みんなが幸せになるために…
エルフの森に朝が来た。
「それじゃあ、またな、ライキルさん、ガルナさん」
大柄の男がエルフの森に射す朝の光を浴びながら、寂しげな顔で手を振り二人を送り出していた。
「ありがとうございました!ドトルエスさん!」
「お前もいずれ来いよ、待ってるぞ!」
ライキルとガルナが、ひとり第二キャンプ場に取り残されるドトルエスに手を振った。
どうやら彼も次に進む許可はレキから出されていたがきっぱりと断っていたようだった。彼は第二キャンプ場から動きたくない、しばらくひとりで居たいと望んで残ることを選んでいた。
だから二人は彼に別れを告げて先に進む。
第二キャンプ場を後にしたライキルとガルナは、再びレキの背中を追う形で歩いていた。
今度の移動は瞬間移動ではなく、徒歩だったのは少しホッとしたところがあった。あの魔法はそれなりに気分の良いものとは言えなかった。何より心がすり減るようなそんな気がして、あまり理解を超えた魔法を体験したくはなかった。
それにしてもいまだにレキの正体が分からないライキルはひとつ彼に質問した。
「レキさん、今までどこに行ってたんですか?」
「ああ、ごめんね、僕はこれでも結構忙しい身でね。会わなくちゃいけない人たちに会ってたんだ」
「へえ、例えば誰ですか?レキさん友達多そうですもんね。お姫様」
「うーん、そうだね。例えば、ハルくんとかかな?」
ライキルが足を止めた。
「それ本気で言ってるんですか?」
「今ここに修行しに来ている人は君たち以外にもいることは分かるよね?それで聖樹の頂上にだってもう到達している子もいる。あ……」
レキの背後から一瞬だけ凄まじい殺気、いや、神威が吹き荒れると、彼の歩みも強制的に止められた。そして、恐ろしく低い声でレキの背後から声がした。
「レキさん、ひとつお願いがあります」
「ダメです」
「レキさん、聞いてください…」
夜の湖の水を吸い込んだような暗く重い感情が身体から滲み出す。別人になったように表情に切れが増す。周囲の光量がその暗い感情で減ったのでは?と錯覚するほどの負のエネルギーがライキルの心を煮えくり返らせる。
「ダメです。頂上に今すぐ飛ばすことはできません」
「なんでですか?私たちもうとっくにこの環境にはなれましたよ?」
常に息が詰まりそうな神威に満たされている場所に、三週間も滞在し普通に過ごしていた。それでもまだ届かないというのなら、どれだけ努力すれば会えるのか?
「ライキルが言いたいことはよく分かる。早く彼に会いたいんだよね?」
「はい」
努力して冷静さを保っている。そんな押し殺した声。
レキが振り向くと、しっかりとライキルの目を見て答えた。
「うん、でもまだダメだ。今の君は薄められた砂糖水の中を泳いでいたようなものだから。聖樹近辺の神威はもっとひどい。特に聖樹の頂上に入るためには絶対に聖樹の根本で身体を慣らさなきゃいけない。ここからは全然甘くないから気を引き締めて欲しい」
レキが歩き出す。
ライキルはしばらくその後ろ姿を睨んでいたがやがて、ガルナが彼について行く素振りを見せると、ついて行かざるを得なくなった。
「ガルナは私の味方じゃないんですか?」
「神威が濃くなってる。気づいたか?」
ガルナが前を見据えて歩いていく横顔を覗きながら隣を歩くライキルがいた。
「ふーん、いっちょ前に神威についても、ガルナは理解しちゃったんですね。私にはさっぱり分からないです」
「感じないか?」
「分からないです…」
「じゃあ、私たちがもう飛ばされたことも気づいてないのか?」
「え?」
ライキルが辺りを懸命に見渡すと、確かにいつの間にか周囲の景色が変わっていた。永遠と森の中の景色が続いていたから、まったく、その違和感に気づくことが出来なかった。
「また、あいつの魔法だろ」
