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知的なアナタ

 エルフの森の中にある第二キャンプ場で、新しく二人でひとつのサイズ大きめのテントを組み立てていると、分かったことがあった。

 ガルナがいつものガルナじゃなかった。

 ライキル自身も自分で何を言っているのかよく分からないのだが、ガルナはたまに言葉を理路整然と操り、こちらの言動に対して深く思慮を巡らせ的確に返し、策を講じて困難を乗り切るような、彼女の中にもうひとりの賢いガルナが現れる時があった。

 その言い方をすると普段のガルナがまるで賢くないみたいな言い方になってなんだか嫌だったが、いや、確かに戦闘のことしか頭に無いのはさすがに賢いとは言えないが…。とにかく彼女は知的な一面を見せる時があった。

 そして、今、彼女が手際よく自然にテントを組み立てていることを見るとたぶん、そこには知的なガルナがいるのだ。いつもだったら、ライキルがテントの骨組みを組み立て、彼女には出ている杭をハンマーで力一杯叩いてもらうだけなのだが、すでに半分近くの作業が終了し、いつもより早くテントが立ち上がりそうだった。


「ライキル、今からテント立ち上げるから、そっちで杭を打ち込んでて」


「あ、うん…」


 当たり前のように指示を飛ばすガルナにライキルは少し困惑しながらも、お昼になる前にずっと早くテントを張ることに成功した。


 テントができると荷物を中に入れて、そのまま、焚火の前に腰を下ろし、ライキルとガルナは休憩に入ることにした。


 ガルナが消えそうだった焚火にドトルエスが用意していた薪を投入し火力を上げた。そして、水魔法で生み出した水を鍋に入れて、お湯を沸かした。テントを張って疲れた体に水分を取り入れたかったが、水魔法の水をそのまま飲むとお腹を壊すため、一度火にかけ熱処理をする必要があった。


「はい、タダのお湯だけど飲みな」


「ありがとう…」


 ライキルがガルナからお湯の入ったコップを受け取ると喉を潤した。

 彼女も自分の分のコップにお湯を入れて乾いた喉を潤していた。お湯を飲み彼女は、「味ないな」と笑いかけて来た。そのしぐさにライキルは少し胸がざわついたが、それと同時に戸惑いも生まれていた。

 このガルナを受け入れてもいいのか?と、いつものガルナはどこにいってしまったのかと、急に別人のように変わってしまった彼女をどう扱っていいか分からなかった。


「そうだ、ライキル、少し身体を動かそう。レキが修行は明日からって言ってたけど、それより、ライキルは体力を取り戻す方が先だろ?」


「え、ああ、うん、そうだね…」


「じゃあ、休憩したら少し動こうか、場所は広いところがいいから、そうだな、あのドトルエスって奴に聞いて来るから待っててくれ」


 ガルナが焚火から立ち去り、ドトルエスのテントに向かっていった。いつも計画性がなく自由奔放な彼女とは違い、目的に対してしっかりと道筋を立てて考えていた。いつもなら、そんなことしないでとにかく大剣を振り回そうとするのに…。いや、別にいつもの彼女が何も考えてないと言いたいのではなく、行動の傾向がいつもとやはり正反対なのだ。直感と理論、熱と冷、戦士と賢者のように、彼女の中には決定的な二極化した状態が存在していた。


「ギャアアアアアアアアアアア、来ないでくれぇえええ!!」


 ライキルがいる焚火から少し離れた場所にある、ドトルエスという大男のテントがある方から情けない男の人の悲鳴が聞こえてきた。


 しばらくして、静寂が訪れガルナが戻って来た。


「なんか、よく分からんが、たぶんあっちにあるって開けた場所が」


 ガルナが聖樹がある東の方角を指す。


「あいつ、テントから手だけ出して教えてくれたから、方角はだいたいだ」


 それからライキルの隣に寄り添うように座った彼女を珍しそうに見つめたが、彼女は何も気にしていない素振りで「どうした?」と首をかしげる。あえて大立ち回りを見せることで巧みにこちらの行動を制限している。だから、ライキルもここは「なんでもない」と言わざるを得なかった。


