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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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成長

 ハルが図書館で霧の森にを調べてから、一週間が経ち、神獣討伐の日は刻々と近づいていた。

 各国では、その準備が最優先に進められていた。

 特に今回、白虎の巣のある霧の森に面するレイド王国とアスラ帝国は、作戦当日の避難場所の確保や国民への説明など多くのやらなければいけないことを終わらせるのに躍起になっていた。

 そんな中、この作戦の本部となった、パースの街にある古城アイビーもまた例外ではなかった。

 各国から大量の物資が送り込まれることが決まっていたので、その整理に軍の補給隊は手を焼いていた。



 作戦実行日は着実に近づいていた。



 あれから、両国の軍の騎士や兵士は訓練を積む日々が続いた。

 エウスは、ベルドナのことを聞かされて、ベルドナに新兵たちの相手をして欲しいと頼み、何度か練習試合を行った。

 ガルナとビナはお互い、いい練習相手を見つけ、毎日、剣の修行に明け暮れるようになった。

 ライキルもガルナとビナに鍛えてもらったり、自主トレを欠かさず、裏の広場に頻繁に顔を出すようになった。

 ハルは、少し体を動かした後は、城の屋上で瞑想をする日々を送っていた。




 昼の食堂に、アストル、ウィリアム、フィルの三人がいた。


「おい、フィル、俺とアストルは先にいつもの広場に行ってるぞ」


 ウィリアムは、おいしそうに昼食を食べているフィルに言った。


「俺も食べたら行くよ、先に行ってくれ」


「そうかい、行くか、アストル」


「ああ、行こう」


 アストルとウィリアムの二人は寮の近くにある食堂を出ると、いつもの城の裏の広場に向かった。

 その途中でウィリアムはアストルに話しかけた。


「それにしても、彼女、強いよな」


「彼女って、あのベルドナさん」


「そう、俺らと歳変わらないらしいぞ」


 ウィリアムは少し不満げに言った。


「なら、俺らも早く強くならなきゃね」


「アストルは前向きだな…」


「そうかな」


「そうだよ…」


 二人が食堂を出てから城の東館の横を通っていく、東館は居住区のため一階が見えないように木の垣根が設置されていた。

 整備された敷地内は馬車も通るため道が石畳で舗装されていた。

 二人はそのまま進み、城の背後にあるいつもの広場に出た。


 遠くでは、エウスとベルドナが木の剣を交えて稽古をしてる姿が見えた。

 ベルドナは相変わらず全身鎧姿だった。

 そんな重そうな鎧を着たままベルドナはエウスの剣や動きについていっていた。

 彼女の剣は、攻めと守りどちらにも切れがあり、どの新兵たちよりもその剣術は上だった。


「やっぱり、彼女すごいよ、あんなに重い鎧着て、エウス隊長のスピードについていってる」


 ウィリアムもその光景を横目に捉えた。


「…そうだな、ほら、俺らも剣の稽古するぞ」


 二人も防具をつけて、木の剣で稽古を始めた。

 実戦形式の練習でお互い本気で剣を振る、お互い一歩も譲らない状況が続くが、アストルが剣の速度を上げていく、ウィリアムはそれをいなしていくが、そこで、エウスとベルドナがこちらに歩いてくるのが目に入って、一瞬動きが止まってしまった。アストルはもちろんそこを見逃さず、隙ができた腹に一撃入れた。

