当たり前のようにただ君がいて 後編
ずっとあなたの後を追いかけていた。
あの日あなたに救ってもらった時から、私はあなたの魅力に溺れていった。
優しくて、かっこよくて、頼りになる、だけど、流されやすくて、ひとりで抱え込んでしまうと全部独りで解決しようとする困ったさんで、でも、そんなあなたが好きで、好きで、大好きで、きっと、この先、一生会えなくなったとしても、あなたのことは忘れられない。それぐらい私にとって魅力的な人。たまにその魅力が溢れ出しちゃって、いろんな人が集まって来るけど、それも彼のいいところだと思う。私より可愛い女の子が出て来るとへそを曲げちゃうけど、そこは私が頑張らなきゃいけなかった。
あなたはいつも先に行ってしまうから、私が追いつかなきゃいけなかった。
あなたが道場から王都に旅立ってしまう時も、無理を言って同行させてもらったことがあったよね、全部あなたの傍に居るためだった。それと変な虫もついて欲しくなかったからかな。あんまり素直じゃなかったね。
だから、エウスといつもあなたが楽しそうに遊びに行くとき、私は不快だった。あなたと肩を並べて歩ける彼に嫉妬していた。今だってエウスとは喧嘩ばかりだ。
私はあなたを取られることが何よりも嫌だった。まるであなたは私のもの見たいに言っているけど、私はいつだってあなたが私だけのものなら良かったのにって思ってた。あの頃は、まだ今よりも尖っていたから、あなたしか見えていなかったから、全てが敵のように感じてた。それも今では自分でも落ち着いたと思ってる。歳を取ったのかな?なんか、ちょっと嫌な感じかな。
いつだって好きな人には愛されていたい。誰だってそういうものなんじゃないのかな?難しいけどさ、諦めてもいけないんだと思う。
だから、私は今も必死に追いかけている。
愛するあなたと結ばれたって気が抜けない。
あなたはたくさんのことを抱えていてまだ話してくれていないこともたくさんある。
きっと話せないんだと思うけど、いつか全部話して欲しい、あなたは何に苦しんでいたのか。
今は、ただ、私たちに会ってくれるだけでいいから。
研究所の中に入って、みんなであなたを探す。
誰よりも先にあなたに逢いたくて私は研究所内を走り回る。
走っているとある看板が目に留まる。その看板には食堂と書かれていた。
私は吸い寄せられるようにその中に入っていった。決してお腹が空いていたからではない。なんとなくだが、彼がいるような気がしたからだ。
食堂に入ると辺りは静まり返っていた。大きな食堂だ。ここで研究所内全ての人の食事を賄っていたのだろう。
ガタン!
広い食堂のキッチンがある方から物音が聞こえた。急いでその声のする方に私は足を運ぶ。
「保存食しかない…まったく、ここの食堂はどうなってんだ?やっぱり、研究者って言うのは変人ばっかりなのか?まあ、紅茶はいい茶葉を使ってたみたいだけどさぁ…飯が保存食だけじゃ、物足りないんだよ…他に何かないか冷凍室とかないのか?」
食堂の大広間から料理を提供する場所であるキッチンで、ひとりの青年がぶつぶつ文句を言いながら戸棚などを開けて食料を物色していた。
くすんだ青い髪に、すらっとした高い背丈。何からでも守ってくれそうで今にも飛びつきたくなるような大きな背中。
「ハル?」
その言葉でくすんだ青髪の青年は動きをピクリと止めた。
振り向いた彼の青い瞳と、私は目があった。
その瞬間まるで永遠とも思われる長い時間が流れていたのかもしれない。二人はしばらく見つめ合ったまま固まっていた。
***
その静止した時間のなかで、私が見ていた世界は酷く歪み始めていた。目の前が霞んではぼやけるのだ。何度腕で目元を拭ってもそのぼやけが取れることはなかった。
どうしていいかわからなかった。ただひたすらに頬には涙が伝っていた。