 休憩が終りライキルとガルナは第二キャンプから少し離れた開けた場所に移動し、身体を動かすことにした。


 身体を動かすということは騎士としては剣を振ることに値した。


 剣を持つ。久々の柄の感触に、少し重く感じるのは筋力が落ちた証拠だった。以前は毎日身体の隅々まで気を遣っていたが、それも、荒んだ心と共にしぼんでしまった。


『取り戻すのは難しいかもしれない。だけど、今できることを精一杯やるしかない。私は成し遂げて、幸せにしてあげないといけないんだから…』


 眼前には大剣を軽々と掲げたガルナがいた。今の彼女は戦う時も知的に頭を使って戦うのだろうか?それとも直感と戦闘センスでこちらの予想もできない動きで翻弄してくるのか?どちらにせよ手加減してもらわないと話にならないのだが…。


「じゃあ、始めるけど、手加減はしてあげないからね?」


「え?」


 開戦と同時にライキルの足元に大剣が突き刺さる。その威力で簡単に身体が宙に浮き、強制的に姿勢を背後にのけぞらされた。自然豊かな緑の地面がえぐれ砂利や土が舞い上がり、土埃が視界を覆った。

 煙たがっている時間は無い。前方から強い殺気を感知するとライキルは持っている剣を腕の力だけで振るった。力の入っていない横振りの剣だったが、ガルナの正面からの接近を牽制することには成功したが、甘かった。

 土埃に映ったガルナの影が一瞬で消えると、今度はライキルの体勢がひっくり返り、冬迫る秋の空へと景色が一変した。そして、その視界にはすぐにガルナが現れ握っていた剣をはじかれ、両手両足を彼女の筋骨隆々の腕で拘束されると一切身動きが取れなくなった。


「すっごく弱くなってる。身体の動きだけじゃない。戦闘に入る切り替えが遅すぎる。これじゃあ、ここに魔獣が出て来ただけでライキル、殺されちゃうよ?」


 倒れているライキルは、覆いかぶさるようにガルナに馬乗りされ、見下ろされていた。


「弱いままだと、何も手に入れられないけど、それでいいの?ライキルはここに何しに来たんだっけ?」


 ガルナらしくない棘のある言葉。それでもライキルは彼女の言っていることを否定したりはせずしっかりと自分の中でその言葉を消化して受け入れた。それは事実でライキルも分かり切っていることだったから、今さら誰にいくら指摘されようともライキルはひたすら前を向いて自分ができることを着実にこなしていくだけだった。もちろん、焦ってはいるが、それでも、人にできることはそう多くない。

 だけど、強くならなければライキルの叶えたい夢は潰えてしまう。


「ガルナ、もう一回、最初からお願いしていい?」


 脳がとろけそうなほど甘いことだけ考えているライキルはここにはいなかった。決意と共に自分を奮い立たせている最中の騎士がそこにはいた。大海で溺れてそれでも手を届くはずもない天に伸ばしているあがきもがく者がいた。


「私、強くなりたい。強くならなきゃいけないの」


「分かった。じゃあ、剣を拾って最初から始めるよ」


 ガルナが起き上がり退けると、ライキルは剣を握って立ち上がった。互いは距離を取ると武器を構えた。

 今度は合図も無く戦闘が幕を開けた。大剣を構え突進してくるガルナ。とてもじゃないが大剣と剣のつばぜり合いは成立せず、筋力ですら劣る彼女と直接剣を交えるのは愚策だった。

 だから、大剣の弱点である、大振りから生じる隙を狙うため、ライキルはまずは彼女の攻撃を回避することに専念した。


 しかし、ガルナの筋力で振るわれる大剣の速度は、ライキルがかわせるほどの速さでは到底なかった。バックステップを取った際に、彼女の赤い大剣の剣先がライキルの首のぎりぎりで止まる。


