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絶望と希望 救い

 聖樹の根元にたどり着くまでにライキルとガルナは三日掛かった。単純に距離が遠いわけではない。聖樹に近づけば近づくほどこの一か月ほどで体感して来たものとは比較にならないほどの重い神威の負荷が二人を押しつぶしにかかっていた。

 一日目は聖樹の根元にたどり着く前にガルナが気を失ってしまったため、第三キャンプ場に引き返し稽古は中止。

 二日目は聖樹の根元にまでは来れたが、到着直後にはライキルの体力が底をついてしまい。引き返し稽古はもちろん中止。

 三日目にして、ようやく二人は聖樹の根元で活動できるように身体に耐性が付き始めていた。


「二人ともよく三日でここまでこれたな、私は二週間くらいかかったぞ」


 少し悔しそうなのと同時にどこか嬉しそうな彼女が余裕な態度で、汗だくで疲弊しきっている二人に声を掛ける。

 さすがに、たったの三日だと聖樹についた時点で身体の体力の半分が持って行かれているほどで、全快というわけにはいかなかった。それでも心を鬼にしてビキレハが二人に告げる。


「じゃあ、これから私が直々に二人に神威の基礎を教えてあげるから頑張ってついてこいよ」


「今から、するのか?」


 大剣を杖のようにして辛そうな表情でガルナが言った。


「もちろん、大丈夫、倒れたらギゼラが二人を運んでやるからさ」


 ビキレハが指さす方向には聖樹に寄りかかって本を読んでいるギゼラがいた。


「だから思いっきり、稽古できるぞ」


「これからするのって神威の稽古ですよね?」


「そうだが?」


「具体的に何をどうするんですか?私たち神威がどういうものかいまだに理解していなくて、神威が存在力とかわけのわからないこと言われたんですけど、ビキレハさんはそこらへん神威をどう考えているか、教えてもらえませんか?」


 ライキルたちは神威が満ちていると思われる場所でただ生活していただけで、神威に関しての修行と言われると、全くと言っていいほど何もしてこなかった。ただ、森に来て格キャンプ場で過ごして、レキが現れては次に進めと送り出されて来ただけだった。しかし、ここに来てビキレハと出会い、神威の修行ができると聞くと居ても立っても居られなかった。


「ああ、そうか、そうか、まあ、そうだろうな…あいつ私たちにも神威の基礎を教え始めたのはこの聖樹の根元に来てからだったもんな…」


 少し考え込んだ素振りを見せ呟き始めた後ビキレハが何かを決心したかのように顔を上げて二人に言った。


「よし、わかったじゃあ、ライキルたちにはまず神威がどういうものなのか見せてあげよう。そっちのほうが手っ取り早い」


 疲れた身体で棒のような足で聖樹の入り組んだ巨大な根元の部分に足を踏み入れて行く。聖樹の中に入るという行為は物理的でそのままの意味であった。聖樹の正体は多くのねじれ木の集合体であり、それらが絡まり合いながら生まれた自然の巨大な産物であった。そのため、聖樹の根元には巨大なねじれ木たちが集まって木の中に森を形成していた。その木に内包された森の木は全てねじれ木であり、どれも樹齢が数千、数万ともはやそこらの老樹とも比べ物にならないほど、圧巻の貫禄と大きさだった。

 ねじれ木の森は中央に向かうほど光量が少なく、聖樹の中心に行けば行くほど薄暗くなっていった。それは中心に向かえば向かうほどねじれ木同士の絡み合いが強く締まるからであり、聖樹の外側に向かうほど緩い構造をしているため中心と外で光量に差があった。

 だから、中心に向かっていくほど明かりが必要となり、ライキル、ガルナ、ビキレハの三人は手に炎魔法を宿していた。


 薄暗いねじれ木だけで構成された聖樹の中にある森は、異質な光景だった。まるで世界から見捨てられたかのようなこの森は、以前訪れた霧の森とはまた異なった不気味さがあった。

