真紅の本
ひとしきり三人が本を読み終わると意見交換をした。
しかし、みんなそろって出てくる言葉は霧と雷と神獣の三つだけだった。
「ここにある本がこれだけ似通っていると本当に情報が少ないんだ…」
ビナが本を閉じて言った。
「そうだよな…。それか、これが霧の森の全てかもしれないしな」
「昔の本ですから、実際に現地に行ってみないと、わからないこともあるかもしれませんね」
フルミーナが本を片付けながら言った。
ハルとビナも手伝い本をもとの場所に戻した。
「私、少し見て回っていいですか?」
調べものが終わると、ビナが椅子から立ち上がった。
「もちろんいいですよ、でもあまり面白い本はないと思いますよ」
「え、そうですか、国の知られてはいけない本とかありそうですけど」
「フフ、そうね、王族や時の権力者の悪口みたいなものが書かれた本ならあるかもしれない」
フルミーナは微笑ながら言った。
「そういうのだけなんですか?」
ビナが少し、しょんぼりした。
「図書館に送られてくる前にね、別の場所で禁書か選別されたり、図書館においてもいい本か判別している人がちゃんといるのよ」
「そうだったんですね、でもフルミーナさんは見ちゃいけない本とか見たことありますか?」
「私はないわね、そういうのは禁書係の人の仕事だからね」
「そうなんですね…」
「あ、そうだ、でもそういう感じの本ならあるわ」
「本当ですか!?」
「ええ、ちょっと持ってきますね」
フルミーナが席を立って本棚の奥に消えて行った。
ビナはワクワクしながら体を揺らして待っていた。
「ビナ、そういう本に興味があるのか?」
「だって、ワクワクしませんか未知のものを知るって」
「まあ、わからなくもないけど、本当に危ない禁書とかあったらどうするんだ?」
「そのときは、強靭な私の意思で見ないようにします」
ビナは自分の両手で目をふさぐしぐさをしていた。
「そっか…」
ハルはビナを哀れみの眼差しで見つめた。
「な、なんですかその目は、大丈夫ですよ、私こう見えても分別はわきまえてますから」
「ハハハ、知ってるよ」
ハルは乾いた声で笑っていた。
「ほ、本当に信じてますか?」
ビナが焦って尋ねて、ハルはニコニコ笑っていた。
そこに、フルミーナが一冊の真っ赤な表紙の本を持ってきた。
「これが、ちょっとおもしろい経緯がある本なの」
「すごい、表紙が真っ赤だ」
ビナがパラパラとめくると一人の女の子の一生を書いた本のようだった。
「あれ、でもこれ普通の物語の本だ」
「ごめんなさいね、やっぱりビナちゃんが思うような本は、この図書館には無いのよ」
「ううん、大丈夫です、それより、フルミーナさん、この本何か特別なの?」
ビナが首を左右に振ったあと、質問した。
「これね、昔、ある男の子がこの図書館に寄贈してくれた本なの」
「子供がですか?」
「そうね、人族って本人が言っていたわね」
「でも、その男の子、この本どこから手に入れたんですか?」
「自分で作ったって言ったのよ」
「ええ!これを子供がですか!?」
ビナが驚いて言った。
「そうなの、しかもこの本のページ全部、高級な魔獣の皮でできているの」
二人がページを触って確かめていた。
「そしたら、これ、その男の子が書いた物語ってことですか?」
ハルも尋ねた。
「それが違うの、内容は、これの元の本があって、それをペンで写したって言っていたの」
「てことは、写本てことですか?」
「そうなの、そして、これと全く同じ本が、うちの禁書庫に何冊もあるのよ」
「え、どうして…?」
「完成するたびに、その男の子がわざわざこの図書館に持ってきてくれたの」
「それは不思議な話しですね…」
「彼が言うには『この本は素晴らしいからみんなに広めなきゃいけない』って、この本を持ってくるときいつも言っていたわ」
フルミーナが遠い目をしながら言った。
「でも、これ禁書庫の中にありますよね」
ビナが疑問を投げかけた。
「そうなの、この本、どうやら処分の対象の本らしくてね、でも私は男の子が一生懸命書いた本を処分されたくなくて、禁書庫に隠して置いちゃったの、悪いことだと思ったけど、そのとき私は彼を信じたかったのね」
「なんか素敵な物語みたいな話しですね!」
「そうね、私にとって、この図書館にはそういう思い出がいっぱい詰まっているの、あなた達もそのうちの一つだけどね」
フルミーナは優しい笑顔をしていた。
二人も自然と笑顔になった。
それから、赤い本を片付けたあと、三人は禁書庫を出ることにした。
水の魔法で明かりを消して、三人は禁書庫を出た。
鉄の扉は閉ざされ、禁書庫は闇に包まれていった。