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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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素直な感謝

 城に戻ったハルは、ライキルを背負ったままビナを彼女の部屋のベットに寝かせ、毛布を掛けて外に出た。

 次に、ライキルの部屋に行き彼女に降りるように言った。


「さあ、ライキル降りて」


「うん?ああ、ベットまでお願いします、ハル」


 ライキルは半分眠たそうにしながら、ハルにねだった。


「はいはい」


 ハルはライキルをベットに運び、毛布を掛けてあげた。


「ハル」


「何?」


「おやすみのキスなんてどうです?」


「それじゃあ、おやすみ、ライキル」


 ハルがすっとその場を離れ、ニコニコしながら、部屋の扉の方に歩いて行った。


「嘘です!う…。待ってください、こっちに来てくれませんか?」


 扉に手をかけていたハルが振り返り、ベットの横まで戻ってきた。


「どうした?」


 ライキルは酔っていたが少し真面目な顔になっていた。


「今日、久々に人と戦って見てどうでしたか?」


「ああ、フォルテはかなり成長してたよ」


「違います、ハル、あなたのことです」


「俺のこと?」


 ハルは、なぜライキルが自分のことを聞いてきたのか分からなかった。


「俺は、今日フォルテと戦って楽しかったよ、いろんな技と戦略が見れたし」


「………」


 ライキルが上体を起こし、ハルの顔をじっと見つめた。

 顔を覗きこまれたハルは少し照れてしまった。


「どうした?」


「いえ、ハルが楽しいと思ったならいいんです、ハル、呼び止めてごめんなさい」


「大丈夫だよ、おやすみ、ライキル」


「はい、おやすみなさい、ハル」


 ハルが部屋を出て行くとライキルは横になった。


「…よかった、それにしても私、酔ってないとダメだな」


 ライキルはそのまま毛布を深くかぶり眠りについた。




 次の日の朝、ハル、エウス、ライキル、ビナが珍しく四人そろって朝食を食べていた。

 中庭に丸いテーブルと椅子を用意して、城の使用人に朝食を用意してもらっていた。


「ビナ、よくこんな早くに起きてこれたな」


「うん、今日はなんか起きれた」


 まだ半分寝ているような状態で、パンをかじっていた。


「そうだ、エウス…お金、わたし、払ってない…」


 ビナは眠気と戦いながら、エウスが払ってくれたお金のことを気にしていた。


「そうでした、エウス、私も出してません」


 ライキルも続けて言った。


「お前らな、俺がお前らに金を出させると思ってるのか、目の前にいるのが誰かご存じですか?」


「エリー商会の会長様!」


 ハルがおだてるように言った。


「その通りハル君、わかっているじゃないか」


 エウスが言うとハルはお辞儀をした。


「で、でも…」


 ビナが申しわけなさそうにしていると、エウスはビナに自分の思いを語った。


「そうだな、わかるよ、ビナの考えてることも、でもな、自分で稼いだ金で、大好きな奴らに飯を食わせたり、喜んでもらえることは、俺にとって何よりも幸せで、ずっと前からしたかったことなんだ。それができる、大商人であることは、俺の唯一の取り柄で誇りなんだ、だから、ビナそんな暗い顔すんなって」


 三人は食べるのをやめて彼の話を黙って聞いていた。


「私も、エウスにはいつも感謝しています、ありがとうございます」


 ライキルはまっすぐな瞳をして言った。

 エウスはその目で見られると昔のことを思い出して少しドキッとした。


「俺もライキルには感謝してるぜ、面白いもの見せてくれて、昨日、お前ハルにべっとりだったもんな、ハルゥ、ハルゥって」


 その言葉を聞いてライキルの顔は一気に赤くなった。


「あ、う、うるさいですね、前言撤回です、エウスはやっぱり悪魔です」


 昨日の夜ハルに酔った勢いで甘えていたことも合わさって、ライキルの体は全身高温になっていた。

 ライキルが立ち上がり、エウスに理不尽に技を掛けようと襲ってきたが、エウスは事前に危険を察知していたのか、するりと席から逃げ出した。

 それから、中庭で子供のような追いかけっこが始まった。


 ビナはエウスが言った言葉をしっかり受け止めていたが、まだ思い悩んでるようで顔を下に向けていた。


「ビナ」


 ハルが優しく、名前を呼んだ。

 ビナがゆっくり顔を上げる。


「エウスがビナにしてくれたこと貸しだと思ってる?」


 ビナは首を縦に振った。


「それはちょっと違うんだ、前にもこういうことがあったんだ。キャミルっていう子がいて、エウスと仲のいい子だったんだけど、その子が『絶対に私も払う、あなたに貸しを作りたくない、対等でいたいの!』って言ったら、エウスが珍しくその子に怒鳴ったんだ、『これは貸しなんかじゃない、俺からお前らへの日ごろの感謝のしるしなんだ、絶対、払わせないからな!』って、本当にそのときはどっちも頑固で一週間ぐらい、口きかなくて大変だったんだ」


 ビナがエウスの方を見ると、ライキルに捕まり、えげつない技を掛けられている途中だった。


「エウスにとって、人にお金を使うことは、貸しじゃなくて彼なりの愛なんだ。感謝やエウス自身の幸せのためにやっていることなんだ」


 ハルもエウスの方を見ながら言った。


「だからさ、ビナ、後ろめたく感じないで、これからもいつも通りのビナの姿でエウスに接してあげてくれないか、それがあいつにとって最高の贈り物になるから」


 ビナは、ハルのその言葉を受けて、やっと気持ちの整理がついたようだった。


「うん、でも、お礼はちゃんと言わなくちゃ」


「そうだね」


 ビナは、技を掛けられているエウスのもとに走って行った。


「いだだだだだ、ライキルさんちょっと今回マジなんじゃない?」


「エウスにはここで死んでもらいます」


「ヒイイ!」


 ふとエウスが顔を上げると、そこにはビナが立っていた。


「ビナ、ちょっとライキルをどうにかしてくれ」


「エウス」


 エウスがビナを見上げた。


「ありがとう」


 ビナの顔からは眠気が吹き飛んでおり、ただそこには眩しい笑顔があった。

 エウスはその笑顔を見ると一瞬痛みも忘れて、照れくさそうに下を向いて少し笑った。

 そして最高の笑顔でもう一度、彼女を見上げて、


「どういたしまして」


 と言った。












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