 薄暗い中、多くのねじれ木たちが吸い込まれるように聖樹の中心に向かってねじれては絡み合い伸びていた。


「迷ったらねじれ木の幹が伸びている方向と逆に進めば聖樹の外に出られるからそれだけは覚えておけ」


 手元の炎に照らされぼんやりとビキレハの二人に振り返った顔が浮かぶ。


「まあ、今後行くことは無いだろうが、聖樹の中心は行かない方がいいみたいだぞ。レキが言うにはあそこには不思議な力で方向感覚を失って出られなくなるとか言ってたから」


 その話を聞いた時なんだか、聖樹が生物をこの森に閉じ込めて栄養にしているようでぞっとした。その話の真偽のほどはわからなかったが、なんだか今いるこの森が何かの生物の口の中のような気がして疲れた体に気分まで最悪に染まってしまった。


「はい、着いた。ここから聖樹に登るから覚悟しといて、きつかったら言えよ?上に行けば行くほど神威が強くなるから」


 ライキルとガルナは頷いたがそれよりも二人の目の前には自然のねじれ木を活かして作られた螺旋階段があった。絡まっていない大きなねじれ木に、人の手が加えられたような形跡があった。


「あの、この階段って…」


「ああ、これ?これは、昔のエルフたちが造ったんだってさ、絡まってないねじれ木を魔法で削って加工して造ったんだとさ」


 上を見ればそのねじれ木は中心に吸い込まれることなく、どこまでも高くまっすぐにそびえ立っていた。多くの木が中心に吸い寄せられる中、流れに逆らうその異端なねじれ木の価値は上を目指す人間にとっては好都合であった。その恩恵は頂上を目指すことを強く望んでいるライキルにとっても幸いそのものであった。木登りは得意だったが雲を突き破るまで高い木を登るのはいささか心が折れそうだったからだ。そんな絶望をまだ階段という地に足をつけて登れるだけで本当にありがたかった。なんなら、竜でも連れて一気に頂上まで行きたかったが、それはレキに止められていた。


 彼曰く。『ちなみに聖樹の頂上に竜で飛んでいったり魔法で飛んでいくことはおすすめしないよ』


『どうしてですか?』


『まず、神威あるところに竜が近寄ってくれないのもあるだろうけど、そもそも、竜で強い神威の場所に入ったら多分、竜が気絶してそのまま真っ逆さまに地面に叩きつけられることになるよ?それは嫌でしょ?あと、飛行魔法も危険だよ、理由は分かるよね?竜と一緒だ、自分が神威に慣れてなくて突然気を失ったら、地面に真っ逆さま、だから本当におすすめしない』


『じゃあ、レキの得意な瞬間移動の魔法で連れて行ってくださいよ』


『それは絶対にダメ』


『どうしてですか?』


『目的地には確実に着けるけど、聖樹の頂上には強力な神威が滞留しているんだ。それを今のライキルたちが浴びたら多分普通に死ぬからさ、だから、瞬間移動が一番ダメなんだ。それだと僕が君たちを殺したことになるし、そんなことしたら、多分ね…?』


 レキとこの森に来てから話し合ったことで、その話はだいぶ印象に残っていた。


「今日は神威がどんなものなのか体験して終わりだからちょっと登ったら帰るからね」


 それだけ言うとビキレハが階段を上り始めた。


 続けてライキルたちも彼女を後を追うように階段を上り始めた。


 最初は何事も無く順調に登って行き、身体の疲れだけが気になるところではあったが、異変は徐々に二人の身体を蝕んでいった。

 外側の昼間の光と中心の方の暗闇のちょうど中間あたりにあるこのねじれ木の階段を登っている際、ある時を境にライキルとガルナの足は止まってしまった。ビキレハがそれに気づくと数段先から戻って来た。


