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朝食と報告

 眩しい太陽の光の筋が何本も窓の外から入って来る。瞼の裏が赤く温められその光を受け入れる。あくびをひとつするとベットから飛び下りる。

 寝室からリビングに向かうと、目立つところのテーブルに置手紙があった。いつも目にするその紙があるということは、同居人が朝の訓練に出かけているという意味だった。

 空腹を満たすために朝食を取ることにした。外に出る前にある程度身支度を整えた後部屋を出た。

 三階にある自身のホテルの部屋を出て、一階にある食堂に向かう。


 ホテルの朝の食堂はメニューからの注文形式ではなく、横長のテーブルにたくさん並べられた料理を自分で好きなだけ取れる、食べ放題のシステムだった。

 料金は宿代に含まれており、朝食はタダで頂くことができ、さっそく食堂内を見て回る。

 用意されたトレーに自分の皿を乗せて、テーブルに並べられている大皿で山盛りの様々な種類の料理から自分の好みのものを選び取る。卵料理、肉料理、揚げ物、麺類、サラダ、果物など、多種多様で朝食を取りに来た腹ペコの人を満たすには十分すぎる品揃えだった。


 ただ、その中で自分が皿に乗せたのは卵液に浸したパンをトーストしたものだった。それとトレーにはミルクを入れたグラスをとり簡単な朝食とした。


 窓際の席に座り、朝の陽ざしをたっぷり浴びながら、取って来たパンをフォークで刺して口に運んだ。ふわふわの触感が口の中に広がり溶けていった。ミルクを飲んで口の中を整えるとすぐに次のパンを口の中に放り込んだ。

 朝も早いためか宿泊客の姿も少ない。そんなありきたりな朝食を楽しんでいる時だった。


 自分の目の前に、ひとりの男が突然腰を下ろして来た。


「サムさん、報告に上がりました」


「カフロム、あなたが来るとは珍しい。何かあっちで動きがあったのかな?」


「はい、そのことで少々動きがあったので私が報告に来た次第です」


 サムが抱えている部隊グレイシアの他に【本隊】と呼ばれるグループがあった。彼らはサムの指示の元どんな任務でもこなす実力者の集まりだった。主に彼らの役割は、サムが動かしている部隊では対処しきれなかった問題の処理など、アスラ帝国の裏部隊でもこなせない仕事をこなす特殊部隊だった。特殊部隊とは聞こえがいいが、大国の裏には必ずいる軍の裏部隊の本当の汚れ役とも言えた。

 カフロムはそんな本隊の副リーダーとも言えた。サムがいない時は彼が常にその本隊の指揮をとっていた。

 三十前半とグループの中では最年長であり、二十代前半の勢いのある若者たちを束ねるには最適な人物でもあった。

 しかし、そんな彼でもサムには頭が上がらない。それはサムが所持している特名がそうさせているのだろう。


「現在、聖樹セフィロト周辺と例のキャンプ地の二つにそれぞれ監視を置いているのはご存知ですよね」


「うん、それでどっちに動きがあったのかな?キャンプの方かな?」


 サムが聞いているのは、イビルハートか火鳥のどちらかということだった。

 すでに本隊であるカフロムらの報告で、イビルハートの暗殺者たちの情報は掴んでいた。

 アスラ帝国の属国であるリード王国の王女を暗殺したイビルハートの暗殺者たちが、現在エルフの森の中でキャンプをしていることが判明しており、こうして本隊に偵察をさせていた。

 ただ、彼らを捕らえることがサムたちの任務となっていたのだが、どうにも手を出しずらい状況に陥っており、今の段階では膠着状態で、遠目から眺めることしかできなくなっていた。


 それとキャンプの方つまりイビルハートの方に動きがあったと一方的に予測したのは、四大神獣の一角である火鳥が動けば、そもそもサムたちの手には負えず、撤退が最優先だったからだ。その時は任務どころの騒ぎではないのだ。


「はい、キャンプの方で動きがありました。何日たっても聖樹セフィロトからキャンプ地に戻らない者が現れました」


「えっと確か、彼らは聖樹に行ったり戻ったりを繰り返してて、あれ?今キャンプ地って何か所に増えたんだっけ?」


「現在そのキャンプ地は三か所です。キャンプ地の監視の方はさらに人員を分担して監視しています」


 キャンプから聖樹セフィロトまではおよそ百キロメートル離れていた。キャンプ地は最初その百キロメートル離れた場所にしかなかったが、今では聖樹から五十キロメートル地点の中腹と、二十キロメートル地点の二か所が追加されていた。