 ウィリアムはその衝撃で、後ろに飛ばされた。


「どうしたウィリアム?」


「ちょっと、よそ見を…」


 アストルの後ろから声がした。


「アストル、ウィリアム、やってるね」


「エウス隊長、ベルドナさんも」


 アストルがウィリアムに手を貸して起こしながら言った。


「やあ、アストルくんにウィリアムくん、三人の名前は覚えたよ、フィルくんがいないようだけど」


 ベルドナがアストルとウィリアムに親し気に話しかけた。


「フィルはまだ食堂で食事してると思います」


「どうだ、一緒に剣の稽古でもしないか?」


 エウスが二人に提案した。


「はい、もちろんです」


「ウィリアムもそれでいいか?」


「ええ、自分も構いませんよ…」


 ウィリアムは少しためらったが小さい声で返事をした。

 エウスはそんなウィリアムをじっと見つめた。


「よし、それじゃあ、やろうか、ウィリアムは俺とやるぞ」


 それから四人がそれぞれ二人づつに分かれて剣の修行を行った。


「ベルドナさん、よろしくお願いします」


「同じ歳なんだから、ベルドナでいいよ、それより私もアストルでいい?」


「かまいませんよ、ベルドナ」


「そうだ、鎧脱ぐからちょっと待ってて、これじゃあフェアじゃないからね」


「あ、はい」


 ベルドナが鎧を脱いでいくと、頭の後ろでふたつ結びされたサラサラな黒髪と印象的な長い耳が現れ、吸い込まれそうな紫の瞳は、最初に練習試合で見た時と変わらず、綺麗だった。

 ベルドナはアストルと同じ防具をつけ、剣を持ってアストルの前に来た。


「それじゃ、始めよっか」


 身軽になったベルドナは、軽快に体を動かしながら言った。


「お願いします!」


 二人は剣を構え、アストルから仕掛けた。


「はああああああああああっ!!!」


 アストルの全身全霊の一撃を、ベルドナも両手で剣をもち受け止める。

 ベルドナの前からアストルが素早く移動するが、彼女はその動きを冷静に目で追い次の一撃も防御した。

 すかさずアストルは彼女の背後を取ろうと動き回った。


『最初のときとは違うな、気迫もある…』




 ベルドナは最初の練習試合での、アストルの姿を思い出していた。

 その練習試合で、ベルドナは多くの新兵をなぎ倒していた。

 その中でも印象に残っていたのが、アストル、ウィリアム、フィルの三人だった。

 結果はベルドナの全勝に終わったが、ウィリアムは巧みな剣術で、フィルはその大きな体と肉体で彼女に力を見せた。

 アストルは、他の新兵たちよりは確かに腕が立ったが、ウィリアムよりも剣術のセンスはなく、フィルのような大きな体でもなく、目立った特徴は何もなかった。

 だが、アストルは、誰よりも多く立ち上がり、再戦を願い出てきた。

 最後はアストルが疲れ切って、倒れていたのをベルドナは覚えていた。




 長い間アストルが素早く動きまわり、斬撃を浴びせていた。

 それでもベルドナはそれを的確に剣でいなしていく。


『アストル、前とは攻め方も、動きも変わってる、まるで誰かと入れ替わったみたい』


 アストルはさらにスピードを上げるため、全力で地面を蹴る。


『もっと早く、もっと早く、あの人みたいに…』


 アストルがそう考え続け、ベルドナの後ろを取り、チャンスが生まれる。

 その一瞬を逃さず、アストルは突きを繰り出す。

 しかし、ベルドナは体の軸をずらしつつ、背中をそって簡単にかわした。


『やっぱり、相手の方が早い』


 ベルドナからの反撃が来る。

 ガッ!!

 何とかアストルは剣で受けるが、次の動作に移れないほど、彼女の剣さばきは早くなっていく。


『守るので精一杯だ、だったら…』


 アストルは彼女が突っ込んでくる瞬間、防御の構えを解いて、その場に呆然と立ち尽くした。

 ベルドナはアストルのその行動の意図が読めず、困惑した。


『なに、なにか…くる』


 ベルドナがそう思いながらも、動き出した体は止まれず、その勢いでアストルに最速の突きを繰り出した。

 アストルはそれをぎりぎりまで目でとらえると、片手でブリッジをして、彼女の剣を蹴り上げた。


『き、きまった、あとは起き上がって…』


 アストルが喜んだとき、ベルドナに足払いされて、そのまま体勢が崩れてしまった。


『あれ?』


 そのまま蹴り上げられた剣をベルドナはキャッチして、アストルの腹に着けていた防具に、その剣で突きを放った。


「ぐええ!!!」


「アハハハハハ」


 ベルドナはとてもおかしそうに笑っていた。












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