「ライキル…」
傍に駆け寄って来てくれたハルが、目の前まで来て涙で濡れている頬を優しく拭ってくれようと手を伸ばすが、彼はその手前で一歩思い留まっていた。
「なんで…置いていっちゃうんですか……」
ぐちゃぐちゃになった視界で彼に問いかける。
「その…ごめんなさい…」
何かを言おうとしていたが、彼は俯いて謝るだけだった。言葉遣いも丁寧でどこか他人行儀なのが引っかかった。
そして、抱きしめてさえくれない彼にライキルはもっと悲しくなって、自分から彼に抱きついた。
「全部許します。だから、もう、どこにもいかないでください」
なぜかハルが抱きしめ返してくれない。それが酷くライキルを不安にさせた。
「………」
さらにハルが何も言ってくれないことにますます不安を煽られた。何か違う、いつものハルじゃない。確かにここにいるのはライキルが昔から知っているハルだったのだが、違和感があった。
「ハル、どうしたんですか?」
反応が無いままハルはライキルをただジッと見つめていた。
何か様子がおかしい。だけど、彼の中で何が変わったのかライキルにはさっぱり分からなかった。
だけど、彼の中で何かが変わったこと、その影響がライキルではないことは確かにわかった。
「ハル…」
「ああ、ごめん、久しぶりにあったライキルがとっても可愛かったから見惚れてた」
彼に甘い言葉と共に優しく頭を撫でられると天にも昇る気分だった。彼の胸に顔を埋めて喜びを最大限意思表示する。
「私もハルに会えてよかったです。ずっと不安だったんです。もう、このまま一生会えないんじゃないかって思ってました」
「不安にさせるようなことしたね…でも、ここは前のところより危ないところだからさ…」
足手まとい彼はそう言いたかったのだろう。その通りだ、それはライキルも分かり切ったことだった。
黒龍が平気でうろつく龍の山脈。そんなところまず一般の騎士が加勢に来たところで足手まとい以外の何者でもなかった。
だから、強者をひとりだけ配置するハルのこの考えの方が圧倒的に効率的で安全だった。
ライキルたちを連れて行かないことに、反論の余地はなかった。
「私じゃ、足手まといですよね…」
ライキルがいじけたように言うと、ハルがそこで優しく抱きしめて冗談を言った。
「そんなことないよ、ちょっとライキルの実力が足りなかっただけだよ」
「もう、絶対嘘です!」
頬を膨らませて彼を見上げる。
「アハハハ、そうね」
ハルが笑ってくれているそれだけで、頭が狂ってしまうほど嬉しかった。この時間をもっと、もっと、長く続くようにしたかった。だけど、ここまでこれたのは自分だけのおかげじゃなく、みんながいてくれたから、そのことを忘れてはいけなかった。
「そうだ、みんなも来てるんです。会ってあげてください。ガルナとか寂しがってましたよ」
「そっか、わかった」
「案内するのでついて来てください。あ、でも、みんなハルを探してるから、今度はみんなを探さないといけないですね」
ライキルがハルから離れる。みんなにハルを見つけたことを報告しに行こうとした時だった。誰かに腕を掴まれ引き留められていた。
「ん、どうしたんですか?」
掴んでいたのはもちろんハルだった。彼は呆然とまるで本能が無意識にそう身体を動かしたかのように、ライキルをどこにも行かせないようにしていた。だけど、我に返った彼は慌てて手を離す。
「いや、ごめん、何でもない」
不思議に思ったライキルだったが、離された彼の手を掴み返して、ここはお得意の冗談をひとつ飛ばす。
「何ですか?もしかして、私との時間をもっと楽しみたかったんですか?フフッ、それならそうと言ってくださいよ!相手してあげますよ?」
ウインクして彼を誘って見るが、なんだか、彼はとてもこちらを慈愛たっぷりの目で見つめており、ふざけたライキルが恥ずかしくなるほどだった。
