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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
新世界と古き血脈編
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意地悪

 月も星も出ていない、真っ暗闇の森の中、手に灯る炎の明かりが集まってその暗闇に抵抗するように輝いていた。

 静まり返った森の中で、知人の登場で彼らは活気づいていた。


「うえ!?サムさんじゃないですか!?どうしてこんなところに?」


「ギゼラさん、久ぶりですね。縁あってこうしてここにお邪魔させてもらってます。ルナさんもまたお会いできて光栄です」


 意外といえば意外だった。サムという青年はルナやギゼラとは知り合いだった。

 大人しそうでけれどどこかつかみどころのないように見える青年サム。ハルも出会い方さえ違えば、彼が常識の備わった好青年という印象を抱いていただろう。だが、こちらが誰であるか知ったうえでなおも挑発まがいのことをしてきたことを見るに信用できなかった。

 そんな彼はアスラ帝国の暗殺者で、それも、ルナたちと知り合いともなれば何となく納得がいった。

 しかし、帝国の暗殺者それも特名持ちと、レイドの裏が繋がっていたことに、ハルは少しだけ嬉しく思ってしまったこともあった。両国間でうわべだけじゃなく、しっかりとした絆があったことの証明でもあったからだ。


「私は別に…」


「そんな冷たいこと言わないでください。僕たちの仲じゃないですか、リオもあなたに会いたがっていました……」


 彼らはどんな仲なのか一考するに値した。というより、なんだか聞き捨てならない言葉がサムの口からヒョイヒョイ出て来ることが気に食わなかった。


「お二人はどんなご関係で?」


 感動の再会に水を差すようにハルが割って入ると、ルナが慌てて罵倒気味にいましている話を否定し始めた。


「あ、あの違います!違いますから!誤解しないでください!この人とは一緒に仕事だけで、リオっていう人もこの人の部下で…」


「いや、別にどんな関係でもいいよ」


 冷たく切れ味の鋭い声だったかもしれない。意図的ともいえた。


「よ、良くないです。ハルさんの誤解を解かせてください。サムさんからも言ってください!」


 ルナの表情が一変し、サムを身も凍る勢いで睨みつけた。だが、彼は少し頭を働かせた後、屈託ない笑顔で笑いながら答えた。そこには事情を知っているかのような余裕があった。


「ああ、すみません、ルナさんとは本当にただ任務をこなした戦友とでも言えばいいんでしょうか?リオって私の部下もそんな感じで、やましいことは一切ありません。そこはクリーンなんで安心してください」


「あ、いえ、単純にどうして帝国とレイドのその裏の人間たちが繋がっていたのか気になって、何か両国の思惑が?」


 ルナを一瞥して彼女に罪悪感を植え付けたところで、すぐにサムに視線を戻した。その仕草ひとつでルナは濡れた子犬のように震えていた。ハルはそんな彼女を一旦放置して、サムの話しに耳を傾けた。


「実は、ハルさんが白虎討伐した後に開催された解放祭があったじゃないですか?」


「ああ、なるほど…」


 状況を理解するには彼のその情報だけで十分だった。要するにレイドと帝国両方が主催の合同で開かれた解放祭時に、両国がお互いの手札を見せ更なる信頼を築いたのだろう。いくら王様同士の仲が良くても、国の裏部隊をひけらかしては、裏切られた時の被害は大きい。

 古くからの友情だろうが、亀裂が入る時は入る。その結果国民の命が脅かされることが合ってはいけない。懐の短剣は最後まで隠し通すものなのだ。

 しかし、それでも、逆に互いの腹の内を見せたということは、相当な絆とも言えた。そこには王でもなんでもない友情が、ダリアス王とアドル皇帝にはあったのだろう。あの二人ならそんな王などという壁も超えてしまいそうだった。