「そうか、まずはここら辺がお前たちの限界なんだな」


 目の前にはねじれ木をくりぬいて作られた低い段差の階段があったが、二人はどうしてもその低い階段に踏む込むことが出来なかった。そこには圧倒的な見えない壁が存在していた。ただ、その壁の先にビキレハがいることから、この見えない壁がまだライキルとガルナが知らない神威というものの神秘が隠されているのだろう。それは明白な壁となって二人の前に姿を現していた。


「まずはそのお前らを阻んでいる空間に手を入れて見ろ。大丈夫、今のお前たちなら手入れるぐらいならなんてことないから」


 その神威の壁の先は明らかに一線を画していた。この世の世界とは思えない想像を超えた存在と身体が勝手に拒絶反応を示しているようだった。しかし、それでもライキルは彼女に言われた通りにその空間の中に手を入れてみた。

 だが、その瞬間、身の毛がよだつほどの悪寒が全身に走り、身体がすくんで動けなくなってしまった。そして、恐怖がその空間に入れている手から浸食するように、じわりじわりと身体へと恐怖が浸食してくる感覚に襲われた。


『限界、これ以上は無理…』


 手を引こうとした時、ビキレハが手を掴んでその場に留まらせた。


「なに…は、放してください!これ以上は無理です…」


「ライキル、手に何かが這い上がって来る感覚がないか?」


 その感覚が恐ろしくてライキルは今すぐこの空間から手を引きたかったのに彼女はそれを引き止める。


「あります。もう、怖い…無理です。これ以上は無理……」


「その手から伝わって来てる感覚が神威だ。いいかライキル、その這い上がって来る感覚を押し返すように自分の神威を当てるんだ」


「分からないです。自分の神威なんてどうすれば…」


 顔が青ざめ、体温が一気に下がった。生きるということに対して酷く嫌悪感が生じ、今すぐ、この場から去りたくなった。ここではないどこかへ消えてしまいたくなっていた。


「レキが言ってなかったか?神威は存在力。ライキル、お前がこの世に存在している理由はなんだ?」


「そんなものありません、私は生まれて来なければ良かったんです!!」


 急に自分でも思っても口に出さないようなことを口走ってしまった。手を放してくれない苛立ちから何なのか、それとも恐怖で頭がおかしくなりそうだからなのか?ライキルはわけのわからないことを叫び始めた。


「んなわけねえだろ、今まで生きて来てこれが自分の生きる意味だって思えることがあっただろ?」


「私はあの時死ねば良かったんです!何度も死ぬ機会はあったのに!!」


 恐怖に耐えられなかった。自分の存在そのものを消滅させたくなった。自分は生まれて来てはいけないと、存在してはいけないと、自己否定、劣等感、自己嫌悪、後悔、絶望、ありとあらゆる負の感情が循環し、ついには死んでしまいたいという衝動に駆られ始めていた。


「ライキル、ひとつだけ言っておく、これはレキに私も言われた言葉だ」


「嫌です、早く離してください!もう、ここにはいられません!助けてガルナ!!」


「ガルナ、お前は少し待ってろ!ここで引くとライキルはもう二度と聖樹には上がれなくなるぞ!!」


 ガルナは二人の言葉に思考停止してしまった。


「助けて!!」


 ライキルが大量の涙を流しながら訴えかける。それでもガルナは手を貸してくれずその場に俯いて立ちすくんでいた。


「聞け、お前はこの試練を乗り越えなくちゃいけないんだ!」


 ビキレハが、ライキルを引っ張り呼びかける。その際にライキルの手はさらにその空間に引き込まれ、肘の前辺りまで腕が入ると、一気のその恐怖はライキルを蝕み始めた。


「い、嫌だぁ!!死ぬ、死んじゃう!!!」


 理性が飛びそうなほどの恐怖がライキルを襲う。想像を軽く超えていた。こんな心が壊れそうなほどの絶望的な恐怖を超えられるわけがなかった。


「ライキル」


「助けて、嫌だ!!」


「ライキル、よく聞け!!」


 ビキレハが泣き叫ぶライキルの胸倉を掴んで顔を引き寄せた。ライキルの顔のギリギリに神威の空間とビキレハの顔が迫った。


「お前がここに存在していることを証明するんだ。何だっていい、どんな小さなことでもいい、それがお前を生かしこの世に存在させている理由になるならなんだっていいんだ。お前が一番幸せだった時のことを思い出してみろ!!」