「嬉しい、じゃあ、あとでお願い」
ハルがライキルににじり寄る。
「うえ、あぁ?えと…いいの?だって、その、え!?本当にいいの?」
思いもよらないお誘いの成功にライキルが慌てふためく。胸が高鳴り、顔の緩みが治まらなかった。幸せでにやけた顔をしていると、ハルがさらに近づいて耳元で囁いた。
「嘘だよ」
それだけ言って逃げるようにハルが駆け出す。
これから熱い夜を想像していたライキルの頭に現実という冷水が浴びせられる。
「ハル、この!!!」
ライキルが全速力で逃げるハルを追いかける。
***
食堂を出たハルが後ろから追いかけて来る愛しの人を振り切るために廊下を駆け出す。彼女の情報から、この研究所内にはみんなが来ているとのことだった。だから、廊下を曲がった先の角などでぶつからないようにハルは天性魔法である自分にしか見えない光を自分の走る数メートル先に飛ばしながら走る。
「待て、ハル!約束したからには必ず守ってもらいますよ!」
怒りと愛を糧に、愛の化身が暴走しこちらを捉えに襲いかかって来る。
「落ち着きなって、ライキル」
「落ち着いていられますか!もう、ハルには私のもとを離れて欲しくないんですよ!ハルだってその、えっと、私と離れたくないですよね?」
「ううん…」
「こらそこで悩むな!!」
「アハハハハ!」
ハルとライキルは研究所内の廊下を爆走する。
***
騒がしく暴れ回っていると当然異変に気付いた者たちがそれを察知して集まって来る。とくに手練れほど周囲の状況の変化に気づくのが早い。
そのため、みんなを探し始めて最初に会えたのはガルナだった。
「なんだ、何があっ…た…!?」
ガルナの前に突如ハルが現れる。当たり前のように彼がそこにいて彼女は驚きを隠せずにいた。
「ハル!?」
ガルナの息が一瞬止まる。頭の中が彼のことでいっぱいになる。そして、ガルナなりに彼に最初に会ったときに伝えようと思っていたことを一生懸命伝える。
「えっと…ハル、私、そのな、もっと強くなるから…」
もじもじしているガルナにハルは慌てて言う。
「ガルナ、後ろからライキルが来てるんだ。一緒に逃げようか!」
ハルがガルナの手を掴み走り出す。
「え、あ、うん!ん?」
状況が飲み込めないまま、ガルナも一緒にハルと一緒に走り出す。
そこには楽しそうに笑顔で走り出しているハルがいた。楽しそうな彼に感化されたガルナの表情も和らぎここまで抱えて不安もどこかに行き笑っていた。
「なあ、ハルなんでライキルちゃんから逃げてるんだ?」
「ん?まあ、ちょっとね、こっちの方が面白いと思ってね…」
すると後ろから愛に溺れた化け物が叫ぶ。
「ガルナ!ハルを捕まえて!」
「どうしてだ?」
「ハルが自分を捕まえられたら、今晩やりたい放題にしていいって言ってたよ!」
その瞬間ガルナの手を掴んでくれていたハルの手がするりと抜けた。ライキルのその言葉はガルナにとっても魅力的だった。そして、身の危険を察知したハルがガルナを切り離したのだ。
傍に居たガルナが獣を狩るときと同じ本気の目に変わる。
「ハル、大人しくしていろ」
ガルナがハルを捉えようと抱きしめようとするが、彼の姿が目の前から一瞬で消える。
「あれ?」
そして、消えたハルに変わって、ガルナの前には強風が吹きつけた。
廊下の壁がミシミシと音をたて、窓ガラスがガタガタと揺れる。
気が付くとハルは二人の遥か前方の廊下を走っていた。
「ハルの奴、今、本気で逃げたぞ…いいじゃないか、別に捕まってくれてもぉ…」
「行きましょう、ガルナ」
しょんぼりと落ち込むガルナの横を爆走するライキルが通り過ぎる。
「絶対に捕まえてやる」
前を向くガルナがライキルの後を追う。
***
「ハル団長いませんか?みんな来てますよ、ライキルにガルナさんについでにエウスも」