ガルナが前を指すと、レキがこちらを一瞥してヘラヘラした顔でかわい子ぶっては舌を出していた。
心底腹の立つ顔だった。
納得がいかなかったがライキルたちは、最後のキャンプ場である【第三キャンプ場】に不本意な形で到着した。
***
第三キャンプ場に到着する。少し先の景色を見上げると、そこには目標の聖樹セフィロトの幹が天高くまでそびえ立っていた。
一本の木というよりは、いくつも絡み合った巨大なねじれ木の集合体が、聖樹セフィロトの正体だった。
現在の聖樹の頂上は雲に隠され見えなかったが、あの聖樹の天辺に彼が居ると思うとライキルは固唾をのみ込んだ。
『あと少し……』
強い決意を胸にライキルは第三キャンプ場に足を踏み入れた。
キャンプ場の景色はたいして第二キャンプ場と変わらなかった。それもそうだ。木々しかない赤みがかった樹海に、焚火とその周囲に寝床であるテントがあれば、それはもうキャンプ場の完成だった。
第三キャンプ場もその例に漏れず、二つのテントが焚火の両脇にそれぞれ対立するように並んでいた。
片方の白いテントの周りはよく手入れがされていた。雑草や落ち葉など掃除がされており、周りのサバイバル道具などもきちんと整理され、こじんまりとまとまり全体的に整っていた。
反対に緑のテントの周りには森で採れた食料の入った籠が無造作に置かれ、サバイバルに必要な荷物も乱雑に置かれ、散らかっていた。
そして、対極した二つのテントを挟んだ真ん中には、二つの焚火がそれぞれ燃え尽きた状態でくすぶっていた。
「さあ、着いたここが言ってしまえば最後のキャンプ場だね」
レキが先陣を切って、キャンプ場に入っていく。ライキルとガルナも彼の後を着いて行く。
「ここの住人を紹介したかったんだけどどうやら二人はお出かけ中だから、また後にしようか、今は荷物でも下ろしてテントでも張って時間を潰しておいてよ。その間に僕は二人を見つけて来るからさ」
ライキルとガルナはレキに言われた通り、第三キャンプ場の空いたスペースに荷物をおろしてテントを張った。
ちょうど二つのテントに対して三角形の形を取る位置に二人のテントを張った。
しばらく、経っても戻ってこないレキを待つ間。空腹を満たすため朝食を作りに取り掛かった。焚火に火を入れたかったが既存の二つの焚火を使ってもいいか分からなかったので、ライキルたちも新しく一から燃料となる木の枝を拾い落ち葉をかき集め、炎魔法で簡単に火をつけ三つ目の焚火を作った。
お湯を沸かし、ドトルエスから別れの日の前日にもらった紅茶の茶葉を使って、保存食の干し肉を齧りながら、残りは紅茶でお腹の空腹を紛らわせた。
その後、ガルナと第三キャンプ場の近場を見回り少し開けた場所があったので、そこでレキが戻って来る間。戦闘の感覚を取り戻す稽古をして時間を潰した。
やがて、明るかったエルフの森に黄昏時が訪れ、キャンプ場に戻り焚火に火を入れ休憩して、一日の終わりの余韻に浸っている時だった。
「ただいま、待たせたね、君たちの先輩を連れて来たよ」
レキの後には二人の女性がいた。
ひとりはウェーブが掛かった金髪の長い髪が特徴的な女性で、もう一人はオレンジ色の二つ結びで大きなリボンが特徴的な女性だった。
「こんな軟弱そうな女が新しく来た奴なのか?冗談だろ?」
可愛らしい見た目とは違いリボンの女の子は初対面のライキルに対して睨みを利かせて来た。
「そうだよ、彼女がライキル、そして、こっちの半獣人の彼女がガルナだ。二人とも仲良くしてあげてね?」
レキがライキルとガルナを二人に紹介する。だが、そこでビキレハの悪口が止まることはなかった。
「そっちの獣人の女は分かる、あんたは強い。だけど、そっちのお前は場違いだろ。街に帰って貴族の男どもでも引っかけに言ったらどうだ?そっちの方が幸せになれるだろ?」
