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神獣討伐 振り向けばそこにいる

 エルフの森の聖樹近辺にある第一キャンプ場。神威を習得するためだけに用意されたそのキャンプ場は第一、第二、第三と三つあった。聖樹から一番遠い第一キャンプ場から順を踏んで神威に身体を慣れさせていくことがこのキャンプ場の目的だった。レキを中心に集められた人たちはそれぞれの目的を胸にそのキャンプ場で聖樹を目指して努力を重ねていた。


 ビナやエウスもそのうちの一人だった。


 二人は第一キャンプ場の燃え尽きた焚火の前で目を覚ました。


 椅子に座り気を失っていたビナが目を開ける。するとその横で倒れていたエウスが頭をかいて起き上がった。


「あれ、俺たちってどうなったんだ…」


 ビナも状況が把握できないまま辺りを見渡しここがどこなのか把握していた。そして、気を失う前のことを思い出そうとする。第一キャンプ場と第二キャンプ場でいつも通りエウスに見てもらいながら神威の壁に挑んでいる最中のことだった。大柄の男が悲鳴を上げながら逃げて来たかと思うと、そのまま、ビナたちはおぞましい神威に飲み込まれそうになって…。


「違う、私たち飲み込まれて…どうしてここにいるの……」


「あなた達はレキに助けられたんだよ」


 ビナの視線の先には金髪でウェーブが掛かった髪をなびかせる女の子がいた。


「あなたは?」


「私は誰でもいい、それより、レキが言ってたんだけどみんなで聖樹に行くから準備だけしておいてって」


「聖樹に?だってあそこには神威があるんでしょ」


「それはレキがどうにかしてくれるって、どうやら修行は中止で時間が無いんだって、彼かなり焦ってたよ」


 彼が取り乱す想像ができなかったビナだったが、緊急事態なことに変わりはない頭だった。ただ、自分たちの置かれている状況がいまだにはっきりせず、いろいろ彼女に問いただしたかった。

 そこで、ビナと彼女の会話を横で寝ぼけまなこで聞いていたエウスが口を挟んで来た。


「この森で何が起こってるんだ?」


「私が言えるのは、あなた達の友人ライキルがこの神威の原因だってことくらい」


「はぁ?ライキルが…いや、え?ありえないだろ。あいつにこんな神威出せるはずがない」


 この数か月神威という力の習得に真摯に励んだエウスの言葉にも重みはあると思いたかったが、神威の成長速度は決して緩やかな曲線を描くわけではないことを教えられていた。神威はそもそもそこにある存在に応じて強弱が決まる力であり、ふとしたきっかけで化けてしまう人もいるとみんなの先生のレキが言っていた。

 けれどそんなことがエウスのよく知るライキルの身に起こったことを信じたくなかった。


「彼女は朱鳥の力を取り込んだんだ。それに伴って今のこの森で猛威を振るっている神威が広がったんだよ」


「なんだよ、朱鳥って四大神獣だろ、それに取り込んだってなんだよ…」


「私はこの目で彼女が発する神威を見たんだ。あれは普通の女の子が出していい神威じゃなかった…」


「それって、おい、あいつは、ライキルは無事なのかよ!」


 エウスの表情にも焦りが見えていた。必死に何かを考え始めていた。そんな姿からも普段ふざけている彼が本当は仲間想いだということなどビナは前から知っていた。


「私にも分からない。だけど私たちはこれからレキの言うことが正しいなら聖樹に向かうんだろう。きっと、彼はお前たちにライキルを止めて欲しんだと思う」


「あいつがどうかしたのか?」


「ライキルは…」


 彼女が言い淀むと、ビナが代わりに独り言のように呟いた。


「ライキルは死のうとしてるんじゃないの…」


「はぁ!?」


 エウスがビナの方を見た。


「それってどういうことだよ!何であいつが死ぬなんてことが出て来るんだよ…」


「ライキル、私に手紙を置いて行ってくれたの、そこに、もうこれで会うのは最後になるけど、いつまでも元気でねって…そんなこと書いてあって…私、ライキルを取り戻したくて、頑張ってたけど…」


「お前、だからあんなに必死で無茶ばっかりしてたのか…なんで黙ってた?」


「ごめんなさい、その手紙にエウスにだけは何も言わないでって書いてあって、エウスにはキャミル王女がいるから秘密にして欲しいって、エウスは私たちの最後を知れば必ず無理して駆けつけるからって…」


 ビナがうな垂れた時、立ち上がったエウスが空に怒鳴った。しかし、その怒りはビナに対するものではなかった。その声は今も聖樹に居るはずのライキルに向かってのものだった。


「あのバカ野郎がぁ!!お前に気遣われるほど俺たちは他人になっちまったのかよ!!」


 ほんの少しエウスは自分の中の神威が強くなった気がした。強い感情でエウスの心が震えた。そんな気遣いをライキルにして欲しくなかった。

 たくさん迷惑をかけるそれが家族のはずだった。血が繋がっていなくても、ガキの頃から一緒の屋根の下で暮らし一緒の飯を食らい、共に強くなるために競い合ったのならそれはもう兄妹だった。


「最後ってなんだよ、なんで死ぬつもりでいんだよ、マジでわけわかんねえよ!」


 苛立ちを抑えられないエウスが地面を一度力強く踏みつけ、拳を握りしめた。


 その時、金髪ウェーブの女性が言った言葉がエウスにはとても信じられなかった。


「ライキルはハルを殺す気なんだよ…」


 エウスの天性魔法が彼女の感情を読み取った。そこから彼女が冗談で言っているわけではないことを知った。


 その後、レキが第一キャンプ場にガルナを連れて戻って来た。エウスの視界にガルナが入ると彼はすぐに彼女に駆け寄った。

 そして、怒りが収まらないエウスが、ガルナに掴みかかって問いただそうとした時、レキが割って入った。


「エウス、時間が無い!」


 レキを跳ねのけエウスはガルナの胸倉を掴んだ。


「ガルナ、答えろ!ライキルと何があった!?お前ずっとあいつの隣に居ただろ!」


 だが、そこでガルナが恐ろしく冷静な口調でエウスに告げた。


「エウス、そう言うことならそこにいる本人に聞け」


「ハッ!?」


 エウスが振り向くと、そこには真っ赤なドレスの女性が立っていた。

 彼女は、金と赤が入り乱れた肩のところで切りそろえられた髪揺らし、金と赤が半々に分かれた異形な瞳を輝かせ、身体中には赤く発光する赤い刻印が刻まれていた。手には真っ赤な刀身の刀を一振り握っていた。


 そんな変わり果てた姿でもエウスには彼女が誰だか分かった。


「みんな来ちゃったんだ…」


 聞きなれた彼女の変わらない声を聞いてエウスは身体は固まってしまった。


「ライキル…」


 震える声で彼女の名前を呼んだ。

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