ビナが声をだしながら、この研究所にいるはずのハルを探す。
「なんで俺は次いでなんだよ、むしろ、俺様がメインだろ?ハルは大親友のこのエウス様に会いたいはずだぜ?」
隣に居たエウスがやる気なさそうに辺りを見渡している。
「それはあり得ません、ハル団長はライキルやガルナさんの二人に一番会いたいはずです。なんていったって三人は、その夫婦なんですから…」
「はぁ、まあ、まだだけどな」
エウスがあくびをひとつかます。彼のこういうやる気のないところがビナに腹が立ってしょうがなかった。もっと真剣にハルを探すのを手伝って欲しかった。彼と一緒に居られる時間は限られているのだから。
「なんでそんなに余裕なんですか!エウスも、もっとしっかり探してください。ライキルとガルナさんが可哀想です。ただでさえ今日ぐらいしか一緒に居られないのに…」
「まったく罪作りな男だよあいつは、なんで問題を抱えると意固地になって誰も頼らなくなるのかね?」
「それは単純に誰にも頼れない問題だからじゃないんですか?だって、神獣討伐なんて前代未聞の挑戦でしたし、そもそも、ハル団長が私たちに何かを頼むことってこの作戦だとないですよね。黒龍は行動範囲が広い分、白虎より厄介ですし」
真面目にビナが分析しているとエウスが目を細めながら言う。
「はい、そこの君、正論を言わないように」
「え、何がですか?」
「ビナが言ったことは正しい、俺たちはあいつにしてやれることはこの作戦ではひとつもない」
「そうですよね、だって、今回の作戦どうやらハル団長がひとりで片づけるみたいですもんね…他の国々は自国に引きこもって守りに徹する感じですし」
ビナは竜に乗せてもらったエルガー騎士団の人から今回の作戦の詳細を聞いていた。
「だけどよ、別に作戦で力を貸す以外にも俺たちにはいろいろできることがあったはずだろ?」
「例えばなんですか?」
「簡単だあいつの傍に居てやればいい、ただそれだけだ」
エウスがにやりと笑った。ビナはその自信ありげな顔を冷めた目で見ていた。
「一緒に居てあいつをリラックスさせてやるんだ。そう考えたら大親友である俺様なんかが一番の適役だな」
「いや、絶対あの二人の方がハル団長いいって思ってますよ。むしろ私とエウスなんか、邪魔かもしれませんよ?」
「ひでぇこと言うな、ハルはそんな奴じゃねえよ。まあ、今はあの二人に相当入れ込んでいるようだが?まあ、当然っちゃ当然なんだ。ハルとライキルなんか特にずっと互いの関係が壊れないように気を遣ってたんだからな」
ビナはその話を聞いて少しだけエウスに嫉妬した。ビナがみんなと仲良くなったのも、他のみんなと比べたら、つい最近の出来事だった。だから、自分の知らないみんな事情があることがなんだか少し寂しく羨ましかった。
「まあ、俺からしたらさっさとくっつけ鬱陶しいって言葉を送ってやりたかったけど、まあ、見てる分には面白かったし、それは野暮ってもんだからな、どうだ偉いだろ?」
「私の知らないみんながいたんですね…」
「なんだよ、しょげた顔して」
「いえ、エウスに心の底からムカついているだけで、私も、もっと前からみんなと出会っていたかったんです。そうすれば、今よりもみんなと仲良くなれていたかもしれません」
「それは俺とも仲良くなりたいってことかな?」
「エウスは別にいいです」
「え、なんで?」
「ハル団長…」
ビナが立ち止まる。
命の恩人で憧れの人。そんな彼の傍でこうして出来てるか分からない恩返しをしつつ、いろいろ学ばせてもらい、楽しい時間を過ごさせてもらっている。彼といると毎日が新しいことの連続で仕方ない。毎日が輝いていて仕方がない。
