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あなたのいない世界

 レゾフロン大陸西部に位置するいたるところの国々で今話題になっている大事件があった。その話はあまりにも途方もない内容で言葉だけでは信じる者はひとりもいなかったが、実際に目で見ると信じられずにはいられない事実がそこにはあった。


 その大事件とは…。


 レゾフロン大陸最大の山脈である【龍の山脈】。その山脈が忽然と跡形もなく消滅したことであった。


 現在、各六つの大国、イゼキア、ニア、スフィア、シフィアム、アスラ、レイドが、この大事件をめぐって、緊急の会合を開いていた。


 その会議が開かれている場所は、レイド王国の最西端の街である【パース】から、数十キロほど離れた、【リーベ平野】という草原地帯だった。


 そこに一夜で築きあげられる街を利用した会場を魔法で創りあげ会合場所としていた。

 その場所はよく国家間同士の祭事などがある場合に使用する特別な場所でもあった。

 なぜレイド王国のその土地が利用されやすいのかというと、単純に六つのどの大国からも交通の便が良く、おまけに魔法が使えるようになるマナもその土地に根付いているため、重宝されていた。

 防衛の観点からも魔法で築くことができるため、即席で要人たちを守る施設の魔法での創造も可能で、とにかく、その土地は使い勝手がよい土地だった。


 そんなリーベ平野には各大国が建てた六ケ所の施設と、会合をする大きな建物がその六ケ所の施設の中央にどっしりと佇んでいた。


 夏を終え肌寒い、冬一歩手前の秋。そんな昼食を取り終えた午後に、各国の王たちが中央の建物に集合する。


 会合施設の会議室に、時間通り各国の国王たちがこの会議を運営している者たちに連れられて入室する。


 イゼキア王国国王、ヴォ―ジャス・サーペン・イゼキア。


 ニア王国国王、ランドルフ・アースドク・ニア。


 スフィア王国女王、ジェニメア・エメラル・スフィア。


 シフィアム王国女王、キラメア・ナーガード・シフィアム。


 アスラ帝国皇帝、アドル・フューリード・アスラ。


 レイド王国国王、ダリアス・ハド―・レイド。


 それぞれ、強力な護衛を連れていた。


 イゼキア王国剣聖ゼリセ・ガウール・ファースト。


 ニア王国剣聖シャノンオーズ・エストレア・アダマン。


 スフィア王国剣聖アルバーノ・セレスティアルド・ウェザリン。


 シフィアム王国、剣聖代理、ランジュ・バーキリィー


 アスラ帝国第一剣聖シエル・ザムルハザード・ナキア


 レイド王国剣聖カイ・オルフェリア・レイ。


 さらに国王と護衛にひとり宰相が付き、中央の建物の会議室には上限三人までの入場が許されていた。それ以外の騎士たちは原則施設内で待機であり、会議の間は外出禁止だった。これはもしもの事故を防ぐためだった。


 そして、この会議の進行を務めるのはいつも話し合う議題の中心にいる国の宰相であり、今回は帝国の宰相のガジスが進行を務めた。


 大きな丸テーブルにぐるりと並べられた座席に座る王たちにガジスが語り掛ける。


「それでは今回の件の進行役として、このガジス・デルヒア・アマリスが務めさせていただきます。さっそく、本題に入りますが、今回の議題は龍の山脈の消滅についてです。この件に関してはすでに各国が調査隊を出して現状を把握していると思いますが、概要だけ簡単に説明させていただきます」


 アドルの隣で、ガジスが資料を読み上げる。


「現在、龍の山脈は、山脈と言える山々が一切消え、真っ白な大地が広がる更地となっています。第四段階に分かれた土地【小龍】【中龍】【大龍】【聖域】の全てのエリアに巨大な破壊痕の確認がされております。それは、あの二百年ほど前に起こった〈ブルースターの大穴〉より、壊滅的な破壊です。そのような、人類では不可能と言わざるを得ない現象がいつの間にか我々の気づかないところで起こっていた。これは大問題です。みなさんで、この現象の原因究明と旧龍の山脈跡地の領土などをどうするかなど、今後のことも含めて皆さんには、話し合ってもらいたい所存でございます」