「どうする?今、死んだけど?」


「もう一回お願いします」


 ガルナの剣先が首の前から下りると、彼女は背を向けて最初の位置に戻っていった。


 その日は日が暮れるまでライキルは負け続けた。剣を交える前にガルナの大剣が常にライキルの剣の先を行き、致命的な決定打となり、そのたびに動けなくなっていた。

 一瞬で決着がついてしまうため、ガルナにとってはつまらなかっただろうが、ライキルには良いリハビリにはなっていた。

 おかげで、今日この一日だけで、戦闘態勢に切り替える感覚の早さを取り戻せたような気がした。それでもまだまだ、体力も筋力も無くそもそもガルナに触れられすらしないため全盛期に戻ったとは程遠かった。


「ガルナ、ありがとう、私の稽古に付き合ってくれて…」


「いいよ、別にそれより、ごめん、ちょっと厳しかった?」


 そっぽを向いて気まずそうに言う彼女に、ライキルは微笑みかけた。稽古中は一切優しさを見せなかったが、それが逆に全く手を抜いていない証拠でもあり、嬉しかった。自分のために真剣になってくれている彼女に感謝していた。


「ううん、良い稽古だったよ。その、ガルナが良ければ、また、明日もお願いしてもいいかな?」


「え、ああ、うん、いいけど…」


 少し気恥ずかしそうにうなずく彼女に、ライキルは近寄って腕を組んだ。


「ちょっと…」


「嫌だ?」


 ライキルの優しい眼差しが知的な彼女を捉える。


「嫌じゃないけど…その……」


「じゃあ、良いでしょ、ほら帰ろ!今日の疲れを早く取らなきゃ!」


「うん」


 ライキルとガルナは第二キャンプ場に戻った。


 二人は汗だくの身体をタオルで拭き取り、空腹に携帯食を詰め込んで夜ご飯にし、寝る前の身支度を整えると、テントに戻り床に就いた。

 横になり毛布にくるまり目を閉じる。眠気に任せて夢の中にダイブしようとした時だった。ふと、ガルナが声を掛けて来た。


「ねえ、ライキル…」


「どうしたの?」


「あの…えっと、変に思わないの?私のこと…」


「変って何が?」


「なんていうか、ほら、私、いつもと違うじゃん?喋り方とかさ…ライキルは、そのなんか普通に接してくれてるけど、気にならないの?」


 何とか睡魔に抗って、隣で横になっているガルナの方を見た。不安そうな表情を浮かべていた。

 そんな彼女にライキルが寄り添って顔を近づける。


「だって、あなたもガルナなんでしょ?それだったら私は別に全然何も気にならないよ。自由気ままなアナタも知的なアナタも私は変わらず好きよ、それにそっちが見捨てないでって言ってたでしょ?」


「それはそうだけど、その気持ち悪くないのかなって」


「気持ち悪い?どうして?」


「だって、人格が二つあるって言い方を変えればそれは別人だろ?」


 真っすぐした目で彼女はライキルを見つめる。彼女は答えを欲していた。自分がここにいていいのか?という言葉を求めているようにも見えた。

 だけどライキルからしたら今の彼女がしおらしくなっているのが可愛く見えた。


「フフッ、前はあんなに積極的だったのに意外とこっちのガルナは脆いのね?」


 そこでライキルはこの前の仕返しと言わんばかりに彼女の唇に自分の口を強引にねじ込んだ。けれどガルナは恥じらうこともせずにその仕返しのキスを受け入れ嫌がる素振りひとつ見せなかった。それとは逆にライキルの方が段々と顔を赤くし恥ずかしくなってくるとすぐに顔を離した。


