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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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穏やかな昼下がり

 そのあと、フォルテが立ち上がり、帝国騎士たちに直接指導しに行った。

 フォルテが熱心に帝国の騎士たちと剣を交えているのをハルは眺めていた。

 それからハルも立ち上がり、剣を稽古している新兵たちのもとに行って近くで彼らの実力を測った。

 ハルは口頭だけで新兵たちに簡単なアドバイスをして回った。

 新兵たちはハルのその珍しい行動に驚きつつもしっかり訓練をこなしていた。


「ハル団長が直接指導してくれるなんてあいつら羨ましいな」


 ウィリアムがアストルとフィルに語りかけた。

 三人は重りのバックを背負って走るメニューの最中だった。

 そのなか、広場の中央で剣の訓練をしている同期たちを見ていた。


「本当だ、ハル団長が剣の指導してる」


 アストルも驚きつつ言った。


「俺らも受けたかったな」


 フィルがぽつりとつぶやいた。


 新兵たちは、ハルの指導に緊張しつつも、無事にその日の訓練を終えた。




 日が高く昇っていき、ちょうど真上に来た正午、広場の真ん中で、ハルが新兵たちを解散させると、ビナとガルナがお互いへとへとになりながら、ハルのもとに近寄ってきた。


「ずいぶん長い間、戦っていたな」


 ボロボロの二人は、足腰が疲れからかおぼつかなかった。

 ガルナは自分の大剣を杖のようにしており、ビナはガルナの服につかまっていた。


「久々に熱くなってしまいました」


 ビナが言った。


「ビナちゃんみたいな、奇抜なスタイルは苦手」


 ガルナも珍しく弱々しい声を発した。


「二人とも相性ばっちりみたいだな」


「へへへ、ビナちゃんは私のものだぜ、ハル」


 鼻の下をこすりながらガルナが言った。



 そんな三人のもとにフォルテとベルドナもやってきた。


「ふう、いい汗をかいた」


 フォルテが汗をぬぐいながら、金ぴかの鎧を脱いでいた。


「フォルテ様の稽古はお腹が減ります」


 ベルドナも疲れからか、フラフラだった。


「帝国も訓練はおしまいか?」


「ああ、午前の部は終わりだ」


「昼飯みんなで食べに行かないか?」


「それはありがたい提案だ」


 五人は城の中庭に向かった。

自分たちがいる裏の広場から、芝の土手が脇にある階段を上り、城の中庭に向かうと、食事をするためのテーブルや椅子を用意した。


「ちょっと待っていてくれ、使用人さんに昼食を作ってもらうように頼んでくる」


 そう言ったハルは、城のエントランスから西館に駆けて行った。

 それから、少しして、ハルが紅茶のセットを持ってきて、みんなに振舞った。


「おいしい、紅茶を入れてくれる子がいるんだ」


 ハルがみんなに紅茶をいれたカップを回していく。

 そこでベルドナが頭の鎧を取り、彼女の素顔が見れた。

 エルフだと珍しい、金髪以外の黒く長い髪を後ろで二つにそれぞれまとめており、エルフ特有の長い耳が鎧を取るっと跳ねるようにピョン飛び出した。

 綺麗に整った小顔な顔に紫色の瞳が神秘的に輝いていた。


「あ、すごい美人さん」


 ビナが無邪気に言った。


「ありがとうございます!」


 優しく微笑む顔はとても十五歳には見えなかった。


「すごく大人に見えるな」


 ハルが彼女の顔を見つめて言った。


「はい、エルフは背の高い種族なのでそう見えるかもしれませんね!」


「こいつ中身は子供のまんまだがな」


 フォルテが紅茶に手をつけようとしながら、横から口を挟んだ。


「フォルテ様も人のこと言えませんけどね!」


 彼女はとても元気な声で、綺麗に返すが、フォルテは余裕そうに紅茶を啜っていた。


「うん、うまい」


 ハルはそのやり取りが少しおかしくて笑った。


 そうしていると、エントランスの方から、ライキルの姿が見えた。

 彼女は汗ぐっしょりで、どうやら、いつもの筋トレした後のランニングからの帰りだったようだ。

 ライキルがハルのもとにきて自分も昼食を一緒に食べる意思を伝えた。


「私、先にシャワー浴びてきますね」


「わかった、もう一人分作ってもらうように頼んでくるよ」


「ありがとう」


 ライキルは自分の着替えを取りに東館に向かい、ハルはもう一度キッチンのある西館に向かった。

 ハルが戻ってくると、四人は楽しそうにおしゃべりをしていた。

 ベルドナとビナが主に話しの中心で、ガルナがそれを聞き、わからないことを質問して、フォルテが横から適当なことを口にしていた。

 ハルもそこに混ざり、昼食が来るのを待った。

 昼食が来る前にライキルがシャワーを終わらせさっぱりした姿で現れた、まとめていない綺麗な金色の長い髪が歩くたびに左右に揺れていた。

 ライキルは椅子を持ってくるとハルの隣に置いて、座った。


「失礼しますね」


「ライキル彼女、誰だと思う?」


「え?」


 ハルに言われ、ライキルが彼の目線の先の方を見た。


「彼女ベルドナさんですか!?」


「せいかーい」


 ライキルは驚きつつ、まじまじと彼女の顔を見ていた。


「どうも、ライキルさん!」


 ベルドナが微笑んで挨拶をした。


 それからみんなで話していると、使用人が昼食を届けに中庭に現れ、五人は昼食をおいしくいただいた。

 昼食の途中、ベルドナの話が会話の中に出てくると、ガルナが目を輝かせて舌なめずりをしていたり、フォルテがビナの戦闘技術に興味を持ったり、ハルがライキルにどこを走ってきたのか尋ねたり、賑やかな昼食になった。


 それから、昼食が終わり、帝国の二人は城の裏の広場に戻って行った。


 ライキルも剣の鍛錬を積むと言って、中庭から広場につながる、階段を降りて行き、ガルナがその後を追っていった。


 午後の日差しは温かく、中庭には心地のいい風がハルの髪をなでていった。

 ハルはそんな気持ちのいい午後のなかで、今からどう過ごすか考えていた。













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