 その理由は未だに不明だったが、何かしらの意図があって、設置されていることは確かだった。


「それと聖樹周辺は相変わらずなの?」


「はい、聖樹周辺の監視はあくまで遠巻きから監視するのが精一杯で…すみません、近づくだけで体調だったり気分だったりが悪くなる者が多くて…」


 事前の報告で聖樹付近には誰も近寄れない何かが漂っているとの情報がサムの耳にも届いていた。


「いいよ、そこはきっと今、彼らがやっている訓練が影響しているんだと思う」


 キャンプ地ではそのイビルハートの者たちが何やら日々訓練をしていると報告が入っていた。


「毎日、レキというエルフに指導されているみたいで」


「俺たちもそのエルフのレッスンを受ければ聖樹にあるその何かを突破できるのかな?」


「おそらく可能でしょう。彼らの受けている訓練は聖樹に漂ってる何かを超えるためのものだと思われます。それで、聖樹に行ったきり戻ってこない者が二名ほどでたということです」


「それって誰と誰?」


「ひとりはイビルハートのグループのリーダーのベリルソンと、レイド王国のインフェル所属のルナ・ホーテン・イグニカです」


 サムたちがイビルハートの彼らに手を出せない理由がルナたちがいるというのが最大の原因だった。


「そうだ、それと最近キャンプに来た彼のことはどうなった?」


「ああ、例の商人ですね。現在は第一キャンプで彼らと同じように修行中です」


「そうか、彼は重要人物だから続けて何かあったら護衛してあげて欲しい。もし彼にもしものことがあったら、それこそ、どうなるか分からないからさ…」


「承知しました。それでは任務に戻ります」


「うん、気を付けて」


 カフロムが席を立つと、早朝の閑散とした食堂にサムはひとりきりになった。しばらく、その報告のことで次に何をすればいいか策を練っていると、食堂に誰かが入って来た。

 最初はその入って来た一般客に目もくれないでひとり黙々と窓の外を眺めながら思案していた。

 しかし、その時だった。


「ライキル、それだけしか食べないんですか?美味しい料理が食べられるのはここで最後かもしれないんですよ?」


「うん、でも、ちょっと食欲がなくて…」


「そんなんじゃ、これから行くエルフの森を超えられませんよ?」


「ビナ、ライキルに優しくしてあげて」


「これは優しさから来る厳しさです!」


「それでもライキルに優しくしてあげてくれ…」


「もう…」


「大丈夫です。これから先ずっと干し肉でも私我慢できますから」


「そう言う問題ではなくてですね…」


 女性たちの会話だ。しかし、どこかで聞いたことのある声を聞くととっさに斜め前のテーブル席に目をやらざるを得なかった。

 そこには三人の女性がおり、サムと同じように朝食を取っていた。


「彼女たちって…たしか…」


 サムの頭には解放祭での記憶が蘇っていた。

 そして、彼女たちの会話は続く。


「それにしてもあのレキって人何者なんでしょうね?」


 小さな赤い髪の女の子が山盛りのご馳走を口に頬張りながら尋ねる。


「さあ、分からないけど、でも、そこらへんも含めて彼には聞きたいことがまだまだたくさんあるから、会いに行って確かめないと」


「私なんだか彼に親近感みたいなものがあって、なんていうんでしょう。初めてあった感じがしなかったんです。絶対どこかで彼と会ってた気がするんです」


「エルフだからじゃないの?」


「む、違います。エルフだからって誰にでも心開く私ではありません!ただ、何だか彼変に私に優しいっていうか…」


「やっぱり、ビナはエルフに弱いのね」


「違いますって!!だってそんなこと言ったら、ライキルだってよくわからないハルって人のために危険な聖樹に行くんですよね?聖樹周辺って特別危険区域なんですよ?それ分かってますか?」


「そうだけど、それとこれとは話が別でしょ」


「似たようなものだと思いますけど?」


「私はただガルナの願いを叶えてあげたいだけなの」


「…本当ですか?」


「本当だって、はい、もうこの話は終わり」


「分かりました。ここからの言い争いはたぶん不毛になりますもんね」


「そうよ、お互いに心に決めた人はいるんだから…」


 女性たちの会話からサムは重要な情報を得てしまい焦っていた。


『どういうことだ?彼女たちもハルさんのことを忘れている…?それはあり得るのか?なんで俺やルナさんはハルさんのことを忘れていないんだ……いや、それより、ちょっと待て彼女たちが聖樹に行くならカフロムたちにも伝えないといけない』


 サムが慌てて席を立って、食堂を後にして、今さっき出ていった部下の後を追っていった。

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