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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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パーティー 後編

「ハル、ライキル」


 二人が名前を呼ぶ方を振り向くとそこには、この国の王女キャミル・ハド―・レイドと、ハルとライキルのもう一人のハルとライキルの友人のエウス・ルオがいた。


「キャミル様、あちらでの国賓の皆様とのお話はよろしいのですか」

 ライキルは、尋ねた。


「いいのよ、私退屈な時間はあまり過ごしたくはないんですもの」


「姫様、そんなこと、いってはいけませんよ」


 エウスが丁寧な口調で、キャミルを咎めようと口を出すが。


「エウス、あなたいつもはそんな口調じゃないでしょ、いつも通り、キャミルと呼

 びなさいよ」


 エウスの紳士のような、すました顔が次第に崩れ、気の抜けた顔が現れる。


「はー、公の場では、いつも通りとはいかなでしょ、周りに気を遣わなきゃ、なあ、ハル?」


 彼はいつも通りの口調でハルに話しかける。


「ああ、そうだな、日ごろの口調は、このパーティーではあまり良くないかもな」


 ハルも困った顔をしていたが。

 そこに、キャミルが割り込んでいう。


「ハルもライキルもエウスも、いつも通り、キャミルと呼びなさい、もうこれは王女の命令よ」


 三人は、キャミルのいつも通りの言動に、多くのお偉い貴族や来賓に、引き締まっていた琴線が緩みだす。


「わかったよ、キャミル、その代わり、この四人でいるときだけだからな」

 エウスが代表していった。


「それで、いいわ、この四人でいるとき、かしこまるのは気持ち悪いもの」


 キャミルの満足した顔を見て、エウスは、やれやれといった感じだった。


 キャミルにとってこの三人は英雄でも家来でもメイドでもなく。ただの親しき友人にしたかった。小さいころから、王族であるが故の孤高の存在は、身近な友人を作れなかった。


 他国からくる貴族や王族の子供たちはみな、かしこまり、お利口で、キャミルのご機嫌しかとらなかった。キャミルはそんな、上っ面だけの関係を、王族である以上仕方なく続けなければならなかった。


 そんなキャミルの孤独や退屈を、壊してくれたのが、エウスをはじめとした、ハルとライキルの三人だけだった。


「出会った時から、キャミルは変わらないな」


 ハルが昔を思い出すようにいう。


 ハルが初めてキャミルに出会ったのは、冒険者ギルドの食堂で、エウスに紹介されてからだった。


「最初、ハルはただの町娘だと思ってたもんな」


 エウスがニヤニヤしながら、ハルの過去の過ちをほじくり返す。


 それに、反論するようにハルはいう。


「それは、エウスの紹介の仕方が悪いからだろ、冒険者ギルドに国の王女が、いてたまるか」


「そうですよ、もしあの時王女を連れまわしていたことが衛兵にばれて捕まっていたら、一生牢屋か、処刑の二択でしたよ」


 ライキルのいったことに、エウスは冗談交じりに、答える。


「あんなのは、俺の人生のなんの危機でもないな」


「強がってるくせに」


 キャミルがすぐさま、意地悪い笑顔で言った。


「それは、どうかな、俺なら人の気持ちと交渉材料がわかれば、あとは駆け引きだけでどんな困難も途端にチャンスに変わるわけよ」


 キャミルとライキルは、呆れた顔で互いにエウスを笑っていた。


「でもエウスは、本当に、そういうところがあるから、認めざる負えないな」


 実際にハルが王国騎士団に入隊したきかっけは、道場の師匠の推薦もあったが、エウスとキャミルが偶然出会って、国王に会う機会ができ、交渉の機会があったからだった。


『困難は救いの前触れ』は、この世界で信仰される神の言葉であり、一般に広く知れわたっている言葉であった。


 エウスは、ときどき、この言葉を地で行っていた。

 ハルは、そんなエウスの機転の良さに感心するところはあった。


 四人が出会ったときの話などをしていると、町の方から、光が上がり始める。

 市民たちによる、祝福の光だった。祝祭の際に、祭り半ばで何度か光が上がる。一つ上がると、途端に辺りからも、それに、呼応すように、複数上がり始める。


 町の中では、夜でも、光に包まれ、あたりは幻想的な風景が広がる。


 光が溢れた世界にバルコニーにいた人々もその光景に見とれていた。


「今夜のような、景色を歴代の剣聖も見ていたのでしょうね」


 辺りに光が、四方八方に、弾けては、名残惜しく消えていく。


 ライキルはふと考えた身振りをみせ、疑問を口にした。


「そういえば、ハルは、もう剣聖じゃないから、ハル・シアード・レイの、レイって名前も失うのですか」


 キャミルが、その問いに答える。


「国にとって重要な人物に与えられる、特別な名である特名は、剣聖の場合、辞めるとき、名乗らないか、名乗り続けるかは、その人の自由よ」


「そうなんですね」


ライキルも納得した表情で言った。


「たいていの剣聖は、その地位を表す名を最後まで持ち続けるでしょうね、だって便利ですもの。苗字の後に来る、特名はあるとなしじゃ、天と地の差がありますから、他国にいっても優遇されたりしますし」


「名乗らない人も中にはいるってことですね」


 ライキルは感心しながら首を軽く縦に振っていた。


「そうは言っても、国の記録としては、特名も入れて記録されますけどね。辞めて消えるのは、大貴族の特名だけですわ、上位貴族ですら、特名を付けられませんからね。」


 少し息を整えてキャミルは付け加えた。


「だから人の名前には気を付けることです」


「やはり、そこは王女様、よくご存じですね」


 エウスが、皮肉めいて茶化すが、キャミルも慣れた感じで飄々とかわす。


「どうも、エウス様」


 二人が仲睦まじく、いがみ合っている中、ライキルがハルに尋ねる。


「ハルは、どうするのですか?」


 ハルは少し考えて答える。


「やっぱり、レイの特名は名乗り続けたいな、かっこいいし」


「ハルは、やっぱり変人ですね」


 ハルらしい答えに、ライキルの口角も上を向いてしまう。


「そうかな」


「そうですよ」


 祭りは三日三晩続き、最後の日に、カイ・オルフェリアにレイの名前が与えられ、カイ・オルフェリア・レイとして王国の新剣聖として迎えられた。










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