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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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嫉妬

 



 *** *** ***




 ウィリアムの剣は遠くに吹き飛ばされていた。


 彼の全身からは嫌な汗が出て、それと同時に頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。


『俺こんなにできない奴だっけ?』


 ウィリアムの中に一つあった感情は。


『苦しい…』


 体はその思考に囚われ、鈍く、重くなっていく。


「もう一回、やるか?」


「はい、お願いします」


 エウスの質問にウィリアムは不安を払うように即答し、木の剣を拾ってきて、剣を構えた。


「よし、行くぞ」


 ウィリアムの息はすでに上がっていた、それほど激しく動いたわけでもなく、長い間剣を交えたわけでもない、ただ、何か、苦しく、重い。

 エウスの振るう剣をウィリアムは防いでいく、エウスの剣だけを見て、その振りかざされる剣を鮮やかな腕前で受け流していく。


『今は、集中しろ、見極めるんだ』


 そして、ウィリアムはエウスの一瞬の隙を見つける。

 エウスは大きく振りかぶる動作に入った。


『何度も見た、両手持ちで…大きく振りかぶる、今!』


 そこで、エウスの脇腹を狙って、ウィリアムは全力で剣を振った。

 しかし、エウスはそれを読んでいたのか、その場から後ろに身を引きそれをかわす。

 ウィリアムの剣は大きく空を切った。


『あ!?』


 同時にエウスは素早く、空ぶっているウィリアムの剣に、自分の剣を追いかける形で、後ろから剣をぶつけ、相手の手から剣を弾き飛ばした。

 ウィリアムの手はジーンと痛みが走り、頭の中は真っ白だった。

 いままでウィリアムは、エウスと戦ってもこんなにあっさりと負けることはなかった、さらに、こんなに簡単に剣を弾き飛ばされることもなかった。


『なんで負けた?いや、そもそも、なんであんな見え見えの誘いに自分は乗った、クソ!!』


 ウィリアムはその悔しさを顔に出さなかったが、飛ばされた剣も拾わずその場に立ち尽くす姿だけで、悔しがってるのは誰から見てもわかるものだった。


「ウィリアム、今日は調子悪いな」


「すみません、もう一度お願いします」


 すぐに剣を拾いに行こうとしたとき、エウスに声をかけられた。


「俺は構わないけど、ウィリアム、今、辛くないか?」


「…………」


 そのエウスの言葉で完全に固まってしまった。


 後ろではベルドナとアストルが剣の稽古を続けていた。

 ウィリアムの目にはベルドナの姿が映っていた。

 ベルドナはアストルの剣を軽々さばいていた。


 エウスもウィリアムの見つめる方向を見た。


「彼女、強いよな」


「ええ、とっても」


 二人はベルドナの戦ってる姿を眺める。


「ウィリアムは強くなりたいか?」


「はい、もちろんです」


「そうか…」


 エウスは剣を置いてその場に座り込んだ。


「焦るよな、ああいう子がいると」


「………はい…」


 ウィリアムは、ただ、ベルドナを見つめていた、そんなウィリアムをエウスは横目で一瞥した。


「アストルが言ってたんだ、自分はダメな奴だって…」


「あいつがですか?」


 いつでも前向きで、弱音を吐かない、まっすぐな印象をアストルから受けていたウィリアムは少し驚いた。


「ああ、俺と剣の稽古して一本もとれないって」


「そうだったんですか…」


「でも、ウィリアム、お前は俺から一本取ってたよな」


「ええ、一回だけですけどね」


「俺が言うのもなんだけど、お前はすごい奴だよ」


 エウスは下を向いて、何かを思い出すように言った。


「俺はすごくありません、それだったらベルドナさんの方がすごいです…」


 その言葉を耳にしたエウスは少し顔を上げた、ウィリアムの表情は少し笑っていた。

 しかし、それは彼が感情を殺して言ってることが理解できた。


「ああ、でも…」


 エウスは一呼吸おいた。


「彼女は、まだ一本も俺から取れてないんだ」


「…………!?」


 その言葉にウィリアムの作り笑いは止んだ。


「練習試合が終わって、ベルドナと何度も手合わせをしたよ、彼女、剣より棒術の方が得意なんだけど、それでも俺から一本も取れてないんだ」


「…………」


 練習試合でベルドナに負けてから、ウィリアムは悩んでいた、剣術には自信があり、ずっと新兵の中で一番だった。

 だが、それが覆され、負けたときは悔しく、自分が無価値だと感じた。

 その後、何回かベルドナに戦いを挑んだが、彼女に剣が届くことはなかった。

 ウィリアムは寝ても覚めても、もやもやが消えず、どうすればいいか、わからなくなっていた。

 そして、そんな自分が酷くみじめになり、ただベルドナという存在が憎いと思うようになっていた。

 それから、ずっと剣の練習に身が入らない自分がいたことにウィリアムは気づけなかった。


「ウィリアム、お前がどう思ってるかは分からないが、それでも一つ言えるのは、自分をもっと、もっと見てやれ、他の人を見る暇があるなら、もっと自分自身を見てやりな」


 エウスはウィリアムの顔を見て言った。


「はい」


 彼の顔から暗い雰囲気は消えていた。


『ああ、そっか、俺にできることは、俺のことだけだ、他人をどうこうはできない。それに優劣は一つのことでは決まらない…難しいな、強くなるって…』


 しばらくベルドナとアストルが戦ってるのを見ているとウィリアムが口を開いた。


「エウス隊長、少し悩んでたことがすっきりしました、ありがとうございます」


「いいのよ、俺はお前たちの隊長なんだから」


 エウスは立ち上がりながら言った。


「はい!」


 そうすると、アストルが片手でブリッジを決め、ベルドナの剣を蹴り飛ばしていた。


「アストル、いつの間にあんな技を!」


「あいつ、まじか、アハハハハハハ!」


 エウスはとてもおかしそうに笑ってた。








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