嫌みったらしく悪態をつく彼女にライキルが冷静に返そうとした時、横からレキが爽やかな笑顔で会話に割り込んで来た。
「こっちの女の子はビキレハっていう子でね。とってもいい子なんだ。今言ったことも遠回しにライキルのことを心配していたんだ。実は彼女二人が来るのをずっと楽しみにしていたみたいでね。ここ最近はずっとそわそわしてたんだよ」
「おまえマジでぶっ殺すぞ…」
ビキレハの表情に分かりやすく青筋が立つ。可愛らしい少女のような顔から悪鬼へと素顔を変えるそれはまさに彼女の一芸とも言えた。表面を愛らしさで包み、中身を激情と憤怒で満たしたような女性だった。取り扱い注意とは彼女のことだった。
しかし、そんな彼女の怒りを無視してレキはライキルたちにもう一人の女性を紹介した。
「こっちがギゼラだ。彼女はね実は君たちと同じレイ……」
そこでギゼラがレキの口を塞いで、自己紹介を自分で始めた。
「初めまして、私の名前はギゼラです。えっと、ライキルさんとガルナさんでしたっけ?これから一緒に生活するんだよね?よろしくです!」
彼女はそのままレキを少し離れた場所に連れて行き、二人で何やら会話をし始め、レキが彼女にこっぴどく怒られていた。しかし、レキの方は常に余裕の笑顔を浮かべて、彼女をなだめていた。
彼女たちを見ていると、ライキルの傍にビキレハがやって来た。彼女の身長はライキルよりも一回り小さく、見た目だけでいえば子犬や妹のように可愛らしかった。だが、その態度と口の悪さは一級品であった。
「お前らは私の後輩なんだからそれなりに礼儀をわきまえろよ?私になめた口利いたらただじゃおかねえからな?わかったか?」
ライキルの胸の辺りでキャンキャン吠える彼女にライキルは丁寧にお辞儀をしながら言った。
「分かりました。ビキレハさん。これからたくさんご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
立場を分からせに来た彼女に対してライキルが忠実に対応すると、彼女は勢いを殺されて少し戸惑っていたが、なんとかメンツを保とうと頑張っていた。
「そ、そうだ。そうやって素直な奴が長生きするんだよ。よし、ライキル、お前は私の舎弟として認めよう。そっちの姉ちゃんはどうだ?」
調子に乗ったビキレハにガルナが一発分からせようと睨みを利かせて拳をメキメキと握り始めたが、そこはライキルが仲裁に入った。
「待って、ガルナ、お願いだからここは穏便に…」
ライキルが小声でガルナに語り掛け、力のこもった拳を優しく握った。
ガルナが諦めた顔でひとつため息をついた。
「それじゃあ、私もビキレハさんの弟分にしてください」
全く感情のこもっていない声でガルナがお願いするが、彼女は気分を良くしていた。
「よし、結構。それじゃあ、今後は私のために尽くしてくれよな!ナッハッハッハッハッハッ!」
嬉しそうに高笑いする彼女に、ライキルは戸惑いを見せたが、先ほどのように険悪の中になるよりかはマシだったので、内心ホッとしていた。これから同じキャンプ場で過ごす仲間という関係を築いていく際に、ギスギスした関係だとそれだけで稽古に集中できなくなるそれだけは避けたかった。
ライキルの目的はあくまで聖樹の頂上に行くことで、そのために神威を習得しようとしてはいるが、それを教えてくれるはずの師匠のレキが全くと言っていいほど何も教えてくれないため、いまだにライキルは神威というものの核心のようなものを掴めずにいた。
ただ、なんとなくなら分かって来たこともあった。神威は存在力というエネルギーのようなものであり、まずはそのエネルギーに対抗できるだけの身体を作るために、慣れなくてはならないということ。レキが何も教えてくれないのもそもそも、まだ、ライキルたちにはまだ何も教えられることが無いからという認識を持って行ったが、真相はまだレキにもそのことを尋ねていないため分からなかった。
