古き血脈 顔の見えない少女
*** *** ***
瞳を閉じ、闇の中で思うことは君のこと。
何もかも忘れてしまった君のこと。
もう一度君に会えたならば、俺は何を話すんだろう。
こうして会えない時間が増えていくたびに俺は君を思い出したくてたまらなくなる。
確かにあった幸せな思い出の続きが分からないけれど。
ほら、あったはずだろ、君と語った大切な時間がさ。
君は覚えているんだろ?
俺は忘れてしまったんだけれど。
ねえ、君はどうして傍にいないんだ?
真っ暗な世界で語る、失くした思い出をひとりで探すのは寂しいから。
君と夢を見る。
すぐそこにいる君と。
***
霧深い森の中でハルは顔の見えない女の子と一緒にいた。
「また、会ったね」
彼女は何も語らずただそこにいたハルをジッと見つめていた。
「俺の名前はハルっていうんだ、君の名前は?」
「………」
彼女は答えてくれなかった。
「えっと、その顔の霧は魔法とか?よければ顔を見せてくれないかな?俺、きみのこと知ってるかもしれないんだ」
「………」
顔の見えない女の子は、まるで巻き付けたかのように顔が霧で覆われており、素顔は隠されていた。
「わかった、もしかしてライキルでしょ?俺の夢に出てくる女の子なんてライキルとかぐらいだからね」
「………」
沈黙が二人の間を流れた。
「人違いみたいだね…」
ハルはどうしたものかと困った様子で悩んでいると、彼女が口を開いた。
「あなたはハルじゃない…」
「え……」
顔の見えない女の子はそう言うと、歩いて森の奥へと行ってしまった。
追いかけようとしたが、彼女の言葉の意味が頭の中で何度も反復されては、その意味を理解することに必死で何もできなかった。
「俺はハルだよ…」
そこでハルは目覚めなければならない時間が来ることを知った。
「やっぱり、俺のこと知ってるんだ…」
真っ黒な髪に黒い瞳のハルは、霧深い森の中に立ち竦んでいた。
やがて、目が覚めるためにハルの視界は真っ白に染まった。
しかし、そこから目覚めた先の現実には、狂気と闇が広がっていた。
『ああ、目覚めたくないな…』
*** *** ***