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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
新世界と古き血脈編
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古き血脈 お詫び

「あの、すみません、これ、お返しします」


 街の街道をそれればそこはすぐに、瓦礫の街の中だった。ハルは手に抱えたパンが入った袋を差し出した。


「あなたは、さっきの路地にいた人ですよね?わざわざ、いいですよ。困った時はお互い様ですからね!」


 まだハルよりも若そうな茶髪の青年が、慈悲深い笑顔で言った。


「違うんです。俺はただ、街の様子を見ていただけで、施しを受けるためにあの場にいたわけじゃないので…」


 街の人たちに比べたら砦にいるハルたちには優先的に物資が回ってきていた。これではハルが街の人から食料を騙し奪って、過剰に取得したことになってしまう。いくら、身を落としたとしても、いたずらに誰かを傷つけたいわけではなかった。


「だから、これはお返しします」


 ハルは青年にパンの詰まった袋を無理やり持たせ返した。


「ちょっと、あなた街の様子を見てたって、何が目的で見てたの?」


 エルフの女性の方にはハルに対する敵意のような鋭い眼差しと厳しい態度があった。それはまるで罪人をさげすむものだった。


『犯罪者か何かだと思われるのも仕方ないな…』


 路地でこそこそ街道を観察する者。それではまるで自分が配給している荷馬車を襲う機会を伺う悪い輩に見えてしまうのは仕方のないことだった。彼女の敵意は何も間違っていなかった。

 しかし、そこで、茶髪の青年が彼女に対して口を挟んだ。


「こら、プラリツ、そうやって人を疑わない。きみの悪い癖だよ」


「それを言うなら、あなたは人を信用しすぎるところが悪い癖よ!」


 二人がにらみ合っているところで、ハルはその場を後にしようとした。


「ちょっと、あなた待ちなさいどこに行くき?まだ話は終わってないわ?止まりなさい」


 その時、彼女が青年に自分が持っていたパンの袋を持たせ彼の両手を塞ぎ、手を前に出して構えた。

 彼女の手の中に不吉な禍々しい光が集まる。バチバチと耳障りな音を立てて、やがてその手の中に電が球状になって出現した。これがエルフのすごいところであった。一般市民なのにも関わらず、平気で雷魔法を完璧に制御しきってしまうところなど、ひとり、ひとりの人生の密度が他の種族とは別物だった。


「エルフを見くびらないことね、あなたをここで殺すことだって私にはできるんだからね?」


 すると彼女が手の中の雷の流れをさらに流動的にし、高電圧で魔法の威力をあげていた。あいにく、ここはエルフの森の中に入っており、マナが充満していた。そのため、誰でも平気で魔法が使えたのだ。


「ちょっと、プラリツ、落ち着いてよ」


 だが、そこで彼女の隣にいたパンの袋いっぱいに持った茶髪の青年が、その高威力になった電気の球の前に堂々と立ち、ハルに向かって撃たせないように立ちふさがった。


「ロップ、危ないからそこどいて、その男、もしかしたら、荷馬車を襲うかもしれない盗賊なのかもしれないのよ?」


「彼は違うよ」


「これ以上、ここで悲しい出来事は起きて欲しくない、あなただってそうでしょ?」


「そうだね、だからこそ、俺は君にはもうその原因になって欲しくないんだ」


 ロップと呼ばれた青年は、持っていたパンの袋をその場に全部落とした。そして、彼女にもう一歩近づくと、彼女の手の中にある電気の球と彼の胸があと少しで触れそうになった。

 すると、彼女はすぐさま魔法を止めた。


「もし彼が物資目当ての盗賊だったら、俺にわざわざパンを返しに来てはくれない、冷静になればプラリツなら分かるよね?」


 彼女は肩を落とし、散らばったパンを風魔法で自分の元に引き寄せた。


「袋に入れるの手伝って…」


 彼女はロップと呼ばれた青年にそういうと、彼は任せてと言って、周囲のパンを拾い集めていた。ハルも彼らに加わって落ちていたパンを袋に戻すのを手伝った。


 ***


 ハルは、茶髪の青年ロップと、金髪碧眼エルフのプラリツと、彼らの居住区であるテントに向かっていた。ハルは二人に迷惑をかけたお詫びと、優しくしてもらった感謝のしるしとしてハルも配給を受け取るのを手伝うと申し出ていた。