ライキルたちは素直に彼の導かれるままにここにいた。
『今度こそは何か教えてくれるのだろうか?』
一抹の不安を抱えながらもライキルは焚火の前に座り直して、紅茶を口にしていた。
しかし、結局、その日の夜。ぽつぽつと星が瞬き始めた頃にはもう、レキは第三キャンプ場から姿を消していた。
そのため、夜にライキルとガルナが二人でまったりと、テントで休んでいるときだった。
「明日から私がお前たちに神威の指導をしてやることになったから!」
テントの入り口からいきなりビキレハが顔を出した。びっくりしたライキルと、「急に入って来るな」と文句を垂れるガルナ。しかし、そんな二人にお構いなく彼女は、「覚悟しとけよ!」と捨て台詞を吐くと去っていった。
「困ったやつと一緒になっちまったもんだ」
ガルナがそう言うと再び横になって、手に持っていたナイフを、枕の下に戻した。
「でも、確かにレキさんが言っていた通りいい人なのかも、ちょっと口は悪いけど」
「何だよ、惚れたのか?ちっこくて可愛いらしい彼女に随分と彼女を持ち上げてるみたいだけど」
ガルナはライキルのかの女に対して腰の低い姿勢が気に食わないようだった。それか、嫉妬してくれているのか?どちらにせよ、誤解は解いておかなければならなかった。
「フフッ、違うよ。ただ、ドトルエスさんみたいに彼女も私たちの知らない新しい知識を持っていたとしたら、それを聞き出したくって仲良くしておきたいなって思っただけ、それに私が好きなのはガルナだけだよ。女の子だったら誰でもいいわけじゃない」
ライキルがガルナの隣に倒れ込むように横になると二人は視線が交差した。
「ありがとう、それが聞けただけで十分だ。だけど、ライキル、もうひとりいるだろ?」
その問いかけにライキルは嬉しそうに微笑みながらやんわりと否定した。
「いないよ、私が愛してるのはガルナだけだよ」
二人とも横になった状態で、ライキルがガルナの頭の後ろに手を回して互いの瞳だけしか見られないように逃げ場を失くした。
「嬉しいけどさ、それだと、いつか後悔するんじゃないかな…だって、人ってさ、いつだって自分を中心に物事を考えるものだろ?だからさ、今の考え方だといつかライキルは酷く後悔すると思うんだ。それにきっとその後悔を埋められてあげられるほど私はライキルにとっての特別じゃない、違うかい?」
ガルナが目を伏せるとライキルがさらに顔を近づけた。
「ガルナ、私から逃げようとしてる?」
「逃げようとなんかしてない。ずっと傍にはいてやる、だけど、全てが終った後、私なんかじゃライキルの心に開いた穴を埋めてあげられる人間なんかじゃ無いって言いたいんだ。彼の代わりを私なんかじゃ務まらない。それを言いたいんだ」
「そっか、じゃあ、務まらないからガルナは私を否定したいんだね…」
「違う、そうじゃない、私はもっといい方法があると思ってるだけだ」
「ないよ、他に方法なんて」
ライキルがガルナの頬に優しく触れると彼女の動きが止まった。薄っすらと汗をかく彼女の緊張がこっちにも伝わって来るのを感じた。ライキルはガルナのそんな緊張する姿を愛おしいと思った。いつもは勇猛果敢な戦士の彼女もこうして人間の生活の営みに落とし込めば、ただの可愛い女の子だった。
そう、彼女はライキルと何も変わらない普通の女の子なのだ。
「それにみんなが幸せになる方法でしょ?これが?」
「私は…」
そこでガルナが言い淀むのをライキルは見逃さなかった。そして、彼女が何を思いどんな感情を抱いているかまで透けて見えた。分かっていた、ライキルが良くても彼女が納得いかないことなど。だけど、これ以上、付き合わせるのも悪いから断ち切らなければならなかった。それがあの人の願いでもあり、叶えたい夢でもあったから、何としてでもその願いを叶えてあげたかった。