「幸せ……」


 幸せと聞くと、最初に浮かび上がって来る記憶がどうしても、傍に居るガルナとの思い出ではないことが悲しいと同時に諦めがついてしまうことが、どうしても自分を許せない方向に誘ってしまう。彼女との間に愛し合う心は確かにあった。けれど、すべてはひとりの青年の記憶を消し飛ばされたという乖離した矛盾の記憶を正常に見せるための穴埋めとしてだけに抱いたものであり、そんな欠落を埋めるものに過ぎなかったものだとしたら、本当に彼女を愛していたと言えるのだろうか?揺るがないはずだった彼女を想う気持ちが、あの彼を思い出した途端、簡単に上書きされてしまうこの想いが愛でないと分かってしまうことが今のライキルにはとても悲しいと同時に最後まで守り切らなければならないものだとも思っていた。しかし、それは同時に彼を裏切ることにもなるし、愛する彼女の真に望んでいることでもないと分かってしまったから、せめて最後は今までたくさん与えてくれた彼に最高の愛で応えたいと思ったのだ。

 私は彼女を愛するから、あなたはあなたの愛する人と共に過ごしてと。


 けれどそれもライキルが思い描く理想であり、ライキルは自分がそんなに綺麗にまとまった美しい未来を描けるなんてこれぽっちも思っていなかった。


 これから先にある未来は悲しいくすんだ青色なのだろう。しかし、それはとてもライキルの大好きな色で、自分が幸せであると自覚できると同時に自分ではどうすることもできない未来だった。


 どちらにしろ終わりが近づく未来だった。


「嫌だ…」


 悲しくてライキルはガルナにすがるように見つめるが、その間に流れた涙は頬を伝って地面に止めどなく落ち続けた。こんなにも彼女のことが大好きなのにそれが偽物だったなんて認めたくなかった。


「ライキル、いいよ」


 けれど、そこでガルナが言った。


「もう、いいよ、無理しなくて…」


 ぽつりと落ちた彼女の言葉が深く胸に突き刺さる。


「一緒に帰ろう、それでここに来たことは忘れよう…」


 彼女は続ける。


「私、これ以上、ライキルが傷つくところ見たくないんだ…だから、二人で、みんなの元に帰ろう……」


 その誘いは疲れ切ったライキルの精神には響くものがあった。何のために自分が努力しているのかも分からなかった。ライキルが目指す、みんなが幸せになる道が最悪の未来しか生まないことなど分かっていた。それにはちゃんと自分も含まれていた。


