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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
新世界と古き血脈編
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古き血脈 乱闘騒然それでも悠然と空へ

 スフィア王国の王都エアロにレイドや帝国のように街全体を囲む壁はない。あるとすれば王城クライノートの敷地内を囲む城壁だけだった。

 そのため、王都奪還のため集ったスフィア王国の奪還部隊はすんなりと街の中に入ることができた。

 王都には何重にも結界が張られ物理的な侵入や結界内の監視も困難なほど外界と遮断されていたが、これは難なくひとりの英雄様によって跡形もなく砕かれ事なきを得る。しかし、最後の結界だけは破られることなくいまだに不気味に王都を覆っていた。それは奪還部隊には何の影響もなかったが、残り続ける結界にどんな効果があるのかみんな最初の内は不気味がっていた。


「それにしてもどうやってあんな分厚い結界を破ったんだ?」


 誰かがそんなことを口にする。それを聞いていたルナが得意げな笑みを浮かべるが誰にも見せずに自己完結させた。


 奪還部隊には前線部隊総勢二百名程度が突入し、現在部隊は二手に分かれ、ルナたちとは別の部隊は、すでに街の北に位置するそびえたつ巨木へと足を進めていた。

 その他には、後方で待機している支援部隊や増援などいた。


 部隊が担う作戦は少数精鋭による結界のコア叩きであった。

 まず、スフィア王国の軍事会議があり、そこでレイド王国代表のルナから王都には強力な結界が張られていることが明言された。


 その発言を重く見たというよりかはひいき目に見るスフィア王国の女王ジェニメアより、作戦はまずその結界を形成する【コア】を破壊する方針が中心に据えられることになった。


 もっともこれはハルから助言を受けたルナが提案したものだったが、スフィア王国を裏から牛耳っているルナがこの作戦の案を通すのは容易だった。

 しかし、ルナもこの作戦が的を得ていることは容易に理解できた。

 それは、王都エアロに張ってある結界の中にはひと際強力な結界があり、その結界のせいでハルの力が全くと言っていいほど、活かせなくなっている点であった。

 むしろこの騒動ハル一人いれば数分と掛からず解決するはずなのに、結界が邪魔をして困難を極めていた。

 ルナもまさかハルが殺されかける場面に立ち会うとはあの時は思ってもいなかったほどであった。


 そして、結界には必ずコアとなるものがあった。それは結界を張った術者本人であったり、別の器となるものに結界のコアを宿したりと、やり方は様々あった。


 結界のコアを見つけることはそう難しいものではない。基本的に結界のコアの位置は決まっていた。結界を維持しやすい形には法則があり、術者を結界の中心に据えたり、三角形の頂点にそれぞれ三つのコアとなるものを置き強度を強めたり、より大きな結界を創るとなると五芒星や六芒星と数を増やすことも可能であった。コアが多ければ多いほど結界維持に関わる魔力出力は増え、強固で大きな結界を形成することができた。


 今回の結界は三角形であり、その頂点にコアがあることは判明していた。


 それはベッケとサムの協力によって分かったことだった。

 真夜中にサムと同行したベッケが、王都エアロを覆う結界まで近づきその結界を解析する魔法を仕掛け、見事コアの位置に目星をつけることができた。


 結界とは自らに有利な条件を付与した空間を創造でき便利ではあるが、位置が知れられていれば対策などいくらでもすることができた。そのため長年結界を破る者と結界を張る者とでの争いは絶えなかったが、破られたことない結界が存在したことはなかった。


 このように、ルナがいる部隊とは別の二分して別れた部隊が向かった巨木があるエリアにも、コアがあると推測された場所とほぼほぼ一致していた。そのため部隊を分けることになった。そして、同じようにまたルナたちも部隊を分けることになることは、言うまでもない。コアは残り二つで、どの場所でも作戦の失敗は許されなかった。



 奪還部隊が街の中に入ってすぐに異変に気付いた。それは光る人型の物体がいくつも街の中に存在していることだった。

 背の高さからもそれはエルフであり、そして、王都エアロの国民であることは報告にも上がっていた。人々は光に変えら拘束されていると、サム、ベッケやレイチェルたちからの確かな証言もあった。