「ありがとう、ライキル。こんな私を受け入れてくれるってことだよね?」


「うん、だって、あなたはあなただから、どんなガルナでも私は愛してるよ…」


「そっか、実は少し怖かったんだ。もし私が居て元のガルナが嫌われたらって思ったら…それが一番怖かった。私が彼女の居場所を壊してしまうんじゃないかって…」


 知的で大人びたガルナはまるで元のガルナの保護者みたいな言い方だった。


「ねえ、あなたはそのどういう存在なの?まだちょっとあなたについて理解が追い付いてなくて…」


「わかったいいよ。なんで私がこうなったか教えてあげる。」


 そこでガルナが毛布をどけて上体を起こすと、不安げに語り始めた。


「私が二人いるのは小さい頃に負った怪我が原因なんだ。小さい頃の私は、獣人族と人族が仲良く暮らすどこにでもある普通の街に住んでた。小さい頃の私はどこにでもいる子供で、いつものガルナと違って、その時は物事を今の私みたいに普通に考えられた。だけど、私が変わってしまったのは街にあの化け物が来てからだった…」



 *** *** ***



 平和な街。その日は雲海広がる曇天の曇り空。今にも振り出しそうな雨に幼き半獣人の女の子ガルナは、友達と雨が降り出すそのぎりぎりまで、自宅の近くの空き地で遊んでいた。

 街はいつも通りの平日。お店を開いてお客を呼ぶ店主。街の治安を守る騎士、買い物をする人たちで空き地の外も賑わっていた。雨が降る前にみんなが外出していた。

 天候以外はいつもと変わらない穏やかな昼下がりの午後。


 しかし、そんな当たり前の日常も、たった一体の脅威で地獄へと姿を一瞬で変えてしまう。


「ガルナ!!!」


 聞きなれた声が自分の父親だと分かるとガルナは喜んで駆け寄った。

 だが、その父の必死の形相にガルナは何か不吉なものを覚えた。


「急いでここから離れるんだ!!街の外へ急いで走れ!!」


 父親がガルナと友達の手を強引に引っ張り空地の外へと走らせた。


「ガルナはその子と一緒に街の外へ走って!!!」


「お父さん、何が起こってるの!?」


「いいから早く行くんだ!!」


「嫌だ!!ちゃんと説明してくれなきゃここを動かない」


「………」


 ガルナの父親もその時はどうしていいか分からず一瞬固まってしまった。けれど、子供とはいえ、ガルナは賢かったことを父である彼は誰よりも知っていた。だから、彼は膝をついて

 彼女に視線を合わせると静かに真実を口にした。


「よく聞くんだ。この街に黒龍が向かってる。今、母さんが足止めしてるが持たない。俺は母さんを助けに行くからガルナは安全な場所に友達も連れて避難して欲しいんだ」


 その言葉を受け取ったガルナの瞳に涙が溢れるが、すぐに拭うと首を縦に振った。


「分かった…」


「よし、いい子だ。それじゃあ、行きなさい」


「お父さん」


 涙が止まらないガルナが最後に戦地に赴く彼に言った。


「みんなを守って…」


「任せろ」


 その時だった。凄まじい轟音が空気を震わせた。音のする方を見ると遠くの曇天の空から地上に一直線に、灼熱の熱線が垂直に伸びていた。

 するとガルナの父は愛娘に一言、言葉を残すと走り出した。


「ガルナ、愛してる」


 ガルナも愛してると叫ぶと彼は言ってしまった。


 それからガルナは街中を走った。友達と一緒に走った。次第に近づいて来る天から降り注ぐ炎の柱が、思い出が詰まった街を焼却していく。


 ガルナは振り返らず走った。


 やがて、街の中央に曇天から姿を現した黒い紐のような異物が降臨すると、街の崩壊はあっという間に広がった。大きな口か放たれる火炎が街を火の海に変える。街にあった何もかもを焼却し、大きな口が逃げ惑う人々を飲み込んで行く。空中を漂う絶望は飽きることなく街と人々を蹂躙する。