「私たち、もう、十分頑張った…ここで終わりにしよう…」


 そうガルナが言うと、ビキレハもライキルの胸倉を掴むのをやめて手も離した。


「お前たちがそれでいいっていうなら、私ももうお前たちの面倒は金輪際みないぞ?」


「すまない、でも、私たちはここまでなんだ…」


「そうかい、わかったよ…」


 ビキレハが神威の壁の向こうから、ライキルたちの居る普通の世界に戻って来る。そのまま、彼女は二人の間を通り過ぎて階段を下っていった。


「ライキル、帰ろう」


 手を握られる。ここで彼女と帰れば緩やかな幸せが待っている。辛いことがない穏やかな未来が待っている。

 離れていく、恐怖の壁がライキルの元から離れていく。絶望が解け緩い光がライキルを照らす。

 光りと闇の中間で、階段は下りだった。

 辛いことを避けて生きれるのならそれは素晴らしいことだ。


 ――――良かった。


 誰かが言った。


 そこでふとライキルが見えない壁の方を振り向く。


 するとその壁の向こうにひとりの女性が立っていた。


 笑顔で手を振ってる。


 ――――――さようなら、ライキル。


 いつだってそうだ。


 耐えている人ほど、そうやって我慢しながら相手を思って笑顔を浮かべている。

 自分が犠牲になることに何の躊躇もない人が不幸になるのが自分で良かったと安堵している表情だ。


『なんで私はいつもこうなのだろう…』


 強くなりたかった。だけど強くなるにはまず自分の弱さを知ることからだった。しかし、それはもう十分と言えた。己の弱さなら十分理解していた。誰かの後ろで守られるばかりで、自分が誰からを救ったことはなかった。

 救われてばかりで誰も救って来なかった。与えられるばかりで何も与えて来なかった。

 間違ってもいいから自分の人生を少しは自分で救ってあげたかった。悲劇を背負って歩けるだけの強さが欲しかった。誰かを救えるだけの力が欲しかった。


 だけどこんな求めるだけの自分はきっと変われない。いつまでも永遠にこのままなのだと思い、あきらめもつく。


 巨大な恐怖に少し手を入れただけで諦めて帰ってしまうような人間なのだ。きっとこの先も変われない。


 だけど彼ならどうだったのだろうか?


「ガルナ…」


「なに?」


「こういう時、ハルならどうしたと思う?」


 彼女と彼の話題はあまり話たくなかった。それだけでいろんな意味で傷つくから。


「ハルでも私と一緒に帰ったと思うぞ…」


 簡単に嘘を吐く彼女。

 違う、そんな彼なら子供の頃、ライキルという女の子のために自分を犠牲にしたりしない。そんな彼なら王国ひとつを救ったりしない。そんな彼ならこの大陸を救うために人類の脅威に立ち向かったりしない。

 彼はこの世界に生きる人々のこともしっかりと愛してくれていた。そうじゃなければ、彼はとっくに自分たちの元にはいない。生きるかどうか迷ったりしない。救えなかった人たちに涙を流したりはしない。

 愛してるなんて言ってくれない。


「そっか、そうだよね、ハルもガルナのこと大好きだったもんね…」


『私たちは愛されてたんだ…』


 その時だった。ライキルが神威の壁の向こうに駆け出し全身をその壁の向こう側にさらけだしたのは。


 その行動に目を見開いて驚愕したガルナは名前を呼んでいた。


「ライキル!!」


 ガルナの叫び声が聞こえたのを最後に、現世から隔離されたような強力な神威に満ちた空間でライキルは全身を恐怖に包まれ押しつぶされそうになった。

 意識が途切れそうになるが、歯を食いしばって耐える。甘えた感情をかなぐり捨てて何もかもをここで失うことを全て覚悟して、飛び込んだ世界は、地獄だった。


 どこまでも丁寧に作り込まれた絶望がライキルに土砂降りの雨のごとく降り注ぐ。身体にしみこむ黒い絶望は致死量に達する。


 誰かが思い描いた幸せの景色が、ライキルの頭の中に流れこんで来る。


 そこにはひとりのくすんだ青髪の青年と、褐色肌に白い髪の女の子がいた。

 二人は森の中にある小さな木の家で暮らしていた。

 二人で庭にある小さな花壇の白い花の世話をしている。


 そこにはライキルの知らない彼らだけの幸せがあった。


 その幸せな光景がライキルを前へ前へと駆り立てる。


『だから終わらせるんだ。私が終わらせてあげなかったら誰が………』


 あなたの笑顔でどれだけ前を向けたか。


『誰が…』


 どれだけ生きる希望をもらったか。


『誰が、ハルを終わらせるんだ!!』


 手を伸ばすがその光景はライキルから遠く、遠くへと遠ざかっていった。


 彼を救いたかった。



 ――――私がいて、彼女のいないこの世界から。



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