 晴れ渡った日が照る冬の街に、光となった人々が揺らめき、静寂を生み出している。


 ぞろぞろと光る人々を避けて進む部隊。


 ルナも彼等と一緒に歩いていると隣にサムがやって来た。


「ルナさん」


「サムさん、どうしたんですか?」


「いや、別にただ、知らないうちにずいぶんとあなたは、あなたの夢を叶えていたんだなと思って」


「どういうこと?」


「出発前に親しげにハルさんと話していましたよね?なんの話をしていたんですか?」


 ルナはからかわれていると思って、そっぽを向いた。


「別にそれよりもサムさんあなたの方がよっぽど浮足立っていたんじゃありませんか?ほら、最近ギゼラとばっかり一緒にいますよね?」


 サムが確信を突かれたことをかわすようにおどけて笑って見せる。


「私は別に全然構いませんが、あの子意外と初心なところがあるから、冗談ならちゃんと身を引いてくださいね?」


 ルナとしてもギゼラは身近にいた人のひとりであるため、彼女の幸せを願って釘を刺しておいた。


「…そうですね、私もお遊びならそうしたんですが、どうにも本気になってしまったみたいで、ギゼラさんから身を引きたくはないですね」


 今度の笑顔は打算の無い心からのものだった。演技ではないとそう思わせるものがあった。


「そう、なら彼女を幸せにしてあげてね」


「寂しくはないのですか?」


「私がいま寂しい人間に見える?」


「いえ、幸せの絶頂を迎えているかと」


「正解ね」


 ルナとサムがお互いのパートナーの話をしている時だった。


「全員戦闘態勢!二時の方向から無数の飛行物体あり!!」


 行列の戦闘にいたスフィア王国の騎士が叫んだ。

 街の南西の方角の空から無数の黒い影が迫ってきているのが見えた。


「さて、きっとここはもうすぐ戦闘が始まって混乱すると思うので俺は先に行きますね?」


 サムが遠くの空を呑気にぼんやりと眺めながら言った。他のみんなが緊迫している中、だいぶ余裕そうであり、それはルナも同じだった。


「はい、サムさん気を付けてくださいね。ギゼラのためにも」


「ええ、ルナさんも、せっかくハルさんと奇跡的にくっ付くことができたのにここで死んだら奇跡が無駄になっちゃいますもんね」


「サムさんはもういまここで死にたかったりするのかな?」


「アハハハ、冗談ですよ!ハルさんはルナさんの魅力に惹かれたんですもんね」


「ハルはそんな軽い男じゃない、私とだってそのいろいろあって、彼なりに考えてだから…」


「それじゃあ、俺はもういきますね」


 サムが歩幅を縮めると部隊の後方に下がってすぐに見失ってしまった。


「ハルは、すごい考えて私のことも選んでくれたんだから…」


 話を途中で切られたルナはいじけていた。そんなこんなしているうちに南西の空に見えていた飛行物体はすでにルナたちのすぐ近くにまで来ていた。


 その飛行物体は大勢の影の集まりだった。晴れた空を飛ぶその大群が冬の太陽を覆い隠し、奪還部隊の隊列に影を落とした。


 そして、その空を飛ぶ大群が翼の生えたエルフと分かった時には、もう奪還部隊の隊列には大量の熱戦が降り注いでいた。


 光の雨のように触れたら骨まで溶けてしまいそうな灼熱の熱線が容赦なく部隊に降り注ぐ。


 しかし、ここに連れてこられた者たちは三大国の協力を得た中から選ばれた精鋭たちであり、頭上から炎の雨による奇襲攻撃では誰一人命を落とすことはなかった。


 全員が自分の周りや隣人たちの分まで水魔法の膜を張り、熱線の雨を耐え凌いでいた。


 ルナも自身の水魔法を最小限出力して防ぎきっていた。


「素晴らしい、我々の歓迎(サプライズ)をこうも簡単に乗り越えるとは、ようこそ、愚かな戦士の諸君、今日は存分に戦いそして死んで逝ってくれ!」


 背中に二翼携えたエルフがいた。金髪で女性を惑わせるほどの美貌を持っていたが下卑た笑みがそれらをすべて台無しにしていた。そして、そんな彼の顔をしたエルフがいくつも空を飛んでいることで、その腹立たしさは一気に膨れ上がり嫌悪感へと変わる。


「さあ、戦争の始まりだ!!」


 そのエルフの声を合図に、奪還部隊たちからも反撃が始まった。


 その反撃は躊躇の無い報復であった。


 高威力の魔法がいくつも舞台から放たれては、上空を飛んでいたエルフたちを八つ裂きにしていった。


 大火球に、暴風が生み出す刃、巨大な岩石を放つ土魔法と終いには、空から降るはずの稲妻が地上から空へと昇り、その翼のエルフたちの数を減らす。


 どれも初手に放つようなものではない大技ばかりだったが、主にスフィア王国の戦士たちによるものだった。故郷を襲われた恨みと言わんばかりに、翼のエルフたちを羽虫のごとく落としていく。


 地上と上空で激しい戦闘が始まった。


 ルナはその時、直感でもなんでもなく、ごく当たり前の経験から敵の居場所を把握することができた。


「コアはあっちか…」


 翼のエルフの軍勢が来た方角南西方向にルナは目星をつけた。


『さて、それじゃあ、成果を上げてたくさん褒められますか、うーん、ご褒美何してもらおうかな』


「グフフッ…」


 これから得るであろう、ご褒美を想像したルナはあまり嬉しさにはしたない声をあげてしまう。

 ルナの背中に三つのリングが展開する。熱線降り注ぐ中、空へと飛びあがり、誰よりも敵の視線を集めたことも気にせずルナは敵が来た方向へと飛翔するのだった。


「楽しくなってきたあああ!!」


 満面の笑みで敵の中を最高速度で飛び去っていく。

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