 ガジスがそこで後ろに下がると早速口を開いたのは、イゼキア王国のヴォ―ジャスだった。


「まったくもって素晴らしい話だ。新しい土地、これは素直に隣接している大国が調査管理するという目的で独占し、我々でわけあおうじゃないか!」


「待て、ヴォ―ジャス、貴様この議論の重要性が分かっていないのか?それとも、お前さんのように欲だけを肥大化させた頭では今、我々が直面している危機についても考えられぬのかい?」


 ヴォ―ジャスの隣に居た、ニア王国のランドルフ国王が、蔑む目で吐き捨てた。ランドルフはドワーフであるため、小柄で幼い見た目をしていたが、威厳だけは自国のことしか考えていないヴォ―ジャスよりあった。


「ランドルフ、おまえ土地が隣接していないからって私をひがんでいるのか?」


「貴様の目が欲で曇っているから、私は口を挟んだのだ。まず第一に話し合うべきことはどう考えてもなぜ、龍の山脈が消滅したかについてだろ、それからだ、龍の山脈の分配の話しは」


 そこで、スフィア王国の女王ジェニメアも、賛成意見でランドルフの背中を押す。


「そうですね、ランドルフさんの言う通りです。私たちはまず龍の山脈の消滅の原因追及を最優先に考えなければなりません。そうじゃないと、龍の山脈で起きた破壊が次どこで起きてもおかしくはありませんよ?」


「ジェニメアさん、あんたのその言い方だと、まるで脅しみたいだぜ?」


「どういうことですか?」


「お前さんの国がやったんじゃないかって疑ってるんだよ!」


「あら、ヴォ―ジャスさん酷いこと言いなさるんですね。私、傷つきますわ」


「ふん、お前さんの国ほど秘密が多く怪しい国はない、龍の山脈の破壊だってあんたの国の魔法かなんかなんだろ?知ってるんだぞ?」


「フフッ、そんな魔法あったら、とっくにイゼキア王国を更地にしてますわ!」


 美しいがどこか心に恐怖を与える笑顔でジェニメアが微笑ながら言う。


「おい、冗談でも、聞き捨てならないぞ、一国の女王である今の言葉!」


 興奮気味にヴォ―ジャスが彼女を指さしながら叫ぶが、彼を擁護する者はいない。


「ヴォ―ジャスくん、少しみんなに噛みつくのを抑えてもらってもいいかね?」


 アスラ帝国皇帝アドルが、鋭い視線と共に淡々と彼に語り掛ける。


「…チッ、たく、仕方ない………あ、そうだ。ところで陛下はどうして今日そちらのシエル第一剣聖を連れていらっしゃるのですか?もしかして、この会場を氷漬けにするおつもりですかな?」


 ヴォ―ジャスがくだらない因縁をつけて来る。確かにアドルがこのような外交の場にシエルを連れて来るのは稀だった。基本このような外の担当は第二剣聖のフォルテだったのだが、彼はこの場にいなかった。

 剣聖の中でも二番目の実力者である彼女を急に連れて来たことは、他国への威圧と捉えられてしまったのだろうが、そんな意図は全く帝国側にはなかった。


「フォルテ剣聖は、体調を崩しているからここに連れて来れなかったんだ」


「あっそうですか、なら別にいいんですが…」


 アドルの後で、自分の話しが話題に上がったシエルがガチガチに緊張して、白目を向いていた。


「ただ、最後にひとつだけ、いいですか?」


 そこでまだ、食いついてくる彼にアドルはうんざりしたが発言を許した。


「何かね?」


 ヴォ―ジャスがひとりの女性に目を向けた。


「シフィアム王国は今回の参加条件に違反してはいないか?ということだ、この会議で王の代理は禁止のはずだ。だから、私もこうしてここに来ているのに、シフィアム王国のサラマンが来ていないのはどういうことなんだぁ?」


 ヴォ―ジャスの視線だけではなく、シフィアム王国の席に座るひとりの女の子に、その場にいた王たちの全員の注目が集まる。


 しかし、そんな王たちの重圧に屈することなく、その少女は白銀色の瞳をぎらつかせ、堂々と答える。


「代理じゃありません。シフィアム王国の現女王となったキラメア・ナーガード・シフィアムです。以後お見知りおきを」


 ぎらつく白銀の瞳にその場にいた全員が気圧された。

 シフィアム王国は今から約二か月ほど前に王都が襲撃された大事件があった。その際に、王女のウルメア・ナーガード・シフィアム、剣聖のカルラ・ヒュド―・シフィーなど国の中心人物たちが行方不明、生死不明となっており、国は傾き大国の中でも落ち目になっていた。