そして、何より自分の愛が薄っぺらいものだと思い知らされた。どれだけ愛そうとどれだけ思おうと、結局、自分には身に余る存在だった。届かないはずのものにずっと触れていた。
だから、最後は自分の手で終わらせたかった。そして、彼を幸せにしてあげたかった。
「ごめん、この話はまた今度にしよう」
話しを先延ばしにする。彼女もうんと頷く。けれど先延ばしにしたところで何も問題は解決しない。これはただの時間稼ぎだった。それよりもライキルは今、彼女との時間を大切にしたかった。
「ねえ、ガルナ」
至近距離、甘えた声で呼びかける。
「何?」
「ガルナは私のために死ねる?」
「死ねるけど、それがどうした?」
迷いのない嘘偽りない言葉に心が温まる。
「じゃあ、私の傍にずっといてくれる?」
「いるよ、いつも一緒だ」
知的な彼女の難しい言い回しじゃない、シンプルで甘い言葉が心をくすぐる。
「そっか、嬉しい。やっぱり、ガルナは優しいね」
「まあな、だけどこんなに優しいのはライキルにだけだよ」
彼女の冗談にライキルの口角がゆっくりと上がる。
「フフッ、嘘つき…でも、本当に嬉しいよ………」
もう少しの間意識を保って彼女とおしゃべりをしたり、触れ合っていたりしたかったが、やがて意識がぼうっと遠のいていき瞼を閉じてしまった。
入眠する直前、ガルナの優しい瞳がライキルを愛おしく見つめていた。それが彼女の本心から溢れたものなら良かったのにと思ったけれど、贅沢は言えない。こうして寄り添ってもらえてるだけで、ライキルは彼女に感謝しなくてはいけない立場なはずなのに、ライキルは彼女を望まぬ正しい未来に誘っている。
『結局は全部、全部、私のわがままなのかもしれない……』
意識は夢の中へと吸い込まれていった。
*** *** ***
夢の中に彼女がいた。彼女と話せば話すほど、私が間違っていると説得されると同時に酷く正しい選択をしようとしていることを理解していく。
どれだけ言葉を交わしても私が目指す方向は間違ってなんかいないことを再確認させられる。
今でも彼女は忘れられないから、私を止めようとしてくれている。
だけど彼女が必死になればなるほど私の決意は固まっていく。何だったら甘い昔話でもされたらきっと私は意地悪だから考えを改めたと思う。だけど、彼女は今にも泣きそうな顔でやめてと懇願するから、私は二人のためにありえたかもしれない光りに満ち溢れた未来を終わらせるのだ。
「多分、ずっと辛かったんだと思う」
それは今の私も同じ状況だからよく感じていた。
「私が邪魔だったんだと思う」
きっかけが私であると思い上がるつもりはない。が、それでも思いとどまってくれたのは私の声が届いたからだと信じたい。だからこそ、私が邪魔で仕方ないんだろう。自由になれないのだろう。ごめんなさい。それでも私はあなたと一緒に居れた時間は何よりも楽しくて幸せだったから、ついついあなたに寄りかかってしまった。ううん、違う、抱きついてしまったから、振りほどけなかったんだよね。
「ごめんね、だけど、安心してあなたを必ず幸せにして見せるから…あと少しだけ待っててね…」
夢の中であなたを想う。
心の奥底からあなたを愛していたから、こうしてやっとあなたのために、ひとつできることがあることが本当に嬉しかった。
私と繋がれた爛れた糸があなたに絡まったから、それを断ち切るのは私の役目。
「あと少しだけだから……」
夢が覚める前に思うことはひとつだけ。
『夢の中で、あなたに会えなくて良かった…』
次に目覚めた時、私の前にあなたがいないことを心の底から喜べたらいいのに…。