエリザ騎士団の騎士たちが座っていた。


 三人はエウスに勧められて、中央の空いている丸テーブルを囲んだ椅子に座った。


 エウスは、三人とは違う、もう一つ隣のテーブルの空いている椅子に座った。


 下ではレイド王国から新しい選手が出て来ていた。


「これは、勝ち抜きですか?」


 アストルが質問した。


「そう、勝ち抜きの七人勝負だよ、だから、どちらかの大将が負けるまで続くよ」


 エウスが答えると、下では、二試合目が始まり、選手の騎士がぶつかり合った。


「今は、アスラ帝国の先鋒、対、レイド王国の次鋒だ」


 アスラ帝国の先鋒は、先ほどの試合で消耗したのか、押されていた。


「七人勝負はわかるか?」


「はい、両チームから七人選んで、それぞれの先鋒、次鋒、五将、中堅、三将、副将、大将で戦うんですよね」


 アストルが説明した。


「そうだ、それで勝ち抜きだから、一人が勝ったら、その人が負けるまで次の相手とも戦い続けることができる、そして、この試合のルールは魔法なしの生身ならなんでもありだ」


 エウスは三人に説明をした。


「この試合、エウス隊長は出るんですか?」


「俺は、正直、実力不足で相手にされないかな」


「エウス隊長がですか!?」


 アストルがそう言うと、ウィリアムとフィルも驚いていた。

 エウスは三人の反応に少し嬉しそうに口角を上げたが、それをすぐに下げて言った。


「ああ、今、あそこで戦ってるのは、エリザ騎士団の精鋭騎士の中でもトップの奴や、帝国最強の騎士団エルガーの精鋭騎士ばっかだぞ、俺が出ても瞬殺だよ」


 その説明に三人は息を飲み、試合に視線を戻した。


 選手は全員防具をつけて試合を行っていた。

 それでも、精鋭騎士たちの試合は、防具が守ってくれるほどやわな攻撃は飛んでこない、だが、その攻撃を防ぐ術もしっかり心得ていた。


 そして、押されていた、アスラ帝国の先鋒は、試合の中盤から戦闘のリズムを取り戻し、レイド王国の次鋒を圧倒し始めた。



「ルルクさん、そちらの先鋒、かなり強いですな」


 デイラスが試合から視線をそらさず、ルルクに語りかけた。


「フフ、デイラスさん、残念ながら彼より強い騎士はあと六人いますよ、エルガーは、精鋭ばかりですから」


 ルルクが、嬉しそうに口角を少し上げた。



 二試合目は、結局、アスラ帝国の先鋒が、レイド王国の次鋒まで打ち負かした。


 三試合目は、さすがに、アスラ帝国の先鋒に疲れがあり、レイド王国の五将があっさり勝った。


 四試合目は、アスラ帝国の次鋒が、大きく差をつけてレイド王国の五将を破った。


 五試合目も、立て続けに、アスラ帝国の次鋒がレイド王国の中堅を破り、勝利を収めた。


 六試合目は、逆にあっさり、レイド王国の三将が、アスラ帝国の次鋒を破った。


 七試合目には、レイド王国の三将が、アスラ帝国の五将に圧倒的な力量さで負けた。


 そしてレイド王国からは、ついに大将の前の、副将が出てくることになった。


 アスラ帝国の五将は、とても大柄な男で厳つい見た目をしていた。


「俺で全部終わらせてやるよ、見てなあ!!」


 アスラ帝国の五将を任された男が叫ぶと、周りにいたアスラ帝国の騎士団たちは歓声をあげた。


「さあ、どいつだ、出てこい!!」


 そして、レイド王国の副将を任された選手が、そのアスラ帝国の五将の前に立った。


「え!?」


 上で観戦していた、アストル、ウィリアム、フィルの三人は出てきた選手に驚いた。


 そこに立っていたのは。






















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