これから先の人生で、彼らと一緒にいるこの時間は決して忘れることのできないものなのだろう。それを強く肌で感じれば感じるほど、近づいて来る討伐作戦に怯えていた。こんな素晴らしい日々が終ってしまうかもしれない。誰かが欠けてしまうかもしれない。それがビナも怖かった。今回、それがハルかもしれないのだからビナも気が気でならなかった。いや、誰だろうといなくなってしまっては困るのだ。隣にいるこのエウスですらビナのこの楽しい黄金の日々を構成する重要なひとりだった。
だから、ハルなんかは特に、自分の人生を変えてくれた、欠けてはいけない大事な存在だった。
彼がいてくれたからあの人にだって出会えたし、感謝してもしきれないのだ。
「なんだよ、お前ハルのこと好きなのか?」
「当たり前じゃないですか、大好きですよ」
ビナは即答した。王都にハルが来てからずっと彼のファンなのだ、そこに恥じらいはなかったし、それにこれは恋という感情ですらなかった。
「じゃあ、お前もハルのハーレムに加えてもらえばいいじゃねえか」
「エウスはバカですね。そう言う男女の好きではないんです。これはもっと別の深い感情なんですよ。それに私には心に決めた人がもういます」
「へー、意外だな、あ、でも、ハルの奴絶対ビナに告白されたら断らないと思うぞ」
その言葉で少しだけ頬が緩むが、ビナは待ってくれている人の優しい顔を思い出すと、すぐに顔を振った。
「やめてください、そんな言葉で私を惑わせないでください。ていうか、エウス、さっきから適当に辺りを見てるだけで探す気あるんですか?」
「全く、ビナさんはまだまだあいつらのことを分かってないな。これも付き合いの差かな?」
相変わらず腹が立つエウス。
「本当にエウスはムカつき…」
ビナは彼に腹パンを決めようとしたが思いとどまった。
「ここまで来ちまえばな、」
誰かが走って来る。その足音は段々とエウスとビナの元に近づいてくる。そして、ビナが足音のする方の廊下の角を見ていると、誰かが勢いよく廊下の角を曲がって来た。若い男性で、その青年は、くすんだ青髪で見上げるほどの高い背で、そしてビナにとっては救世主。そう、廊下の角を曲がって現れたのはハル・シアード・レイだった。
「あいつらは勝手に来るんだよ」
「エウスに、ビナ!」
元気いっぱいのハルが二人に手を振りながら走って来る。
「よう、ハル、元気そうだな」
エウスが手を上げると、ハルとハイタッチをした。
「あぁ、でも、話しは後だ走るぞ」
「ハハッ、なんでだよ!」
嬉しそうに悪態をつくエウスだったがハルに言われた通りに走り出す。
「ビナ、行こう、後ろから怖い人たちが来てる」
「え、誰が来てるんですか?だったら、私が身代わりになって…」
ハルが走って来た廊下の角から、ビナが誰が来るのか待ち受けると、そこには見慣れた二人が全速力で角を曲がって来ていた。
「待て!ハル!」
「あ、ビナ!そこにいるハルを捕まえてください!」
「ライキルに、ガルナさん!?」
怖い人たちはライキルとガルナで確定だった。でもなぜ二人から逃げているのか?
「ビナ、走ろ!」
ハルがビナの手を取って駆け出す。
走っている途中ビナはハルに語り掛けた。
「ハル団長、私…」
日頃の感謝や伝えたいことはたくさんあった。作戦は大丈夫なのか、どれくらいで終わるのか?自分は邪魔になっていないか?神獣討伐が明日に迫っている彼に何か今のビナができることは無いか?
考えれば考えるほど自分が彼にできることの少なさを知った。返せない恩の大きさを知った。むしろ与えられているばかりだと気づかされる。
だけど。
「ビナ、今は逃げよう!!」
そんなことどうでも良くなるくらいハルが嬉しそうに笑うから。
「はい!分かりました!!」
ビナは握られた手を掴み返して走り出す。
今はこれでいい、状況はまったくさっぱり分からないけれど、ビナは心の底から思ったことがあった。
いつもの日常が今ここにあると。
黄金に輝く日々は今まさにここに。