「あの祭りの日、ハルさんを狙った暗殺者たちを止めるために、私たちが合同で任務に取り組みました。そこでルナさんたちに初めて会いました」


「え、暗殺?」


「はい、そうです。あの祭りの日、ハルさんはずっとある組織に命を狙われていました」


「それってサムさんたちのことですか?」


「ハハッ、いま言ったじゃないですか、帝国の私たちとレイドのルナさんたちで、ハルさんを狙っていた暗殺者を阻止したって」


 あのお祭りの裏でそんなことが合ったのかと思うと、ハルは少しルナに対して尊敬のまなざしを注いであげた。

 ハルは一切そんなことが合ったなんて知らなかったため、彼女たちのことを表沙汰にしないほど、高い処理能力を有していることを思い知ったのだった。

 彼女はそのハルの眼差しを全身全霊で受け止めるために、ジッとこちらを瞳を潤ませ訴えかけるように見つめていた。


「そうだったんですね」


「はい、ルナさん、凄い頑張ってくれたんです。その暗殺者のひとりを殺してますし、彼女の功績は表彰ものでした」


 空気が変わった。その場にいた全員に重苦しい空気が広がり、緊張が走った。しかし、その空気を変えた張本人はルナだった。

 ハルたちの様な人々を守る表の騎士たちが多い中、人を殺すことが日常になっている裏の人間との温度差はかけ離れているところがあった。

 ルナが、ハルたちと自分の温度差を何とか取り払おうと努力しているところはちゃんとあった。そのため、みんなの前で彼女の口から物騒な話は一切出て来ず、合わせてくれているところはあった。

 しかしだ、大切にみんなと同じ温かさで育てた調和の炎に冷水をかけるようにサムの口は残酷だった。だから、きっと、いまのルナは彼に怒っていた。自分の居場所を足元から瓦解させてくる彼に殺意を向けており、彼女は裏の人間に戻りつつあった。


 サムもいろいろ察し始めると、冷や汗を一つ垂らしてルナから一本後ずさっていたが、次動いたら殺されそうな勢いだった。


「裏で頑張ってくれてたんだ」


 彼女の近くに寄って傍で屈んで目線を合わせた。さっきまでの冷たい態度とは正反対の姿勢をみせる。


「ありがとう、ルナ」


 とびきりの笑顔と彼女の頭を優しく撫でるスキンシップ。まるで彼女を子供のように可愛がる。


「助けてくれたんだね?」


 彼女は目を丸くして犬のように呼吸を荒げ、顔を真っ赤にしていた。


「ルナが居てくれて俺は嬉しいよ」


「……ッ…………」


 一言も喋れなかったルナはそこで目を閉じて、幸せの中、地面めがけ一直線に倒れ込んだ。その彼女の身体をハルが支えた。


「ハルさん、その逆に聞きたいんですけど、あなたはそのルナさんとはどういう関係なんですか?」


 ハルはその質問に答えずにあっけなく気絶した彼女を背負って言った。


「サムさん、立ち話もここらで、そろそろにして、何があったか説明してもらってもいいですか?」


 数秒の間まるでハルが何の話をしているか理解不能といった感じだったが、すぐに自分たちの置かれている状況を思い出したのか、彼の表情にしっかりと冷たさが戻った。


「あぁ、そうでした。それより、まずはここを移動しましょう。私たちの拠点に案内します。ついて来てください」


 そう言うと、サムはみんなの真ん中を横切って、エルフの森のツアーの道を、王都の方向に向かって早歩きで歩き出した。


 本当にハルの背中の上で気絶しているルナを背負いながら彼の後に続いた。


 そこでずっと彼らの会話を部外者として眺めていたライキルがハルの隣に来て言った。


「ハル、意地悪になりましたか…」


「そんなことないと思うけど、どうしてそう思ったの?」


 ライキルは気まずそうに目線を合わせずに、ハルの服の袖を引っ張っていた。

 ハルは続けて彼女を安心させるために優しい言葉を掛けた。


「ライキルにはずっと優しくいたいな…」


「私は、みんなに優しいハルが好きです…」


「そう言えば、ライキル、俺に話したいことって何だったの?」


 ここでハルはライキルが言いずらそうにしていた話題を引っ張りだした。


「えっと、それは、二人っきりの時で、お願いします…」


 明らかにライキルはハルに対して後ろめたいことを隠していた。それがどんな類の話しなのかいまのハルには想像がつかなかったが…。


「ごめん、こんなところで聞いて、そうだね、二人の時にお願い…」


 どんなことでも許してあげることは、もうハルの中で決まっていた。気を取り直して、ハルはライキルとルナがどれくらい仲良くなったのかというなかなか興味深い話題に切り替えて、二人の間にあった重い空気を取り払った。

 その結果、二人の仲はそこそこ良いことを知れた。


 闇の森を迷わず進むサムの後を、ハルたちは目的地に着くまで着いて行った。

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