「それじゃあ、二人は恋人になったばかりなんですね?」


 ロップとプラリツの二人は、異種族の間柄でありながら、恋人であった。


「そうなんです。彼女は俺と違って物知りで魔法が得意なんです。こうやって生き残っているのも彼女のおかげなんですよ!」


 ロップがプラリツを自慢するように言うと、彼女は顔を少し赤らめながら得意げな顔をしていた。

 スフィア王国の王都エアロが襲撃にあった際、二人は上手く逃げ延びることができ、それは彼女の魔法があったからとロップは語った。さらに逃げ延びてたどり着いたこの復興拠点の奇襲攻撃の際も、彼女の魔法が大いに役立ったようで、ハルも彼女が凄腕の魔導士だということを知った。


「プラリツさんは、どこで魔法を覚えたんですか?」


 崩壊した建物群が均された後の街を横切っている最中、ハルが尋ねた。


「もうずっと昔だから覚えてないな。それに長い生涯が約束されてるエルフにとって、魔法はいい暇つぶしになるんだよ。奥深いし、いくら追求しても終わりがないからね」


 プラリツが、ハルに指先に軽く火花を散らせて見せた。


「ですが、さっきの雷魔法は凄かったです。俺の知り合いにも雷魔法を使える人がいましたが全然ダメだったので、あんな正確に雷魔法を扱える人がいるとは思ってもいませんでした」


「雷魔法は貴重なくせに魔法の中でもトップクラスで難しいからね、何百年生きたエルフでもできないって人もいるくらいだから、その知り合いにも気を落とさないでと伝えてあげてね」


「…ええ、そうですね……」


 ハルはぎこちない笑顔で答えた。


 廃墟の街を抜け、難民が暮らす森を切り開いて作った広場にたどり着いた。あたり一面に人々が暮らすテントの海が広がっていた。

 ロップとプラリツが止まっているテントに着いた。テントがあたり一面に広がるテントの草原から少し森に入った場所だったが、そこにはほかに比べるとなかなか立派なテントが張ってあった。ハルたちの住む部屋よりも少しばかり広く内装も家具や寝具が置いてありしっかりその部屋の中で生活していけるほどの健全さがあった。


「すごい、立派なテントですね…」


 ハルのその疑問にロップが答えた。


「プラリツが、ここでの生活でみんなの困っていたことを解決してあげたら、みんないろんなものを少しずつくれて、ここまで立派になったんだ。俺の彼女は凄いでしょ?」


「そうだったんですね…」


「違うわよ、私はただロップに助言しただけなの。困っている隣人を手助けしていたのは全部彼なの、私は何もしてないわ」


 プラリツが、不服そうに言った。彼女のその表情は、ロップが勝手に自分を持ち上げようとしたから生まれた不満から来たものだったのだろう。


「そんな謙遜しなくてもいいのに…」


「私は事実を語っただけ」


 ロップがパンの袋を大きな木箱にしまいながら呟くと、プラリツがぴしゃりと遮った。


「よし、それじゃあ、ハルさん、あなた本当に私たちのために、物資を受け取りに行ってくれるのかしら?」


「はい、そのために、あなた達と一緒に来ました」


「後で、やっぱり自分も欲しいはやめてちょうだね?」


「え、彼にも少し分けてあげるべきだよ、対価は必要でしょ?」


 ロップが、プラリツに言い寄った。しかし、そこでハルは問題が起きないように事前に約束を決めておくことにした。


「いえ、本当に俺は二人に何かお返しができたらと思っただけなので、大丈夫です」


 そこでロップがハルがそう言ったことでふくれっ面を披露した。彼は男性にしては可愛いらしい中性的な顔立ちをしていた。エルフの美形にも劣らない彼の美貌に、プラリツという女性が落ちるのも納得がいくが、それよりも彼の心意気の良さが何よりも彼女の気を引いたのかなとハルは思った。


「じゃあ、今晩一緒にご飯を食べましょう。それで平等ということで!よし、決まり!じゃあ、行こうか!」


「え?ああ、ちょっと待ってください!」


「こら、ロップ、勝手に決めるな!」


 ハルとプラリツの答えなど一切聞かずにロップは先にテントの外に飛び出して行った。

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