 しかし、彼女の最年少であるにも関わらず、周りを圧倒するその存在感はその場にいた誰しもが彼女を自分たちと同じ王の素質を持った人間であると認めざるをえなかった。

 だが、それでもまだ新参者であるため、話し合いの中に彼女が自ら入ってくることは今日のところはそれ以上なかった。


「ふむ、じゃあ、新しい王の挨拶も済んだところで、さっそく本題に入ろう。龍の山脈はなぜ誰も気づかないうちに忽然とその姿を消したのか?その原因の究明と対策についてだ。何かこの問題について意見や話しておきたい者はいるかね?いないのならばまず私から…」


 そこでアドルの言葉を遮るように、神妙な面持ちの顔をしたレイド王国の国王ダリアスが手をあげた。


「アドル、私からいいか?」


「あぁ、構わんが、どうかしたのか?顔色が悪いぞ?」


「気遣いどうも、大丈夫だ。だが、すまないがここからはカイ剣聖が話すからみんな耳を貸しやってくれ、じゃあ、カイ頼んだ…」


 ダリアスに変わって、後ろにいた灰色の髪の青年が一歩前に出て、王たちに顔を見せる。


「ダリアス王に変わってこの場を借りて、わたくしレイド王国の剣聖カイ・オルフェリア・レイが重要なお話をさせていただきます」


 丁寧なあいさつから入ったカイだったが、次の彼の質問にその場にいた王たち全員が首を傾げていた。


「皆さんは、ハル・シアード・レイという人物をご存知でしょうか?」



 *** *** ***



 レイド王国、パースの街にある古城アイビー。その屋上にライキル・ストライクはひとりで、そこから見える眺めの良い景色を呆然と見つめていた。


「………………」


 季節はすっかり秋で、肌寒くなってきていた。辺りの木々もすっかり紅葉しており、景色を眺めるには理想的な季節のひとつと言えた。


「綺麗だな…」


 秋の風を浴びるライキルが古城の外に広がる城壁内の街を見渡す。そこにはもう長袖を来た人々で溢れかえっていた。そんな彼らをみると夏はもう終わってしまったのだと少し寂しくなってしまった。

 しかし、そんな寂しさも紛らわせてくれる大切な人がライキルの傍にはいるから何も問題はなかった。


「おーい、またここにいたのか!ライキルちゃん!」


 後ろの扉からストロベリーブロンド、つまり赤みがかった金髪。そんな綺麗な肩まで伸びた髪をなびかせた半獣人が現れる。


「あ、ガルナ、どうですか、一緒に街の景色でも見ませんか?」


「うん、見る、見る!」


 ガルナが飛んできてライキルを後ろから抱きしめる。半獣人の彼女の体温は、人族のライキルよりも少しだけ高く、抱きしめられると暖かかった。


「ねえ、ガルナ」


 遠くの景色を見つめながらライキルがふと愛する人の名前を呼んだ。


「なに?」


 ガルナがライキルの肩に顔を乗せて、顔を見るため覗き込んでくる。可愛らしく撫でてあげると、気持ちよさそうに目を閉じてライキルの手の感触に浸っていた。


「…………やっぱり、何でもない」


「なんだよ、変なライキルちゃん」


「うん、そうだね…」


 愛する人と一緒にいる幸せの中でライキルはひとつため息をついていた。


「ハァ…」


「元気ないのか?何かあったのか?」


「あ、ううん、別にただ、冬が近づいてくるとなんだか人肌が恋しくなってくるっていうか…なんていうか……」


 ライキルは自分でもよく分からない感情に襲われていたが、自分でもどうしてこんなにも気分が落ち込んでいるのか分からなかった。


「私にできることないか?」


「じゃあ、もっと強く抱きしめてください、寒いのでもっと、密着してください」


「了解!」


 ライキルはガルナに抱きしめられている間、ひたすら街を見下ろしていた。


『なんでこんなにも満たされないんだろう…』


 何かが足りない、そんな思いが胸の奥にずっと引っかかっていたが、それが何なのかライキルにはさっぱり分からなかった。


 それからライキルはガルナと二人でしばらく景色を眺めながらくだらないが楽しいおしゃべりを終え満足すると、お腹が減ったため昼食を取りに食堂へ行くため、屋上を後にした。

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