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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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獣女と小女

 四人は席に戻り、朝食を取り終えて、それぞれ、自分のやるべきことに戻って行った。

 そこでハルも屋上に向かおうとしたら、エウスに肩を叩かれた。


「すまない、ハル、今日、新兵たちを見ていてくれないか」


 エウスは思い出したように言った。


「いいよ、何か用事でも?」


「デイラス団長や、ルルクさんたちと会議があるんだ、あとで内容をまとめて報告するよ」


「いいのか?」


「大丈夫だ、商会がらみの話しだから、ハルがいても退屈するだけだぞ」


「そうか、悪いな」


「いいって、それよりあいつらのこと頼んだぞ、訓練のメニューは言ってあるから、適当に見てるだけで大丈夫だ」


「わかった」


 ハルは城の裏の広場で、新兵たち訓練を見守っていた。

 新兵たちは、荷物を持って走ったり、剣の稽古していた。

 使役魔獣を乗りこなす訓練をしている新兵には、コツを教えたりした。

 途中でガルナが来て、稽古してくれとしつこく粘っていたが、ハルは新兵を見てあげているというと。

 しゅんとした表情をして、隅で大剣を振り回していた。


 そこにビナがハルのもとに来た。


「ハル団長、ここで何しているんですか?」


「ここで新兵たちを見てたんだ」


 ビナが広場を見渡すと、新兵たちがそれぞれ自分たちの訓練をしていた。

「直接、指導してあげないんですか?」


「ああ、俺は教えるのが下手だからね」


「本当ですか?そうは思いませんけど」


 ハルは遠くの兵士たちを眺めていた。


「そうだ、ビナ、今、時間あるか?」


「はい、自分の訓練メニューこなそうとしていただけですから」


「ちょうどよかった、ガルナの相手をしてやってくれないか?」


「ええ!」


 ビナは少し驚いた。


「私がですか?」


「どうかな?ガルナ絶対ビナのこと気に入ってるから、二人は仲良くなれると思うんだ」


「うーん」


 ビナは少し考えていたが、納得したのか首を縦に振った。


「わかりました、私も実践相手が欲しかったので」


「そうか、よかった、よかった」


 ハルはとっても嬉しそうに小さく頷いていた。


「ハル団長、もしかして厄介払いじゃないですよね」


 途端にハルから不自然に変な汗がながれはじめた。


「ち、違うよ、二人相性よさそうだなと思って、ガルナ、ビナみたいな子好きだし」


「わかりました、そういうことにしておきます」


「よろしく頼むよ、ハハハハ…」


 彼女はガルナの方に走って行った。



 ビナが広場の隅っこにいるガルナの近くに行くと、彼女は訓練用の重りのついた大剣を力の限り振り回していた。

 さらに近づくと彼女がそれに気づいたのか大剣を振り回すのをやめた。

 改めて彼女を見ると、彼女の目つきは鋭く、無数の体の傷と高い背も相まって、ビナから見なくても普通に怖かった。

 ガルナがビナを見るとすぐに彼女のもとに飛んできた。


「あ!君、確かビナちゃんだよね?」


「は、はい、そうです」


 ビナは、急に近づいてきた彼女にビックリした。

 しかも彼女の顔がビナの目の前まで近づいてきたため顔を逸らしてしまった。

 もう一度、彼女の顔を見ると、先ほどの怖い目つきの顔ではなく、子犬のように人懐っこい柔らかな表情をしていた。


「どうしたの?こんなところに来て、危ないよ」


「こ、子供扱いしないでください、こう見えても成人しています」


「そうなんだー」


「そ、そうですよ」


「ビナちゃん、かわいい、えへへへ」


 彼女の自由奔放な性格にビナの調子も狂わされた。


「ガルナさん、私に剣の稽古をつけてくれませんか?」


「いいよ、でもビナちゃん戦えるの?」


「もちろんです、王都の騎士団にいたんですからね」


「へー」


 ガルナが舌なめずりをしながら、ビナのことを見回した。

 その一瞬、獣に狙われたような背筋の凍る感覚が、ビナの体を硬直させた。


「わかった、さっそく、やろうか」


 正面から彼女に相対すると、ここまで迫力が出るのかと怯んだが、それでもビナも騎士の一人であったため、何とか持ちこたえた。


 ガルナが木の剣にさらに綿や布で相手を傷つけないように加工された剣を倉庫から取ってきた。


「それ、一番安全な奴ですよね」


「そうだよ、ビナちゃんのこと傷つけたくないから」


「まだ、子供扱いしてますね、私は…」


 ビナはまだ自分のことを子供扱いしてるのかと腹を立てたが、ガルナの顔を見るとその言葉の続きは喉の奥に引っ込んでしまった。

 ガルナの顔は全然笑ってなく、決して冗談ではないことがわかった。

 そして、彼女のビナの顔を見つめるその目は、獲物を狩る目つきだった。



 二人が剣を持って向かい合った。

「魔法はなしね、ビナちゃん、それじゃあ、始めるよ、よーい、はじめ!」

 ガルナは気を抜いていたわけではなかった、ビナの実力がどれくらいなのか推し量ろうと相手の動きを見ようと考えていた。

 だが。

 ガルナが開始の合図を言ったと同時に、ビナの姿が消え、一瞬、困惑した、そして次の動作で自分が首を守らなければいけないことに気づき最速で剣を構える。


「はや…ぐっ」


 ガルナの腹に衝撃が走る。

 傷つけないように加工されているとはいえ、中身は木でできた剣、その者の振るスピードや力でいくらでも威力は変わる。

 ガルナが腹を切られたあと、背後に回ったビナと思わしき影を追おうと振り向くと、すでにその影は次の動作に移動していた。


『ビナちゃん、すごい!』


 ガルナはそう思うと、すぐに自身に迫った上段の一撃を何とか防いだが、次の瞬間には、ガルナの体勢が崩れていた。


「あれ…?」


 ガルナはビナに足払いをされていた。

 その体格差から一番警戒していなかった技を繰り出され、ガルナの思考は一瞬硬直したが、ビナが下段から素早く振り上げる剣をガルナは見切ると、そのまま、バク転してそれをよけ、距離をとった。


「今の避けるんですか…」


 ビナもガルナの驚異的な反応と運動能力に驚きをしめしつつも、ビナはまだまだ余裕そうな表情だった。

 ガルナの尻尾が激しく左右に地面に打ち付けられ、喜びを表現していた。

 ビナを見る目が変わり、ガルナは彼女に突っ込んでいった。


『いい、ビナちゃん、いいよ』




 そんな二人が稽古している様子をハルは遠くから眺めていた。


「ガルナ、驚いてるだろうな…」


 ハルが芝生の土手で新兵たちも見守りつつ、座っていると後ろから声がした。


「ハル、何しているんだ?」


 後ろを振り向くとそこにはフォルテとベルドナの姿があった。













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