 その黒い紐の異物の正体はまさしく龍と呼ばれるものだった。幼いガルナでもその龍のことをよく知っていた。

 四大神獣の黒龍。この大陸に生息する四種の人類の脅威。そんな普通の人たちには手に負えない絶望がガルナの街を破壊していく。

 辺境の地に救世主たる剣聖が来てくれるはずはなく。暴れまわる黒龍に、成すすべはなかった。


 気が付けばガルナの隣には友達もおらず、酷いやけどと傷だらけの身体を引きずって、街の近くの森の中を歩いていた。


『熱い…痛い…お母さん…お父さん……まだ、戻ってこないの……』


 弱ったガルナが後ろを振り向いた時だった。


 その日、ガルナのいた街は地図から姿を消した。


 黒龍が街の中央にひとつ大きな火の玉を吐き出して天空に駆けあがっていく。その後、凄まじい閃光と衝撃波が周囲に広がった。


 その衝撃波はガルナの元にも到達すると、軽々とガルナの身体を吹き飛ばした。


 そして、吹き飛んだガルナは、最後、大きな岩に強く頭を打ち付けその場で気絶してしまった。

 無力な自分を呪いながら、失ってしまった家族を悲しみ、絶望の中、燃えるような赤い瞳の目を閉じた。


 *** *** ***


「それから、私は街の被害を受けて調査しに来た騎士団に助けられたんだ。そして、目覚めた私の知性は子犬以下にまで下がってたってわけ」


 ライキルはその話を少し受け入れるまでに時間がかかった。


「ごめんなさい。そのあなたのこと何にも知らなくて…」


「いやいや、元のガルナはこのことを覚えてないっていうか、頭が回らないっていうか、まず、説明は無理だろうな、ハハッ」


 自虐的に笑う彼女とは反対にライキルは気はしっかりと落ち込んでいた。


「だけど、私は幸せ者だよ。いろんな人たちに愛されて、今日までなんとか生きて来れた。ライキルにもたくさん助けてもらったし、迷惑もかけちゃったね…それに彼にも」


 彼という言葉でライキルは酷く心が痛んだ。


「私は、その……」


 言葉に詰まった。ガルナの顔を見ると、彼女は優しい目でこちらを見つめていた。


 言わなければいけなかった。


「ガルナ、ひとつだけ聞いて欲しいことがあるんです…」


 そこでライキルは彼女にだけは本当のことを打ち明けた。自分がこれから何をしようとしているか、あの人が今置かれている状況とあるひとりの女性のことについて。


 そのことを聞いたガルナは酷く寂しそうな顔をした。


「ねえ、ライキル、その考え方は酷く歪んでると思う…」


「そうかもしれない。だけど私があなたを愛し続けるためには必要なことなの…」


「一緒じゃダメなの?」


「ガルナ、聞いて欲しい。最愛の人の傍に居られないことがどれだけ辛いか…私にはわかるの…」


 その言葉はガルナの口を塞いでしまった。だが、何も言い返すことが出来ないガルナがそれでも無理やり言葉を返す。


「それじゃあ、ライキルは幸せにはなれないでしょ…」


「私はもう幸せだよ、ガルナとこうして一緒に居られるからさ」


 彼女のことを見つめるが、ガルナが視線を逸らす。そんなこと分かっていた。彼女はどうしてもこの意見に賛成できないことを、だけど、それでも、ライキルは彼女に対する愛を証明したかった。決して軽い気持ちで思いを伝えたということではないことを。


「私の意見に賛成しなくてもいいよ、何だったらここで私を殺してもいい。ガルナがそれで幸せになれるんだったら私はそうする。だけど、私が生きている限り私は彼のことを救ってあげるつもり、ガルナには酷だけどどっちか選んで欲しい…私か彼か……」


 ライキルがガルナに手を差し伸べる。その手を取るか取らないかはガルナ次第だった。


 しかし、そこはすんなりと彼女はライキルの手を取った。


「私はライキルに協力する。だけど、ひとつ覚えていて欲しい」


「何かな?」


「ライキルは間違ってるってこと」


「うん、わかった、覚えておく。でも、ありがとう、大好き、愛してる!」


 とびきりの笑顔でライキルが笑う。


「私も愛してる」


 彼女のその言葉でライキルは心の底から幸せな気持ちが溢れ出していた。


 愛を受け入れてもらえることがとても嬉しかった。彼女の腕の中でライキルは安心して眠った。


『私がみんなを幸せにするから、待てて…ハル…』


 二人はひとつの毛布の中で互いに抱き合いながら、冷え込む夜を超えた。

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