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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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雨の日 始まり

 次の日、パースの街には雨が降り、雨の音でハルは目覚めた。

 窓の外は久しぶりの雨で、ベランダにも一羽の小鳥が雨宿りしていた。


『あれ、雨か…昨日はあんなに晴れてたのに…』


 外は雨雲が広がり早朝もあって薄暗かった。

 ハルは眠そうに眼をこすりながら起きて、寝巻から服を着替えようとしたら、部屋の床に誰かが倒れていた。


 そこに倒れて寝ていたのは、ずぶ濡れで泥だらけのガルナの姿だった。


 昨日の夜、みんなが夜遅くまで騒いで解散した後、ガルナだけ『もうひと修行してくる!!』と酔っぱらった状態で裏の広場に走って行ったのをかすかにハルは覚えていた。

 敷かれたカーペットの上でガルナはすやすや眠っていた。


「ガルナ起きてくれ、風邪ひくぞ」


 ハルは着替えるのをいったんやめて、ガルナを起こそうと肩をゆすったが、まったく起きる気配がなかったため、ハルは彼女を起こすのをあきらめた。

 ハルはベットに汚れてもいい毛布を敷き直し、泥だらけのガルナを軽々抱きかかえ、毛布の上に寝かせた。

 それから、クローゼットから予備の毛布を取り出し、泥だらけのガルナに掛けて、とりあえず寝かしておいてあげた。

 それから、ハルは、泥と水でぐちゃぐちゃになった自分の部屋の床を見渡し、一言「よし」と言って、掃除用具のあるエントランスに向かうことにした。


「戦え…ハル…」


 ガルナの寝言を聞きながら、部屋の扉に向かう、鍵はあれから直すのを忘れていた、それにきっと直してもまた破壊されるのがなんとなくハルには分かっていた。


 部屋を出ると、ライキル、エウス、ビナの部屋があるいつもの通路に出る。

 たまに使用人や誰かが歩いていたりするが、ハルが扉を開けた時は誰もいなかった。

 ハルの部屋は角部屋であるため、扉を開けると真正面にエントランスまで続く通路があった。

 自分の部屋からエントランスの方までガルナが残したと思われる泥の足跡が続いていた。

 ハルがその通路を歩いて行く。

 エントランスまで続く通路には、大きな窓があり、噴水の広場や庭園が見えた。

 ハルが窓の外を見ながら歩く、外は雨が降りしきり、強風に煽られた雨が窓ガラスに打ちつけられていた。

 エントランスの扉の前に着き、扉を開けると、ガルナの泥の足跡が中庭の方まで続いていた。


 ハルは、エントランスにある掃除用具入れから、掃除用具を一式取り出すと掃除を始めた。

 ちょうど雨が降っていたので、ハルはバケツを外に出して水をためた。

 ハルは魔法が全く使えないため、水魔法さえ使うことができなかった。

 バケツに水がたまると、モップといわれる、木でできた長い柄の先に、綿で出来たひもがたくさんついた掃除道具を持ち、綿の部分だけ水につけ、エントランスから自分の部屋の前までの泥を綺麗に掃除した。


 ハルが自分の部屋の前を掃除していると、隣の部屋から眠そうなライキルが起きてきた。


「おはよう、あれ、ハル、こんな朝からなにしてるんですか?」


 二日酔いで辛そうなライキルは少し足元がおぼつかなそうだった。


「おはよう、ライキル、掃除だよ、ガルナが泥で汚しちゃったみたいなんだ」


 ライキルは状況を飲み込もうと少し考えこんだ。


「……ガルナは、朝まで外にいたんですか?」


 ライキルは、朝起きて雨が降っている状況と、昨日の夜晴れていた状況を頭の中で整理しながら言った。


「多分、ずぶ濡れだったし」


「そうですか…」


 しかし、ライキルはガルナの様子を詳しく話すハルに何か引っかかった。


「あれ、でも、なんで、そんなにガルナのこと知ってるんですか?」


「ああ、今朝、起きたら、ガルナが俺の部屋で、その、寝てたんだ」


 ハルは正直に事実をそのまま伝えた。


「ええ!!な、何でですか!?ずる…いや、なんで、ハルの部屋にいるんですか!?」


 ライキルはとても動揺した様子で、ハルの寝巻の襟を掴んで揺さぶった。


「わ、わからない、たぶん階層を間違えたんじゃないかな、ガルナの部屋、俺の部屋の上だし」


 ハルは自分の考えを言った。


「一緒に寝たんですか!?ガルナと!!」


 二日酔いが吹き飛んでいたライキルが、ハルの意見も無視して重要なことだけ尋ねていた。

 その彼女の表情から焦りと必死さがひしひしと伝わってきた。


「一緒に寝てないよ、起きたら、ガルナが俺の部屋の床に倒れてたんだ」


 ライキルの権幕がものすごいことになっていたが、ハルは冷静に返した。

 その言葉を聞いたライキルは、しばらくそのまま固まったあと、頭の中でその言葉を反復した、そして、スッとハルの襟から手を離した。


「そ、そうでしたか…ごめんなさい、熱くなっちゃって…」


 ライキルは、下からハルの目を見つめていた。


「いや、大丈夫だよ」


 ハルもライキルの目をしっかり見つめ返した。

 ハルの瞳には誠心誠意がこもっていた。

 その真剣な目に、ライキルも落ち着きを取り戻した様子だった。


「それよりガルナは、どうしたんですか?」


 ライキルが切り替えて言った。


「俺の部屋のベットの上で寝かせてるよ、風邪ひくと大変だし」


「そ、そうですか、あ、私も手伝いますよ」


「それは、助かるよ」


 ハルとライキルは、ガルナが寝ているハルの部屋に入った。


 そこには先ほどよりも、悲惨な光景が広がっていた。

 窓や家具、壁や周囲に泥が盛大に飛び散り、せっかく敷いた毛布も意味をなさず、ベットも泥だらけになっていた。

 ガルナが寝ながら暴れたのか、ベットから転げ落ちて、幸せそうな寝息を立てていた。


「ハル…つよい…」


 ガルナは寝言を呟いた。


「ハル、本当にごめんなさい、さっき、疑って…」


 ライキルが哀れみの目で部屋の惨状を見渡しながら言った。


「いいよ…」


 ハルは、内心泣きながら、ライキルと部屋の掃除をした。


 こうして、ハルの雨の日は始まった。














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